性癖煮詰めて厨二バトル書いたよ 作:銀髪赤目のアンドロイドと女軍人が好き
暗闇の一室。隻腕の鎧騎士は、左腕一本で無骨な大剣を素振りしていた。
重厚な甲冑を身に着け、かなりの重量があるにもかかわらず、その勢いは衰えることがない。
石造りの部屋に、風切り音と金属同士が擦れる音が響き合っていた。
「調子はどうだい?そろそろ、実戦相手でも欲しいんじゃないかい?」
軽薄そうな男の声が聞こえる。
隻腕の鎧騎士は、声が聞こえた方へ素早く大剣を向ける。
「うん、僕をご所望かい?別にいいけど。相応しい相手が他にいるんじゃないかい?」
手を上げながら、丸サングラスの男が喋る。
鎧騎士は興味を無くしたのか、素振りに戻っていった。
「キミ達、武人の考えることは、ホントーに理解しがたいなぁ~」
「勘が鋭いと思ったら、警戒心がまるで無いとか」
「自分の力への自負みたいなものなのかな?」
◇
聞き込みでわかったことは、この街は渓谷に囲まれた城塞を落とすための拠点が前身らしい、ということだ。
城塞に立てこもった騎士が恐ろしいほど強かったため、彼を閉じ込めるために建てられたのだとか。
とてつもなく眉唾な話だ。たった一人のために拠点を作り、押し込めてたなんて。
だが、話が本当なら、そこには個人で戦略戦術を一切合切叩き潰す、理不尽の権化のような怪物がいたという事だ。
そのような極上の相手がいたのなら、さぞかし、素晴らしい死合いができたのだろう。
もう百年前の話らしいので、残念だが。
しかし、魔獣が棲みついたなどという噂が、まるで無かったのはどういう事だろう。
まぁ、いいか。行けばわかることだ。
◇
自分は何をしてるのだろう。護るべき国も、民も、愛する者も失くして、朽ち果てた城塞で、剣を振るい続けているのは。
自分を終わらせてくれる存在を求めてるのか、それとも、未だにまだ見ぬ強敵との闘いを求めてるのか。
わからないが、確かなことは一つ。まだ、自分には剣が残されているということだ。
◇
城塞の入口に少女が立っていた。
ここまで来る途中、多くの戦闘の跡を見た。鎧を身に着けた骨。折れた剣や槍。あちこちに刺さった矢じり。一刀両断された戦車(チャリオット)。
どれもが、当時の戦いの激しさを物語っていた。あの話も、案外デマでは無かったらしい。
その証拠に、残された鎧や武器類は全て同じ意匠だった。集団同士の戦いなら、異なる意匠のものが混在するはずだ。
風に揺れる耳飾りを肌で感じながら、歩みを進めた。その先にある「何か」に期待しながら。
「いやぁ~待ってたよ」
エントランスに踏み込んだ瞬間、声が響いた。
「……げっ」
「開口一番にそれはないんじゃないかなぁ」
そこには一番関わり合いになりたくない丸サングラスの男が、エントランスの女神像の上に座っていた。
「キミさぁ~、詳しい話も聞かずに出ていくとか。マジでありえないんだけど」
「もう少しさ……、訳とか報酬の話とかの確認くらいするだろう?」
「……え、何で私怒られてるの?」
少女の、芯から困惑したような一言。
そのあまりに素朴な返しに、男がハッとしたように動きを止める。
「あぁ、ごめんごめん」
男がそう言って苦笑したかと思うと、その全身が眩い光に包まれた。光が収まったとき、女神像の上に座っていたのは、先ほど店で彼女に依頼を持ちかけた「包帯だらけの男」の姿だった。
「道理で嫌な感じがしたと思った。報酬の話はどうなるの?」
「え、そこなの!?気になるのは」
「まぁ、そこらへんは心配しなくても大丈夫さ。この先に進めば、満足するはずだよ」
男が上を指し、誘導する。
少女は怪訝そうな顔をして、階段を昇り始めた。
(……大したことなかったら、あの男を斬ろう)
昇り切った先には、重厚な扉があった。どうやら、ここが終点らしい。
扉がひとりでに開く。
暗闇の中、無骨な大剣を肩に担いだ隻腕の鎧騎士が立っていた。
全身の肌が粟立つ。あの男のような薄気味悪さやキマイラのような不気味さとは違う。
圧倒的な存在感。制御された暴力。
見ただけで分かった。あれは人の形をした災害だ。
騎士が大剣を此方に突き付けた。
掛かってこい、と。
