ひげを剃る。そして記憶喪失の女子高生を拾う……。―Dark Side Traveler Story― 作:ぴこたんすたー
****
「──ごめん、
「別にいいよ。約束したんでしょ」
そうやって何度も謝る
その照れ隠しな笑顔。
後輩って、女の人だよね。
初詣で一緒に年を越すということは、向こうは吉田さんに気が合って、誘ったんだよね。
吉田さんも、その後輩のことが好きなのかな。
そしたら吉田さんは、彼女を抱くのだろうか──。
『──本当にいいのか』
『うん、いいよ……』
『そうか』
──ふと、蘇る、禍々しい記憶。
暗がりの部屋で下着姿の私に手を添える、知らない男の人の手。
怖いと思いながらも、宿泊のためならとカタカタと怯えながら、その男の人に身を委ねる私。
「──うぅっ……、おええぇぇぇー!」
──大晦日の静かな夜。
吉田さんが出かけ、今は私しかいない広すぎる部屋。
思わず過去の映像がフラッシュバックし、私は猛烈な吐き気に襲われる。
『──気持ちいい』
──痛みに堪えながらも、相手を満足させるために、偽りの感情を作っていた私。
どうせ本当のことを言っても、相手はすぐに気持ち良くなるからなどと、優しい声をかけ、その発言とは裏腹に、欲望のなすがままだろう。
だったら嘘を吐いて、好きなだけ玩具のように抱けばいい。
私は馬鹿だし、何の取り柄もない、家出少女なのだから──。
「ううっ……吉田さん」
トイレで
今まで私と知り合った男の人は、みんな私に触れた。
私もそれが、当たり前と思っていた。
でも吉田さんは、そんなことはしなかった。
吉田さんは私を欲望の対象にせず、一人の女の子として、真面目に接してくれた。
闇に染まっていた私に、生きる希望の光をくれた。
吉田さんがいないと、嫌でも過去のことが過ぎってしまう。
いつから私は、こんなに弱い人間になったのだろう……。
『ピンポーンー♪』
──時刻は21時半。
こんな時間帯に、チャイムを鳴らすのも不自然だ。
宅配便だろうか。
でもあまりにも遅すぎる。
それとも仕事の都合上、時間帯指定なのかな?
ドライバーさんもだけど、それを受け取る吉田さんも色々と大変だね。
私は涙を服の袖で拭いて、気持ちを切り替える。
赤の他人の宅配業者に、こんな表情を見せるわけにはいかない。
今は、しんみりするのはよそう。
玄関まで駆けて、出入り口のドアのロックを外そうとしたが、鍵は開いたままだった。
不用心だな、私は年頃の女の子なんだから、もっと危機感を抱《いだ》かないと……。
「はい、ドアなら開いていますよ」
「……」
「だから、鍵はかかってないですよ」
「……」
「あれ……?」
扉越しに話しても、応答がない。
私はじれったい気分になり、玄関のドアを思い切り開けた。
しかし、玄関先には誰もいなかった。
「こんな時間にイタズラするなんて、親の顔が見てみたいね」
「見たいのなら、あの世でどうぞぉー」
背後から人の気配を感じた瞬間、後頭部に何かの当たる音がした。
『パリイィィィーン!』
「うぐっ!?」
鈍い衝撃と同時に、床に赤に染まった白い破片が飛び、それと同時に水をかぶる。
これは水が入ってた花瓶か……私は誰かに頭を殴られたのか?
「あの鈍感な吉田が、どんな女と暮らしてんだぁーと様子を見に来たら、これだもんなぁ」
「ホント、アイツには、
床にうつ伏せに倒れ、顔だけを上げると、スーツを着崩したショートボブの男の人が笑っていて……。
いつの間にか、鍵が開いてる隙を狙い、部屋に忍び込んでいたようだ。
「あ、あなたは……?」
「ああ、俺? 吉田の同僚の
「まあ、俺、正月過ぎには岐阜に転勤だし、君はここで死んじまう運命だから、関係ないっすよね」
遠藤と名乗った男の人が、私を抱っこする。
そのまま浴室につれていかれ、着ていたジャージを強引に引き裂かれた。
そして体中に鋭い痛みが走り、大きな叫び声を上げようとしたけど、肝心な声が出ない。
そう、警察が来て、事件性になり、この部屋に女子高生を匿っていたことがバレると、遠藤ではなく、真っ先に吉田さんが逮捕されるからだ。
第三者の遠藤は守りに入り、遠方に出張して雲隠れし、吉田さんのせいにすれば、自分は罪に問われない。
中々、ずる賢い男の人だ。
「ああ、ヤりたいくらいにいい女なのに、吉田絡みとなると残念だなあ」
「アイツ、女の交友関係うるさそうだし」
吉田さん、寒いよ。
お願いだから、早く帰ってきてよ……。
「無駄っすよ。今日、吉田は他の女と正月デートだもん。死んでも帰って来ないぜ」
遠藤が私の腕を乱暴に掴んで、耳元で囁く。
あなたに、吉田さんの何が分かるのよ。
「はあ……。こんないい女が家にいるのにさあ、本人は他の女と遊んで。やっぱ彼には俺による、怒りの裁きというものが必要だな。大事なものは失わないと分かんねーもんさ」
「違う。吉田さんは宿のない私に気を遣って!」
「あのなあ、彼のこと美化しすぎじゃねえの。吉田だって、男なんだぜ」
「いいえ、吉田さんは、色々と私を守ってくれて……」
「いやいや、その発想はないだろ。お前ら、脳みそどうかしてんの?」
やっぱり遠藤は私に好き放題の扱いをし、家に戻った吉田さんに、全ての罪をなすりつける気だ。
こんな場所で、恥を晒すくらいならいっそ……。
私は、思いっきりの行動に出た。
「だったら……はぐっ!」
「なっ、この女、舌を噛み切りやがった!?」
唇から大量に吹き出す、生きているという証。
生ぬるい痛みで、感覚さえも麻痺していき、喉に舌が引っかかったせいか、呼吸もままならない。
「おいおい、嘘だろー。どんだけ頭おかしいんだ、この娘《こ》!?」
その問いかけはどうだろうか。
中卒で、高校もろくに通ってない私だが、今まで生きてきて、判断を見誤ったつもりはないんだから⋯⋯。
そのまま、私の意識は薄れていった──。