俺の皮を剥いで   作:ゆずみかん#HQ

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俺の皮を剥いで④

理瑚との初デートの日。

お互い部活が終わった後、駅に集合することになっている。

俺は帰宅後、「水無駄遣いしないで!」と怒る母を無視してシャワーを浴びた。

そして、いつも以上に時間をかけてワックスで髪の毛を固めた。

天パを無理やり姉貴から借りたアイロンで伸ばしてハードワックスを塗りたくった俺の頭は、心なしか直射日光を浴びてギラギラと不自然に反射している気がした。

 

「あ!兄ちゃん珍しく高校生っぽい!」

 

と無邪気に、余計な一言をつけてほめてくる弟の頭にチョップをお見舞いして、俺は玄関を出た。

 

駅で待っていた理瑚は…おお、意外だ。

いつも結んでいる長髪を下ろし、モノトーンでそろえたブラウスとロングスカートの組み合わせ。

俺好みの、女子と言うより女性って感じの恰好。

俺はすぐにそれをほめた。

 

「おお、大人っぽくて良いコーディネートだね。」

 

すると、彼女は喜ぶどころか眉間に皺を寄せ、俺を睨みつけながら低く言い放った。

 

「あ゛?私が老けてるっていうの?老け顔のくせに私をお前と同等にすんな。」

 

…え…?そういうつもりじゃ。

っていうか、老け顔⁉

こいつ、彼氏に向かって何言ってんだ⁉

 

「おい。俺の顔が老けてるって…?ふざけんじゃねぇぞ。彼氏を大事にする気持ち、ねぇのか?」

 

俺は彼女を見下ろして威圧しようとしたが、彼女には通じなかった。

 

「いや、事実を言ったまででしょ。それだけでキレないでくれる?私、大人の余裕ある彼氏がいいんだけど」

 

…ああー、ふざけんな!

大人の余裕だと!?

…上等だよ。

そうだよな、チャラ男にはない安心感を醸し出すには、こんなささいなことでキレてはいけない。

俺は今は、女の子をエスコートする、紳士だ。

 

「申し訳ございませんでした、理瑚お嬢様。わたくしめがぜひとも、理瑚様を安心させ、楽しいデートの時間を築かせていただきます。ではまず、ファミレスへ向かいましょう。お昼の時間ですね。」

 

俺が精一杯紳士っぽくふるまうと、彼女は「…キモ。行くよ。」と毒づいてスタスタ歩いて行ってしまった。

 

ああもう!ツンデレだな!!俺が大人でいないと悲しむんだな!!

気が強い女子のテンプレ通りの反応(ツン)だ。

つまり、この後に極上の『デレ』という報酬(リターン)が控えているに違いない。

俺の演算は完璧だ。

理瑚の嫌味が、いつの間にか俺の中で使命感に変わっていった。

 

ファミレスに着き、それぞれ注文を済ませる。

俺の大好物のチーズインハンバーグが先にやってきた。

でも理瑚と一緒に食べたいから、ちょっと食べるのは待っておこう。

そう思って理瑚の方を見ると、何やらまた怒った顔をしていた。

 

「…松川。チーズインハンバーグ頼んだの…?」

 

俺が「ああ、大好物だからな。チーズインハンバーグは俺のすべてだ。」と言い、ドヤ顔を決める。

自分の好きなものを恥ずかしがらずに好むのも、大人だ。

だが理瑚はそんな俺を軽蔑したような目で、立て続けに言った。

 

「はあ⁉あんた、そんな老け顔のおっさんムーブかましておいて、ちゃんと好みは若いの⁉私を同じ『老けてる』部類にしてきたけど、全然違うからね⁉分かってんの⁉あーあ、その顔だから、貫禄があって私を大人の余裕で包みこんでくれそうだと思って告白したのに、中身はちゃんと同い年どころか私より若いじゃない!そんな老け顔してんなら、渋く菜の花のからし和えとか食っとけよ!!」

 

は…?

どういうことだ?

俺をまた「老けてる」と侮辱した上、大好物のチーズインハンバーグ頼んだだけでそこまでキレられるの⁉︎

俺は空いた口がふさがらなかった。

 

代わりに「いや、菜の花のからし和えなんかグランドメニューのどこ探してもねぇよバカだなぁ」とあえて冷静にディスることで空気を和ませようとした。

 

が、丁度理瑚が頼んだサラダとスパゲッティが届いたことで全て台無しになった。

理瑚はそれを忌々しそうに見つめ、急にバッグをつかんで立ち上がった。

 

俺が「おい、なんでキレてんだよ」と言うと、また「黙れ老け顔」と一蹴された。

またまた理瑚の理不尽な罵倒が始まる。

 

「私はね、普段頼られることが多い分、お父さんみたいな安心感をくれる人が彼氏に欲しかったの!で、あんたはそのイメージに当てはまった。なのにあんたの中身をみて、幻滅したわ。これじゃただ同級生と付き合ってるだけじゃない!意味ないわこんなの!そのテカテカのツンツンに伸ばした髪だけで、まるで『風呂入ってないサラリーマン』みたいな謎のおっさん感だけ出されて、包容力を含んだ貫禄付けられると思ったら大間違いだから!この老け顔バカ松川!じゃあね、もう別れるから、私のこと追いかけないでよね!」

 

そう言って理瑚はお金もおいていかずに、風のようにファミレスから出ていった。

…何が起きたのか、マジで1ミリも分からん。

とりあえず、老け顔やら風呂入ってなさそうな頭やらと罵られまくった挙句、俺の甘酸っぱい青春が、テーブルの上に残された2人分の伝票(しかも理瑚のスパゲッティは手付かず)と共に消え去ったのは感じた。

俺の指は、無意識に、そして微かに震えながらスマホを起動し、花巻に電話を掛けた。

 

「もしもし花巻。タダでサラダとスパゲッティ食いに来てくれ。俺が奢る。」

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