『陥陣営戦記 ~恋こそ至高!龍牙、乱世を穿つ~』   作:パスカルDX

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第九話「開戦! 河北大決戦!」

第九話「開戦! 河北大決戦!」

 

 

 

 

夜明け前。

 

河北の平原には薄い霧が立ち込めていた。

 

昨日まで静まり返っていた大地は、今や数万の兵士たちの気配に満ちている。

 

袁紹軍。

 

そして、その正面には公孫瓚軍。

 

互いの軍旗が朝風を受け、大きくはためいていた。

 

まだ戦は始まっていない。

 

しかし、誰もが今日という一日が歴史に残る激戦になることを予感していた。

 

……ただ一人を除いて。

 

「すぅ……。」

 

恋は天幕の中で、まだ気持ちよさそうに眠っていた。

 

外では龍牙が腕を組み、真剣な表情で見張りをしている。

 

「恋様は安らかにお休みになられております。」

 

隣で霞が欠伸をした。

 

「まだ起こさんの?」

 

「あと少しだけ。」

 

「もうすぐ出陣やで?」

 

「あと少しだけです。」

 

音々音も苦笑する。

 

「龍牙殿、完全に親みたいなのです。」

 

「違います。」

 

「違うのです?」

 

「恋様専属護衛です。」

 

「結局そこなのです。」

 

 

---

 

やがて天幕の中から、小さな声が聞こえた。

 

「……ん。」

 

恋がゆっくり目を開ける。

 

「おはようございます、恋様。」

 

龍牙はすぐに一礼した。

 

「おはよう。」

 

「昨夜はよく眠れましたか?」

 

「うん。」

 

「それは何よりです。」

 

霞が笑う。

 

「朝一番の会話ちゃうやろ。」

 

龍牙は真剣だった。

 

「恋様の睡眠は大切です。」

 

「はいはい。」

 

恋は目をこすりながら尋ねる。

 

「今日、戦い?」

 

「はい。」

 

「そっか。」

 

緊張する様子もなく、恋は静かに頷いた。

 

 

---

 

朝食の時間。

 

兵士たちは慌ただしく食事を済ませている。

 

恋の前には当然のように肉まんが並んでいた。

 

「もぐ。」

 

龍牙は満足そうに頷く。

 

「恋様。」

 

「?」

 

「朝食を完食されました。」

 

「うん。」

 

「本日も絶好調です。」

 

霞が味噌汁を吹きそうになる。

 

「報告せんでええ!」

 

音々音も笑う。

 

「龍牙殿の中では毎朝の儀式なのです。」

 

恋は肉まんを食べ終え、お茶を飲む。

 

「ごちそうさま。」

 

龍牙はすぐに布で口元を拭く。

 

「失礼いたします。」

 

「ありがとう。」

 

その光景を見ていた兵士たちは、ひそひそ話を始めた。

 

「あれが高順殿か。」

 

「呂布殿の世話を焼くのが生きがいらしい。」

 

「何だか微笑ましいな。」

 

「でも戦うと強いんだよな。」

 

龍牙はその声を聞き、振り返った。

 

「恋様のお世話は最高の任務です。」

 

兵士たちは思わず姿勢を正した。

 

「は、はい!」

 

霞は頭を抱えた。

 

「堂々と言うなぁ!」

 

 

---

 

その時、戦場に重々しい法螺貝の音が響き渡る。

 

ブオオオォーーッ!

