ひげを剃る。そして記憶喪失の女子高生を拾う……。―Dark Side Traveler Story―   作:ぴこたんすたー

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第40話 小説家とインスピレーション

****

 

 ──吉田(よしだ)さんと結婚し、さらに数年の時が過ぎた。

 

「……うーん。いい展開までいったけど、これから先が書けんのよね……」

 

「それで私を呼んだわけ? あさみ?」

 

 ──季節は梅雨明けの7月、築40年となる、風呂とトイレは共同のボロアパート。

 エアコンが効いた、畳部屋の居間にある勉強机にて、ノートPCに顔を埋めてる、白いカットソーのあさみにより、紫の花柄ワンピースの私はこの場所に呼びつけられた。

 正確には私だけじゃなく、水色の園児服の小さな女の子も一緒だったけど……。

 

「そや、実際に青春を謳歌(おうか)してる相手からの感想が欲しくてな」

 

「謳歌も何も私、既婚者だよ」

 

「いや、恋愛結婚なんやから、十分に謳歌してるってば」

 

 あさみが鼻息を荒くしながら、私の両手を取る。

 すると、隣にいたおかっぱ頭の女の子も興奮し、急に騒ぎ出す。

 

「おうか、おうかー♪」

 

「はいはい、紗希(さき)ちゃん、ちょっと落ち着こうね」

 

「はーい」

 

 私から紗希と呼ばれて、素直に従う女の子。

 その愛らしい女の子は、私と夫との子供であり、新しい家族でもあった。

 

「ふむ。母娘愛か。中々使えそうなネタやな」

 

「……って、そう簡単に、スランプ脱出できたら苦労せんわ」

 

 あさみが持っていたマウスを投げようとし、どうにかして止めに入る私。

 

「すらんぷー、すこんぶー♪」

 

「こらっ、お姉ちゃんのお仕事の邪魔しないの」

 

「りょー」

 

 紗希が悪ふざけで、あさみのデスクの周りを回りながら笑っていたけど、大人の世界では、それは挑発行為だ。

 

「あさみ、無事に小説家になったのはいいけど、色々と大変そうだね」

 

「そや、新人賞は取れたものの、それから先の作品がさっぱりでな。お陰様でこの有り様や」

 

 ──親から無事に独立し、大学に通いながら、寝る間を惜しんで書いた小説。

 その努力が実ったのか、卒業と同時に新人賞を取り、売れっ子作家の仲間入りを果たしたあさみ。

 でも、その生活は僅か一年で終わり、こうして格安アパートでの生活を余儀なくされたのだ。   

 

「もう、あん時みたいな、人気の恋愛小説は書けんのかね……」

 

「あさみ……」

 

 そんなあさみに恋愛をする時間も余裕もなく、一度離れた両親に頭を下げて、仕送りを貰う日々。

 

 プライドもある、あさみのことだ。

 いくら物書きで食べていけなくても、苦渋の選択だっただろう……。

 

「ねえ、おねえちゃん。くるしそうなかおして、おなかいたいの?」

 

「さあ、どうしてかなー」

 

「おへそのお、とったから?」

 

 なるほど、それで腹痛か。

 ()の意味が、あいうえおの最後の()にも聞き取れて、文字からして、物語の終わりが見えてきたり……。

 

「あははっ。そう来たか。こりゃ面白い子やわw」

 

「おもしろおかしい?」

 

「くくっ、そう来ると。沙優(さゆ)チャソ、こん子、将来有望やでw」

 

 あさみが紗希のジョークで、あんなにも笑っている。

 見てくれは幼い子供だけど、まさにムードメーカー的な役割だよね。

 

「ほれ。臨時のお給料や」

 

「紗希にくれるの?」

 

「そや。ネタを抽出してくれたしな。これはウチからの臨時報酬や」

 

「うん、ありがとー」

 

 あさみが手元にあった、小さなクマのぬいぐるみを手渡すと、紗希は何も知らずに大層喜んだ。

 

「そりゃ、私の子供だもん。当然よ」

 

「あはははっ。おまけに親バカときたもんやw」

 

「きたもんじゃー」

 

 紗希がもんじゃ焼きを絶賛する中、あさみが狂ったように、PCのキーボードを手早い動作で打ち出す。

 今までとは別人のように、顔つきまで変わっていて、誰にも止められない状態だ。

 

「いいで、この分ならガッツリいけるわ。このインスピを巧みに利用してな……」

 

「あさみ、上手くいきそうなの?」

 

「上手くも何も、最高の出来になりそうや」

 

 生き生きとした表情のあさみが、モニターに見入ったままで、言葉だけを交える。

 

「あんがとな。紗希チャソ」

 

「うん♪」

 

 あさみの感謝をどう受け取ったのか、紗希のあんな喜ぶ姿を見るのも悪くはない。

 

 私は部屋にあった桃三郎の絵本? を紗希に見せて、あさみの執筆の邪魔にならないよう、紗希と静かに部屋を移動した……。

 

****

 

 ──後日、発売したあさみのライトノベルの新刊は、飛ぶようには売れなかったが、その独創的な内容が、読者を惹きつけ、地道に発行部数を重ねていった。

 

 小説の題材は、父親が病気で他界し、残された母親と幼い我が子が、新しい父親を相手に紡ぎ出すハートフルなストーリー。

 近年の異世界ファンタジーを軸にしたライトノベルとは異例で、笑って泣ける恋愛ドラマのような内容は、多くの読者の心を掴んだ。

 

「何だか、このあさみの小説、吉田さんと私みたいだね」

 

「おい、まだ俺は健在だぞ?」

 

「もう吉田さんにはロマンがないなー。まあ、私が先に亡くなったら、あたふたしそうだし、精々長生きするから」

 

「そうだな。俺も頑張って生きるよ」

 

 ──今日も私は、幼稚園に紗希を預け、吉田さんと、いつもの職場へと真っ直ぐに歩き出す。

 命というものは限りがあり、悔いのない精一杯の人生を送るために頑張る私たち。

 それが、人という運命(さだめ)を背負って暮らす、生き物なのだから⋯⋯。

 

 天国で見守ってくれている親友だった、あの子のためにも……。

 

 fin……。

 




これにて、ひげひろの二次創作も完結になります。
後半からのオリジナルの展開は誰が予測できたでしょうか。
前回のこのすばの経験を活かして、このような結末で終わらせることにしました。
タイトル通りダークな内容でしたが、最後がハッピーエンドなのも、私の強い意志でもあり、原作(オリジナル)に救いを加えた流れにしました。
そのせいか、物語全体が引き締まった感じがしますね。


色々と苦労しながら執筆した作品ですが、やっぱりラブコメは良いですね。
毎回書くのは大変なジャンルですが、私の真骨頂が滲み出たような二次創作にもなりました。

この教訓が生きて、次の作品に繋がっていったんですよね。
一時期はスランプにもなりましたが、何だかんだで無事に完結できて良かったです。
これも応援して下さる読者さんのお陰です。
ありがとうございます。

それでは次回作でお会いしましょう。
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