ひげを剃る。そして記憶喪失の女子高生を拾う……。―Dark Side Traveler Story― 作:ぴこたんすたー
第14話 初めての感想と二人での盗み聞き
****
「──もしそうだとしたら、
頭の中から、
言葉の内容からして、今まで我慢してた欲求が爆発したのかは、理解できなかったけど……。
「おおっ、ドキドキの急展開だね」
「えっ、何で、私、こんなところに?」
「
気が付くと、制服姿の私こと、沙優は回転寿司のレーンが流れるカウンターテーブルに座っていた。
すぐ横には、サングラスをかけた茶系のカジュアルスーツの
そう、私は吉田さんの家の玄関先で、男の人の侵入を許してしまい、自ら命を絶ったはず。
なのに、今は柚葉さんと同じカウンター席にいて、さらに私たちから少し離れた奥のテーブル席には、吉田さんが綺麗な女の人と、食事を摂っているというさまだ。
「しっ、沙優ちゃん黙ってて。
「はあ?」
どうやら相席にいる女の人が、吉田さんが好きな後藤さんという人らしい。
──小言で耳元で語る、柚葉さんの話によると、後藤さんに彼氏がいるのは嘘で、本人は、今の吉田さんと付き合っても、流れ的に良くないだろうという気分で、クリスマスデートでの吉田さんの告白を断ったらしい。
そんな後藤さんの煮えきらない態度に、しびれを切らした吉田さんが、二人だけで二度に渡り、食事に行くことを不思議に思い、こうやって誘ってきた後藤さんを、問い詰めたということらしく……。
「……でも、わ、私。処女だけどいいの?」
「ぶぶぶっっー!?」
吉田さんが処女というキラーワードを耳にして、中ジョッキのビールを、勢いよく吹き出した。
「ちょっと、吉田君、大丈夫!?」
「ゴホゴホ……す、すみません。ちょっと意外だったので」
「そうよね、やっぱり処女って、面倒くさいわよね」
汚れたテーブルを、店員さんから貰った新たなおしぼりで拭きつつ、さっきから吉田さんは上の空だけど。
早くも大人の女の色香に惑わされ、酔いが回ってきたのかな。
「いや、そんだけ色気がある女性が、28にもなって経験がないなんて……」
「何よ、今までそんな機会がなかっただけよ」
「すみませんでした。軽率な発言をして」
紫のブラウスのボタンが外れそうな大きさの胸に、キュッとしまった黒いミニスカートで、おまけに整った顔の美人。
今まで、誰も手を出してない未開の地の相手に、吉田さんは尻込みしていた。
「何よ。一度言ったことは、訂正にならないわよ」
「私、あなたのことが好きで、今日も食事に誘ったのよ。だから……」
後藤さんが恥ずかしそうに俯き、吉田さんから、目を逸らした。
あっ、これ本気で、好きな相手に見せる行動だね。
「よし、やったれ、後藤さん」
「……柚葉さん、楽しそうですね」
「まあ、私は彼の恋を応援することにしたからね。どうしようもないくらいに鈍感なんだけどさ」
記憶の片隅から掘り起こさせる、深夜の公園での二人の情景。
もしや、あの時、柚葉さんが言ってた会社での好きな人って、同僚でもある吉田さんのことかな。
二人して、同じ想い人のことを語っていたんだね。
「だったら今度は、俺の方が後藤さんの告白を待ちます。今後は俺からは、あなたに告白しません」
「えっ、それって?」
いかにも誠実な吉田さんらしい答えだなと思いながら、寿司屋とは場違いなチョコレートパフェを食べる私。
刻んだ板チョコと、濃厚なバニラアイスのコンビが絶妙で、これまた美味しいね。
「後藤さんは何でもかんでも、人に言わせすぎなんですよ。いつまでも、そんなセコいな手には引っかかりません」
「別に悪気があったわけじゃ……」
「自覚がないのなら、
とうとう、我慢の限界か。
吉田さんがこれまで溜め込んでいた、怒りの感情を後藤さんにぶつける。
後藤さんはひねくれて『そんなに怒らないでよ……』と呟くが、吉田さんは怒って当たり前の言葉を放つ。
「後藤さん、俺のことが本気で好きなら、後藤さんも俺に振り回されないと。俺だけが後藤さん相手に、ドキドキされっぱなしも疲れるっす」
「ウフフ。吉田君は本当に私のことが好きなんだね」
「だから入社当初から、あなたのことが好きだって……」
「フフッ。ほんと、真っ直ぐよね」
そう、吉田さんは、これでもかと好きな女の人に想いを寄せ、その恋愛対象が変わることはなかった。
私みたいな女子高生と暮らしても、保護者扱いで恋に芽生えることはなかった。
恋愛にひたむきで、一人の女性を、生涯愛するという一途な考え。
吉田さんは、そんなつもりで遊びではなく、後藤さんとの真剣なお付き合いを望んでるのだろう。
「分かったわ。いつになるかは分からないけど、私が告白するの……待っててくれる?」
「うーん。後藤さんよりも、いい人が現れなかったらの前提ですけどね」
「酷いわ、吉田君、それじゃあ、私が一番じゃないってこと?」
「いや、何でそこで、卑屈になるんですか……」
こうして柚葉さんと耳を澄ましてると、夫婦漫才のようで面白く、中々、お似合いのカップルになるんじゃないかな。
今じゃ駄目な理由が、まだ子供な私には分からないけど、こんな形の恋愛もあっていいと思う。
「握り寿司も放置しすぎると、傷んで食べれなくなるということですよ」
「ふふっ。これからは新鮮なうちに、いただくことにしました」
「ほっ……」
吉田さんが一息をつき、残りのジョッキのビールをあおる。
「さあ、今度は私の番よ。質問してもいいかしら?」
「はい、何なりと」
「彼女がいるわけでもないのに、立て続けに出張を断ってるのはどうしてなの?」
これまた、鋭い質問が来たね。
まあ、吉田さんと一緒に暮らしてる以上、避けては通れない道だけど。
「えっとですね。ややこしい話になりますが、落ち着いて訊いて下さい」
「何か、重い話になりそう?」
「はい。実は俺の家に、未成年の女子高生を住ませているんです」
吉田さんの真面目な答えに、後藤さんもだけど、私の横にいる柚葉さんも息を飲んでいる。
私も不穏な空気を感じ取るが、まだ食事の途中だし、柚葉さんの奢りに対しても失礼だ。
私は手を組んで