『陥陣営戦記 ~恋こそ至高!龍牙、乱世を穿つ~』   作:パスカルDX

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第十六話「白馬将軍、最後の決戦」

第十六話「白馬将軍、最後の決戦」

 

 

 

 

黒山賊が河北の戦場から姿を消して二日。

 

平原には久しぶりに静けさが戻っていた。

 

風が草原を揺らし、朝露をまとった草が朝日に輝いている。

 

しかし、その静けさは束の間だった。

 

袁紹軍と公孫瓚軍は、互いに最後の決戦へ向けて着々と準備を進めていたのである。

 

黒山賊という不確定要素が去った今、残るのは純粋な軍と軍との戦いだけだった。

 

 

---

 

袁紹軍の陣営。

 

恋はいつものように朝食を食べていた。

 

大きな肉まんを両手で持ち、小さな口でもぐもぐと頬張る。

 

「……おいしい。」

 

その姿を見つめる龍牙は、朝から幸せそうな笑みを浮かべていた。

 

「恋様。」

 

「?」

 

「本日も食欲旺盛。」

 

「健康そのものです。」

 

恋はこくりと頷いた。

 

「いっぱい食べる。」

 

「強くなる。」

 

龍牙は感激したように胸へ手を当てる。

 

「素晴らしいお言葉です。」

 

「恋様の可愛さが至高!」

 

すぐ横でお茶を飲んでいた霞が盛大に吹き出した。

 

「朝一番から始まった!」

 

音々音も苦笑しながら巻物を閉じる。

 

「いつもの龍牙殿なのです。」

 

周囲の兵士たちも笑顔になる。

 

「高順殿が元気だと安心するな。」

 

「恋様も嬉しそうだ。」

 

恋は少し照れくさそうに笑った。

 

「えへ。」

 

龍牙はその笑顔を見て固まる。

 

「……。」

 

霞が嫌な予感を覚えた。

 

「龍牙?」

 

龍牙は真顔で天を仰ぐ。

 

「本日も世界は平和です。」

 

「まだ戦場にも行ってへんやろ!」

 

兵士たちは一斉に笑い出した。

 

重苦しかった空気が、一瞬で和らぐ。

 

 

---

 

その頃、公孫瓚軍。

 

白馬に跨る公孫瓚は、静かに地図を見つめていた。

 

副官が声を掛ける。

 

「黒山賊は完全に離脱しました。」

 

「ああ。」

 

公孫瓚は静かに頷く。

 

「これで他人の力に頼る必要はない。」

 

「最後は私たちだけで戦う。」

 

副官も槍を握り直す。

 

「兵たちも覚悟はできています。」

 

公孫瓚はゆっくり立ち上がった。

 

「ならば今日。」

 

「河北の決着をつけよう。」

 

 

---

 

昼前。

 

法螺貝が高らかに鳴り響く。

 

ブオオオォォーーッ!

 

最後の決戦が始まる。

 

袁紹軍と公孫瓚軍が大地を震わせながら前進する。

 

黒山賊はいない。

 

純粋な武と武、軍略と軍略のぶつかり合いだ。

 

恋は方天画戟を静かに構えた。

 

その隣には龍牙。

 

龍眼斬を肩へ担ぎ、恋の半歩前に立つ。

 

「恋様。」

 

「?」

 

「本日も。」

 

龍牙は静かに笑う。

 

「私が道を切り開きます。」

 

恋は微笑み、小さく頷いた。

 

「うん。」

 

「一緒。」

 

その一言だけで龍牙の表情は輝く。

 

「はい!」

 

霞は二人を見て笑う。

 

「ほんま仲ええな。」

 

音々音も小さく頷いた。

 

「二人とも自然体なのです。」

 

 

---

 

「前進!」

 

公孫瓚の号令が響く。

 

白馬隊が一斉に駆け出した。

 

土煙を巻き上げながら、一直線に袁紹軍へ突撃する。

 

「迎え撃て!」

 

袁紹軍も槍を構える。

 

両軍が激突した。

 

激しい衝撃が平原を揺らす。

 

その中を、恋は迷うことなく駆ける。

 

方天画戟が閃くたび、公孫瓚軍の兵士たちは武器を弾かれ、道が開いていく。

 

「呂布だ!」

 

「止めろ!」

 

しかし、恋は止まらない。

 

龍牙もまた龍眼斬を構え、大きく息を吸い込んだ。

 

「チェストォォォォォーーーッ!!」

 

豪快な一撃が敵兵を押し返し、陥陣営がその突破口を一気に広げる。

 

「高順殿に続け!」

 

「おおっ!」

 

袁紹軍の士気は最高潮に達した。

 

その様子を見た公孫瓚は槍を握り締め、静かに呟く。

 

「やはり……。」

 

「呂布と高順。」

 

「この二人を越えなければ、勝利はない。」

 

そう言うと、公孫瓚は愛馬の腹を蹴り、真っ直ぐ恋へ向かって駆け出した。

 

恋もその気配に気付き、静かに方天画戟を構える。

 

ついに、天下無双と白馬将軍が真正面から激突しようとしていた――。

 

法螺貝の音が戦場に長く響く。

 

白く舞い上がる砂煙の中を、一騎の白馬が駆け抜けた。

 

馬上にいるのは、公孫瓚。

 

赤いポニーテールを風になびかせ、長槍を構えたその姿は、まさに「白馬将軍」の名にふさわしい威風堂々たるものだった。

 

その視線の先には、ただ一人。

 

天下無双――恋。

 

恋もまた、公孫瓚の接近を静かに見つめていた。

 

方天画戟をゆっくりと構え、一歩踏み出す。

 

「……。」

 

二人の距離が縮まる。

 

やがて。

 

ガギィィンッ!

