俺を助けたのは金髪ドリル!? 俺の命の恩人は誰だ!? 作:パスカルDX
第二話「金髪ドリルが四人!? 恩人探しは前途多難!」
屋敷を出発してから半日ほどが経っていた。
山道を抜け、街道へと続く道を歩く一行。
先頭を歩くのは、小柄ながら堂々とした雰囲気を纏う少女。
その少し後ろを、上品なお嬢様然とした少女と、穏やかな少女が並んで歩く。
そして最後尾では――。
「もっと胸を張って歩くっす!」
「うわっ!」
背中を勢いよく叩かれ、俺は危うく前につんのめった。
「いきなり何するんだよ!」
「男ならシャキッと歩くっす!」
「怪我人にそれは厳しくない?」
「もう元気そうっす!」
「見た目だけだから!」
俺が抗議すると、少女は「あははっ!」と豪快に笑う。
本当に元気だ。
朝からずっとこの調子である。
俺は思わず苦笑した。
(明るい子だな……。)
そんなことを考えていると、前を歩く小柄な少女が振り返る。
「騒がしいわね。」
「ご、ごめんなさい。」
「違うっす!」
元気娘が胸を張る。
「こいつが鈍いだけっす!」
「俺が悪いの!?」
「当然っす!」
「理不尽だ!」
そのやり取りを見て、穏やかな少女がくすくすと笑う。
「仲が良いですね。」
「どこが!?」
「もう打ち解けていますよ。」
……そう言われると、少し照れ臭い。
昨日会ったばかりなのに、不思議と気を遣わず話せる相手だった。
そんな空気を、お嬢様風の少女がため息で締めくくる。
「まったく……賑やかですこと。」
そう言いながらも、その口元は少しだけ緩んでいる。
四人とも、なんだかんだで仲が良いらしい。
◇
昼頃。
一行は街道沿いの茶店で休憩を取ることになった。
木陰に置かれた長椅子へ腰を下ろす。
「ふぅ……。」
ようやく一息つけた。
「お茶です。」
穏やかな少女が湯飲みを差し出してくれる。
「ありがとうございます。」
受け取って一口。
「あ、美味しい。」
「山のお水で淹れていますから。」
「なるほど。」
ほっと一息ついた、その時だった。
「団子っす!」
元気娘が串団子を五本も抱えて戻ってきた。
「買いすぎじゃない?」
「一本じゃ足りないっす!」
「いや、五本は多いだろ!」
「食べるっす?」
「一本だけ。」
「残り四本は私っす!」
「結局全部自分で食べるんじゃん!」
「当たり前っす!」
堂々と言い切る。
俺は思わず吹き出してしまった。
「ぷっ……!」
「何がおかしいっす?」
「いや、ごめん。」
こんなに全力で食欲を肯定されると笑うしかない。
一方、小柄な少女は呆れ顔だった。
「……相変わらずね。」
「育ち盛りっす!」
「もう育ちきっているでしょう。」
「まだ伸びるっす!」
「どこが?」
「身長っす!」
「……。」
全員が無言になる。
元気娘は首を傾げた。
「どうしたっす?」
「……いいえ。」
小柄な少女は視線を逸らした。
俺も何となく察したので何も言わない。
その微妙な空気を、お嬢様風の少女が咳払いで変える。
「ところで。」
「はい?」
「あなた、お名前は聞きましたけれど。」
「北郷一刀です。」
「では北郷さん。」
「はい。」
「まだ私たちの名前を知りませんわね。」
「そういえば。」
今さら気付いた。
昨日から一緒にいるのに、誰一人名乗っていない。
「教えてもらえるんですか?」
少し期待したが――。
四人は顔を見合わせる。
そして。
「まだ早いわ。」
小柄な少女が即答した。
「えぇっ!?」
「必要になれば教える。」
「そういうものなの?」
「そういうものですわ。」
お嬢様風の少女まで頷いている。
元気娘は笑いながら言った。
「今は好きに呼ぶっす!」
「好きに?」
「うんっす!」
俺は四人を見比べる。
