俺を助けたのは金髪ドリル!? 俺の命の恩人は誰だ!? 作:パスカルDX
第三話「金髪ドリル四姉妹(?)と初めてのおつかい!」
朝日が山の向こうから顔を覗かせる頃、一刀たちは宿を出発した。
朝露に濡れた街道を歩きながら、一刀は大きく背伸びをする。
「いい天気だなぁ。」
「旅日和っす!」
隣では、元気いっぱいの金髪ドリル少女が腕をぶんぶん振り回しながら歩いている。
朝から元気百倍である。
対照的に、小柄な少女は静かに周囲を見渡しながら歩いていた。
優しい少女は荷物を持ち、お嬢様風の少女は小さな帳面を開いて何やら計算を続けている。
(……本当に四人とも性格が違うんだな。)
見た目は全員金髪ドリルなのに、中身はまるで違う。
それが最近になってようやく分かってきた。
「そういえば。」
一刀が口を開く。
「今日はどこまで行くんですか?」
小柄な少女が振り返る。
「昼頃には小さな村へ着く予定よ。」
「村か。」
「食料の補給も兼ねていますわ。」
帳面を閉じたお嬢様風の少女が答える。
「お金は大切ですもの。」
「まだ言うんだ……。」
昨日から、お金という言葉を何回聞いただろう。
その時だった。
「腹減ったっす!」
元気娘がお腹を押さえてしゃがみ込む。
「いや、朝ご飯食べたばっかりだよね?」
「食べたっす!」
「じゃあ何で?」
「消化したっす!」
「早すぎる!」
穏やかな少女が苦笑しながら、小さな包みを差し出す。
「おにぎりです。」
「やったぁ!」
元気娘は飛び上がるように受け取り、その場でぱくり。
「うまぁぁぁいっす!」
「味わって食べなさい。」
小柄な少女が呆れたように言う。
「ちゃんと味わってるっす!」
「三回しか噛んでいないでしょう。」
「四回っす!」
「誤差だよ!」
一刀が思わず突っ込むと、一行は笑いに包まれた。
こうして騒ぎながら歩いていると、あっという間に村の入口へ到着した。
◇
「へぇ、結構大きな村なんですね。」
一刀は辺りを見回す。
畑では農民たちが働き、子どもたちが元気よく走り回っている。
のどかな光景だった。
小柄な少女は村長らしき老人に軽く挨拶を済ませると、一同へ向き直る。
「ここで一時間自由行動。」
「え?」
「必要な物を買ってきなさい。」
「自由行動っす!」
元気娘が両手を挙げて飛び跳ねる。
「走らない。」
「はーいっす!」
返事だけは元気だった。
案の定、次の瞬間には全力疾走している。
「全然守ってない!」
一刀は慌てて追い掛けた。
「待って!」
「早い者勝ちっす!」
「何が!?」
市場へ飛び込む元気娘。
そこには焼き串や果物、団子など、美味しそうな屋台がずらりと並んでいた。
「全部食べたいっす!」
「財布が泣くよ!」
「……。」
その瞬間。
背後から冷たい視線を感じた。
一刀が恐る恐る振り返ると、お嬢様風の少女がにこりと笑っていた。
「無駄遣いは駄目ですわ。」
「俺じゃない!」
「誰がお金を出すと思っていますの?」
「ごめんなさい!」
反射的に謝ってしまう。
元気娘は首を傾げた。
「まだ何も買ってないっす。」
「買う気満々だったよね?」
「もちろんっす!」
「開き直った!」
その様子を見ていた店主が大笑いする。
「兄ちゃん、苦労してるな!」
「最近ちょっとだけ分かってきました……。」
まだ旅は始まったばかりなのに、すでに胃が痛くなりそうな一刀だった。
市場は朝から大賑わいだった。
野菜を並べる店、焼き魚の香ばしい匂いを漂わせる屋台、色とりどりの布を扱う商人。
一刀は辺りを見回しながら感心した。
「すごいな……。」
現代では見られない光景ばかりだ。
思わずあちこちへ目が行ってしまう。
しかし――。
「こっちっす!」
元気娘が腕を引っ張る。
「ちょっ、引っ張るなって!」
「面白そうなお店発見っす!」
「絶対ろくでもない予感しかしない!」
連れて来られたのは、お面や木刀、子ども向けのおもちゃを売る露店だった。
「見てほしいっす!」
元気娘が手に取ったのは、犬の耳が付いた木のお面だった。
「似合うっすか?」
「……。」
返答に困る。
