俺を助けたのは金髪ドリル!? 俺の命の恩人は誰だ!? 作:パスカルDX
第五話「屋敷が広すぎる! そして増える個性的な美少女たち」
屋敷の門をくぐった瞬間、一刀は思わず立ち止まった。
「…………広い。」
庭だけでも小さな村が入りそうな広さだった。
手入れの行き届いた松や庭石。
池には色鮮やかな鯉が泳ぎ、奥には立派な建物がいくつも並んでいる。
「これ、本当に家?」
思わず呟く。
「家っす!」
元気娘が胸を張る。
「いや、城じゃない?」
「家っす!」
「どっちなんだよ。」
思考が追いつかない。
旅の途中では普通の旅人だと思っていた四人が、まさかこんな豪邸に住んでいるとは。
その時だった。
「お帰りなさいませ!」
玄関から数人の侍女が現れ、一斉に頭を下げる。
「ご無事で何よりです。」
「湯浴みの準備も整っております。」
「お食事もすぐご用意いたします。」
息の合った歓迎ぶりに、一刀はおろおろするばかりだった。
「え、えっと……。」
「どうしたっす?」
「俺、場違いじゃない?」
「そんなことないっす!」
元気娘は背中をばんばん叩く。
「ぐえっ!」
「細かいことは気にしないっす!」
「気にするよ!」
その様子に侍女たちまで笑いを堪えていた。
◇
一刀が案内された部屋は、八畳どころではなかった。
「広っ!」
二十人くらい寝られそうな部屋である。
「ここがあなたのお部屋です。」
穏やかな少女が微笑む。
「俺一人で?」
「はい。」
「落ち着かない……。」
豪華な床の間。
立派な寝具。
書物まで置いてある。
現代人の一刀には、まるで高級旅館の一室にしか見えなかった。
「荷物はこちらへ。」
侍女が荷物を運んでくれる。
「ありがとうございます。」
思わず頭を下げると、侍女は驚いた顔をした。
「そのようなお気遣いは……。」
「いや、助けてもらったし。」
「変わった方ですね。」
くすりと笑われる。
「よく言われます。」
「最近は私たちも慣れてきました。」
穏やかな少女も笑っていた。
◇
その頃。
屋敷の別室では三人の少女が待っていた。
一人は黒髪の長髪を揺らしながら腕を組む凛々しい女性。
「戻ったか。」
堂々とした立ち姿。
鋭い眼差し。
武人らしい雰囲気が全身から漂っている。
その隣には、水色の髪をした落ち着いた少女。
「旅は無事だったようですね。」
弓を傍らに置き、静かに微笑んでいた。
そしてもう一人。
猫耳の付いたフードを被った小柄な少女。
腕には大量の書物を抱えている。
「華琳様は?」
「間もなく。」
黒髪の女性が答えた。
「そう。」
猫耳フードの少女は腕を組み直す。
「……ところで。」
「何だ?」
「男を連れて帰ったと聞いたのだけど。」
その場の空気が一瞬止まる。
「本当ですか?」
水色の髪の少女も驚く。
「報告ではそうなっています。」
猫耳フードの少女の眉がぴくりと動く。
「男?」
「ええ。」
「華琳様が?」
「らしい。」
猫耳少女の顔がみるみる険しくなる。
「……冗談でしょう?」
「いや。」
「男ですよ?」
「男だ。」
「汚い男?」
「男だ。」
「臭い男?」
「まだ会っていない。」
「会う必要ありません!」
ばんっ!
