ひげを剃る。そして記憶喪失の女子高生を拾う……。―Dark Side Traveler Story― 作:ぴこたんすたー
第24話 自己犠牲と変わっていくもの
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「──もう大丈夫だ。アイツ……
──薄暗い、月明かりの下。
照明も付けずに暖房の風にあたり、体育座りをしてた私に
「あれ、私どうして、こんな場所にいるんだろ……」
幾度もの涙が頬を伝い、拭っても流れてくる。
しかもちょっと前まで、何をしていたのも分からない。
ただ、吉田さんの心配してくれる顔を見てみると、また何か
「
「それって、さっき言ってた、矢口さんのこと?」
「ああ、もう一人の俺が書き記した伝言が役に立ったんだ」
「何か、よく分からないけど、矢口さんから助けてくれたんだね」
乱れた仕事着を着たままの吉田さんが心配そうに、私の前にしゃがんで、目線を合わせる。
「あれ、私……」
そんな吉田さんが、涙を拭いてる私の手の甲をそっと手に取り、ギュッと握る。
思い出した。
矢口さんって、過去で出会って、色々とあった危険人物だ。
「吉田さん、軽蔑するかもだけど、私、あの人とヤッた覚えがあるの」
「そうしないと、自分の存在価値が消えてしまいそうで、来る日も来る日も拒まずに……」
吉田さんが『もういいんだ……』と、小声で発して、次に来る言葉を止めようとする。
だけど勢いを増した水かさは、溢れる一方で……。
「それなのにね、矢口さんの言動を思い出すと、またされそうと思ったら、ヤるどころか、ここから一歩も動けなくて……」
吉田さんが差し出した大きな片手を握り締めながら、ずっと怯えていた胸の内を伝えていく。
「吉田さん……私、自分の置かれた状況が、上手く飲み込めなくて、何もかもおかしくなっちゃてさ……もう、まいっちゃうよね……」
吉田さんが気が抜けたような表情をして、素早く手を伸ばし、私を抱き締めた。
「いや、それでいいんだよ。それが、普通の女子高生の考えなんだっ……!!」
私は涙を堪えながら、吉田さんの温もりを服ごしに感じる。
「だけど私、色んな男の人と渡り歩いて、ここまで来たんだよ」
「いや、もう過去のことはいいんだ。お前の考えは間違ってない。生きるためには仕方がなかったんだろ。だからここに居るんだ」
ポタポタと自分の涙が床に落ち、私の中の何かが外れる。
「ううっ……」
「ウアアアアアアアー!」
我慢の限界となり、
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──俺はあのノートを読んで、矢口という人物をよく理解し、家に来た矢口と、多少言い合いになりながらも平和的な話し合いをした。
……にも関わらず、何でこんな湿っぽい現状になってるんだよ……!!
ようやく沙優の中にある、自己犠牲の気持ちが変わりつつあると思ってたのに……。
「沙優、もう心配は入らないさ。お前は矢口の存在を拒んだ。それだけでも一歩成長じゃないか」
暗闇のリビングに冷たい涙が、今日おろしたてのズボンに落ちる。
俺にできることは、こうやって彼女の気分を落ち着かせることだけだ。
「だけど矢口さんが、私のことを言われたらと思うと……」
「店長にも警察にもバレて、下手すれば、吉田さんも逮捕されてっ……」
次々と溢れてくる涙を拭いながら、自分よりも世間体を気にかける紗優。
「今はそんなこと考える必要はないだろ。それらはお前を泊めてる俺の責任でもあるんだから」
「そんなこと言われても!」
「だから、少しは理解しろよっ!!」
俺は怒鳴って、混乱してる沙優の目を覚まさせる。
「周りのことも見るのもいいが、お前はまだ高校生のガキなんだぞ。お前は他人より、自分のことを優先的に考えてくれよ……」
沙優が無言となり、俺から目を離さずに、発言を受け止める。
「相手がお前を傷つけてくる、これは防ぎようがない事実だ。だけどお前が自分のことを大切にしないと……」
「お前にとっては味方の俺たちが、お前のこと、これからも守ってやれないだろうが……!!」
沙優を守りたいのに、その相手は自分自身を何とも思っていない。
そんなん被害者でもなんでもねえよ。
「……どうして」
「どうして吉田さんは、そんなに私に優しくしてくれるの……?」
『……あのですね、吉田センパイ、そんな誰にでも構わず、お人好しな性格だと、結果的には大切な女すらも守れませんよ』
三島との会話を思い出し、困り果てた顔を手で塞ぐ。
沙優を家に置くメリット。
俺の心に、ぽっかりと空いた寂しさを埋めること。
それと引き換えに、逃げ場のない沙優を助けてあげると、持ちつ持たれずの関係だった。
でも、関係あるなしにして、目の前で沙優が傷付いてるところを見るのを、男として、人間として放っておけない。
『……あんたこそ何考えてんだよ。社会的にもリスク大なのに、女子高生匿って何も手を出さないで!!』
正直、矢口を説得した俺自身も、誰の言葉が正しいのかさえも分からない。
「吉田さん、どうしたの……?」
「俺にも、お前に優しくする意図が分かんないんだよ……」
俺にとって沙優との同居生活が、善悪のどっちなのか、その考えさえも危うくなっている心情だ。
すると今度は沙優が、俺に優しくハグをし返してくる。
「吉田さん、私のために色々とごめんね」
「……別に、お前が謝ることじゃないだろ」
「……ありがとう」
沙優も変わったなと、つくづく思う。
『吉田さんのお陰で変われたんだよ……』と、呟く声を耳にしながら……。
「お前は普通の女子高生のように、普通に登下校して、友達作って、色んなことを教わって、大人になってほしいんだ」
「うん」
沙優が俺の頭を撫でてきて、思わず本音が出てしまう。
「俺の勝手かも知れないが、そんな当たり前のことができない、お前の状況を見るのが……とても
「……うん」
沙優に身を委ねながら、次々と隠していた、想いの言葉が漏れ出てくる。
「でも俺はどうあれ、沙優自身が自分のことを、大事に過ごせるようになってほしいと、本心から思ってるんだ」
「……うん、よく分かった」
沙優がいつものように、にへらと笑いかける。
「これからも私、頑張るね」
もし俺の帰宅が遅れて、矢口から暴漢を受けていたら、もっと大変なことになっていたかも知れない。
でもそこから、沙優を助け出すことはできて、ノートに直筆で綴られた、危害を加える現況でもあった矢口も追っ払った。
だけど俺はいつまでも、沙優の近くにはいられない。
この家出問題は、まだ解決したわけじゃないんだ。
俺は、そのことを忘れてはいけない。
そう思いながらも、テーブルに置かれた、沙優お手製のクッキーを一つ摘んだ……。