仮面ライダー 帰れない子どもたち 作:青信号
番外 仕方ない
演習の後は番号順ではなく、充電が遅い順に呼ばれる。
BTG2に割り当てられた枠は、いつも一番長かった。
首の後ろに接続の重みが三つ。座って、数字が戻るのを待つ。それだけの時間だった。
数字はゆっくり上がる。昔より随分とゆっくりになった。誰も言わないが、記録には残る。記録に残るから、枠の長さになる。BTG2は急がなかった。急いでどうにかなるものなら、そもそも待たされていない。
直前の演習で、BTG2の記録は合格線の上に薄く乗っただけだった。標的は落とした。規定距離までは届かせた。だが、それ以上はやらなかった。昔なら余りで潰していた的を、今は切り捨てている。
切り捨てても任務上は足りる。足りるなら、足さない。
褒める数字ではない。落とす理由にもならない。記録に残すには、それで十分だった。
隣の枠が、早々に空いた。第五世代が二つ、規定値まで戻して出ていく。その空いた枠に入らず、小さい輪郭が一つ、BTG2の前で止まった。
FWC4。
第四世代、
今日もそうだった。演習場では、FWC4の値だけ警告ラインを二度叩いた。修正の合図には即座に従う。従うが、戻す前に深く踏み込みすぎる。
首筋の端子まわりには、まだ熱が残っていた。肩も膝も崩れていないのに、出力だけが身体の外へ薄く漏れている。
全力で走ってきた個体が、全力で静止している姿だった。
「BTG2」
低く抑えても、張りのある声だった。音が若い。
「今日の演習。規定出力の下限で流したな」
「ああ」
「記録も見た。三年前から、落ち幅が査定の線を割っている。維持鍛錬の未達だ」
勘定は合っている、とBTG2は思った。落ちた分は落ちた分だ。正しく数えればそうなる。
「型落ち品が」
FWC4の声が一段だけ尖った。
「回収に値しない。次の任務はどうする気だ」
BTG2は目を上げなかった。上げるだけの用がなかった。戻りかけの数字を見たまま、答えた。
「そうだな」
枠の前の空気が、わずかに行き場を失った。
「なるようになる。型落ちにしては、よく保った方だ」
弁護はしなかった。弁護は出力を使う。使って戻る種類の数字でも、なかった。査定に狂いはない。狂いのない査定に、払う言葉はない。
FWC4はまだ立っていた。買われなかった喧嘩の置き場を、探している立ち方だった。
***
BTG2は、繋がれたまま少しだけ首を回した。それでもFWC4は見なかった。見るまでもなく、そこにいるのは分かる。張り詰めた出力は、隣に立たれるだけでうるさい。
「型落ち品を」
誰にともなく、言った。
「わざわざ選んで、磨き直して、任務に載せるんだそうだ」
通路の奥で、整備班が編成表を読み上げている。
聞き覚えのある番号がちらほらあった。現状維持のためだけに残って、演習場では久しく声を聞かなかった番号。戻りの悪さで印の付いた番号。随分と古いのが混ざっている。
部隊の序列も、低いものが多かった。低いだけならまだいい。本来なら外す理由に使われる印が、今回は外さない理由にされている。
下がりきったものを、まとめて別の棚へ移す時の読み上げ方だった。
「値の付かない品を載せる任務に――釣り合う迎えってのは、いくらのもんだろうな」
断定はしない。しても減るだけだ。ただ勘定を一つ、そこに置いた。拾うかどうかは、置いた先の話だ。
FWC4は拾ってすぐに投げ返した。
「勘定の話ではない」
迷いのない速さだった。
「組織は釣り合いで動くのではない。世界のために動く。任務ならば、迎えは決まっている。――やる気がないだけだろう」
査定して、値の付かないものにして捨てる。若く、迷いのない捨て方だった。刺さらない。取っ手のある理屈は、簡単に掴んで捨てられる。
それでいい、とBTG2は思った。
「そうか」
それだけ返して、形だけの息を吐いた。
「……第四世代だから、仕方ないよな」
FWC4の出力が、返答の形に張った。張ったところへ、声が落ちた。
「FWC4」
上からきた。顔のない、記録の声だ。
「充電区画での私語。二度目。記録する。枠に戻れ」
FWC4は口をつぐんだ。
抗弁はなかった。喉まで上がった返答だけが、顎の下で止まった。止まると同時に、表情も戻る。
一拍で向き直り、空いた枠に入る。端子を受ける時も、肩は逃げなかった。首を差し出す角度まで、決められた通りだった。
座る。膝の上に手を置く。指の先を揃える。背筋を立て、まっすぐ前を見る。
叱られた子どもの座り方ではない。修正を受けた部品の、戻り方だった。
記録の声は、BTG2には飛んで来なかった。型落ちの私語は、記録にも値しないらしかった。
FWC4は隣の枠で、その姿勢のまま数字を待っている。
疲労を逃がすためではない。余分な力を抜くためでもない。呼ばれれば一拍で立てる、そのためだけに保存されている姿勢だ。
あれで戻りを待ち、あれで演習を待ち、あれできっと――迎えを待つ。
見たことがある、とBTG2は思った。
昔の演習場で。もっと前の、別の枠で。ああやって背筋をピンと立てていた番号を、いくつか知っている。皆一様に惜しみなく出して、早く尽きた。信じている分だけ、火の回りが速い。第四世代は燃費の前に、まずそこが悪い。
言えば教えたことになる。教えても、あの捨て方をする個体は受け取らないだろう。受け取られない言葉に払う出力は、無駄の側に載る。
口では第四世代だから仕方ない、と言った。世代の話にしておくのが一番簡単だ。だが中身は、世代だけの問題でもなかった。ただ――仕方ない。それだけだった。その一言が、一番安く、一番遠くまで運べる。
BTG2は目を戻した。
自分の数字はまだゆっくり上がっている。急ぐ用事は、どこにもなかった。