ひげを剃る。そして記憶喪失の女子高生を拾う……。―Dark Side Traveler Story―   作:ぴこたんすたー

22 / 23
第22話 一人ぼっちの戦いと計画的犯行

「──ただいま」

 

 大切な人がいる、私の住処(すみか)

 吉田(よしだ)さんの家が、当たり前の存在になりそうな、今日この頃。

 だけど肝心の相手はいなく、私の一方的な挨拶で会話は途切れる。

 

「……そうか、今日、吉田さん、帰りが遅くなるって言ってたね」

 

 LINAでのメッセージのやり取りで思い出す。

 今日は、会社の飲み会で遅くなると──。

 

****

 

『──ピンポーンー♪』

 

 目覚まし時計の針は、夕方の7時半を指していた。    

 何だろう、一般の家庭なら夕食の時間なのに、こんな時間に宅配便かな?

 

『ピンポーンー、ピンポーンー♪』

 

 もう聞き分けの悪い子供じゃあるまいし、そんなに呼び鈴を鳴らさなくてもいいじゃん。

 それなりに音も大きいから、近所迷惑にもなるし……。

 

「はいはい、今出ます!」

 

 私は急ぎ足で玄関に向かい、とりあえず呼び鈴を鳴らすのを止めさせる。

 そして、インターホン越しに応答する。

 

「あのちょっとお伺いしますが、どちら様でしょうか?」

 

「あっ、これはすみませんね。シロネコ宅急便です。お預かりしていたお荷物を持ってきました」

 

 相手は宅配業者でビンゴだった。

 吉田さん、私が居なかったら、どうするつもりだったんだろう……。

 

「ご家族の方でしょうか。よろしければ、お荷物のお受け取りと、サインをお願い致します」

 

「はい。ちょっと待って下さいね」

 

 私は玄関のドアノブを握って、ふと思う。

 何か変な既視感というか、以前にも似たような経験があったからだ。

 

 私はこの体験を、過去のタイムリープで知っていて、今回で二度目になるの?

 そう感じた瞬間、ひらめきのようにイメージが思い起こされる。

 

 そうだ、私は確か、玄関先で通り魔にあって……。

 恐る恐る扉の覗き穴で見てみると、その相手が作業服を着た、矢口(やぐち)さんだったことに……。

 

 ここで逃げてもドアを破られて、私は襲われるだろう。

 諦めの悪い矢口さんのことだ。

 ドアが駄目なら、窓を投石で割って、侵入するパターンもあり得る。

 

 じゃあどう動いても、ゲームオーバーなのは避けられないのか。

 まあ人生は一度きりだし、何度もやり直せるゲームじゃないけれど。

 私の想いは、絶望の縁に立たされていた……。

 

「あの……居るんでしたら、扉を開けてもらえませんか? 荷物で両手が塞がってますし、ご都合上、こちらから開けるわけにもいかないですので」

 

「はい」

 

 ここで悩んだって、時間の無駄だ。

 私はドアを開けることに決めた。

 

「やあ、待ってたんだよ。みゆきちゃん」

 

 予想通り、グレーの作業服を着た矢口さんが玄関に入ってくる。

 

「今回は、この男のとこでお泊りなの? みゆきちゃんって清楚なフリして、実はビッチなんだね」

 

「正直、がっかりかな。まあ、悪い子にはお仕置きともいうし。僕の犠牲者、第一号になってくれない?」

 

 はっ、アレが来るよ!

 

 向こうが動いたと同時に私は体を捻って、鋭く光る切っ先の一撃を避けて、矢口さんの持っていた武器を手で打ち払う。

 

「なっ、みゆきちゃん!?」

 

 驚いて、言葉に詰まる矢口さん。

 私はカランと乾いた音を立てたナイフを拾って、奥に繋がる居間の方へ投げ捨てた。

 念のため、吉田さんから、簡単な護身術を学んでいて良かった。

 

「ちょっと何するんだよ。前のアウトドア好きな彼女が買ってくれたものなのに!」

 

「そのナイフで、私を刺そうとしましたよね?」

 

「そうじゃなかったらどうすんの?」

 

 矢口さんがポケットから、もう一本のナイフを出し、刃の先を指で出し入れする。

 

「えっ、最初から、おもちゃだったんですか?」

 

「そうそう。5歳になる弟のお気に入りのおもちゃでさ、たまに店で点検しないと、こんな風に刃が出なくなって壊れるんだよ」

 

