縛りには管理人がいる   作:I'mあいむ

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意外と書けてしまった


鎖が響く

 

 

 

 

禪院家。

 

 

呪い渦巻く呪術師の世界、呪術界において御三家という大層な肩書きを持った一族。御三家ということで他にも五条家、加茂家と三つ並んでいる訳だが今回は禪院についてだ。

さて、そんな大層な肩書きには当然だが長い歴史と権力がある。それはもう多少実力が無くとも優遇される程には、彼らは力を持っている。力を持ちすぎた、と言っても良い。代々血筋によって伝わる相伝の生得術式。それを受け継げなかった者や才能が無い者、呪術が使用できない者を冷遇し、呪術師以外を人間と認めない差別主義。実に、面白味がない。封建的で、自分達を一番だと思い込む姿には想像力の欠如が見える。だからこそ、禪院甚爾という逸材に怯えたのだ。

 

「なあなあ、甚爾クン」

 

「あ?」

 

「君はさあ」

 

禪院甚爾。ドブカス曰く、あちら側と称される人間の一人。間違いなくこの呪いの世界で頂きに手を掛けられる器。五条家のアレが台頭するまでの十数年は、彼にも可能性がある。三日天下となるかもしれないが、大体の術師は彼を越えられない。だからこそ…

 

「下手だね、下手っぴだ」

 

「はあ?」

 

まだ成長しきっていない身体。幼さが残る仕草。しかし一度鍛えると言ったら容赦はしない。

 

「ほーら、また来るぞー」

 

「クッ!」

 

19xx年現在、場所は禪院家の呪霊を閉じ込めた牢屋。その暗がりの中で、禪院甚爾は自身の力と向き合っていた。

 

「ほれ、アウトだ」

 

「うおっ…」

 

牢屋の中に居た呪霊を消し飛ばす。あのままじゃジリ貧だったからな。仕方ない。

 

「膂力にかまけた力任せな動きは良い。スピードも申し分ない。戦闘スタイルなんかは君が磨いていくべきものだから何も言わないけどさ…」

 

「…何が言いたいんだよ。言うならハッキリ言え」

 

この子は現状、呪霊を捉えきれていない。呪霊の姿がハッキリと見えていない。恐らく姿形が少しボヤけている筈だ。それもこれも発展途上の未熟な身体故だ。まだ思春期も来てないのに体を十全に使いこなせって方が無理な話。それは分かってはいるが…

 

「もっとさ、体の感覚を使いなよ。その目も他の感覚も、掴んでないこと多すぎ」

 

「……あぁ?」

 

彼が今やっているのは単純な戦闘訓練。それなりの呪霊相手に生き残って、あわよくば勝ってみせろというもの。呪具に関してはその都度俺が持ってきてやれるから良いものの、肝心の本人がこれじゃあ話にならんな。まあそこら辺の木っ端になら負けないだろうが。

 

「君が目指すべきは術師じゃない。当たり前だけど、呪力の無い君が彼らのようにやったって意味ないし」

 

がむしゃらに当てたところで呪力が無ければカス当たりだ。道具に頼り切りになれば悲惨な結果を招くのは世の常。やはり鍛えるべきは己だろう。

 

「じゃあどうすんだよ」

 

「簡単だよ。君が目指すべきは」

 

「目指すべきは?」

 

「天下無双の大剣豪、大道鋼その人だ」

 

◆◆◆

 

大道鋼、何分もう数百年前の話だから、俺自身あまり思い出せないが、それでも確かに記憶には残っている。刀に狂ったあの男。馬鹿正直までに斬るという欲望に殉じたあの男は俺に強烈な印象を残した。

無名でありながら天下無双。後世に名は伝わらなかったものの、人類の歴史に刻まれるような技を、彼は持っていた。それが彼の感覚的剣技。呪力が無くとも呪霊を知覚するあり得ない技法。それは呪霊以外の全てが見えていれば、見えない何かとして呪霊を知覚できるというもの。馬鹿らしいが、これが案外理に叶っている。

 