 

全軍が一斉に動きを止めた。

 

袁紹が白馬に乗って前へ出る。

 

「皆さん!」

 

兵士たちが武器を構える。

 

「いよいよですわ!」

 

「おおっ!」

 

「河北の未来は今日、この戦で決まります!」

 

大歓声が上がる。

 

恋も静かに立ち上がった。

 

龍牙は恋の前へ進み、一礼する。

 

「恋様。」

 

「うん。」

 

「出陣のお時間です。」

 

「いこう。」

 

「はい。」

 

 

---

 

陣から出た恋たちは、広大な平原へ足を踏み入れる。

 

向こう側には、公孫瓚軍が整然と並んでいた。

 

白馬を中心にした騎兵隊。

 

整った槍兵。

 

弓兵。

 

まさに精強な軍勢だった。

 

霞は口笛を吹く。

 

「なかなかやる気満々やな。」

 

音々音は周囲を見回す。

 

「こちらより騎兵が多いのです。」

 

龍牙は恋の少し前へ立つ。

 

「恋様。」

 

「?」

 

「敵は多いですが、ご安心ください。」

 

「うん。」

 

「私が道を切り開きます。」

 

恋は小さく微笑んだ。

 

「一緒。」

 

その一言だけで龍牙の表情が柔らかくなる。

 

「もちろんです。」

 

「恋様の可愛さが至高。」

 

霞は盛大にため息をついた。

 

「戦の前でも通常営業や……。」

 

その瞬間だった。

 

敵陣からも法螺貝が鳴り響く。

 

ブオオオォーーッ!

 

公孫瓚軍も前進を開始した。

 

数万の兵が一斉に歩み始め、大地が震える。

 

龍牙はゆっくりと龍眼斬を抜いた。

 

ズズン……

 

巨大な剣が朝日に照らされる。

 

彼は大きく息を吸い込み、戦場中へ響き渡るほどの声で叫んだ。

 

「恋様!」

 

恋が振り向く。

 

「?」

 

「必ずお守りします!」

 

恋は静かに頷く。

 

「うん。」

 

その返事を聞いた龍牙は満面の笑みを浮かべる。

 

そして――。

 

龍眼斬を高々と掲げた。

 

「全軍!」

 

兵士たちが一斉に彼を見る。

 

「チェストォォォォォーーーッ!!」

 

あまりにも大きな雄叫びに、袁紹軍の兵士たちは一瞬きょとんとしたあと、大爆笑に包まれた。

 

「何だ今の!」

 

「気合い入った!」

 

「よーし! 俺たちも行くぞ!」

 

笑い声と雄叫びが入り混じる中、ついに袁紹軍は公孫瓚軍へ向かって進撃を開始した。

 

朝日が平原を黄金色に染める。

 

袁紹軍と公孫瓚軍。

 

二つの大軍は、互いに土煙を巻き上げながらゆっくりと距離を縮めていた。

 

兵士たちの掛け声。

 

法螺貝の音。

 

馬のいななき。

 

戦場全体が震えるような熱気に包まれている。

 

その中で、恋は静かに方天画戟を握り締めた。

 

「……。」

 

龍牙はその一歩前へ立つ。

 

「恋様。」

 

「?」

 

「どうか私の後ろからお進みください。」

 

恋は小さく首を振った。

 

「一緒。」

 

その短い言葉に、龍牙は思わず笑みを浮かべる。

 

「はい。」

 

「一緒に参りましょう。」

 

霞が槍を肩へ担ぎながら笑った。

 

「ほな、派手に暴れたろか!」

 

音々音も拳を握る。

 

「陣形は崩さないようにするのです!」

 

 

---

 

「進めぇーーっ!」

 

両軍の先陣がぶつかる。

 

槍と槍が激しくぶつかり合い、金属音が平原へ響いた。

 

恋は方天画戟を軽く振るう。

 

ガキィン!

 

敵兵の槍が大きく弾かれる。

 

「なっ!」

 

「つ、強い!」

 

恋は無駄な動きを一切見せない。

 

必要最小限の動きで敵兵の武器を弾き、戦意を失わせていく。

 

「すごい……。」

 

袁紹軍の兵士たちから感嘆の声が漏れる。

 

「さすが天下無双だ!」

 

 

---

 

その隣では龍牙が龍眼斬を構えていた。

 

「恋様の前は通さん!」

 

巨大な剣が横薙ぎに振るわれる。

 

「チェストォォォッ!」

 

ブォォン!

