ひげを剃る。そして記憶喪失の女子高生を拾う……。―Dark Side Traveler Story―   作:ぴこたんすたー

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第3章 サラリーマンの決意と真実を知るJK(転生三回目)
第14話 初めての感想と二人での盗み聞き


****

 

「──もしそうだとしたら、後藤(ごとう)さんは俺とヤれますか?」

 

 頭の中から、吉田(よしだ)さんらしき声がする。

 言葉の内容からして、今まで我慢してた欲求が爆発したのかは、理解できなかったけど……。

 

「おおっ、ドキドキの急展開だね」

 

「えっ、何で、私、こんなところに?」

 

沙優(さゆ)ちゃん、そんなに頭を抱えなくてもいいじゃん。安心して、今日は私の奢りだから」

 

 気が付くと、制服姿の私こと、沙優は回転寿司のレーンが流れるカウンターテーブルに座っていた。

 すぐ横には、サングラスをかけた茶系のカジュアルスーツの柚葉(ゆずは)さんがいて、私の唇に軽く人さし指を当てる。

 

 そう、私は吉田さんの家の玄関先で、男の人の侵入を許してしまい、自ら命を絶ったはず。

 なのに、今は柚葉さんと同じカウンター席にいて、さらに私たちから少し離れた奥のテーブル席には、吉田さんが綺麗な女の人と、食事を摂っているというさまだ。

 

「しっ、沙優ちゃん黙ってて。()、同僚の吉田さんと、後藤さんがいいとこなんだから」

 

「はあ?」

 

 どうやら相席にいる女の人が、吉田さんが好きな後藤さんという人らしい。

 

 ──小言で耳元で語る、柚葉さんの話によると、後藤さんに彼氏がいるのは嘘で、本人は、今の吉田さんと付き合っても、流れ的に良くないだろうという気分で、クリスマスデートでの吉田さんの告白を断ったらしい。

 

 そんな後藤さんの煮えきらない態度に、しびれを切らした吉田さんが、二人だけで二度に渡り、食事に行くことを不思議に思い、こうやって誘ってきた後藤さんを、問い詰めたということらしく……。

 

「……でも、わ、私。処女だけどいいの?」

 

「ぶぶぶっっー!?」

 

 吉田さんが処女というキラーワードを耳にして、中ジョッキのビールを、勢いよく吹き出した。

 

「ちょっと、吉田君、大丈夫!?」

 

「ゴホゴホ……す、すみません。ちょっと意外だったので」

 

「そうよね、やっぱり処女って、面倒くさいわよね」

 

 汚れたテーブルを、店員さんから貰った新たなおしぼりで拭きつつ、さっきから吉田さんは上の空だけど。

 早くも大人の女の色香に惑わされ、酔いが回ってきたのかな。

 

「いや、そんだけ色気がある女性が、28にもなって経験がないなんて……」

 

「何よ、今までそんな機会がなかっただけよ」

 

「すみませんでした。軽率な発言をして」

 

 紫のブラウスのボタンが外れそうな大きさの胸に、キュッとしまった黒いミニスカートで、おまけに整った顔の美人。

 今まで、誰も手を出してない未開の地の相手に、吉田さんは尻込みしていた。

 

「何よ。一度言ったことは、訂正にならないわよ」

 

「私、あなたのことが好きで、今日も食事に誘ったのよ。だから……」

 

 後藤さんが恥ずかしそうに俯き、吉田さんから、目を逸らした。

 あっ、これ本気で、好きな相手に見せる行動だね。

 

「よし、やったれ、後藤さん」

 

「……柚葉さん、楽しそうですね」

 

「まあ、私は彼の恋を応援することにしたからね。どうしようもないくらいに鈍感なんだけどさ」

 

 記憶の片隅から掘り起こさせる、深夜の公園での二人の情景。 

 もしや、あの時、柚葉さんが言ってた会社での好きな人って、同僚でもある吉田さんのことかな。

 二人して、同じ想い人のことを語っていたんだね。

 

「だったら今度は、俺の方が後藤さんの告白を待ちます。今後は俺からは、あなたに告白しません」

 

「えっ、それって?」

 

 いかにも誠実な吉田さんらしい答えだなと思いながら、寿司屋とは場違いなチョコレートパフェを食べる私。

 刻んだ板チョコと、濃厚なバニラアイスのコンビが絶妙で、これまた美味しいね。

 

「後藤さんは何でもかんでも、人に言わせすぎなんですよ。いつまでも、そんなセコいな手には引っかかりません」

 

「別に悪気があったわけじゃ……」

 

「自覚がないのなら、尚更(なおさら)ですよ!」

 

 とうとう、我慢の限界か。

 吉田さんがこれまで溜め込んでいた、怒りの感情を後藤さんにぶつける。

 後藤さんはひねくれて『そんなに怒らないでよ……』と呟くが、吉田さんは怒って当たり前の言葉を放つ。

 

「後藤さん、俺のことが本気で好きなら、後藤さんも俺に振り回されないと。俺だけが後藤さん相手に、ドキドキされっぱなしも疲れるっす」

 

「ウフフ。吉田君は本当に私のことが好きなんだね」

 

「だから入社当初から、あなたのことが好きだって……」

 

「フフッ。ほんと、真っ直ぐよね」

 

 そう、吉田さんは、これでもかと好きな女の人に想いを寄せ、その恋愛対象が変わることはなかった。

 私みたいな女子高生と暮らしても、保護者扱いで恋に芽生えることはなかった。

 

 恋愛にひたむきで、一人の女性を、生涯愛するという一途な考え。

 吉田さんは、そんなつもりで遊びではなく、後藤さんとの真剣なお付き合いを望んでるのだろう。

 

「分かったわ。いつになるかは分からないけど、私が告白するの……待っててくれる?」

 

「うーん。後藤さんよりも、いい人が現れなかったらの前提ですけどね」

 

「酷いわ、吉田君、それじゃあ、私が一番じゃないってこと?」

 

「いや、何でそこで、卑屈になるんですか……」

 

 こうして柚葉さんと耳を澄ましてると、夫婦漫才のようで面白く、中々、お似合いのカップルになるんじゃないかな。

 今じゃ駄目な理由が、まだ子供な私には分からないけど、こんな形の恋愛もあっていいと思う。

 

「握り寿司も放置しすぎると、傷んで食べれなくなるということですよ」

 

「ふふっ。これからは新鮮なうちに、いただくことにしました」

 

「ほっ……」

 

 吉田さんが一息をつき、残りのジョッキのビールをあおる。

 

「さあ、今度は私の番よ。質問してもいいかしら?」

 

「はい、何なりと」

 

「彼女がいるわけでもないのに、立て続けに出張を断ってるのはどうしてなの?」

 

 これまた、鋭い質問が来たね。

 まあ、吉田さんと一緒に暮らしてる以上、避けては通れない道だけど。

 

「えっとですね。ややこしい話になりますが、落ち着いて訊いて下さい」

 

「何か、重い話になりそう?」

 

「はい。実は俺の家に、未成年の女子高生を住ませているんです」

 

 吉田さんの真面目な答えに、後藤さんもだけど、私の横にいる柚葉さんも息を飲んでいる。

 私も不穏な空気を感じ取るが、まだ食事の途中だし、柚葉さんの奢りに対しても失礼だ。

 

 私は手を組んで()()()目を瞑り、次に出てくる発言を黙って待ち続けた……。

 

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