『陥陣営戦記 ~恋こそ至高!龍牙、乱世を穿つ~』 作:パスカルDX
第十四話「天下無双、黒き狼を穿つ」
夕日に染まり始めた河北の戦場。
袁紹軍と公孫瓚軍、そして黒山賊が入り乱れ、戦場はこれまで以上の混戦となっていた。
至るところで武器がぶつかり合い、兵士たちの怒号が響き渡る。
その中心では、龍牙と張燕が激しく刃を交えていた。
龍眼斬と張燕の槍が何度も激突し、そのたびに火花が散る。
「チェストォォォッ!」
龍牙の豪快な一撃を、張燕は馬を巧みに操ってかわす。
「相変わらず力任せだな、高順!」
張燕は笑う。
「その一撃をまともに食らうほど馬鹿じゃねぇ!」
龍牙は表情を変えない。
「逃げるだけか。」
「はっ!」
張燕は鼻で笑った。
「戦は勝てばいいんだ。」
「正面から殴り合うだけが能じゃねぇ。」
その言葉を聞いた龍牙は、静かに龍眼斬を構え直す。
「ならば。」
「私は正面から貫くだけです。」
---
一方、その少し離れた場所では――。
恋が静かに戦場を見渡していた。
周囲には黒山賊が集まり始めている。
「呂布だ!」
「囲め!」
「数で押せ!」
黒山賊たちは一斉に恋へ襲い掛かった。
恋は小さく息を吐く。
「……。」
方天画戟をゆっくりと構える。
次の瞬間。
ブォンッ!
大きく振るわれた一撃が、黒山賊たちの武器をまとめて弾き飛ばした。
「うわぁっ!」
「な、何だ今の!」
恋は一歩前へ出る。
その瞳には一切の迷いがない。
迫る敵へ向かって、静かに方天画戟を振るう。
ガキィン!
「ぎゃあ!」
「強い!」
黒山賊たちは次々と後退していく。
---
霞はその光景を見て笑った。
「始まったな。」
飛龍偃月刀を肩に担ぎながら、恋の背中を見守る。
「恋の独壇場や。」
音々音も安堵の表情を浮かべる。
「恋様なら大丈夫なのです。」
---
恋は走る。
軽やかな足取りで黒山賊の集団へ飛び込む。
方天画戟が閃くたび、敵兵たちは武器を落とし、戦意を失っていく。
「ひぃぃ!」
「逃げろ!」
「呂布だ!」
「天下無双だ!」
恋は追い立てることなく、静かに歩みを進める。
その姿はまるで戦場を舞うようだった。
---
龍牙もその姿を目にする。
「恋様……。」
思わず見惚れる。
張燕はその隙を逃さず槍を突き出した。
ガキィン!
龍牙は間一髪で受け止める。
「よそ見とは余裕だな!」
「失礼しました。」
龍牙は張燕を見据える。
「恋様のお姿があまりにも美しかったもので。」
張燕は思わず吹き出した。
「戦場で惚気るな!」
霞も大声で笑う。
「龍牙らしいわ!」
---
恋はなおも黒山賊の中を進む。
敵兵が十人、二十人と迫る。
だが、そのすべてを最小限の動きで制していく。
武器を弾き。
足を払う。
柄で軽く打ち据える。
必要以上に傷付けることはない。
それでも誰一人、恋の前へ立ち続けることはできなかった。
黒山賊たちは完全に混乱する。
「化け物だ!」
「止められねぇ!」
「退け!」
恋は首を傾げた。
「……もう終わり?」
その一言に、黒山賊たちは一斉に青ざめた。
---
遠くからその様子を見ていた張燕の表情から、初めて笑みが消えた。
「……さすが呂布。」
黒山で一度相対した時以上の圧力。
真正面からぶつかれば、自軍が崩壊しかねない。
張燕は静かに息を吐いた。
「高順だけじゃねぇ。」
「やっぱり一番厄介なのは呂布か。」
その視線の先で、恋は再び方天画戟を構える。
そして、黒山賊の大軍へ向かってゆっくりと歩き始めた――。
黒山賊たちの間を、静かな動揺が駆け抜ける。
「く、来るぞ……!」
「呂布だ!」
「逃げるな! 囲め!」
頭では分かっていても、足は震えていた。
恋は赤い髪を風になびかせながら、一歩、また一歩と前へ進む。
その手には天下無双の武器――方天画戟。
表情はいつもと変わらず穏やかだった。
「……。」
やがて黒山賊の一人が自らを奮い立たせるように叫ぶ。
「うおおおっ!」
刀を振り上げ、恋へ斬りかかる。
恋は半歩だけ身体をずらした。
その一撃は空を切る。
続けざまに方天画戟の柄で軽く相手の脇腹を打つ。
「ぐはっ!」
黒山賊は地面を転がり、そのまま動けなくなった。
「次だ!」
「一斉に行け!」
十数人の黒山賊が同時に飛び込む。
しかし恋は慌てない。
方天画戟を円を描くように振るう。
ガガガガガッ!
