ひげを剃る。そして記憶喪失の女子高生を拾う……。―Dark Side Traveler Story― 作:ぴこたんすたー
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「……うーん。いい展開までいったけど、これから先が書けんのよね……」
「それで私を呼んだわけ? あさみ?」
──季節は梅雨明けの7月、築40年となる、風呂とトイレは共同のボロアパート。
エアコンが効いた、畳部屋の居間にある勉強机にて、ノートPCに顔を埋めてる、白いカットソーのあさみにより、紫の花柄ワンピースの私はこの場所に呼びつけられた。
正確には私だけじゃなく、水色の園児服の小さな女の子も一緒だったけど……。
「そや、実際に青春を
「謳歌も何も私、既婚者だよ」
「いや、恋愛結婚なんやから、十分に謳歌してるってば」
あさみが鼻息を荒くしながら、私の両手を取る。
すると、隣にいたおかっぱ頭の女の子も興奮し、急に騒ぎ出す。
「おうか、おうかー♪」
「はいはい、
「はーい」
私から紗希と呼ばれて、素直に従う女の子。
その愛らしい女の子は、私と夫との子供であり、新しい家族でもあった。
「ふむ。母娘愛か。中々使えそうなネタやな」
「……って、そう簡単に、スランプ脱出できたら苦労せんわ」
あさみが持っていたマウスを投げようとし、どうにかして止めに入る私。
「すらんぷー、すこんぶー♪」
「こらっ、お姉ちゃんのお仕事の邪魔しないの」
「りょー」
紗希が悪ふざけで、あさみのデスクの周りを回りながら笑っていたけど、大人の世界では、それは挑発行為だ。
「あさみ、無事に小説家になったのはいいけど、色々と大変そうだね」
「そや、新人賞は取れたものの、それから先の作品がさっぱりでな。お陰様でこの有り様や」
──親から無事に独立し、大学に通いながら、寝る間を惜しんで書いた小説。
その努力が実ったのか、卒業と同時に新人賞を取り、売れっ子作家の仲間入りを果たしたあさみ。
でも、その生活は僅か一年で終わり、こうして格安アパートでの生活を余儀なくされたのだ。
「もう、あん時みたいな、人気の恋愛小説は書けんのかね……」
「あさみ……」
そんなあさみに恋愛をする時間も余裕もなく、一度離れた両親に頭を下げて、仕送りを貰う日々。
プライドもある、あさみのことだ。
いくら物書きで食べていけなくても、苦渋の選択だっただろう……。
「ねえ、おねえちゃん。くるしそうなかおして、おなかいたいの?」
「さあ、どうしてかなー」
「おへそのお、とったから?」
なるほど、それで腹痛か。
「あははっ。そう来たか。こりゃ面白い子やわw」
「おもしろおかしい?」
「くくっ、そう来ると。
あさみが紗希のジョークで、あんなにも笑っている。
見てくれは幼い子供だけど、まさにムードメーカー的な役割だよね。
「ほれ。臨時のお給料や」
「紗希にくれるの?」
「そや。ネタを抽出してくれたしな。これはウチからの臨時報酬や」
「うん、ありがとー」
あさみが手元にあった、小さなクマのぬいぐるみを手渡すと、紗希は何も知らずに大層喜んだ。
「そりゃ、私の子供だもん。当然よ」
「あはははっ。おまけに親バカときたもんやw」
「きたもんじゃー」
紗希がもんじゃ焼きを絶賛する中、あさみが狂ったように、PCのキーボードを手早い動作で打ち出す。
今までとは別人のように、顔つきまで変わっていて、誰にも止められない状態だ。
「いいで、この分ならガッツリいけるわ。このインスピを巧みに利用してな……」
「あさみ、上手くいきそうなの?」
「上手くも何も、最高の出来になりそうや」
生き生きとした表情のあさみが、モニターに見入ったままで、言葉だけを交える。
「あんがとな。紗希チャソ」
「うん♪」
あさみの感謝をどう受け取ったのか、紗希のあんな喜ぶ姿を見るのも悪くはない。
私は部屋にあった桃三郎の絵本? を紗希に見せて、あさみの執筆の邪魔にならないよう、紗希と静かに部屋を移動した……。
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──後日、発売したあさみのライトノベルの新刊は、飛ぶようには売れなかったが、その独創的な内容が、読者を惹きつけ、地道に発行部数を重ねていった。
小説の題材は、父親が病気で他界し、残された母親と幼い我が子が、新しい父親を相手に紡ぎ出すハートフルなストーリー。
近年の異世界ファンタジーを軸にしたライトノベルとは異例で、笑って泣ける恋愛ドラマのような内容は、多くの読者の心を掴んだ。
「何だか、このあさみの小説、吉田さんと私みたいだね」
「おい、まだ俺は健在だぞ?」
「もう吉田さんにはロマンがないなー。まあ、私が先に亡くなったら、あたふたしそうだし、精々長生きするから」
「そうだな。俺も頑張って生きるよ」
──今日も私は、幼稚園に紗希を預け、吉田さんと、いつもの職場へと真っ直ぐに歩き出す。
命というものは限りがあり、悔いのない精一杯の人生を送るために頑張る私たち。
それが、人という
天国で見守ってくれている親友だった、あの子のためにも……。
fin……。
これにて、ひげひろの二次創作も完結になります。
後半からのオリジナルの展開は誰が予測できたでしょうか。
前回のこのすばの経験を活かして、このような結末で終わらせることにしました。
タイトル通りダークな内容でしたが、最後がハッピーエンドなのも、私の強い意志でもあり、原作(オリジナル)に救いを加えた流れにしました。
そのせいか、物語全体が引き締まった感じがしますね。
色々と苦労しながら執筆した作品ですが、やっぱりラブコメは良いですね。
毎回書くのは大変なジャンルですが、私の真骨頂が滲み出たような二次創作にもなりました。
この教訓が生きて、次の作品に繋がっていったんですよね。
一時期はスランプにもなりましたが、何だかんだで無事に完結できて良かったです。
これも応援して下さる読者さんのお陰です。
ありがとうございます。
それでは次回作でお会いしましょう。