性癖煮詰めて厨二バトル書いたよ 作:銀髪赤目のアンドロイドと女軍人が好き
その男からは、底知れない不気味さが漂っていた。細身の体躯に、継ぎ接ぎだらけのコートとズボン。丸サングラスの奥の表情は笑っているように見えるが、滲み出る胡散臭さは隠しようもない。その手には、不釣り合いなほど銃身の厚い大型リボルバーが握られていた。だが、何よりも異質なのは、このような森の奥であるにもかかわらず、男が他に何一つ荷物を持たず、身一つで佇んでいることだった。
「やぁ、道に迷ってしまってね。荷物もコンパスも無くしてしまったんだ」
そのもの言いは、どこか他人事のような、芯のズレた感覚を覚えさせた。
「良かったら、出口の方向を教えてくれないかい?」
愛想笑いを浮かべてはいるが、サングラスの奥から感じるのは、不安を押し殺した人間のそれではない。
底知れぬ虚(うろ)だった。
だが、話しかけられてる側の少女もまた、異質だった。
流れるような銀髪に、白磁の肌。ルビーのような妖しく輝く紅い瞳。胸元を大胆にはだけた着流しを纏い、その身には華美な耳飾りや腕輪が鈍い光を放っている。手には、美しい鞘に納められた一振りの刀。
それは、どこか御伽噺から抜け出してきたかのような、恐ろしいほどに美しい艶姿だった。
「……何、妖(あやかし)の類?」
少女は鈴の鳴るような声で。冷ややかに呟た。
「非道いな、僕はただ道を訊いてるだけなの…」
男が足を踏み出した瞬間、少女の方が動いた。
淀みのない抜き打ち、――――白刃一閃。
ずるりと男の首が胴体から滑り落ち、その視線が地面に堕ちていく。
問答無用の一撃だった。
納刀して残心。だが――――。
「驚いたな。いきなり首狩られるなんて」
背後から男の軽い声が聞こえた。
(……確かに首を落としたのに)
距離を取り、再度、抜刀の構えを取る。
「そんなに怯えられると傷つくなぁ~。これでも僕は寂しがり屋なんだ」
男は何事もなかったように振る舞う。
「まぁ、一回殺されてるんだから。そちらも死なないとフェアじゃないよね」
男がリボルバーを構えた。
発射されたのは6発。乱射とも思える粗雑な撃ち方だったが、狙いは正確だった。
頭、胸、両足、そして刀を握る左手首。急所を穿ち、動きを止め、と攻撃を封じるための軌道。
少女は神速の抜き打ちで切り払うが―――。
最後の一発は―――?
背後からの強襲。―――跳弾。
振り向き様に刀を振るい、弾く。
「すごい!すごい!完璧に死角を取ったのにそれすら捌くか」
男は相変わらず、薄気味悪い笑いを浮かべながらシリンダーに弾を込める。
「それじゃあ、仕切り直しだね」
再び、リボルバーを構え、男はそう嘯いた。
(銃自体はそこまで脅威ではない。さっきのは驚いたが、防げないほどものではないし)
問題は男の不死性。幻術の類にして生々しかったし、手には肉を裂き、骨を絶った感覚が残っている。
斬っても死なない男。久々に一筋縄ではいかない相手。
少女の桜色の唇が歪む。
凄まじい踏み込みで男の間合いに入る。
「……アハッ」
男は笑いながら発砲。刀身で受け流し、横薙ぎの一撃を放つ。対して男は、至近距離での発砲によって斬撃を防いだ。加速しきる前に刃が押し込まれる。
発砲の反動を利用し、男は後方へ飛んだ。
少女が追撃するが、男の手にはもう一丁、銃が握られていた。
黒鉄の長い銃身のオートマチック。リボルバーもそうだが、片手撃ちするには無理がある代物。
だが、この際、些細な疑問に過ぎない。重要なのは、あの黒い銃が純然たる脅威に値するという事だ。
銃口から弾丸が放たれる。轟音が響き、森の木々が震えたかのような錯覚が起きる。
少女は直感により、迎撃よりも回避を選ぶ。真横を通り過ぎる弾丸が、背後の大木に突き刺さる。
爆発を起き、大木が根本から折れた。
息をつく暇もなく、前後左右から跳弾による殺意が襲い掛かる。切り払っても、飛び上がって避けても、あの黒い銃で狙い撃ちされる。
一か八かで迎撃を選択、跳弾を切り捨て、本命の炸裂弾に備える。
煙を裂いて、黒い銃から放たれた炸裂弾が少女に牙を剥く。
周囲の色が失われ、音が消える。極限に研ぎ澄まされた集中力で抜刀の構えを取る。
視覚も聴覚もいらない。必要なのは、空気の流れを感じる触覚のみ。
迫りくる弾丸に向け、刃を振り抜いた。
時間が動き出すかのように、切り分けられた弾頭が遅れて爆発する。
だが―――。
「まだ2発残ってるよ」
男の声が響いた。
右肩と左太ももに鈍い痛みを感じた。
立ち昇るリボルバーの硝煙を吹き消しながら、男が姿を現す。
黒い銃を持ち上げ、男は言った。
「この子は威力があり過ぎて、連射すると射線ズレるんだよね」
刀は握れる。走ることはできない。冷静に自身の状況を推察する。
(止めを刺せるのに、何故?)
