ひげを剃る。そして記憶喪失の女子高生を拾う……。―Dark Side Traveler Story― 作:ぴこたんすたー
「──ださん、
「おっ、おう。その声は
「よ、良かったあー!」
目を開けると、制服の上に青いジャンパーを着た沙優が、間近に顔を寄せて、心配そうに俺の顔色を覗いていた。
こうして近くで見ると、抜群に可愛いが、俺の興味はそこではない。
何でこんな道路脇で、小綺麗な茶色のブランケットをかけられて、寝ていたのか。
まずは、今のこの状況を整理しないとな。
「そうだよ。こんな寒い路上に寝っ転がって。
「ないと言ったら嘘になるな。
「うん。気分が重たいし、後始末が面倒だから、お年玉プレゼントのブランケットと一緒に任せたって」
「どういう屁理屈だよ……」
そうか、俺は三島からのバッグの攻撃で、気絶したんだった。
肝心の本人はもういないが、意識のない人間って、意外と重たいからな。
か弱い女の力じゃ運ぶどころか、持ち上げることすらも難しいだろう。
「
「うん。年が明けるし、用が済んだから帰るって」
「あの女め……。今日、出会ったばかりの女子高生に対して、扱いが雑だし、何様だよ」
俺の鋭い意見に驚きながらも、するすると言葉に出す彼女に、嘘も偽りもないようだ。
「はあ……。俺に関わってくる女って、みんな自由人で気ままだよな……」
「そうかな、みんな吉田さんの優しさに惹かれてるのかもよ」
「そういうお前は、能天気だけどな」
「何それ、親父ギャグ?」
「こんだけ冷えるんだ。冷めたギャグも言いたくなるぜ」
年末の寒波に身を震わせ、
この高度なシャレに対応する沙優も、中々の逸材だよな。
「そんなことより吉田さん、一つお願い事があるんだけど……」
「何だ、言ってみろ?」
「あの……。私、バイトがしたいです」
沙優が俺の前に躍り出て、真剣な顔で思っていたことを口にする。
不意に愛の告白なら、どうしようと身構えたが、やっぱ女の子らしく、自由に使えるお金が必要らしい。
いつまでも俺から、小遣いを出すわけにはいかねえし……。
「何だよ、その程度のことで腰を低くして。俺的には家事くらいで満足する女なんて、出世欲がねえとは思っていたけどな」
「でも私がバイト始めたら、今までの家事が
「心配すんな。二人で家事を分担すればいい」
「だけど、吉田さんに負担が……」
「それでも一人でやるよりかはマシだろ。あまり一人暮らしの俺をナメるなよ」
高校生とはいえ、一人の人間でもあるんだ。
ここは沙優が遠慮せず、女の子として過ごしてもいい場所。
できることなら、沙優の意見を尊重したい。
「それじゃあ……」
「ああ、お前の好きにしろ」
「ありがとうございます!」
俺は嬉し顔の沙優が持ってきた黒いジャンパーを羽織りながら、夜空を見上げる。
生きるのに、カネがいることが当たり前だと思いつつ、星一つ見えない雲空の固まりに、俺の心も密かに曇っていた──。
****
吉田さんと家で過ごした三が日が過ぎ、正月明けの1月4日の朝。
私はコンビニ『ファミソンマート』の制服を着て、ガチガチに緊張したまま、休憩所に居た。
「今日から、この職場でアルバイトをすることになった、
「ウチは
店長が一人で仕事を切り盛りする中、長テーブルと椅子だけのシンプルな部屋に居たのは、私を含めて二人だけだった。
金髪で肩で切り揃えたミディアムボブに、いかにもギャルらしい褐色の肌。
おまけに耳には金のピアス、爪にはデコったマニキュア。
どこをとっても、典型的なギャルだ。
後、ヨロって何だろう。
ちょっと変わった雰囲気の先輩さんだね……。
「沙優チャソ、ウチと同じ17歳なんだって? まさかのタメじゃん。イケイケじゃーん」
沙優チャソ?
イケイケ?
何か、良く分からない感じの人だよね。
言葉だけじゃなく、性格も底抜けに明るいし……。
「じゃあ、ウチが商品の品出し教えるから、ゴーってついてきてな」
「あっ、はいっ!」
「だからタメなんだから、敬語はいいって」
「う、うん……」
私はタイムカードを打って、あさみと店内へ出た。
****
「いい? こうやって期限が近い食品を前に出して、新しいのを奥に入れる。ここまではオケ?」
「オケ?」
「もー、沙優チャソってば、ノリ悪いんだから」
廃棄するサンドイッチやおにぎりを、手際よくレジカゴに入れながら、私と、他愛もない世間話を交えるあさみ。
「しかし中卒とかすんごいパネエわ。マジ神やわ。でも何で、高校行かんやったの?」
「えっと、勉強が苦手で……」
「ふーん。真面目そうに見えて、案外不良やな」
この人は不思議な接し方をしてくる。
私に干渉しながらも、常に一歩引いた質問をし、深くまでは追求してこない。
「じゃあさ、家はどの辺なん?」
「ええっと、ここから駅側に歩いて5分かな」
「えっ、マジ? ウチの家と、あまり距離ないやん。方向は逆方向やけど」
「偶然とはいえ、マジウケるっしょ」
「へえー、ウケるねえ……」
あさみに教わり、フードコンテナに入ったおにぎりを並べながら、笑えない冗談についていく私。
「じゃあさ、沙優チャソの家に、今日寄ってもいい?」
「うーん、家の人にも色々と事情があるし、急に押しかけても困るかな」
吉田さんの了承も得ないといけないし、勝手に家に女の子を上げるのもどうかと思う。
「沙優チャソの家族なら、問題ないっしょ」
「いや、家族じゃなくて、血の繋がらないお兄さんなんだけど……」
「はあ? 男と一緒に住んでんのかー!?」
「こ、声が大きいって」
どうしよう、あさみの性格上、一度決めたことは曲げない主義だろう。
お客さんの白い視線を背中で浴びながら、私は一人で策を練っていた……。