全員金髪ドリル。
(区別つかない……。)
「えっと……。」
俺は小柄な少女を見て。
「リーダーさん。」
「……まあいいわ。」
次に元気娘。
「元気さん。」
「そのまんまっす!」
穏やかな少女。
「優しいさん。」
「ふふっ。」
最後にお嬢様風の少女。
「お嬢様。」
「間違ってはいませんわね。」
四人とも納得してしまった。
「本当にこれでいいの!?」
「構いません。」
「楽っす!」
「呼びやすいですし。」
「そのうち覚えるでしょう。」
なんとも適当だった。
◇
休憩を終え、再び歩き始める。
その途中だった。
「きゃー!」
女性の悲鳴が聞こえた。
「!」
全員の表情が変わる。
「向こうっす!」
元気娘が真っ先に駆け出した。
俺も慌てて後を追う。
街道脇では、一台の荷車が横倒しになっていた。
荷物が散乱し、商人らしき男性が困り果てている。
「車輪が溝にはまって動かないんです!」
「任せるっす!」
元気娘が荷車を掴む。
「せーのっ!」
ぐっ。
……動かない。
「ぬぬぬぬっ!」
顔を真っ赤にして力む。
しかし。
びくともしない。
「……。」
「……。」
沈黙。
「手伝う?」
俺が恐る恐る聞く。
「い、いらないっす!」
また力む。
「ぬおおおっ!」
やっぱり動かない。
俺はそっと後ろへ回る。
「じゃ、一緒に。」
「だから!」
ぐいっ。
俺が軽く押した瞬間。
ゴロンッ!
荷車はあっさり元に戻った。
「……。」
「……。」
元気娘は固まった。
「俺、何かした?」
「…………。」
少女は耳まで真っ赤にすると。
「い、今のは!」
一拍置いて。
「最終確認っす!」
「絶対違うよね!?」
商人も吹き出して笑っていた。
こうして、一行の賑やかな旅は続いていくのだった。
荷車を元に戻したことで、商人は何度も頭を下げていた。
「本当に助かりました! ありがとうございます!」
「気にしないでください。」
俺がそう言うと、商人は目を潤ませながら俺の手を握る。
「お礼にこちらを!」
そう言って差し出してきたのは、大きな袋いっぱいの干し肉だった。
「えっ!? こんなにもらえません!」
「命より安いものです!」
「いや、荷車を戻しただけですよ!?」
遠慮しようとすると――。
ひょいっ。
いつの間にか、お嬢様風の少女が袋を受け取っていた。
「ありがたく頂戴いたしますわ。」
「えっ?」
彼女は袋の重さを手で確かめ、満足そうに頷く。
「これは市場で売れば、それなりの価値がありますわね。」
「売る前提なの!?」
「食べてもよろしいですが、お金になりますもの。」
「現実的だ……。」
商人は「役に立てるならぜひ!」と笑顔で帰っていった。
俺は呆然と見送るしかない。
「ところで。」
お嬢様風の少女が俺を見る。
「先ほどはありがとうございました。」
「いや、俺は少し押しただけですよ。」
「それでも結果を出したことに変わりはありませんわ。」
「でも、最初に頑張ってたのは――」
俺は元気娘を見る。
すると彼女は顔を真っ赤にしていた。
「…………。」
「どうした?」
「べ、別に悔しくなんかないっす!」
「何も言ってないけど!?」
「悔しくないっす!」
「だから何も聞いてないって!」
完全に墓穴を掘っている。
思わず吹き出しそうになるが、笑ったら怒られそうだ。
その様子を見ていた穏やかな少女が、くすくすと笑う。
「本当に賑やかですね。」
「旅はこうでなくちゃ駄目っす!」
「それは否定しません。」
小柄な少女も小さく微笑んでいた。
◇
街道をさらに進む。
やがて小さな町が見えてきた。
「今日はここで宿を取るわ。」
小柄な少女がそう告げると、一行は町へ入る。
町は活気にあふれていた。
野菜を売る人。
魚を売る人。