身体が勝手に動いた。鞘を腰だめに、柄をいつでも掴めるようにして疾走する。
騎士は大上段の構えを取った。凄まじい圧力を感じる。来る途中で見た、一刀両断された戦車を思いだす。
臆するな、呑まれれば死ぞ。
さらに足に力を込め、石造りの床を蹴った。
騎士が大剣を振り抜く。轟音と砕け散る床。少女は紙一重で躱し、刃を抜き放った。
―――が。すでに騎士が消えていた。
大剣を叩きつけた勢いを利用し、それを支点にして倒立し、前転。
完璧に少女の後ろを取り、容赦なく蹴り上げる。
「―――がッ」
壁に叩きつけられ、ボールのように跳ね返る。
すかさず騎士は大剣を突き出し、追撃。少女は空中で身体を無理矢理捻り、刃を当ててその一撃を受け流す。
騎士はそのまま少女の横を通り過ぎ、壁を砕いた。
少女は衝撃を打ち消しながら着地。騎士から目を離さないよう、極限まで集中する。
正に荒れ狂う暴風だ。一瞬でも気を抜けば、圧殺される。
力だけではない。技術も経験も、圧倒的に上だ。
騎士は瓦礫化した壁から、強引に大剣を振り抜く。
瓦礫が礫となって少女に飛んでいく。
向ってくる礫を切り払う。
すかさず、騎士は跳躍し、空中で回転しながら大剣を振り抜く。
死中に活あり。
少女は疾走し、前進する。
騎士の一撃によって部屋全体が震え、破砕され、破片が飛び散る。
その猛攻を、少女は騎士の背後を取る形で躱していた。
右足を踏み込み、軸足にして遠心力を利用した抜刀術が、騎士の背中に炸裂する。
肉を裂く感触。だが骨までは絶てなかった。
(―――浅いっ!?)
床を蹴り、少女は距離を取った。
騎士は大剣を床に突き刺し、左手で背中の傷を拭う。
拭った手をぐっと握り締めた、何かを確かめるように。
(……決定打が足りない。しかも向こうは本気を出してない)
此方も切り札を切れば、向こうも出してくる。そうなれば、勝ち筋が見えない。
少女の額から、汗がだらりと流れた。
(考えても無駄だ。なら、どうする?)
元より、命に頓着していない身の上。
全力を出さずに負けるくらいなら、死んだ方がマシだ。
覚悟を決め、鯉口を切り、親指に刃をあてがう。
「―――血刃装填」
一方、騎士も床に突き刺さった大剣を抜くため、柄を握りしめる。
「屍山血河っ―――!!」
叫ぶように、言霊を紡いだ。
少女が血を滾らせて叫ぶのと同時に、騎士は大剣を床から力任せに引き抜き放った。
その瞬間、無骨だったはずの刀身に無数の罅が入る。引き裂かれた隙間から、おぞましくも美しい、昏い輝きがドクドクと溢れ出した。
限界を迎えた外殻がガラスのように砕け散る。その内側から露わになったのは、透き通るような美しい翡翠色の刀身だった。
それは、暗闇に沈む玉座の間を静かに照らす、冷徹な月明りのようだった。
放たれるは伸縮自在の赤黒の刃。迎え撃つは迸る月光の刃。
両者の刃が正面から交わる。
だが―――月光の波濤が、少女の血刃を力任せに弾き飛ばした。
騎士が戦車のように突進する。翡翠色の刀身が緑光の軌跡を描く。
だが。騎士の背後には鎌首をもたげる血刃が迫る。
これでもかという超反応を見せる騎士。
床を蹴り、反転。
血刃がすれすれで騎士の頭上を通り過ぎた。
その瞬間、血刃の形が崩れた。血飛沫が騎士の顔にかかった。
騎士の動きが一瞬、鈍る。
第二の血刃が抜き放たれようとしていた。
第一が伸縮自在の≪大蛇≫。第二の刃の名は…
≪飛燕≫。血刃を飛ばすのだ。
赤黒い斬撃が宙を舞う。まるで燕のように。
騎士はそのままの体勢で無理矢理、月光の大剣を振り回した。
――――光が散る。
暗い玉座に、淡い光が散乱した。
少女の血刃が、隻腕の騎士を両断した。
月光の大剣が左手から零れ落ちる。騎士の身体は崩れるように倒れた。
一か八かだった。大蛇を囮に、本命の飛燕で決める。
刀を床に突き刺し、倒れないようにもたれかかる。
満足どころかお腹いっぱいだ。
「ご苦労様。ジャイアントキリングだね。おめでとう」
「後は、僕に任せてゆっくりお休み」
最後に見たのは、よりにもよって、この男のにやけ面なのは気に食わないが……。
月光ビルド大好きマンなので、まんまです。
ちなみにブラボの月光が一番好き。