 

強烈な風圧に敵兵たちは思わず尻もちをついた。

 

「うわっ!」

 

「風だけで!?」

 

龍牙は首を傾げる。

 

「まだ当たっていません。」

 

霞が叫ぶ。

 

「またそれか!」

 

「恋様へ近付かせないためです。」

 

「理由は立派やけど!」

 

 

---

 

敵兵たちは顔を見合わせる。

 

「どうする?」

 

「近寄れないぞ!」

 

「じゃあ呂布を狙え!」

 

その瞬間。

 

龍牙の目が鋭く光る。

 

「恋様を狙うだと?」

 

空気が変わった。

 

龍牙はゆっくりと龍眼斬を肩へ担ぐ。

 

「許さん。」

 

「チェストォォォォォッ!」

 

ドォン!

 

大地が震えるほどの一撃が敵兵の足元へ叩き込まれる。

 

土煙が舞い上がり、敵兵たちは一斉に後退した。

 

「ひぇぇ!」

 

「化け物だ!」

 

「逃げろ!」

 

霞は苦笑する。

 

「龍牙、恋のことになるとほんま容赦ないな。」

 

「当然です。」

 

「即答や。」

 

 

---

 

その頃。

 

袁紹は本陣から戦況を眺めていた。

 

「ほほう。」

 

家臣が驚いた顔で報告する。

 

「客将部隊が敵の先陣を押し返しております!」

 

袁紹は満足そうに頷く。

 

「さすがですわ。」

 

さらに別の伝令が駆け込む。

 

「敵右翼も後退しています!」

 

「早いですわね。」

 

袁紹は思わず笑みを浮かべた。

 

「呂布さんたちを迎えたのは大正解でしたわ!」

 

 

---

 

一方。

 

戦場では音々音が慌ただしく走り回っていた。

 

「左翼を下げるのです!」

 

「槍隊はこちら!」

 

兵士たちも素早く応じる。

 

「了解!」

 

霞も飛龍偃月刀を振るいながら笑う。

 

「ええ感じや!」

 

恋は相変わらず静かだった。

 

「……。」

 

近付く敵兵の武器だけを正確に弾いていく。

 

龍牙はそんな恋の姿を見て感動していた。

 

「恋様……。」

 

霞が嫌な予感を覚える。

 

「おい。」

 

「恋様の戦うお姿も。」

 

龍牙は胸へ手を当てる。

 

「至高。」

 

「今言うことちゃうやろ!」

 

周囲の兵士たちまで笑ってしまう。

 

「高順殿らしい!」

 

「緊張が吹き飛んだ!」

 

その笑いにつられるように、袁紹軍の兵士たちの士気もさらに高まっていった。

 

 

---

 

しかし、その時。

 

敵陣の奥で一際大きな白馬が前へ出る。

 

立派な鎧を身にまとった武将が槍を掲げる。

 

敵兵たちが一斉に歓声を上げた。

 

「将軍だ!」

 

「将軍がお出ましだ!」

 

袁紹軍にも緊張が走る。

 

「あれは……!」

 

霞が目を細めた。

 

「敵の大将か。」

 

恋も静かに視線を向ける。

 

龍牙は龍眼斬を握り直した。

 

「恋様。」

 

「?」

 

「いよいよです。」

 

恋は頷く。

 

「うん。」

 

二人は並んで敵陣を見据える。

 

戦場の空気が再び張り詰める。

 

大将同士が動けば、この戦はさらに激しさを増すだろう。

 

龍牙は静かに息を吸い込んだ。

 

「恋様。」

 

「はい。」

 

「どのような相手でも。」

 

龍眼斬を構える。

 

「私は恋様の盾となります。」

 

恋は小さく笑った。

 

「一緒。」

 

「はい。」

 

龍牙は力強く頷く。

 

そして、再び戦場へ響き渡るほどの大声で叫んだ。

 

「チェストォォォォォーーーーッ!!」

 

その雄叫びとともに、恋と龍牙は敵軍の中心へ向かって駆け出した。

 

 

 




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