子どもたちが元気よく走り回っている。
「すごいなぁ……。」
俺は思わず辺りを見回す。
まるで時代劇の世界だ。
いや、本当にそんな時代なのかもしれない。
「迷子になるっすよ。」
元気娘が俺の腕を引っ張る。
「子ども扱いするなって。」
「ちゃんと付いてくるっす!」
「はいはい。」
そんなやり取りをしていると、不意に屋台が目に入った。
香ばしい匂いが漂ってくる。
「焼き饅頭か。」
思わず足が止まる。
「食べたいですの?」
お嬢様風の少女が聞いてくる。
「いや、ちょっと気になっただけ。」
「そうですか。」
そう言うと彼女は店主のもとへ歩いていき――
「これを五本くださいませ。」
「えっ?」
戻ってきた彼女の手には焼き饅頭が五本。
「どうぞ。」
一つ差し出された。
「いいの?」
「助けていただいたお礼ですわ。」
「荷車の?」
「それもあります。」
素直に受け取る。
「いただきます。」
一口かじる。
「うまい!」
もちもちした生地に甘い餡。
疲れた身体に染み渡る。
「美味しいっす!」
元気娘はすでに三本目だった。
「食べるの早くない!?」
「飲み物っす!」
「飲み物じゃない!」
「噛んでませんの?」
「噛んでるっす!」
「見えませんでしたわ。」
四人の会話に、俺は自然と笑みを浮かべる。
(こんな時間も悪くないな。)
◇
宿へ向かう途中。
突然、俺の頭の中にあの日の光景がよみがえった。
青空。
落下。
そして――
金色の髪。
「……!」
思わず足を止める。
「どうしました?」
穏やかな少女が心配そうに尋ねる。
「いや……。」
視線を四人へ向ける。
みんな金髪ドリル。
誰を見ても、あの日の姿と重なってしまう。
(やっぱり分からない……。)
顔を思い出そうとしても、霞がかかったようにぼやけている。
ただ一つだけ確かなのは。
命を救ってくれた少女が、今もこの四人の中にいるかもしれないということ。
「……よし。」
俺は小さく拳を握る。
「絶対に見つける。」
「何をっす?」
元気娘が首を傾げる。
「秘密。」
「気になるっす!」
「教えない。」
「むー!」
頬を膨らませる元気娘。
その様子に皆が笑い、町の夕暮れに賑やかな笑い声が響いた。
一方、その少し後ろでは――。
お嬢様風の少女が、一瞬だけ俺の背中を見つめ、小さく微笑む。
「……本当に、お人好しですこと。」
その呟きは誰にも届かない。
もちろん一刀も、まだ知る由はなかった。
夕焼けが町を赤く染め始める頃、一行は町で一番大きな宿へと足を踏み入れた。
「いらっしゃいませ!」
威勢のいい女将が顔を出す。
小柄な少女は慣れた様子で前に出ると、落ち着いた口調で部屋を頼んだ。
「五人分お願いするわ。」
「はいよ!」
女将は帳面を開きながら、一刀たちを見回す。
「ずいぶん可愛い娘さんばかりだねぇ。」
「ありがとうございます。」
穏やかな少女が笑顔で頭を下げる。
その隣で元気娘は、
「もちろんっす!」
と胸を張っていた。
「……お前、自分で言うのか。」
「事実っす!」
「否定はできないけど!」
俺が苦笑すると、女将も「あっはっは!」と豪快に笑った。
「で、そっちの兄ちゃんは?」
「旅の仲間よ。」
小柄な少女が簡潔に答える。
「なるほどねぇ。」
女将は何度も頷くと、帳面を閉じた。
「部屋は二つ空いてるよ。」
「二つ?」
「男一人、女四人だろ?」
その瞬間。
全員の視線が俺へ集まった。
「…………。」
「…………。」
「…………。」
「…………。」
「え?」
嫌な予感しかしない。
「どういう分け方にするっす?」
元気娘の一言で、空気が一変した。
「もちろん、男と女で分けるべきですわ。」
お嬢様風の少女が即答する。
「それが普通ですね。」