 あれ、私の想像してたのと違う、未来になってしまった。

 本来なら、奥深くまで刃物が刺さるはずなんだけど、偽物とか聞いてないよ。

 まだ、小さい弟が居るというのも初耳だし……。

 

「弟がなけなしのお小遣いで買ったものなんだ。悪いけどさ、僕に返してもらえないかな」

 

「はい、ちょっと待って下さいね」

 

 私は急いでナイフの回収により、足早に去る。

 何にせよ、矢口さんの弟に罪はないからだ。

 

「ねえ、みゆきちゃん、漏れそうなんだけど、トイレはどこかな?」

 

「はい、お手洗いなら、そこの通路の左に」

 

 玄関先で漏らしてしまったら、肩身が狭い思いもするし、ここは吉田さんの家でもあるけど⋯⋯。

 別にトイレの貸し借りくらい良いよね。

 

「ありがとう。お邪魔するね」

 

「はい、ごゆっくりどうぞ……うぐっ!?」

 

 背中から、熱い感触が伝わってくる。

 すぐ後ろに矢口さんが吐息を弾ませながら、その熱いものを押し当てる。

 

 私はナイフで背中を刺されたのか。

 おもちゃのナイフとか言いながら、本物も忍ばせていたなんて、最悪のパターンだ。

 

「駄目だよ、みゆきちゃん。男に背後を取られちゃあ」

 

「い、痛い……こっ、この人殺し」

 

「失礼な。まだ死んでないのに殺人鬼呼ばりかい? どうせなら、いいタイミングで有名人にしてほしいくらいだよ」

 

 そんな有名人なんて、単なるエゴだ。

 人を傷付けておいて、その発言自体も最低だ。

 

「じゃあ、このまま永久に地獄に落ちようか」

 

「裏切り者に制裁をぉぉぉー!」

 

 矢口さんがナイフを引き抜き、傷を受けた私の背中に再び、切っ先でちょんちょんと触れ、ちょっとずつ力を入れてくる。

 この際、痛みなんて、気にしてられない。

 次に熱くて深い攻撃が来たとき、反撃しないと逆にやられる!

 

「でやあ!」

 

「なっ!?」

 

 私は矢口さんと向かい合わせになり、思いっきり彼を突き飛ばす。

 

『ゴツン!!!!』

 

「ぐわっ!?」

 

 そのまま矢口さんは近くにあった、下駄箱の角に後頭部をぶつけ、鈍い音を立てた。

 幸い、ナイフで刺された傷口は、二回とも急所を外れ、浅かったようだ。

 単なる脅しだったのか、ハッタリだったのか……今はどうでもいい。

 

「どうよ。私だってやるときはやるんだから。これに懲りたら、人の命を平気に(もてあ)ばないでよね」

 

「……」

 

「ちょっと何の冗談のつもり? もう勝敗はついたのよ」

 

「……」

 

「ま、まさか……」

 

 声を荒げても、反応がない矢口さん。

 私はナイフの柄を取って、正気に戻り、急に大人しくなった彼の首筋を触ってみた。 

 でも脈拍が全然感じられず、段々と冷たくなっていってるのが分かる…。

 

「……し、死んでる」

 

 不慮の事故とはいえ、私は矢口さんを殺めてしまったのだ。

 

『ガチャガチャ』

 

 そんな動揺を誘うかのように、玄関の鍵が鳴り響く。

 何で、こんな時に限って、吉田さんもタイミング良く帰ってくるんだろう!?

 

沙優(さゆ)、今帰ったぞ。今日は旨い焼肉弁当と、後藤さんも一緒だぞ」

 

「こんばんは。以前、頼まれたメイク道具持ってきたわよ。沙優ちゃん素材がいいから、今から楽しみでしょうがないわ」

 

 神様のズルいイタズラか、しかも後藤さんも一緒ときたものだ。

 

「おーい、沙優。もう寝てるのか?」

 

 吉田さんが、鍵を開けて入ってくる。

 こうなれば、やることは一つしかない。

 私は落ちていたナイフを拾い、覚悟を決めた。

 

「くっ!」

 

 壁に飛び散る赤い証。

 私は首からの流血にまみれながら、呆然とした吉田さんに笑いかけた。

 

「さ、さっー!」

 

 大声で私を抱き寄せ、何かを喋ってくる吉田さん。

 でも意識がもうろうとして、彼の声すらも耳に届かない。

 

 吉田さん、こんな馬鹿な女でごめんなさい──。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。