机を叩く。
「華琳様に近付く男など百害あって一利なしです!」
ものすごい勢いだった。
黒髪の女性は苦笑する。
「まだ何もしておらんだろう。」
「する前に追い出しましょう!」
「落ち着け。」
「落ち着いています!」
「全然落ち着いていない。」
水色の髪の少女がため息をつく。
「まずは会ってから判断しましょう。」
「嫌です。」
「即答だな。」
「男ですから。」
黒髪の女性は天井を見上げた。
「また始まったか……。」
そんな三人の会話を、一刀はまだ知る由もなかった。
一方その頃、本人は広すぎる部屋で迷子になりかけていた。
「……あれ?」
襖を開ける。
「廊下?」
閉める。
別の襖を開ける。
「また廊下!?」
さらに開ける。
「ここどこ!?」
完全に迷子である。
「部屋の中で迷う人、初めて見たっす!」
いつの間にか後ろにいた元気娘が、お腹を抱えて笑っていた。
「笑うなよ!」
「方向音痴っす!」
「部屋が広すぎるんだ!」
こうして一刀の波乱の日常は、屋敷へ来た初日から盛大に幕を開けるのだった。
「方向音痴っす!」
腹を抱えて笑う元気娘を見て、一刀は肩を落とした。
「笑い事じゃないって……。」
「一刀、才能あるっす!」
「どんな才能だよ。」
「部屋で迷子になる才能っす!」
「いらない!」
元気娘はけらけらと笑いながら廊下を歩き始める。
「こっちっす!」
「本当に合ってる?」
「たぶんっす!」
「『たぶん』って言った!?」
「大丈夫っす!」
昨日も聞いた台詞だった。
一刀は嫌な予感しかしなかったが、他に頼る相手もいない。
「……信じるしかないか。」
二人は廊下を進む。
右へ曲がり、左へ曲がり、中庭を抜け、小さな橋を渡る。
「絶対遠回りしてるよね?」
「してないっす!」
元気よく言い切った直後だった。
「あれ?」
「どうした?」
「ここ、さっき通ったっす。」
「迷ってるじゃないか!」
「えへへっ。」
「笑って誤魔化すな!」
そこへ、落ち着いた声が響く。
「……何をしている。」
二人が振り向くと、廊下の向こうに一人の女性が立っていた。
肩まで届く水色の髪。
涼しげな瞳。
背筋をぴんと伸ばし、腰には弓を携えている。
どこか近寄りがたいほど整った雰囲気をまとった女性だった。
「また迷ったのか。」
元気娘は苦笑いを浮かべる。
「えへへ……。」
「笑って済ませる話ではない。」
静かな口調。
だが怒鳴っているわけではない。
むしろ、その落ち着きが余計に迫力を感じさせる。
一刀は慌てて頭を下げた。
「すみません、お邪魔しています。」
水色の髪の女性は一刀をじっと見つめる。
「……君が。」
「え?」
「旅の途中で保護した客人だな。」
「はい。北郷一刀といいます。」
「そうか。」
短く頷くだけ。
表情はほとんど変わらない。
(真面目な人だな。)
それが第一印象だった。
「私はこの屋敷の者だ。」
それ以上は名乗らない。
やはりこの人たちも、自分の名前を教える気はないらしい。
「一刀。」
元気娘が小声で耳打ちする。
「この人、すっごく真面目なんす。」
「聞こえている。」
「ひゃっ!」
元気娘が飛び上がる。
「足音で分かる。」
「さすがっす……。」
水色の髪の女性は小さくため息をついた。
「君はもう少し落ち着いて行動しろ。」
「努力するっす!」
「毎回そう言っている。」
「今回は本当っす!」
「昨日も聞いた。」
「……。」
元気娘は視線を逸らした。
一刀は思わず吹き出しそうになる。
◇
「客人。」
「はい。」
「案内する。」
「ありがとうございます。」
水色の髪の女性の後ろを歩く。
歩幅は一定。
姿勢も崩れない。
まるで教本から抜け出してきたような美しい歩き方だった。
「すごいな……。」
「何がだ。」
「歩き方です。」
女性は少しだけ振り返る。
「普通だ。」
「いや、全然普通じゃないですよ。」
「訓練の成果だ。」
それだけ言って前を向く。
照れている様子はない。
本当に真面目なのだ。
すると元気娘が後ろから囁いた。
「褒められるの苦手なんす。」
「聞こえている。」
「またっ!?」
「声が大きい。」
「うぅ……。」
一刀は必死に笑いをこらえた。
◇
やがて三人は広間へたどり着く。
襖の向こうから何やら騒がしい声が聞こえてきた。
「だから反対です!」
少女の高い声。
「まだ会ってもいないだろう。」
落ち着いた女性の声。
「会う必要ありません!」
「決めつけるな。」
「男ですよ!?」
一刀は思わず立ち止まる。
「……何だか揉めてます?」
「いつものことだ。」
水色の髪の女性は表情一つ変えずに答えた。
「いつも?」
「男の話になると、ああなる。」
「へぇ……。」
元気娘は苦笑いする。
「今日は特に機嫌が悪いっす。」
「な、何で?」
「一刀が来たからっす。」
「俺!?」
その瞬間――
バンッ!
勢いよく襖が開いた。
猫耳フードを被った小柄な少女が、鋭い目つきで一刀を見据える。
「あなたが……。」
ぴたり、と指を突きつけた。
「華琳様に近付く男ね!」
一刀は目をぱちくりさせる。
「え?」
突然の宣戦布告に、状況がまったく理解できない。
水色の髪の女性は静かに額へ手を当てた。
「……始まったか。」
その一言とともに、屋敷での一刀の新たな騒動が幕を開けようとしていた。
「あなたが華琳様に近付く男ね!」
猫耳フードの少女は、一刀をまるで敵将でも見るかのような鋭い視線で睨みつけていた。
「え、えっと……。」
一刀は思わず周囲を見回す。
(俺、何かした?)
