ひげを剃る。そして記憶喪失の女子高生を拾う……。―Dark Side Traveler Story―   作:ぴこたんすたー

2 / 23
第2話 再会とオムライス

「うーん……」

 

 私、沙優(さゆ)は、暗がりの床で目を覚ます。

 疲れていて無意識だったのか、体には黄色いタオルケットを被っていた。

 床は暖房が効いて暖かく、外での冬のような寒さはない。

 

 そうか、私、男の人の部屋に泊まったんだった。

 目の前に脱ぎ散らかしたブレザーと、黒の靴下を見ながら、ふと思い出してみる。

 今回の人は、私がヤッてもいいよと誘ったのにも関わらず、性的な接触は一切してこなかった。

 まあ、いつもの彼らしいけど……。

 

 体を触ってみても、何も違和感もないし、寝てる間に襲われた感覚もない。

 少し離れたベッドで寝ている顔を見るからに、私の知ってる彼そのものだった。

 

「……吉田(よしだ)さん、また逢えて嬉しいな」

 

「ご、後藤(ごとう)さん、好きです」

 

「へっ?」

 

「何で、俺をフッたりするんですかあ……」

 

「……ビックリしたあ。ただの寝言か」

 

 ははーん、さては、その女にフラレた勢いで深酒か。

 

 後藤さんねえ?

 何となく、心に引っかかる名前だけど、思い出せないってことは、大した女じゃないんだろうね。

 この私がいるのに、夢の中で堂々と浮気とは!

 

「俺は、その大きな胸に挟まれてみたかった……だからあ……うごっ!?」

 

「はいはい。安らかに眠れ」

 

「くかぁーzzz……」

 

 私は吉田さんの頭に腕を回して、黙らせる。

 少々、荒療治だが、大きな胸が好きな星人には、これが一番最適だ。

 

「……ああ、女が作った、オムライスが食べたい」

 

「あははっ、どんな夢見てんだかw」

 

 よし、今日はもう起きて、久々に朝ご飯でも作ってあげよう。

 吉田さんの胃袋をゲットするためにね。

 

****

 

『コトコト……』

 

 何かの音がする。

 定期的なのにリズミカルな音。

 俺は、この音に親しみを抱いている。

 アイツは料理下手だったのにも関わらずにだ……。

 

「あううっー!」

 

 アルコールの飲み過ぎか、単なる寝起きだったのか、声が枯れて、うまく言葉を発せない。

 俺はベッドから体を起こし、とりあえず、枕元にある水のペットボトルに口をつけた。

 

「あっ、吉田さん。おはよう」

 

「あああ? 何で家に女子高生がいんだ!?」

 

「あれ? 昨日のこと忘れたの?」

 

「さては座敷童子かあああー!?」

 

「もう、きちんと日本語を話してよねw」

 

 酔っていたせいか、断片的にしか思い出せないが、家の近くで座っていた子だよな。

 それがどうして、俺の家の厨房に立ってるんだ?

 

 いや、そんなことはいいか。

 今日は会社で大事なプレゼンがあるんだ。  

 遅刻は許されない。

 

「って、朝っていうか……昼過ぎじゃないか!?」

 

「うん、そだよ。吉田さん、酔いつぶれてぐっすり寝てたね。大丈夫、電話があった()()()()さんには、事情はちゃんと説明したから」

 

「おいおい、勘弁してくれよ……」

 

 アイツは口が堅い同僚だけど、明日からの冷やかしが、まぶたの裏に浮かぶ。

 これまた、橋本に借りを作ってしまったな。

 

 それよりも気になるのが、フローリングに無雑作に置かれたブレザーと、靴下なんだが、嫌な予感しかしねえ……。

 

「なあ、俺、お前のこと、押し倒したりしてないよな?」

 

「さあ? どうだか?」

 

 俺は至って真顔でフライ返しを持った、肌色のニットカーディガンに、緑のチェックのプリーツスカートを着た女の子に尋ねてみる。

 

「まあ、初めは、熱い口づけからだったよね」

 