男はいつまでも動きを見せなかった。
こちらの動向を観察するように視線を這わせる。
サングラスの奥から覗く瞳が映すのは底知れぬ深淵のような虚無だった。
「まだ、残ってるよね。隠し玉」
男は芝居がかかったように大袈裟な手振りをする。
「出し切ってないでしょ?全部。魅せてよ、キミの全力を!!」
まるで、今まで戦いが児戯に等しいとでも言うかのように。
リボルバーと黒のオートマチックを交差させる。
「こんなものでは満たされないんだよね」
刀を支えに立ち上がる。
ゆっくりとした動作で、抜刀の構えを取る。
刃を少し押し出し、親指を切る。血が刃へと流れ落ちていく。
「……血刃装填」
少女が低い声で呟く。
「―――屍山血河」
抜き放たれたのは、血の刃だった。
先ほどの切って流した以上の血が、刃に纏わりついている。
男は笑いながら黒のオートマチックを構えるが―――。
首とその銃を保持している左手首ごと両断された。
崩れ落ちる、首のない男の身体。
血の刃が伸びたのだ。間合いの外からの斬撃。
「アハハハハッ、凄いな……。」
首だけになっても男は死んでいなかった。
「ただ間合いを伸ばすだけじゃなくて、不死殺しの力までかっ!?」
「キミの血が特別なのか、その刀に付随したものなのか気になるなぁ~」
まるで遠隔操作されたラジコンがように、男の首のない身体が動き出す。
右腕に握られたリボルバーから弾丸が放たれるが、血刃によって全て切り捨てられる。
続け様に血刃が、右腕と胴体を切り分かつ。
―――が。切り離された左手が弾丸のように飛び、少女の首を掴んで絞め始めた。
苦悶の表情を浮かべ、男の左手首を掴み、引き剝がそうとするが離れない。
少女の意識が薄れるたびに、血刃のかたちが崩れ始める。
どうしようもない絶体絶命の中、少女はあえて抵抗を止めた。
血の刃はただの血に戻り、地面に落ちる。
その瞬間、わずかに拘束が緩んだ。一気に引き剥がして男の手を斬り裂く。
そして、男の生首に向けて刀を投擲した。
寸分狂わず、男の額に突き刺さった。
「今回はここまで……か。また、会おう」
そう呟きながら、男は溶けるように消失していった。
激しく咳き込みながらも少女は立ち上がり、地面に突き刺さった愛刀を回収して鞘に納めた。
「気持ち悪い……非道い悪夢のよう」
まだ赤みの残る首筋をさすりながら、少女は乱れた着流しを整える。
久々に血肉が湧き上がる死合いができると思ったが、結果は散々だった。
あの気持ち悪い男との闘いはどこかスッキリしなかったし、不完全燃焼もいいところだ。
しまいには、また会おう、だと。こちらとしては願い下げだ。
酒を飲んでサッサと忘れてしまおう。
少女はそう思いながら、再び歩きだした。