ひげを剃る。そして記憶喪失の女子高生を拾う……。―Dark Side Traveler Story― 作:ぴこたんすたー
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──いくら歳を重ねても、高校の頃に大好きだった
仕事の休憩時間でもデスクに座ったままで、神田先輩のことが頭から離れなかった。
横隣のデスクにいた、同僚の
「そーか。あんな芸能人みたいなべっぴんさんと、
「その言い方は、ちょっと酷くないか?」
悪ふざけな笑みをし、眼鏡を指で支えながら、
例え、何でも話せる、仲の良い同僚だとしてもだ。
「喧嘩でもして、別れたのかい?」
「いや、彼女が卒業してから、交際どころか逢うことも連絡もなくなり、俺が高校三年を前にして、自然消滅さ」
「あー、高校生なら、よくあるパターンだなぁ」
「ムッ……」
俺は不機嫌さを装いつつも、マグカップに淹れた熱いコーヒーをすする。
高校を卒業しても、彼女と交際していく
結局は本気の恋であるという想いは、彼女には届かなかったが……。
「……こんな苦々しい過去の失恋話とか訊いても、面白味もないだろ。そんなことより、橋本、この前の商談を纏めた書類、こっちに送れるか?」
「えっ?
橋本が山のように積んでいた書類の束を、俺に手渡してくる。
「吉田も思いっきり話題を逸してさあ。この期に及んで、逃げの一手かい?」
「まあな。お前の恋する
「おいおい、僕は乙女じゃなくて、嫁専属の執事だよ」
「あー、はいはい。
俺は橋本を適当にあしらい、再度、コーヒーを口に含んで、一息つく。
さあ、気合を入れ直し、いざ
デスクトップPCのモニターから、ひょこっと顔を出した
俺を通じて、幽霊か、守護霊か、何かを見透かしてるような気が……。
そのまま俺から目を背け、顔を引っ込める三島。
向こうから、こちらに話しかける様子もなく、何が気に入らないんだ。
女って生き物は、よく分かんねえな。
さらに奥のデスクでは、
俺を虫けら扱いするような感情のない表情は、俺と目が合った途端、パソコンのディスプレイにより、影へと隠れた。
ガーン、後藤さんとの信頼度ダウンか。
ショックが大きすぎた俺は、椅子の背もたれに体重を預ける。
朝礼の際に、目立ちすぎたばかりに……。
──そう、ここに就職して、後藤さんと出会って、俺は二度目の本気の恋をした。
就職して5年が経ち、お付き合いはしていないが、神田先輩より、長期間の恋でもある。
一度だけの本気の恋というものに、見えない蓋をするように、俺は後藤さんだけに夢中だった。
もし、今の人生に対して、一度きりの本気の恋だとしたら、俺はその本気のエネルギーとやらを、すでに使い切ってしまったのだろうか。
高校生の時や、後藤さんとの恋愛によって───。
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──これで、何度目だろう。
食事中に、また動きが止まってる。
「ねえ、吉田さん」
「おう?」
私は箸を止めて、ボーとしてる吉田さんに声をかける。
「豚キムチ、いい感じにできたんだけど、もしかしてキムチ苦手だった?」
「いや、普通に美味いよ。これ……」
吉田さんが、何を考えてるのか分からないけど、食事中にまで、こんなに考え事をするとは、何か言えない悩みでもあるのだろうか……。
「ねえねえ、吉田さん」
「んあ?」
「今日、会社で何かあったの?」
「ええっ? お前、エスパーか!?」
吉田さんが動揺して、ご飯茶碗をテーブルの上に滑らす。
エスパーだったら、もっと別なことを考えてるよ。
「……というか、帰って来てから、ずっと心あらずな表情なんだもん。私で良かったら相談に乗るよ?」
私が軽く胸を叩くと、吉田さんが『それもそうだな』と、秘めていた想いを喋り出す。
「ああ……。実は今日、ウチの会社から、他の支社から異動してきた社員が来てな」
「その人って、女の人?」
「まあな。しかもその人が、高校時代に交際してた元カノだったんだよ」
「……そ、それって」
「神田先輩って、いう人なんだが……」
顔を真っ赤にして言い出す、吉田さんのことだ。
恋愛には不器用な吉田さんだけど、その表情からして、本当にその先輩が好きだったことがよく分かるね。
あれ、一方通行の片想いじゃなく、
元カノって?
「吉田さん、彼女さんがいた時期があったんだね」
「うるせえな。俺だって、好きな女の一人くらい……」
吉田さんが、照れながら答えてくる。
子供の無邪気な反応のような、その姿が何だか可愛く見えた。
「えっ、えっと……。押入れに可愛らしいアイロンとかあったし、やっぱそうなんだなと思っても、吉田さんから、元カノのこととか聞いたこともないし」
そうだよ。
吉田さんは真面目で誠実だし、過去に恋人がいない方が不自然なんだよ。
でも心の奥から吉田さんには、そんな交際経験など一切ないと思い込んでいた……。
私も嫌な性格してるよね。
「そうなんだ。偶然って、怖いね」
「だな。同じ会社に入社していたところもな」
怖いどころか、運命の赤い糸だよと言いかけて、口を閉ざす。
今の吉田さんにとっては、邪魔な感情だったから。
「……ねえ、その神田さんって、可愛いの?」
「うーん、可愛いとかより、どっちかと言えば、美人系だろうな」
私の率直な質問に、吉田さんが腕を組んで、真剣に言葉を並べてくる。
「ふ、ふーん。ご、後藤さんもだけど、神田さんといい……、年上の美人さんがタイプなんだね」
私は心の奥底にある、好きな気持ちを押し殺しながら、思ってもないことを呟いた。
これ以上、吉田さんの恋のライバルが増えることに困りつつも……。
「……うっせえな。一言多いぞ」
「アハハッ。柄にもなく、照れちゃてさ」
「ガキが、なに悟ってんだよ」
「だね。ごめん」
私はそのテーブルからスッと立ち上がると、吉田さんが不思議そうに私の顔色を伺う。
「ちょっと、お手洗い行ってくる」
「おう。大丈夫か?」
「うん、ありがと……。あのね、吉田さん。私もね……」
私も
……と、言う度胸もないので、心の声で叫んでみる……。
「何だ?」
「いや、やっぱ何でもないよ」
「……自分から話しかけておいて、変なやつだな」
私はトイレに駆け込んで、目の前の視界を遮る。
相談に乗ると言って、逆に茶化されても反論もできないんだ。
こんな私が、嫌になってくるよ……。
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──何でこんなにも、心を乱されるのか。
昔の恋人に、後藤さん。
どんな人と巡り合いがあっても、私の好きという感情は変わらないままなのに……。
だけどどうして、こんなにも彼を独占したいと思うんだろう。
私はトイレに籠もりながらも、自分自身の考えてることが一番の謎だった……。