心当たりがまったくない。
旅の途中でも、ここへ来てからも、大人しくしていたはずだ。
なのに初対面でこの敵意。
「答えなさい!」
「は、はい!」
勢いに押され、思わず背筋を伸ばす。
「君が北郷一刀?」
「そうです。」
「ふぅん……。」
猫耳フードの少女は頭の先から足元まで、一刀をじろじろと観察する。
右へ一歩。
左へ一歩。
ぐるりと一周。
「…………。」
「…………。」
何とも言えない沈黙が流れる。
「どう……ですか?」
恐る恐る尋ねると――
「普通ね。」
「普通?」
「すごく普通。」
「二回言った!」
「もっと危険そうな男かと思ったのに。」
「どういう想像だったの!?」
「目つきが悪くて、笑うたびに『ふははは!』とか言う男を想像していたわ。」
「悪役じゃないか!」
思わず全力でツッコミを入れる。
広間の空気が少し和らいだ。
その様子を見ていた黒髪の女性は、腕を組んだまま笑う。
「はっはっは! 確かに悪人には見えんな!」
豪快な笑い声だった。
旅の途中では会わなかった、いかにも武人らしい女性である。
「初めまして。」
一刀は改めて頭を下げる。
「北郷一刀です。」
「うむ!」
黒髪の女性は力強く頷く。
「私はこの屋敷で武を預かる者だ!」
「武を?」
「剣なら誰にも負けん!」
そう言うと、腰に差した剣をぽんと叩く。
「おお……。」
堂々としていて格好いい。
すると元気娘が笑いながら耳打ちしてきた。
「でも朝は弱いっす。」
「おい!」
黒髪の女性がぴくりと反応する。
「余計なことを言うな!」
「本当っす!」
「違う!」
「この前も寝坊したっす!」
「そ、それは……。」
急に言葉に詰まる。
図星らしい。
一刀は思わず吹き出した。
「ふふっ。」
「笑うな!」
「すみません!」
しかし黒髪の女性も、少し照れたように頭をかいている。
(見た目より親しみやすい人なんだな。)
そんな印象を受けた。
◇
一方、猫耳フードの少女はまだ一刀を見つめていた。
「……。」
「どうした?」
「納得いかない。」
「何が?」
「どうして華琳様が、この男を屋敷へ連れて来たのか。」
その一言で空気が引き締まる。
一刀は首を傾げた。
「その華琳様って……。」
「あなたには関係ないわ!」
「えぇっ!?」
「華琳様は華琳様よ!」
「説明になってない!」
「説明する必要もないわ!」
ぴしゃりと言い切る。
一刀は完全に圧倒されてしまった。
その様子を見た水色の髪の女性が、小さくため息をつく。
「少し落ち着け。」
「私は落ち着いています。」
「声が大きい。」
「……。」
猫耳フードの少女は咳払いを一つした。
「……失礼したわ。」
「今ので?」
全然落ち着いていない。
だが、それ以上は言わない方が良さそうだ。
◇
その時。
廊下の向こうから侍女が駆けてきた。
「皆様!」
「どうした。」
黒髪の女性が尋ねる。
「お戻りになりました!」
その一言で、この場の全員の表情が変わった。
元気娘は嬉しそうに笑い、水色の髪の女性は姿勢を正す。
猫耳フードの少女は、さっきまでの険しい顔が嘘のように輝いた。
「華琳様!」
その名を聞いた瞬間、一刀も思わず背筋を伸ばす。
(そんなにすごい人なのか?)
廊下の向こうから、ゆっくりと足音が近づいてくる。
コツ、コツ、コツ――。
静かな足音なのに、不思議な威圧感があった。
やがて襖がゆっくりと開く。
そこに立っていたのは――
旅の途中で出会い、一刀を屋敷へ招いた、小柄な金髪ドリルの少女だった。
「……戻ったわ。」
その一言だけで、部屋の全員が深く頭を下げる。
「お帰りなさいませ!」
一刀だけが、ぽつんと立ち尽くしていた。
「えっ?」
目の前の光景が理解できない。
旅の仲間だと思っていた少女が、この屋敷でこれほど敬われている。
それはつまり――。
「一刀。」
小柄な少女は、くすりと笑った。
「驚いているようね。」
「え、えっと……。」
「そろそろ自己紹介をしましょうか。」
その言葉に、一刀はごくりと息を呑む。
旅の間ずっと隠されていた、四人の正体が明かされようとしていた。
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