ひげを剃る。そして記憶喪失の女子高生を拾う……。―Dark Side Traveler Story―   作:ぴこたんすたー

35 / 40
第5章 大人な対応の吉田さんと未だに子供な私(最後の転生)
第35話 自分自身の戦いとみんなでの戦い


「──目が覚めたようね」

 

後藤(ごとう)さん……私はどうなって?」

 

「えっとね、今回も沙優(さゆ)ちゃんは命を亡くしかけたの。原因は心因性のショック。あなたは吉田(よしだ)君の無残な姿に直面して……」

 

 どうやら私は意識を失い、ベッドに寝ていたようだ。

 見慣れた少し黄ばんだベージュ色の天井。

 元は白く塗装されていた壁だったけど、数年前まで喫煙できていたらしく、こうやってヤニが混じった、この色に変わってしまったらしい。

 

 ……と、店長が言ってたことを思い出す。

 どうしてそんなつまらないことが先に思い出され、肝心の転生前による、直前の記憶がさっぱりなのか。

 理由はどうあれ、またみんなに迷惑をかけてしまった。

 自分の性格上、やりきれない気持ちで一杯だ。

 

「……いえ、ここから先のことは伏せた方がいいわね。お互いのためにもなるから……」

 

「そうですね……」

 

 ベッドの横にあるパイプ椅子に座っていた後藤さんが、私の額に置いていた白いタオルを、新しいものに取り替えてくれる。

 少し発熱があったようで、寝ずに看病してたのよと、後藤さんはあくびを噛み殺した。

 

「ここはコンビニの休憩室ですよね。何でこんな場所に? あさみは?」

 

「あさみちゃんと、矢口(やぐち)君は、今レジで仕事の最中よ。沙優ちゃんが勤務中に倒れたって、あさみちゃんから連絡があったの」

 

 そういえば兄さんと、コンビニの外に出た後の記憶があやふやだ。

 梅雨のような、どす黒い雲から冷たい雨が降っていて、傘もささず、目の前の何かで、気が動転して……。

 

 そこから先のことが、映画のフィルムをバッサリとハサミで切り取られたような感じで……。

 

 ああ、結局は、人の助けがないと生きていけないんだ。

 ほんと情けないな、私って⋯⋯。

 

橋本(はしもと)君の自家用車(マイカー)で、三島(みしま)さんも、神田(かんだ)さんも、駐車場裏に来てるわよ。本来は吉田君が駆けつけるはずだったのだけど、突然の来客で、今日の仕事を休んでね」

 

 四人で吉田さんの業務を分担したら、定時には帰れる予定だったけど、そこで私が倒れたと電話があって、急いで駆けつけた仲間たち。

 

 吉田さんは、沢山(たくさん)の人に支えられて生きていて、私と違って、一人ぼっちじゃないんだね。

 

 そう思うと目頭が熱くなったので、シャツの袖で軽く拭う。

 今は泣いてる場合じゃない。

 どんな理由でも、新たに転生したことは確かなんだ。

 焦らず恐れずに、置かれた状況を整理しないと……。

 

「来客って、もしかして兄さん?」

 

「えっ、確かに、そのようなことを言ってたわね。何か関係でもあるの?」

 

 あるも何も、私の兄さんがコンビニに来てから、順調だった歯車がズレてしまったんだ。  

 なら初めから、ここで事故を未然に防げるように仕向ければ、多少は不穏な流れを変えられるかも……。

 

「後藤さん、お気遣いありがとうございます。私、行かないと」

 

「駄目よ。足腰が震えてるし、何か事故があってからでは遅いのよ」

 

「でもこれが最期のタイムリープかも知れないんです。どうせなら、足掻いて足掻きたいじゃないですか」

 

 私はベッドからフラフラと起き上がり、壁にもたれながら体重を預ける。

 この脱力感は、今までの転生ではなかった状態だ。

 多分、前回の命の散り方に問題があったのだろう。

 

「沙優ちゃん、いつから、そのことに気付いて?」

 

「タイムリープに時間制限があるのには、薄々分かっていました。その本当の意味に気付いたのは、今回の転生の流れからです」

 