「似合わない?」
「いや、似合うよ。」
「やったっす!」
満面の笑み。
その笑顔を見ていると、こちらまで楽しくなってくる。
「兄ちゃんも付けるっす!」
「俺も!?」
「これっす!」
渡されたのは、鬼の面だった。
「なんで俺だけ鬼なんだよ!」
「似合うっす!」
「褒められてる気がしない!」
店主が腹を抱えて笑っている。
「仲のいい兄妹みたいだな!」
「違います!」
「違うっす!」
二人同時に否定した。
息だけはぴったりだった。
◇
その頃。
少し離れた青果店では――。
「この野菜、おいくらですの?」
お嬢様風の少女が店主と向かい合っていた。
「五十文だよ。」
「高いですわね。」
「朝採れだからな。」
「四十文でいかが?」
「無理無理。」
「では四十二文。」
「細かい!」
横で見ていた穏やかな少女が苦笑する。
「少しくらいは……。」
「駄目ですわ。」
きっぱりと言い切る。
「二文あれば飴が買えますもの。」
「そこまで考えてるんですか。」
「当然です。」
店主も苦笑いを浮かべた。
「お嬢ちゃん、商売向いてるよ。」
「よく言われますわ。」
結局、四十五文まで値切ることに成功した。
「すごい……。」
穏やかな少女は感心しきりだった。
◇
一方その頃。
「見つけたっす!」
「何を?」
一刀が振り返る。
元気娘が得意げに抱えていたのは、大きな西瓜だった。
「今日のおやつっす!」
「いやいやいや!」
一刀は慌てて止める。
「それ誰が運ぶの?」
「もちろん!」
元気娘は満面の笑みで言った。
「一刀っす!」
「俺ぇ!?」
「男の仕事っす!」
「勝手に決めないで!」
すると背後から冷たい声。
「却下ですわ。」
二人が振り向く。
そこには、お嬢様風の少女が腕を組んで立っていた。
「大き過ぎます。」
「美味しそうっす!」
「運搬費を考えなさい。」
「……。」
元気娘は西瓜とお嬢様風の少女を交互に見る。
「……半分なら?」
「切っても重いですわ。」
「四分の一!」
「論点が違います。」
「八分の一!」
「もう西瓜ではありません。」
一刀は思わず吹き出した。
「ははは!」
「笑ってる場合じゃないっす!」
「いや、ごめん。」
あまりにも真剣に西瓜と交渉しているので笑ってしまう。
その時だった。
「こらー!」
市場に子どもの泣き声が響いた。
「!」
一同が振り向く。
小さな男の子が転んで泣いている。
荷物が辺りに散らばっていた。
「大丈夫!?」
一刀は駆け寄る。
「痛い……。」
「立てる?」
男の子は頷く。
一刀は優しく手を貸し、散らばった荷物を拾い集めた。
「はい。」
「ありがとう!」
男の子は満面の笑みで走っていく。
その様子を少し離れた場所から四人が見ていた。
「優しい人ですね。」
穏やかな少女が微笑む。
「困っている人を放っておけない性格みたいっす。」
元気娘も頷く。
「……。」
小柄な少女は静かに一刀を見つめていた。
「だからこそ。」
小さく呟く。
「面白い。」
その言葉に、お嬢様風の少女も微笑んだ。
「ええ。」
「放っておけない殿方ですわ。」
当の本人は、自分が見られていることなど気付かず、子どもに手を振っていた。
そんな一刀を見ながら、四人はそれぞれ違う表情で小さく笑う。
賑やかな市場の一日は、まだ終わりそうになかった。
市場での買い物を終えた一行は、村の広場で待ち合わせることになっていた。
一刀は両手いっぱいに荷物を抱えて歩いている。
「重い……。」
野菜の籠に干し肉、干し果物、布の包み。
気が付けば荷物持ちはすべて自分になっていた。
「なんで俺だけこんなに……。」
ぼそりと呟いた、その時。
「男だからっす!」
元気娘が胸を張って言い切る。
「理由になってない!」
「似合ってるっす!」
「荷物持ちが?」
「うんっす!」
「全然嬉しくない!」
そのやり取りに、周囲の村人たちまで笑い出す。
「仲がいい旅人さんだねぇ。」
「違いますよ!」
「違うっす!」
またしても声が重なった。
すると、お嬢様風の少女が扇子で口元を隠しながら小さく笑う。
「息だけはぴったりですわね。」
