ひげを剃る。そして記憶喪失の女子高生を拾う……。―Dark Side Traveler Story―   作:ぴこたんすたー

18 / 23
第18話 寝起きの社会人と女子高生のバイト

「──ださん、吉田(よしだ)さん!」

 

「おっ、おう。その声は沙優(さゆ)か?」

 

「よ、良かったあー!」

 

 目を開けると、制服の上に青いジャンパーを着た沙優が、間近に顔を寄せて、心配そうに俺の顔色を覗いていた。

 こうして近くで見ると、抜群に可愛いが、俺の興味はそこではない。

 何でこんな道路脇で、小綺麗な茶色のブランケットをかけられて、寝ていたのか。

 まずは、今のこの状況を整理しないとな。

 

「そうだよ。こんな寒い路上に寝っ転がって。柚葉(ゆずは)さんと何かあったの?」

 

「ないと言ったら嘘になるな。三島(みしま)が連絡してくれたのか?」

 

「うん。気分が重たいし、後始末が面倒だから、お年玉プレゼントのブランケットと一緒に任せたって」

 

「どういう屁理屈だよ……」

 

 そうか、俺は三島からのバッグの攻撃で、気絶したんだった。      

 肝心の本人はもういないが、意識のない人間って、意外と重たいからな。

 か弱い女の力じゃ運ぶどころか、持ち上げることすらも難しいだろう。

 

後藤(ごとう)さんとの話はいいのか?」

 

「うん。年が明けるし、用が済んだから帰るって」

 

「あの女め……。今日、出会ったばかりの女子高生に対して、扱いが雑だし、何様だよ」

 

 俺の鋭い意見に驚きながらも、するすると言葉に出す彼女に、嘘も偽りもないようだ。

 

「はあ……。俺に関わってくる女って、みんな自由人で気ままだよな……」

 

「そうかな、みんな吉田さんの優しさに惹かれてるのかもよ」

 

「そういうお前は、能天気だけどな」

 

「何それ、親父ギャグ?」

 

「こんだけ冷えるんだ。冷めたギャグも言いたくなるぜ」

 

 年末の寒波に身を震わせ、()()()お嬢さん(いわ)く、()()()な女子高生でツッコんでみた。

 この高度なシャレに対応する沙優も、中々の逸材だよな。

 

「そんなことより吉田さん、一つお願い事があるんだけど……」

 

「何だ、言ってみろ?」

 

「あの……。私、バイトがしたいです」

 

 沙優が俺の前に躍り出て、真剣な顔で思っていたことを口にする。

 不意に愛の告白なら、どうしようと身構えたが、やっぱ女の子らしく、自由に使えるお金が必要らしい。

 いつまでも俺から、小遣いを出すわけにはいかねえし……。

 

「何だよ、その程度のことで腰を低くして。俺的には家事くらいで満足する女なんて、出世欲がねえとは思っていたけどな」

 

「でも私がバイト始めたら、今までの家事が(おろそ)かになるかも……」

 

「心配すんな。二人で家事を分担すればいい」

 

「だけど、吉田さんに負担が……」

 

「それでも一人でやるよりかはマシだろ。あまり一人暮らしの俺をナメるなよ」

 

 高校生とはいえ、一人の人間でもあるんだ。

 ここは沙優が遠慮せず、女の子として過ごしてもいい場所。

 できることなら、沙優の意見を尊重したい。

 

「それじゃあ……」

 

「ああ、お前の好きにしろ」

 

「ありがとうございます!」

 

 俺は嬉し顔の沙優が持ってきた黒いジャンパーを羽織りながら、夜空を見上げる。

 生きるのに、カネがいることが当たり前だと思いつつ、星一つ見えない雲空の固まりに、俺の心も密かに曇っていた──。

 

****

 

 吉田さんと家で過ごした三が日が過ぎ、正月明けの1月4日の朝。

 私はコンビニ『ファミソンマート』の制服を着て、ガチガチに緊張したまま、休憩所に居た。

 

「今日から、この職場でアルバイトをすることになった、荻原沙優(おぎわらさゆ)です。よろしくお願いします!」

 

「ウチは結城(ゆうき)あさみだよ。あさみって呼んでね、ヨロー」

 

 店長が一人で仕事を切り盛りする中、長テーブルと椅子だけのシンプルな部屋に居たのは、私を含めて二人だけだった。

 金髪で肩で切り揃えたミディアムボブに、いかにもギャルらしい褐色の肌。

 

 おまけに耳には金のピアス、爪にはデコったマニキュア。

 どこをとっても、典型的なギャルだ。 

 

 後、ヨロって何だろう。

 ちょっと変わった雰囲気の先輩さんだね……。

 

「沙優チャソ、ウチと同じ17歳なんだって? まさかのタメじゃん。イケイケじゃーん」

 

 沙優チャソ?

 イケイケ?

 何か、良く分からない感じの人だよね。

 言葉だけじゃなく、性格も底抜けに明るいし……。

 

「じゃあ、ウチが商品の品出し教えるから、ゴーってついてきてな」

 

「あっ、はいっ!」

 

「だからタメなんだから、敬語はいいって」

 

「う、うん……」

 

 私はタイムカードを打って、あさみと店内へ出た。

 

****

 

「いい? こうやって期限が近い食品を前に出して、新しいのを奥に入れる。ここまではオケ?」

 

「オケ?」

 

「もー、沙優チャソってば、ノリ悪いんだから」

 

 廃棄するサンドイッチやおにぎりを、手際よくレジカゴに入れながら、私と、他愛もない世間話を交えるあさみ。 

 

「しかし中卒とかすんごいパネエわ。マジ神やわ。でも何で、高校行かんやったの?」

 

「えっと、勉強が苦手で……」

 

「ふーん。真面目そうに見えて、案外不良やな」

 

 この人は不思議な接し方をしてくる。

 私に干渉しながらも、常に一歩引いた質問をし、深くまでは追求してこない。

 

「じゃあさ、家はどの辺なん?」

 

「ええっと、ここから駅側に歩いて5分かな」

 

「えっ、マジ? ウチの家と、あまり距離ないやん。方向は逆方向やけど」

 

「偶然とはいえ、マジウケるっしょ」

 

「へえー、ウケるねえ……」

 

 あさみに教わり、フードコンテナに入ったおにぎりを並べながら、笑えない冗談についていく私。

 

「じゃあさ、沙優チャソの家に、今日寄ってもいい?」

 

「うーん、家の人にも色々と事情があるし、急に押しかけても困るかな」

 

 吉田さんの了承も得ないといけないし、勝手に家に女の子を上げるのもどうかと思う。

 

「沙優チャソの家族なら、問題ないっしょ」

 

「いや、家族じゃなくて、血の繋がらないお兄さんなんだけど……」

 

「はあ? 男と一緒に住んでんのかー!?」

 

「こ、声が大きいって」

 

 どうしよう、あさみの性格上、一度決めたことは曲げない主義だろう。

 お客さんの白い視線を背中で浴びながら、私は一人で策を練っていた……。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。