 私は何度も転生することにより、吉田さん名義のスマホの日時を通じて、前の記憶から、時間が進んだ先に転生することに気付いていた。

 

 今回は一月下旬の28日、時間は午前11時、兄さんが来る前のコンビニ内。

 となると、程なくして兄さんが、車に乗せた吉田さんと、ここに来るはずだ。

 そうなると前の記憶のように、矢口さんと衝突して、何らかの意図により、吉田さんと問題を起こす。

 そして私は、今度こそ闇に飲み込まれ、悔いが残る形のバッドエンドで、人生を終えてしまう。

 嫌だ、吉田さんと幸せに暮らしながら、にこやかに抱かれ、彼の腕の中で看取られたいんだ。

 人間は最期は一人で息絶える生き物だけど、誰もいない世界で、一人で旅立つのは寂しいことと、転生を重ねて、知ってしまったから……。

 

「恐らく、私の時間はあまり残されていません。だったら、自ら動くしかないんです」

 

「沙優ちゃん、なら、私御用達のタクシーを呼ぶから、それを使って。お代は私がクレカで払うから」

 

「後藤さん、太っ腹〜♪」

 

 流石(さすが)、会社では、上の立場のお金持ちな女性は違うなと思いながら、少しからかってみる。

 でも吉田さんは、後藤さんのたわわな部分に惹かれたんだよね。

 男って、単純だな。

 

「あまりふざけてると、私が彼をもらうわよ」

 

「ごめんなさい。冗談です」

 

「はあ……。最近の女子高生って、一つのことに対して不真面目というか、ホント軽い感じのノリが好きよね」

 

 いかにも後藤さんらしい答えに、相槌を打っていると、缶の飲み物を手渡してくれた。

 缶はほんのりと温かく、さっき買ったような感覚に思えた。

 でもさっきまで寝ていた相手に、おしるこのセンスはないでしょ……。

 

「それだけ後藤さんの考えが、大人ってことなんでしょうね」

 

「何言ってるの。あなたも行く末は大人になる運命なのよ。大人ならではの、悩みの多さゆえにね」

 

 後藤さんが、私に松葉杖を勧めてくれたけど、余計に歩きにくいのでやんわりと断る。 

 そんな杖、どこから持ってきたんだろう。

 

「大人になるのって、色々と面倒ですね……」

 

「そうよね、大人って子供と違い、義務や責任感とかも必要だし、マニュアルも何もない未体験の問題だらけだからね。その解答の難しさは折り紙付きよ」

 

 いかにも大人の女性の言葉らしい、空白の問題集に取り込むという例え。

 酒に酔ってるわけでもないのに、こんなクサい台詞を吐くんだ。

 後藤さんの心情は計り知れない。

 

「さあ、行きなさい、沙優ちゃん。今度こそ、自分の将来をハッピーにするために」

 

 後藤さんが、私の背中を軽く押してくる。

 大人の支えは想像以上に頼もしくて、ちょっとだけ、吉田さんの淡い恋心が分かったような気がした。

 

「……後藤さん」

 

「何かしら?」

 

「今後、私が無事に20歳を迎えたら、お酒というものに付き合ってもらえますか?」

 

 だから後藤さんとの関係は()()()()にせず、これからも親しくしていくことに決めた。

 こんなに私に親切にしてくれるのも、いじめを苦にして自殺した、あの子以来だったから……。

 

「フフフ。まるで、この世の終わりのような言い草ね」

 

「私からしたら、今度こそ()()()()末路もありますから」

 

「なるほどね。でもまあ、お酌なら喜んでお相手するわ」

 

 後藤さんが心から喜んで、私にエールを送る。

 これまでは生きるために身体を重ね、偽名を使い、表面上だけの生き方をしてきた。

 でもそれじゃあ、吐いてるばかりで息が続かない。

 時にはこうやって、大きく息を吸い込んで、心をさらけ出せる仲間も必要だと。

 

「沙優ちゃん、頑張ってね」

 

「はいっ」

 

 ここからは、自分だけの戦いじゃない。

 私を取り巻く、みんなでの戦いなんだと──。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。