ひげを剃る。そして記憶喪失の女子高生を拾う……。―Dark Side Traveler Story― 作:ぴこたんすたー
「お前、可愛いからって間違っても、そういうことすんなって。男なら誰しもガキを抱いて、優越感を生むとは限らないんだぜ」
「ふーん。カワイイねえ」
私、
相手は
今は私に好意を抱いてなくても、当たって砕けろとは、まさにこのこと。
だったら自慢のコレも、武器にしないと損だ。
「私ね、胸も結構あるほうだと思うんだけどなー。これに挟まれたいと思わない?」
「うぐ……」
カーディガンを脱いで、白いブラウスになった私の姿に、顔を赤らめて黙り込む吉田さん。
ついでに少し動いて揺らしてみると、無言で反応して。
やっぱり豊かな胸は、女のステータスだよね。
「まあ女子高生にしてはな。だが
「うん。Iカップだよね。私はFカップだけど」
「えっ、そうなのか。何で後藤さんのサイズを!?」
あっ、いけない。
この話は、少し後出しの流れだった。
後藤さんのサイズと聞いて、とっさに吉田さんが口にしたサイズが頭に浮かんで……。
焼肉の匂いがプンプンした吉田さんは、とても満足げだったなあ。
「アハハ。寝言でちょっとね」
「ガチで笑えねーな。俺、今日から口にガムテープ貼って寝るわ」
「色々と怖いから、それはやめてよね」
寝言でIカップの夢って何なんだろうと、含み笑いをする。
でも吉田さんには、何とか誤魔化せたみたい。
「でもさ、目の前にある触れるFカップがあるんだよ。触って損はないと思うけどな」
「お前、そんなにヤりたい盛りなのか? ヤるなら、好きな男との方が……」
「ううん。好きな人はいるよ。でもね……」
「なら、
誰よりも大好きな吉田さんは、悲しいことに頑固でむっつりで、私の体に触れようともしない。
初めて会った時も、そうだった。
だったら、こちらから攻めるしかない。
「……じゃあ、私から訊くけどさあ」
私は吉田さんの意見もお構い無しに、その太い首に、自身の細い腕を絡める。
「ヤッてもいいと女の子が言ってるのに、何もしない方がおかしいでしょ? タダで目の前の女が抱けるんだよ?」
「はあ……お前、何を?」
吐息が顔にかかる、目と鼻の先で会話しても無反応か。
一体、以前の私はどうやって、この男を好きにさせたのだろう。
私は吉田さんから体を離し、テーブルの傍にあるベッドに座りこむ。
「じゃあさ、少女趣味でも胸フェチでもないとか?」
「だから、そうじゃなくてだな……」
吉田さんが困ったような表情で答えを出してくるので、何だかこっちが虚しくなってくる。
「今までこんなことをしないと、タダで泊めてくれる人なんていなかった。吉田さんが初めてだったんだよ。だからこの世界では、思いっきり私のことを
「ん? どういうことだ。今までということは、お前、いつから家出をして?」
「あっ……」
吉田さんから逆に言いくるめられ、行き場のない感情を胸に秘めたまま、次の言葉が出てこない。
「どこから来たんだよ?」
「おい、黙ってても分からねえだろ……」
「……分かんないの」
スカートを握りしめたまま、震える声で本心をポロリと口に出す。
「どこかの廃ビルの屋上にいて、気が付いた時には、この世界に戻ってきて……」
「はっ、何のことだ?」
吉田さんが頭を悩ませながらも、私のことを気遣っていることは分かる。
この人は本当に優しい人だ。
こんな私が相手でも、下心なく接して、心から心配してくれる。
「そのビルにいたのは、いつ頃なんだ?」
「記憶にしたら、毎日、雨が降ってた季節かな」
「もしや梅雨か。とすると、今から半年くらい前か……」
吉田さんが梅雨と言った瞬間、脳裏に親や友達の面影が飛び込んでくる。
「お前が消息したことを、親御さんたちは心配してるぞ。だから……」
「平気だよ。私なんかいなくなっても、みんな普通に暮らしてるから」
「大丈夫だから」
私は気を張った態度のまま、真剣なまなざしの吉田さんから目を離さなかった。
夕刊を配達するバイクの音が、やけに大きく聞こえても……。
****
──俺はこの女の子を、ただの家出少女と思い、甘く見ていたかも知らない。
蓋を開けてみたら、相手は、とんでもないペテン師だったからだ。
「ふざけんなよ。大丈夫だったら、そんな顔するかよ……第一、俺の家に泊まれなくなったらどうするつもりだ」
「駄目なら別の男の人の家に泊まるしかないなあ……お金がないから、いつものように上手いようにやって……」
「それって見ず知らずの男と……というわけだよな」
「えっと……」
女の子が胸を握り締め、凄く嫌そうな顔をする。
「口にも出せないことをして住んで、何が楽しいんだ」
俺は女の子の座るベッドを掴み、少しでも痛みが和らぐような知恵を絞る。
コイツは今まで最悪なやり方で、何も知らない男たちと共に過ごしてきたのだろう。
そいつらがどう感じたか知らないが、この子が性欲のはけ口されてたことは間違いないんだ。
ふざけてんのか。
コイツは、どこにでもいる普通の女子高生だぞ。
普通に学校に通って、青春を謳歌して、
普通に生徒に恋をして、
普通に日常を過ごし、馬鹿みたいに毎日楽しく笑うのが、ガキの役目だろうが。
「……俺はお前が色っぽい体をしてても、何の興味も沸かねえ」
「お前の何かなんて、マジでくだらねえ」
俺は自分の思ってる、正直なことを述べる。
女の子は小さい肩を震わせながら、意を決して俺に笑いかけた。
「……だよね。家出した私のワガママだし、じゃあ、出てい……」
「だからこれからも、俺んちにいていい」
「……えっ?」
女の子がきょとんとして、俺の方を見てくる。
女の子の話を聞いてるうちに、すでに俺の気持ちは決まっていたのだった……。