 

槍と方天画戟が激突し、凄まじい衝撃が周囲へ広がった。

 

兵士たちは思わず足を止める。

 

「始まった……!」

 

「公孫瓚様と呂布の一騎討ちだ!」

 

公孫瓚は槍を繰り出しながら叫ぶ。

 

「呂布!」

 

恋は落ち着いた声で答える。

 

「……なに?」

 

「私は逃げない!」

 

「河北の未来のため、この戦に勝つ!」

 

恋は静かに頷く。

 

「うん。」

 

「だから……。」

 

方天画戟を横薙ぎに振るう。

 

「本気。」

 

公孫瓚はその一撃を受け止める。

 

だが、その腕に強烈な衝撃が走った。

 

「ぐっ!」

 

「なんという力……!」

 

恋は表情を変えない。

 

次の瞬間には、さらに鋭い連撃を放つ。

 

槍と方天画戟が何度もぶつかり合い、火花が飛び散った。

 

 

---

 

その少し離れた場所では、龍牙が陥陣営を率いて敵陣を押し上げていた。

 

「陥陣営!」

 

龍牙は龍眼斬を高く掲げる。

 

「前進!」

 

「おおおっ!」

 

陥陣営は一糸乱れぬ動きで敵陣へ食い込む。

 

龍牙は大剣を大きく振りかぶり、腹の底から雄叫びを上げた。

 

「チェストォォォォォーーーッ!!」

 

豪快な一撃が敵兵たちを押し返す。

 

「高順だ!」

 

「近寄るな!」

 

敵兵はたまらず後退する。

 

霞はその横で飛龍偃月刀を振るいながら笑った。

 

「龍牙! 今日も声がよう響くな!」

 

龍牙は真顔で答える。

 

「恋様に届くようにしております。」

 

霞は思わずずっこけそうになる。

 

「そこなん!?」

 

音々音も笑いをこらえながら兵へ指示を飛ばした。

 

「前線を維持してください!」

 

「恋様が決着をつけるまで持ちこたえるのです!」

 

 

---

 

一方、一騎討ちは佳境を迎えていた。

 

公孫瓚は渾身の突きを放つ。

 

「はあああっ!」

 

恋は身体を半歩ずらし、穂先を受け流す。

 

そのまま柄で公孫瓚の槍を跳ね上げた。

 

「しまっ……!」

 

一瞬の隙。

 

恋の方天画戟の切っ先が、公孫瓚の喉元でぴたりと止まる。

 

戦場が静まり返る。

 

公孫瓚は静かに息を吐いた。

 

「……負けた。」

 

恋はゆっくりと方天画戟を下ろす。

 

「もう。」

 

「戦わない?」

 

公孫瓚は苦笑した。

 

「ああ。」

 

「私の負けだ。」

 

その言葉が戦場中へ伝わる。

 

公孫瓚軍の兵士たちは次々と武器を下ろした。

 

「将軍が……。」

 

「負けた。」

 

袁紹軍から歓声が上がる。

 

「勝った!」

 

「呂布様だ!」

 

「天下無双!」

 

法螺貝が鳴り響き、公孫瓚軍は整然と退却を開始した。

 

 

---

 

戦いが終わると、龍牙は誰よりも早く恋のもとへ駆け寄った。

 

「恋様!」

 

恋は振り向き、小さく微笑む。

 

「龍牙。」

 

龍牙は深々と頭を下げる。

 

「ご無事で何よりです。」

 

恋はくるりと一回転して見せた。

 

「へいき。」

 

龍牙は胸をなで下ろし、満面の笑みで宣言する。

 

「恋様!」

 

「本日も天下無双!」

 

そして右拳を胸に当て、誇らしげに続けた。

 

「さらに――恋様の可愛さが至高です!」

 

霞は腹を抱えて笑う。

 

「最後までそれやな!」

 

音々音もくすりと笑う。

 

「龍牙殿らしい締めなのです。」

 

恋は少し頬を赤らめながら、小さく笑った。

 

「えへ。」

 

その笑顔を見た龍牙は、まるで自分が勝利したかのように嬉しそうな表情を浮かべるのだった。

 

こうして河北の戦いは幕を閉じる。

 

黒山賊は黒山へ退き、公孫瓚との戦にも決着がついた。

 

しかし、乱世はまだ終わらない。

 

新たな戦、新たな出会いが、恋たち一行を待ち受けている。

 

 

 

 




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