 俺の瞳を真っ直ぐに捉えて、無表情に答える女の子。

 俺の額から、一筋の冷や汗が流れる。

 

「それで髪をなでて、抱き締めてきて」

 

 おい、抱き締めるとかヤバいだろ。

 

「挙げ句の果てには、気持ちよく仰け反って、ジャンプしてさ」

 

 しかも最後までヤッたのか。

 どうすんだよ、俺の人生、お先真っ暗じゃないか。

 俺の額から、冷や汗がダラダラ垂れる。

 

「なーんてね。私の家で飼ってた猫の話だよw」

 

 アハハと俺を指さして笑う女に、腹が立ってくる。 

 

「というか、お前、人様のキッチンで何してんだ。冷蔵庫の食材はタダじゃないんだぞ」

 

「え? タダで泊めてくれるって言ったじゃん」

 

「俺の家は会員制のホテルじゃないぞ」

 

 起き上がった俺は冷蔵庫を開けて、女の子に厳重注意する。

 年下のガキになめられっぱなしも、(しゃく)に触るからな。

 

「まあまあ。お昼になったことだし、お腹空いたよね。お好みのメッセージも添えてみたし」

 

 上手く誤魔化した女の子がキッチンから、黄色い楕円形の料理を持ってくる。

 

「……オムライスか」

 

 玉子の表面には『LOVE』とケチャップで書かれていて、この女は何を企んでるんだ。

 美人局(つつもたせ)だったとしても、そんな大金、家にはないぞ。

 

「吉田さん、酔いつぶれて、熱い想いのオムライスが毎日食べたいって言ってたよね」

 

「ああん!? 寝ながら女子高生にプロポーズかよ!?」

 

「アハハ。まあ食べてみてよ」

 

 俺は木製のテーブルの席に座り、言われるがままにオムライスの端をスプーンですくって、口に運ぶ。

 

「おおん?」

 

 これは美味い。

 玉子がトロトロで、ご飯の味付けもしっかりしてて、家庭料理じゃ、中々できない作りだ。

 でも本音は、後藤さんが作ってくれたのが食べたかったな、グスン……。

 

「どう、沙優スペシャル特製オムライス美味しい?」

 

 テーブルの向かい側で微笑ましく、俺の食べる様子を伺う女の子。

 俺と同じく腰を下ろし、テーブルに両ひじをつけて、頬に手を添えている。

 カーディガンはやや大きめで、手の甲が隠れるくらいに……。

 

「ああ、まあ……不味くもなく、まあまあかな」

 

「どっちだし。ケラケラw」

 

「まあ、それなりに美味しいよ。お前、料理得意なんだな」

 

「アハハ。ウケる。料理上手でそれなりねぇ〜」

 

 すると、何を感じ取ったのか。

 『にっ』と女の子が、口元を弧の字に曲げる。

 

「本当は後藤さんの手作りの方がいいんでしょ」

 

「ゴブ!? ゴホゴホッ!?」

 

 俺は口に含んでいたケチャップの米粒を喉に詰まらす。

 

「おっ……お前、どうして、後藤さんのこと知ってんだよ!?」

 

「えっ? だって寝言で『俺は五年間もあなたが好きだ』って」

 

「ぐわっ、俺のプライバシーが侵害されるうぅぅー……」

 

「あと、その大きな胸に挟んで、どうのこうのとか。クスクス」

 

 ああ、最低だ。

 こんな女の子に、俺の性癖を暴露されるなんて。

 もう恥ずかし過ぎて、死にたい。

 

「どうせフラれたんでしょ〜。むっつりさん」

 

「むっつりは大きなお世話だろ……」

 

 女の子がトントンと軽い足音を立てながら、俺のすぐ隣に腰かける。

 

「ねえ、吉田さん」

 

 そして女の子座りとなって、俺の方に体勢を崩し、胸元のリボンを外して、豊かな谷間を強調させる。

 

「私で良かったら、慰めてあげようか」

 

 長い髪を耳にすくい、色っぽいうなじを見せる姿にも関わらず、俺は理性を保ったままだった……。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。