『陥陣営戦記 ~恋こそ至高!龍牙、乱世を穿つ~』 作:パスカルDX
第七話「河北の嵐、そして新たな戦」
黒山から鄴へ戻る街道。
春の風が木々を揺らし、どこか穏やかな空気が流れていた。
黒山賊は大きな被害を受け、各地へ散り散りとなった。
もちろん頭領の張燕は逃げ延びたものの、その勢力は大きく弱まり、しばらく村々を襲う余力はないだろうと噂されていた。
その知らせは瞬く間に河北中へ広がっていった。
「黒山賊が逃げた!」
「袁家の客将が追い払ったそうだ!」
「天下無双の呂布が戦ったらしい!」
「あと、大きな剣を持った男が『チェストー!』って叫びながら暴れてたとか……。」
「何だそれ。」
「知らん。」
---
鄴へ帰還した恋たちを、街の人々は歓声で迎えた。
「お帰りなさい!」
「助かりました!」
「ありがとうございます!」
恋は少し照れくさそうに、小さく手を振る。
「……ただいま。」
龍牙はそんな恋を見て、満足そうに頷いた。
「恋様。」
「?」
「皆様が笑顔です。」
「うん。」
「恋様のお力です。」
恋は首を横に振る。
「みんな。」
「?」
「一緒。」
その言葉に、霞は笑みを浮かべた。
「せやな。」
音々音も嬉しそうに頷く。
「恋様らしいのです。」
龍牙は静かに胸へ手を当てた。
「恋様のお言葉……。」
霞は先回りして言う。
「はいはい、可愛さが至高。」
「その通りです。」
「言わせる前に言うた!」
街中が笑いに包まれた。
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その日の夕方。
袁家の大広間では、恋たちの功績を称える小さな宴が開かれていた。
豪華な料理が机いっぱいに並ぶ。
恋は目を輝かせた。
「いっぱい。」
「恋様。」
龍牙は立ち上がる。
「お皿をお持ちします。」
「ありがとう。」
「肉料理はこちらです。」
「うん。」
「野菜もお召し上がりください。」
「うん。」
霞が笑う。
「龍牙、完全に給仕係やん。」
「恋様のお世話係です。」
「もう誰も否定せぇへんな。」
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そこへ袁紹が現れた。
「おーっほっほっほ!」
いつもの高笑いが響く。
「皆さん、ご苦労さまでしたわ!」
家臣たちが拍手を送る。
「黒山賊を退けた功績は見事でした!」
「さすが袁紹様の客将!」
袁紹は大きく頷く。
「皆さんのおかげで、街道の安全も戻りましたわ。」
そして恋へ向き直る。
「呂布さん。」
「?」
「本当にありがとうございました。」
恋は静かに答えた。
「みんな、守れた。」
「ええ。」
袁紹は微笑む。
「十分ですわ。」
続いて霞と音々音にも礼を述べる。
「張遼さん、陳宮さんも見事でした。」
「照れるわ。」
「当然のことをしただけなのです。」
最後に袁紹は龍牙を見る。
「高順さん。」
「はい。」
「あなたも素晴らしい働きでしたわ。」
龍牙は一礼した。
「恋様のお力です。」
「またそれですの?」
「恋様がおられるから戦えます。」
「ぶれませんわね……。」
霞は肩を震わせながら笑う。
「ほんま、そこだけは鉄壁や。」
---
宴も盛り上がり始めた頃だった。
袁紹の表情が少しだけ真面目になる。
「ですが……。」
大広間が静かになる。
「皆さんに、一つ伝えなければならないことがありますわ。」
恋たちも自然と表情を引き締めた。
袁紹は河北の地図を広げる。
「黒山賊の件で後回しになっていましたが……。」
指先が北東を示す。
「公孫瓚との戦が近付いております。」
霞の表情が変わる。
「ついにか。」
音々音も真剣な顔になる。
「河北の戦なのです。」
恋は地図を見つめた。
「戦。」
龍牙は恋の隣へ静かに立つ。
「恋様。」
「うん。」
「私は、どのような戦であっても恋様をお守りします。」
恋は小さく頷いた。
「うん。」
袁紹は四人を見渡し、力強く告げる。
「次の相手は黒山賊のような賊ではありません。」
「河北を二分する、公孫瓚軍ですわ。」
その言葉に、宴の空気は一変する。
新たな戦の足音が、すぐそこまで迫っていた。
袁紹の一言で、大広間を包んでいた和やかな空気は少しだけ引き締まった。
「次の相手は、公孫瓚軍ですわ。」
静まり返る広間。
家臣たちも真剣な表情で地図を見つめている。
河北を二分する名門同士の争い。