武器と武器がぶつかる音が連続して鳴り響き、黒山賊たちの剣や槍は次々と弾き飛ばされた。
「うわっ!」
「武器が!」
「なんて力だ!」
恋は静かに前へ進み続ける。
その姿はまさに戦場を舞う武神だった。
---
その様子を見た袁紹軍の兵士たちは歓声を上げる。
「呂布様だ!」
「天下無双!」
「押し返せぇ!」
兵士たちの士気は一気に高まり、公孫瓚軍を押し始める。
一方で黒山賊たちは完全に浮き足立っていた。
「だめだ!」
「止められねぇ!」
「逃げろ!」
---
張燕はその様子を見ながら舌打ちする。
「ちっ……。」
思った以上だった。
黒山賊は奇襲や攪乱を得意とする。
だが真正面から圧倒的な武を見せつけられると、統率が乱れやすい。
恋はその弱点を容赦なく突いていた。
「面白くねぇな。」
張燕は槍を構え直す。
その前へ龍牙が立ちはだかる。
龍眼斬を肩へ担ぎ、真っ直ぐ張燕を見据える。
「張燕。」
「まだ私がいる。」
張燕は苦笑した。
「忘れちゃいねぇよ、高順。」
「お前も十分化け物だ。」
龍牙は静かに剣を構える。
「恋様の敵は。」
ゆっくりと息を吸い込む。
「私が討つ!」
「チェストォォォォォーーーッ!!」
龍眼斬が大きく振り下ろされる。
轟音とともに土煙が舞い、張燕は馬を跳ねさせて間一髪でかわした。
「危ねぇ!」
「相変わらず遠慮がねぇ!」
霞が敵兵を蹴散らしながら笑う。
「龍牙! もっとやったれ!」
「承知!」
「いや、返事するんかい!」
戦場に笑いが広がる。
---
恋はなおも黒山賊の中を進む。
誰一人として、その前へ立ち続けることはできなかった。
方天画戟が振るわれるたびに敵兵は武器を落とし、戦意を失っていく。
「もう無理だ!」
「呂布には勝てねぇ!」
黒山賊の隊列はついに崩れ始めた。
その様子を見た公孫瓚は、白馬の上で静かに息を吐く。
「……張燕。」
「このままでは持たないぞ。」
張燕も同じ結論に達していた。
「分かってる。」
彼は周囲の黒山賊へ向かって叫ぶ。
「全員下がれ!」
「これ以上は損だ!」
「撤退だ!」
黒山賊たちは一斉に後退を始める。
森へ、丘へと散り散りに姿を消していった。
---
法螺貝が鳴り響く。
ブオオオォーーーッ!
公孫瓚軍も追撃を避けるため、ゆっくりと陣へ引き上げていく。
この日の戦いも、決着はつかなかった。
しかし戦場には確かな変化があった。
「黒山賊を押し返した!」
「勝ったぞ!」
袁紹軍の兵士たちは歓喜に沸く。
恋は方天画戟を下ろし、小さく息を吐いた。
「終わった。」
そこへ龍牙が駆け寄る。
「恋様!」
「お怪我はありませんか!」
恋はくるりと一回転して見せる。
「だいじょうぶ。」
龍牙は安心したように深く頭を下げた。
「何よりです。」
そして胸に手を当て、満面の笑みで宣言する。
「恋様!」
「本日も天下無双!」
一拍置いて、力強く続けた。
「そして可愛さも至高です!」
霞は大笑いした。
「結局それかい!」
音々音も笑いながら頷く。
「龍牙殿らしい締めなのです。」
恋は少し照れたように微笑み、小さく「えへ」と笑った。
その笑顔を見た龍牙は、心の底から幸せそうな表情を浮かべるのだった。
一方、遠く離れた丘の上では、撤退した張燕が袁紹軍を見つめていた。
「呂布……。」
「高順……。」
口元には再び不敵な笑みが浮かぶ。
「次はもっと面白い戦にしてやる。」
黒山の狼は、まだ戦いを終えるつもりはなかった。
感想、評価、お気に入りよろしくお願い致します!