「というわけで、目で見て、肌で感じるんだ。五感を研ぎ澄ますって言えば聞こえは良いが…兎に角感覚に身を任せてみるしかない」

 

「分かるかっ!」

 

「いやー、こればっかりは君の体次第だからね。俺にも分からん」

 

天与呪縛のフィジカルギフテッドなどと言うなら出来てもらわなきゃ困るんだけどな。

 

「君の体は人類最高峰だ。他の只人に出来て君に出来ない道理は無い。それに」

 

「それに?」

 

「出来なきゃ死ぬだけだから、安心しなって」

 

「クソがッ!!」

 

「ははっ、愉快愉快」

 

まだまだ荒削りなこのチンチクリンが何処まで行けるのか。それは彼にしか分からない。

 

◆◆◆

 

おっさんが来たあの日から、おっさんはよく俺のところに来るようになった。

 

「縛りって暇だろ」

 

「まあね。今は特に暇なんだよ」

 

このおっさん本当に働いてるのか?最近なんか1日に二回ぐらい来てるぞ。

 

「なんでだ?」

 

「日本が平和だからだな。バブルが崩れてそれなりに呪いは出てきたけど、それももう落ち着いたし。術師と呪霊が相当ドンパチしない限りは基本縛りも生まれないからね」

 

「……じゃあずっと暇じゃねえか」

 

日本が戦争してたのなんて俺が生まれるより前だ。そんなことは俺でさえ知ってる。

 

「…まあ、ここ数十年はね。けど忙しかった時もあった」

 

「へぇ、例えば?」

 

「今思い付くだけでも弥生時代、倭国大乱、平安時代、戦国時代、関ヶ原、宝永大噴火、第二次世界大戦…とまあこれぐらい」

 

「???」

 

駄目だ、分からねえ。やよ…ほうえい?それっていつだ?クソが…全部知らねえ…。

 

「とにかく、世の中に混乱が訪れた時は大体忙しいってことだ」

 

おっさんはそんなことを言ってた。そして、『だから、もうすぐ忙しくなる』と。アレ、冗談じゃなかったらしい。

 

 

 

 

 

 

「だからねー、君は囚われないんだよ」

 

「何言ってんだお前」

 

またいつかの時の話。夏の暑い日、屋敷の庭でおっさんはボヤいた。

 

「呪力を無くした分、君は呪力に囚われない。天与呪縛に縛られた分、呪いは君を観測出来ない。透明人間になったんだ」

 

「それ良いことか?別に呪力も術式も俺を捉えられるだろ」

 

別に俺は呪力による攻撃が効かないわけじゃない。そこまで意味があるわけじゃないだろ。

 

「分かってないねぇ。まだまだだよ、甚爾クン」

 

「チッ、勿体ぶってないで教えろよ…」

 

おっさんがニヤケ面で俺を煽ってくる。ハッキリ言ってこの男は性格が悪い。ことあるごとにガキの俺相手に対抗してきては煽りや文句を言ってくる。だが、家の連中とは違う。おっさんは、いつも俺と対等な目線で物事を話す。性格が悪くて、変人だ。

 

「ホラ、領域だよ、領域展開」

 

「…ああ、必中か」

 

「そう、君は結界を無視出来るんだ。大体の奴らは結界を呪力を感じ取ることで管理している。何せ非術師も呪力は持ってるからね。それを弾き出すよう設定すれば良いだけ…ってのは前に言ったか」

 

「聞いたな。術師共の結界は呪力で敵を判別してるって」

 

「そっ、つまり君には効かない」

 

こいつに鍛えられて一年と少し。俺にも少しは知識がついてきた。こいつがいつも横で、耳にタコが出来るほど情報を垂れ流してくるからだ。戦闘中にまでうるさいから一度本気で殺そうとしたら返り討ちにされた。こいつはモノを教えるのが下手すぎる。

 

「けどなァ、領域なんて使える奴が居るか?今の日本中探しても」

 

「いやいや、侮っちゃあいけないよ。呪霊の方には使える子達も居るし、術師も…まあ1人か2人は使える」

 