黒山賊討伐とは比べものにならない大戦になることは、誰の目にも明らかだった。
霞は腕を組む。
「相手は正規軍か……。」
音々音も頷く。
「兵の数も黒山賊とは桁違いなのです。」
恋は静かに地図を見つめていた。
「……。」
その横で龍牙は恋の様子を窺う。
「恋様。」
「?」
「お疲れではありませんか?」
「大丈夫。」
「お茶をお持ちします。」
「ありがとう。」
霞はすぐさま突っ込む。
「今その話ちゃうやろ!」
龍牙は真顔だった。
「恋様の体調管理は最優先です。」
「ぶれへんなぁ!」
袁紹も思わず苦笑する。
「あなた、本当に呂布さん第一ですのね。」
龍牙は胸を張った。
「当然です。」
「迷いがありませんわ。」
「恋様の可愛さが至高です。」
「この流れで言う!?」
広間に笑いが起こり、張り詰めていた空気が少しだけ和らいだ。
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袁紹は咳払いを一つする。
「実は、公孫瓚軍もこちらの動きを探っておりますの。」
音々音が地図を覗き込む。
「偵察隊でしょうか。」
「ええ。」
袁紹は頷いた。
「国境付近では小競り合いも始まっていますわ。」
霞は真剣な顔になる。
「もう時間の問題やな。」
「その通りです。」
恋はぽつりと呟く。
「また……いっぱい戦う?」
袁紹は静かに頷いた。
「ええ。」
恋は少しだけ考え込む。
「……。」
その姿を見た龍牙がそっと声を掛けた。
「恋様。」
「?」
「ご安心ください。」
「うん。」
「どれほど敵がいようとも。」
龍牙は龍眼斬の柄へ手を置く。
「私は恋様の前に立ちます。」
恋は安心したように微笑んだ。
「龍牙。」
「はい。」
「一緒。」
「もちろんです。」
龍牙は深く一礼する。
霞は肩をすくめた。
「恋が一言言うたら何でも解決するな。」
音々音も笑う。
「龍牙殿は単純なのです。」
「単純ではありません。」
龍牙は真顔で否定する。
「恋様だからです。」
「結局そこや。」
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その日の夜。
屋敷の庭では、龍牙が一人で龍眼斬を振っていた。
ブンッ。
ブンッ。
巨大な剣が風を切る。
一振りごとに地面の草が揺れ、庭木の葉が舞う。
「百九十八……。」
「百九十九……。」
「二百。」
霞が縁側に腰掛けながら眺めていた。
「毎日ようやるわ。」
龍牙は汗を拭く。
「鍛錬は欠かせません。」
「真面目やなぁ。」
「恋様を守るためです。」
「はいはい。」
「もっと強くならねば。」
霞は少し真面目な顔になる。
「龍牙。」
「何でしょう。」
「今日の張燕との戦い、気にしとるやろ。」
龍牙は少しだけ黙った。
「……逃がしました。」
「しゃあない。」
「恋様なら、村を助けることを選ぶ。」
龍牙は頷く。
「だから私も迷いませんでした。」
「それでええ。」
霞は立ち上がる。
「恋も、そんなあんたを責めたりせぇへん。」
その言葉に、龍牙は少しだけ表情を和らげた。
---
その頃。
恋は縁側で夜空を眺めていた。
音々音が毛布を持ってくる。
「夜風は冷えますぞ。」
「ありがとう。」
そこへ鍛錬を終えた龍牙が戻ってきた。
「恋様。」
「おかえり。」
その一言だけで龍牙の疲れは吹き飛んだ。
「ただいま戻りました。」
恋は隣をぽんぽんと叩く。
「ここ。」
「……よろしいのですか?」
「うん。」
龍牙は少し戸惑いながら隣へ座った。
しばらく二人で夜空を見上げる。
満天の星空だった。
恋が静かに口を開く。
「龍牙。」
「はい。」
「また戦い。」
「はい。」
「でも。」
恋は少し笑った。
「一緒なら、大丈夫。」
龍牙は目を見開く。
「恋様……。」
胸へ手を当てる。
「私は幸せ者です。」
霞が後ろから見て苦笑する。
「また感動しとる。」
音々音も笑う。
「いつものことなのです。」
龍牙は夜空を見上げ、小さく呟いた。
「恋様の可愛さが、今宵も至高。」
「締めもそれかい!」
霞の元気なツッコミが庭に響き、恋は「えへ」と小さく笑うのだった。
遠く北の空では、公孫瓚軍との戦を予感させるかのように、一筋の風が静かに吹き抜けていた。
新たな戦いは、もうすぐそこまで迫っている――。
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