「それは認めるっす!」
「認めるんだ。」
俺は苦笑するしかなかった。
◇
待ち合わせ場所へ戻ると、小柄な少女はすでに木陰で腕を組んで待っていた。
「遅かったわね。」
「ごめんなさい。」
「市場を見るだけでも楽しかったっす!」
元気娘が元気よく報告する。
「……その割には。」
小柄な少女の視線が、一刀の荷物へ向く。
「全部、彼が持っているのね。」
「え?」
元気娘も振り返った。
「本当っす!」
「気付いてなかったの!?」
「自然だったっす!」
「自然じゃないよ!」
穏やかな少女が慌てて荷物を受け取ろうとする。
「すみません、お手伝いします。」
「いえ、大丈夫です。」
「でも……。」
「これくらいなら。」
本当は腕がぷるぷる震えていたが、男としてここで弱音は吐きたくない。
すると小柄な少女が小さく頷いた。
「意地を張るのも悪くない。」
「え?」
「最後まで運びなさい。」
「はい!」
何だか褒められた気がして、少し嬉しかった。
◇
村を出発してしばらく歩く。
街道の脇には小川が流れていた。
「休憩っす!」
元気娘は靴を脱ぐと、そのまま川へ飛び込もうとする。
「待ちなさい。」
小柄な少女が服の襟を掴んだ。
「むぎゅっ!」
宙ぶらりんになる元気娘。
「放すっす~!」
「駄目。」
「暑いっす!」
「着替えがないでしょう。」
「うぅ……。」
しょんぼり肩を落とす。
その姿があまりにも子どもっぽくて、一刀は思わず笑ってしまった。
「ぷっ。」
「笑ったっすね!」
「ご、ごめん。」
「笑った罰っす!」
元気娘は近くの小石を拾うと、川へ向かって投げた。
ぽちゃん。
水しぶきが跳ねる。
「今度は一刀の番っす!」
「俺?」
「どっちが遠くまで飛ばせるか勝負っす!」
「急だな!」
「勝負っす!」
「分かったよ。」
一刀も石を拾い、川へ向かって投げる。
ぴょん。
ぴょん。
ぴょん。
石は水面を跳ねながら、かなり遠くまで飛んでいった。
「おぉー!」
穏やかな少女が目を丸くする。
「すごい……。」
元気娘も驚いていた。
「負けたっす……。」
肩を落とす姿は、まるで負けた子犬のようだった。
「そんなに落ち込まなくても。」
「今度は勝つっす!」
立ち直りが早い。
その前向きさだけは本当に見習いたい。
◇
夕方。
一行は野営の準備を始めていた。
一刀は薪を集め、穏やかな少女は料理を作る。
元気娘は火を起こそうとしていた。
「ふんっ!」
ごぉっ!
勢いよく息を吹きかけた瞬間。
灰が舞い上がり――
「ぶわっ!」
全部、自分の顔にかかった。
「げほっ、げほっ!」
顔が真っ黒になった元気娘を見て、一刀は耐えきれず吹き出した。
「はははは!」
「笑ったっす!」
「だって、その顔!」
「見ないでほしいっす!」
顔を隠そうとするが、真っ黒な手で触るため、さらに黒くなる。
「もう駄目……。」
一刀は腹を抱えて笑っていた。
穏やかな少女まで口元を押さえて笑いを堪えている。
お嬢様風の少女も肩を震わせていた。
そして、小柄な少女でさえ――
「……ふっ。」
ほんの少しだけ笑った。
「笑ったっす!」
元気娘が指を差す。
「今笑ったっす!」
「気のせいよ。」
「絶対笑ったっす!」
「証拠は?」
「……ないっす。」
「なら気のせい。」
「うぅ~!」
また皆が笑う。
笑い声は夕暮れの森へ響いていった。
焚き火を囲みながら、一刀は思う。
(この人たちといると、本当に退屈しないな。)
命の恩人は、まだ分からない。
それでも、この賑やかな旅路は悪くない。
むしろ、もっと続けばいいとさえ思い始めていた。
その頃、一番離れた場所では、お嬢様風の金髪ドリルの少女が焚き火を見つめながら、小さく微笑んでいた。
「……まったく。」
誰にも聞こえない声で呟く。
「本当に、放っておけない殿方ですこと。」
その微笑みの意味を、一刀はまだ知らない。
そして、本当に命を救った"金髪ドリルの恩人"もまた、その秘密を胸の奥へしまったままだった。
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