ひげを剃る。そして記憶喪失の女子高生を拾う……。―Dark Side Traveler Story― 作:ぴこたんすたー
「金もなければ、住む場所もない」
「だからって、男の欲望を叶えて住ませてもらうなんて、考えが浅はかなんだよ!」
「お前は性のしがらみに囚われず、もっと自由に生きていいんだ!」
大人から叱られる子供のように、ただ、受け身に任せた状態で……。
「でも吉田さんには、その程度のことでしか恩返しできないし……それに私を好いてくれる、吉田さんなら……」
そう、彼に嫌われるのが怖かった。
家族や友達はともかく、吉田さんまでも失ったら、自分の生きる意味が否定されるような気がして……。
そんな気持ちに感づいたのか、吉田さんが苛ついて、歯軋りをする。
「いや、好いてる以前に根本的におかしいだろ。
だったら、他に取り柄がない私に何ができるの。
エッチしなくても、楽な道はあるの。
繋がってる時だけ温もりが得られて幸せだったら、それでいいんじゃないの?
「お前は、大馬鹿者の馬鹿紗優だ」
「人としての大切さも知らない、愚か者が」
吉田さんが、私の心から何かを引き出そうとして、そのひたむきさに心の糸が千切れそうになる。
「だから、俺が」
「俺の力で身勝手で間違えて歩んできた、お前のレールを、正しい
激しい
「そ、それってつまり……」
「ああ、お前の愚か者な性格が
私は小さく口を開けて惚けたまま、吉田さんの真剣な表情から、目が離せない。
こうやって記憶の底にある私たちは、暮らしてきたのだから。
「どうせ、他に住む場所がないんだろ。記憶もおぼろげだし、先々、不安なんだろ」
「うん」
「だったら、うちで解決じゃねえか」
「……うん」
やっぱりこの人は優しい。
私は泣きそうになる感情を抑え込み、精一杯の返事をする。
「でも、その対価として働いてもらうぞ!」
「えっ、やっぱり体で?」
「当たり前だ! タダ飯食らいにさせるかよ。まずは、この家の全ての家事担当。それがお前に与える仕事だ」
「は、はい。わかりました……」
何だ、体でというからに、それなりの覚悟を決めていたけど、彼がそんな野蛮なことをするタイプには見えなかった。
もう寒空の下で、寒さで震えることはない。
仮とはいえ、住まいを与えられた私は、これ以上にない幸せに満ちていた──。
****
はあ……、久しぶりに
普段は休日でもパソコンと、にらめっこな生活だったもんな。
「あー、完全に冷めてしまったな。このオムライス」
「あっ、ごめん。レンジで温める?」
「いや、いいさ」
慌ててベッドから下りてきた沙優の気遣いを、やんわりと断る俺。
温めるまでの工程が面倒だ。
レンチンする時間を間違って、米がパサパサになったら台無しだし……。
「俺、こう見えて猫舌なんだ。これもまた美味い」
「飯は冷めちゃったけど、お前の一生懸命さが伝わってくるよ」
改めて本音を告げた俺の言葉に、胸を打たれたように頬を染める沙優。
吉田さんの私を思いやる気持ちも、十分に染み入ってくるよ……と、沙優が思ってるような気がした。
何てな、俺たちは昨日、道端で知り合ったばかりだぞ。
いくら独り身とはいえ、妄想も大概にしないとな。
「そうそう。お前、さっさと風呂に入ってこい。女の子はいつも綺麗にしとかないとな」
「あ、ありがとう」
俺は風呂場の位置を紗優に教えて、空になったケチャップ色の皿にスプーンを置く。
「あと、それからな」
「またさっきみたいに俺にエロい誘惑したら、今度こそ、ここから追い出すからな。本当にエロが目的ならピンク街にでも行け」
「アハハ。もうしないよw」
一応、忠告はした。
あんな攻められ方をして、理性が働いただけマシな方だろう。
『パタン』
沙優が風呂場のドアを、遠慮がちに静かに閉める。
しばらくし、シャワーの音が聞こえる中、俺はTVのリモコンをつけ、食後のつまみ感覚でバタピーを食べていた。
「はあ、クリスマスが過ぎて、年の瀬が来たと思ったらコレだぜ。俺も相変わらず、お人好しだな」
「んー、まあ、どうにかなるか……」
──五年間も好きだった女にフラれ、失望のクリスマスから一夜明け、突如現れた家出少女、沙優と一緒に暮らすことになった俺。
そしてここから、俺と沙優による二人を通じて、色々な人との繋がりの輪っかが描かれることになる。
帰り道に拾った、子猫のような女の子との出会いをきっかけに──。