こいつは何処でそんなこと知ってくるんだ…。仮にもこの家は御三家。風の噂程度でもある程度情報は入ってくる。それは普通の術師なんざとは比べ物にならない。それでも、たぶんこいつの方が知ってることが多い。

 

「俺にそいつらに勝てって?バカだろそいつは」

 

「ハハッ、そうは言ってない。けどね、知っておいて、確信があった方が良いだろ?情報ってやつはさ」

 

「そうか?そうかもな」

 

俺に戦闘を叩き込んだのは、こういう奴だった。準備を怠らず、あらゆる面で情報をかき集めて相手を縛り上げる。最初から詰ませる方法を好んで使っていた。

 

「それにね、君は因果に囚われない」

 

「因果?」

 

「呪いの因果は繰り返すけど、君なら壊すことも出来る。君はいずれ…」

 

「おっさん?」

 

この顔は印象的だった。いつもより悲しそうに、おっさんは笑っていたから。

 

「…ま、君は好きなように生きな」

 

「なんだそれ」

 

髪を崩しながら撫でてきたおっさんに、少しムカついた。なんでコイツにガキ扱いされなきゃいけない。

 

「呪いになるから言わなーい」

 

「はあ?どういうことだよ?おっさん!おい待てっ!」

 

おっさんは逃げるように消えて、その日は現れることがなかった。昔からあのおっさんは逃げ足が早い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァッ…ハァ…ッ…」

 

「‘ΔΔΓ*¥€€Γ€!」

 

目の前の呪霊が気色の悪い目を向けてくる。推定、特級。家の奴らにやらされた任務の最中、現れたのは想定外の怪物だった。

 

「駄ぁ目だよ甚爾クン。それじゃあ負けるさ」

 

「あ?…あぁ、てめぇかよ…」

 

突然横に現れたのはおっさんだった。いつも通りのムカつく面で小言を言いながら、おっさんは冷たい目で俺を見つめる。

 

「そんなボロボロになって…ほら、次がくる。よけな」

 

「チッ…!」

 

鬱陶しい…!

いくら避けても手が止まらねえ…避けて、捌いて、それでも終わりが来ない…!

 

「だから、しっかり呪霊を捉えるんだ。君の五感は感じている筈だ。耳で、肌で、匂いも、気配も、分かるだろう?」

 

「クソッ…」

 

感じる。こいつはいつも感じろと言ってくる。それは何だ?感じるってのは…

 

『感じろ。そしてその先まで』

 

まただ。感じろって、だからそれは…

 

『分かれ。世界を、見て、ありのままを感じろ』

 

ありのまま…ありのままに見る

 

『体に、感覚に任せてみるんだ』

 

 

 

感覚に任せて─

 

 

 

 

 

『頭じゃない。脳でアレコレ考えてんじゃないよ。あーだこーだしてないで体感してみればいい。そしたらほら』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全て、自由だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─ああ、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見えたぜ」

 

 

 

分かった。そう、見える。

 

「遅せぇ」

 

何もかも、見えている。コレだ。コレだったんだ。

 

「ΔΙΔΛΠΠДΞ!?!」

 

呪霊の動き、気色悪い肌のつま先まで見える。全部だ。世界の全ても、流れる空気の一粒、その魂まで、全部分かる。捉えられる。今なら──

 

 

 

「終わりだ」

 

 

プスリと、何の抵抗もなくあっさりと刺さる。殺れる。その確信があった。貫き、そして上へ。胴体から頭蓋まで一直線にかっ捌いたら、何もかもが跡形も無く消え去って─

 

 

 

 

 

 

「どう?気分」

 

「アァ?」

 

そりゃ、

 

「絶好調」

 

「なら良かった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 






──また、故・伏黒甚爾(旧姓:禅院甚爾)は幼少期に縛りの精と遭遇した疑いがある。彼の発言には時折、『縛りのおっさん』という単語が出てきており、縛りの精の存在を証明する手掛かりになると思われる。天与呪縛であった彼と縛りの関係性は非常に強く、交流があった可能性は十分にあると考えて良いだろう。

──調査書類:『縛りの精について』より抜粋

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