穏やかな少女も頷く。
「当然ね。」
小柄な少女も異論はないようだ。
「ですよね。」
俺もほっと胸を撫で下ろす。
これで安心――
「でも。」
元気娘が首を傾げた。
「一部屋余るっす。」
「……。」
そうだった。
男は俺一人。
部屋が二つ。
一部屋を一人で使うことになる。
「もったいないっす!」
「いや、そこ気にするの?」
「宿代は大事っす!」
すると、お嬢様風の少女が咳払いを一つ。
「確かに無駄遣いは良くありませんわ。」
「そっちも乗るの!?」
俺は思わずツッコミを入れた。
しかし小柄な少女が冷静に結論を出す。
「問題ないわ。」
「え?」
「男は一人部屋。」
「はい。」
「私たちは四人で一部屋。」
「……それでいいの?」
「ええ。」
あっさり決着した。
俺は内心で大きく安堵する。
(よかった……。)
ところが。
「ちょっと待ったっす!」
元気娘が手を挙げた。
「まだ何か?」
「枕投げしたいっす!」
「夜にやりなさい。」
「一刀も参加――」
「しない。」
小柄な少女が即答。
「えぇ~!」
「却下。」
「ぶー!」
頬を膨らませる元気娘。
その様子に宿の女将まで笑い転げていた。
◇
夕食の時間。
大広間には旅人たちが集まり、賑やかな空気に包まれていた。
料理が運ばれてくる。
焼き魚。
煮物。
炊きたてのご飯。
「いただきます!」
俺は箸を手に取る。
「美味しい!」
一口目から感動した。
「旅先の料理って最高だな。」
「そうでしょう。」
穏やかな少女が嬉しそうに微笑む。
その横では――
「おかわりっす!」
まだ一杯目も食べ終わっていないのに、元気娘がおかわりを注文していた。
「早い!」
「今日は三杯はいけるっす!」
「宣言しなくていい!」
すると、お嬢様風の少女が冷静に計算を始める。
「ご飯三杯……おかずも追加……。」
指を折りながら呟く。
「食費が……。」
「そこ計算するの!?」
「当然ですわ。」
「癖なんだね!」
さらに、小柄な少女が静かに口を開く。
「食べることは悪くない。」
「おっ。」
「ちゃんと働くなら。」
「現実的!」
四人四様の個性が本当に面白い。
俺は笑いを堪えきれなかった。
◇
食事を終え、自室へ戻る。
布団に腰を下ろすと、今日一日の出来事が頭を巡る。
「賑やかな人たちだな……。」
出会ったばかりなのに、昔から知り合いだったような気さえする。
元気いっぱいの少女。
優しい少女。
お嬢様風の少女。
そして、小柄なのに圧倒的な存在感を放つ少女。
四人とも金髪ドリル。
そして四人とも、俺の恩人かもしれない。
「……分からない。」
天井を見上げる。
どうしても顔だけが思い出せない。
だが、焦る必要はない。
「きっと見つかる。」
同じ頃。
隣の部屋では四人の少女がくつろいでいた。
「今日は面白い一日だったっす!」
「あなたははしゃぎ過ぎです。」
穏やかな少女が苦笑する。
「でも、あの人、本当に変わっていますわね。」
お嬢様風の少女が紅茶を口に運ぶ。
「命の恩人を探すためだけに、見ず知らずの私たちについて来るなんて。」
「……。」
小柄な少女は窓の外の月を見つめていた。
「まっすぐな男ね。」
その一言に、部屋は静かになる。
そして、四人の中の一人だけが。
誰にも気付かれないよう、小さく胸に手を当てた。
(……約束を、覚えていてくれたんですね。)
その想いは胸の奥へしまわれる。
命の恩人が誰なのか。
その答えは、まだ誰にも明かされない。
こうして、一刀と四人の金髪ドリル美少女による、賑やかで少し不思議な旅が本格的に始まったのだった。
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