『陥陣営戦記 ~恋こそ至高!龍牙、乱世を穿つ~』 作:パスカルDX
第六話「陥陣営の剣、黒山を裂く!」
「チェストーーーーーーッ!!」
龍牙の雄叫びが、静まり返った黒山に響き渡る。
その声を合図にしたかのように、茂みから黒山賊たちが次々と飛び出してきた。
「囲めぇ!」
「一人ずつ潰せ!」
「呂布を捕まえろ!」
ざっと見ただけでも数十人。
木々の上にも弓兵が潜んでいる。
普通なら逃げ場のない包囲だった。
しかし。
龍牙は口元に笑みを浮かべる。
「恋様。」
「うん?」
「少々、騒がしくなります。」
恋はこくりと頷いた。
「うん。」
「少しだけお待ちください。」
「わかった。」
霞が呆れたように笑う。
「恋と話しとる場合ちゃうやろ!」
「恋様への報告は最優先です。」
「ぶれへんな!」
---
「やれぇ!」
黒山賊が一斉に飛びかかる。
龍牙は龍眼斬を肩へ担ぐ。
「恋様。」
「?」
「本日の一振り目。」
「うん。」
「恋様へ捧げます。」
「チェストォォォォッ!!」
ブォォォン!!
大剣が豪快な軌道を描く。
巻き起こる風圧だけで、先頭の山賊たちは悲鳴を上げながら転がっていった。
「うわぁぁ!」
「強ぇ!」
「何だこの化け物!」
龍牙は首を傾げる。
「まだ当てていません。」
「十分や!」
霞のツッコミが飛ぶ。
---
その隙に、霞も飛龍偃月刀を振るう。
「ほらほら、うちもおるで!」
柄で山賊の足を払う。
「うわっ!」
「寝転んどき!」
次々と山賊を転ばせていく。
音々音も負けてはいない。
「そこなのです!」
石を投げる。
「痛っ!」
「目くらまし成功なのです!」
「ねね、小さいのにようやるなぁ。」
「褒めても何も出ませんなのです!」
---
恋は少し離れた岩の上で、その様子を見守っていた。
「……。」
もぐ。
「恋様!?」
龍牙が振り返る。
「何を召し上がっているのですか!」
「肉まん。」
「いつの間に!?」
霞が吹き出す。
「さっき屋敷から持ってきとったんやろ!」
恋は幸せそうだった。
「おいしい。」
龍牙は安心したように胸をなで下ろす。
「良かった……。」
「安心するとこ、そこなん!?」
---
その頃。
少し離れた崖の上。
時雨は腕を組みながら戦いを眺めていた。
「なるほど。」
部下が焦る。
「頭領!」
「正面からじゃ勝てません!」
「分かってる。」
時雨は笑う。
「だから正面から戦わねぇ。」
「では?」
「遊ぶ。」
「遊ぶ?」
時雨は森の奥を指差した。
「あいつらの弱点は分かった。」
部下が首を傾げる。
「弱点?」
「赤い嬢ちゃん。」
「呂布ですか?」
「違う。」
時雨はニヤリと笑った。
「高順のほうだ。」
「え?」
「あいつ。」
恋を見た瞬間だけ空気が変わる。
「恋を守るためなら何でもする。」
「はい。」
「だったら。」
時雨は指を鳴らす。
「恋から引き離せばいい。」
部下たちは笑みを浮かべた。
「なるほど。」
「それが黒山流だ。」
---
一方。
戦場では龍牙が山賊たちを次々と蹴散らしていた。
「チェスト!」
「ぎゃあ!」
「チェスト!」
「ひぃ!」
「チェスト!」
「もう嫌だぁ!」
山賊たちは完全に戦意を失っている。
霞は苦笑した。
「何回チェスト言うねん。」
音々音が数えていた。
「今ので二十七回目なのです。」
「数えとったんかい!」
龍牙は真顔だった。
「まだ足りません。」
「何がや!」
「恋様への忠義です。」
「比例せぇへん!」
---
その時だった。
ヒュッ!!
一本の矢が恋のすぐ近くへ突き刺さる。
「恋様!」
龍牙の表情が一変した。
時雨の笑い声が森の奥から響く。
「よう、高順。」
「……。」
「こっちだ。」
恋を狙ったわけではない。
あえて近くへ撃っただけ。
だが、その一矢だけで龍牙の注意は完全に時雨へ向いた。
「恋様。」
龍牙は静かに言う。
「必ず戻ります。」
恋は小さく頷く。
「うん。」
「約束です。」
「待ってる。」
その言葉を聞いた龍牙は龍眼斬を握り締める。
「張燕。」
森の奥を睨みつける。
「恋様を不安にさせた。」
空気が震える。
「その罪は重い。」
時雨は不敵に笑った。
「そう来なくちゃ面白くねぇ。」
そう言い残すと、さらに森の奥へ姿を消す。
龍牙は一歩踏み出した。
「霞!」
「任せとき!」
「音々音!」
「恋様は絶対に守るのです!」
龍牙は恋へ一礼する。
「恋様。」
「うん。」
「行って参ります。」
「いってらっしゃい。」
その一言を胸に、龍牙は時雨を追って黒山の深部へと駆け出した。
「チェストォォォォーーーッ!!」
その雄叫びが、深い森の奥まで響き渡るのだった。
「チェストォォォォォッ!!」
龍牙は黒山の森を疾風のように駆け抜けた。
大剣・龍眼斬を肩に担ぎ、木々の間を縫うように進む。
その速さは重い大剣を背負っているとは思えない。
「逃がさん……!」
森の奥から、くくっと笑う声が聞こえた。
「本当に来たか。」
木の枝へ腰掛けていた張燕が、不敵な笑みを浮かべる。
「お前は分かりやすい男だ。」
龍牙は龍眼斬をゆっくり構えた。
「貴様が恋様を狙った。」
「狙っちゃいねぇ。」
張燕は肩をすくめる。
「ただ、矢を一本飛ばしただけだ。」
「同じことだ。」
龍牙の目には怒りが宿っていた。
「恋様を驚かせた。」
「だから?」
「許さん。」
張燕は笑みを深くする。
「いい顔になったじゃねぇか。」
そう言うと、指を鳴らした。
「出番だ。」
ガサガサッ!
