ひげを剃る。そして記憶喪失の女子高生を拾う……。―Dark Side Traveler Story―   作:ぴこたんすたー

19 / 23
第19話 紳士的と野蛮的

「その男、ゼッテー、沙優(さゆ)チャソを襲おうとか思ってんよ。今まで何もされてない?」

 

「うん、いたって紳士的で」

 

 二人して、お昼の休憩中でも、彼の話で持ち切りだった。  

 今日は初出勤だから、二人で食事した方がいいだろうと、店長からの計らいでもある。

 

「いや、男ってもんは、どんだけ紳士でもエロいことしか頭にないんよ。そんな男でも急にムラっときて、あぶねー目に合うかも知れんやん」

 

「あははっ。だからそんな人じゃないって」

 

 私はお弁当の玉子焼きを箸で軽くつつきながら、あさみに義理のお兄さんな設定である、吉田(よしだ)さんの印象を伝える。

 でも一つ屋根の下で若い男女が、何もしないのはあさみ的には、ちょっとおかしい反応らしくて。

 別に世の中、色んな男の人いるし、珍しいパターンでもないよね。

 

「よし、決めた。その男とやらを、ウチ自らが見定めするわ」

 

「ちょっと、あさみ!」

 

「いんや、ウチは止まらんで。暴走機関車レッツゴーゴーやで」

 

 あさみがメロンパンをかじりながら、私にゴーサインをする。

 押しが強いというか、もうこうなったら、後には引けない。

 

「分かった。吉田さんに連絡するね」

 

「何、社会人なん?」

 

「大手IT企業の社員だけど、今は正月休みだよ」

 

 私はLINAで、吉田さんにメッセージを飛ばす。

 今から、バイト先の女子高生を家に連れてくると──。

 

****

 

『ピーンポーンー♪』

 

 居間で黒いノートパソコンにて、顧客データの整理をしてた俺は作業を中断し、玄関ドアを開ける。

 

「はいはい。開いてるよー!」

 

「失礼しますたー」

 

 俺の目の前に現れた、ガン黒の女の子。

 後ろでスマホをいじる、沙優のような色白な肌はさておき、今どきのギャルにもこんな褐色なタイプがいるんだな。

 

「おう、君が沙優が話してたバイト仲間か。俺は吉田だ」

 

「あさみって言いますた……」

 

「何だよ、人の顔をじっと見て?」

 

 沙優が無言で俺たちのやり取りを眺める中、あさみが俺の姿を、足先までじっくりと観察する。

 その吊り目がちの鋭い瞳には、人を疑うような感情が含まれていた。

 

「アハハ。どこから見ても、オッサンオーラが漂ってんなー。マジウケるw」

 

「うん。そだよ」

 

 沙優がものの数秒で返答し、あさみがケラケラと小馬鹿にしたように笑う。

 

 初めて沙優以外の女子高生と交わした会話が、オッサン呼ばれ。  

 男は誰しも、歳を重ねればオッサンになるのに、そこまで言われると、何か無性に腹が立ってしょうがない。

 

「でも、そこはかとなく、イケメンでもあるな」

 

「……さっきから失礼なやつだな」

 

 あさみに厳しい審査を通され、取ってつけたようにイケメン認定されても、ちっとも嬉しくない。

 

『ピロピロリーンー♪』

 

「おわっ、びっくりした!?」

 

 三人して、部屋に上がったと同時に突然響く、沙優の持っていたスマホの着信音。 

 その音が静かだった部屋で鳴り響き、俺に絡んでいたあさみが驚く。

 

「ごめん、吉田さん、柚葉(ゆずは)さんから電話が」

 

「ああ。悪いが、ブランケット、ちゃんと洗って返すって伝えてくれ」

 

「分かった。少し席を外すね」

 

「ああ」

 

「いってらー」

 

 沙優が玄関の方から外に出て、楽しそうに話し始める。

 詳しい内容は聞こえないが、一人ぼっちだった彼女にも色んな友達が出来つつある。

 そう思うと親心からか、何か安心してくるよな。

 

「ふぃー。吉田っち。良い人みたいで良かったわ。ウチてっきり、沙優チャソにエロいエプロン着せて、こき使ってるんかと思ったわ」

 

「お前の中の俺のイメージ最悪な」

 

「アハハッ。吉田っちの妹でもないのによくやるわ。なん、この家では、プチ演劇ごっこでも流行ってんの?」

 

 あさみがテーブルに座り、沙優が朝に作り置きした、タッパーに入った生野菜を見つめる。

 どうしても空腹を満たす前に、訊いてみたいことがあるらしい。

 

「お、お前、いつから知ってて!?」

 

「吉田っちの態度が下手すぎなんよ。嘘ついてる時、目が泳いでるべ」

 

「マジかよ……」

 

 そういえば、沙優や後藤さんとかも、同じ指摘をしていたな。

 俺ってば、顔に出やすいタイプなのか。

 あさみの肌の色にツッコむどころじゃないだろ。

 

「お姉さんには、ショージキに話していいんだぞ。吉田水泳選手?」

 

「いや、沙優が秘密にしてることを、俺が話すのは得策じゃない。詳しい話は、本人に直接聞けよな」

 

「なるー。スイマーなのに、そういう時は目が泳がんのやな」

 

 別に意識してない時は、泳いでないと知り、正直、心がホッとする。

 

「でも関わる人は選べても、出会う人は選べないから、そういう面で沙優チャソはラッキーだったと思う」

 

「お前、そういう真面目な話の時は、ギャル語じゃないんだな。まあ、そっちの方が親しみやすくていいぞ」

 

「ああーん?」

 

 余裕()()()()()あさみの表情が、急に不機嫌になる。

 

「何なん、このオッサン、沙優チャソに続いて、ウチまで恋の罠に陥れるつもり? とんだ軽薄ナンパ野郎なんや!」

 

「いやな、自然体で話せるんだったら、別に無理に言葉を作らなくてもな」

 

 真面目な答えを教えてるのに、当の本人には通じないときたもんだ。

 何だ、そうまでして無理して、ギャル語を使う理由でもあるのか?

 

「キィー! ガチでトサカきた。ちょっと外まで(ツラ)かしな」

 

「嫌だぜ、こんな寒い夜中に出たら、風邪引くのがオチだぜ」

 

「ちっ、こう言えばああ言う。クソ生意気なオッサンやわー!」

 

「おう、俺で良かったら、いつでも相手になるぞ」

 

「誤解するようなこと言うな!」

 

 あさみが近くにあったクッションを、俺の顔面にぶち当てる。

 テレワークで疲れていたのだろうか。

 その瞬間、俺の中の我慢の糸がプツンと切れた。

 

「ごめん。思った以上に話が弾んで……あれ?」

 

「聞いてよ、沙優チャソ。このオッサン、ウチに調子乗って、セクハラ発言してくるんよ。どうかしてな!」

 

「なっ、俺は正論を言ってるまでだろー!」

 

 紗優が三島(みしま)との通話を終えて戻った中、俺とあさみはクッションや枕を投げ合いながら、すっかりヒートアップしていた。

 

「あははっ。二人とも()()すっかり仲良しだね」

 

「これのどこがだよ!」

 

「断じて違うし!」

 

 沙優がニコニコと俺たちを見つめ、刻み野菜の入ったタッパーを運んでキッチンで調理をする中、俺とあさみの天下分け目の戦いは続いた……。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。