周囲の茂みから十数人の黒山賊が飛び出してくる。
「囲め!」
「頭領の命令だ!」
龍牙はため息をついた。
「邪魔だ。」
「何?」
「恋様を待たせている。」
龍眼斬を大きく振りかぶる。
「チェストォォォォッ!!」
ドゴォォン!!
豪快な一撃で、地面の土が舞い上がる。
「うわぁぁ!」
「また風圧だけで飛んだ!」
「化け物だ!」
山賊たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。
張燕はそれを見ても顔色一つ変えない。
「なるほど。」
「……。」
「力は本物だ。」
龍牙は剣を肩へ担ぐ。
「終わりか?」
「いや。」
張燕はにやりと笑う。
「ここからだ。」
懐から小さな笛を取り出し、短く吹いた。
ピーッ!
その音が山中へ響く。
直後――
別方向から悲鳴が聞こえた。
「きゃあっ!」
龍牙の顔色が変わる。
「村人……!」
張燕は笑う。
「俺は最初からお前と遊ぶ気なんかねぇ。」
「……!」
「部下には別働隊で近くの村を襲わせてる。」
龍牙は歯を食いしばる。
張燕は続けた。
「追えば俺を逃がす。」
「追わなきゃ村が泣く。」
「どっちを選ぶ?」
嫌らしい笑みだった。
「それが俺の戦い方だ。」
しばらく沈黙が流れる。
やがて龍牙は静かに口を開いた。
「……そうか。」
「悩まねぇのか?」
「決まっている。」
龍牙は踵を返した。
「村へ向かう。」
張燕は肩を震わせて笑う。
「やっぱりな。」
「貴様は逃がす。」
「そうだ。」
「だが。」
龍牙は振り返りもせず言った。
「次に会った時は。」
龍眼斬を握り締める。
「必ず斬る。」
そう言い残し、全力で駆け出した。
---
その頃。
恋たちは黒山賊の残党を相手に戦っていた。
霞が飛龍偃月刀を振るう。
「ほらほら! まだやるんか!」
「ひぃぃ!」
音々音も走り回る。
「縄を持ってくるのです!」
「逃がしません!」
恋は方天画戟を軽く振るうだけで、山賊たちの武器を弾き飛ばしていく。
「……。」
「ひぇぇ!」
「やっぱ呂布だ!」
その時だった。
龍牙が森から飛び出してきた。
「恋様!」
恋が振り向く。
「龍牙。」
「ご無事で何よりです。」
「うん。」
龍牙は胸をなで下ろす。
霞が近付いてきた。
「頭領は?」
「逃げた。」
「逃がしたんか。」
「近くの村を襲わせていた。」
霞は真剣な顔になる。
「なるほどな。」
音々音も頷いた。
「時間稼ぎだったのです。」
龍牙は恋を見つめる。
「恋様。」
「?」
「村へ向かいます。」
恋は静かに頷いた。
「助ける。」
「はい。」
---
四人が村へ到着すると、黒山賊たちはまだ略奪の途中だった。
「荷物を運べ!」
「急げ!」
龍牙は大剣を抜き放つ。
「貴様ら。」
山賊たちが振り向く。
「頭領はおらんぞ!」
「だから何だ。」
龍牙は笑った。
「十分だ。」
「チェストォォォォッ!!」
龍眼斬が一閃する。
山賊たちは次々と武器を手放し、逃げ出していく。
霞も笑う。
「さぁ、お縄の時間や!」
恋は逃げる山賊の前へ立つ。
「だめ。」
「ひぃ!」
音々音が縄で縛っていく。
「これで終わりなのです!」
---
戦いが終わる頃には、村には再び静けさが戻っていた。
村人たちは何度も頭を下げる。
「ありがとうございました!」
「助かりました!」
恋は少し照れたように小さく手を振る。
龍牙はそんな恋を見て微笑む。
「恋様。」
「?」
「お疲れ様でした。」
「うん。」
「恋様の可愛さが今日も至高です。」
霞は思わず笑い出す。
「結局それで締めるんかい!」
音々音も苦笑した。
「龍牙殿らしいのです。」
しかし、龍牙は笑みを消し、黒山の奥を見つめる。
張燕は逃げた。
この戦いは終わったわけではない。
黒山にはまだ、多くの賊が残っている。
龍牙は龍眼斬を静かに背負った。
「次は必ず捕らえる。」
その決意を胸に、四人は村人たちの歓声を背に、夕暮れの山道を歩き始めた。
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