ひげを剃る。そして記憶喪失の女子高生を拾う……。―Dark Side Traveler Story―   作:ぴこたんすたー

8 / 23
第8話 留まる理性と迫る誘惑

「──沙優(さゆ)、スマホも家に置きっぱなしで、今までどこにいたんだ?」

 

「ごめんなさい。ちょっとコンビニに」

 

 今日は後輩との飲みの都合で遅くなると、LINAを送っても、既読すらもなかった。

 こんな時のために、俺名義で携帯を持たせたのだが、こうも無関心だと、逆に不安になってしまう。

 

 沙優は俺から見ても、可愛い女の子だ。

 もし知らない所で、事件に巻き込まれたらと思うと、気が気でない。

 そう思って一直線で帰ってきたら、鍵も開けっぱなしで留守だったのだ……。

 

「まあ、無事で何よりだ。じゃあ、俺はシャワー浴びてくるから。お前は適当に惣菜を選んで食ってろ」

 

「うん」

 

 ──冷えきった体に対し、熱めのシャワーにかかりながら、今までの言葉を整理する。

 こんな時間に外に出た紗優が無事に見つかったことで、心から安心していた。

 俺も保護者のフリなど続けず、いい加減、沙優と向き合わないとな……。

 

「沙優、お前も風呂に入れよ」

 

「なあ、俺の話を聞いて……」

 

 ──電気もつけず、薄暗い部屋で白い下着姿の少女、沙優と目が合う。

 

「いや、お前……いくら暖房が効いてるからって、服くらい着ろよ」

 

 俺は突然のやり口に冷や汗を垂らして、その場でしゃがみ、フローリングに脱ぎ捨ててあった沙優のジャージを掴む。

 

吉田(よしだ)さん、ちょっといい?」

 

「ああ。いいから服を着てから喋ろって……」

 

「お願い、私の話を聞いて」

 

 いつにもない真面目な表情で、俺を見てくる沙優。

 俺はすっと立ち上がり、風呂場のドアの前で彼女と対面する。

 

「吉田さんさあ、こう見えて私も一応、女の子なんだよ」

 

「いや、そんなん小学生でも分かるぞ」

 

「違うよ、ベタな冗談はやめて」

 

「何だよ……」

 

 俺は沙優を避けようと、彼女の視界から離れ、横切る体勢をとる。

 

「俺も色々と忙し……」

 

 しかし、俺の行く道を通せんぼして、そのまま壁際に追い詰める沙優。

 

「……だから、さっきから何の真似だよ」

 

 壁と背になった俺に壁ドンし、大きく目を見開いて、じっと見つめてくる。

 

「ねえ、私って、胸は結構ある方だと思うけど」

 

「まあな」

 

「そんなピチピチの若い女子高生が、下着だけで誘惑してるんだけど」

 

「いいから服着ろよ」

 

「ねえ、今からでも私とエッチする?」

 

 沙優が俺の体に、弾力のある胸を押し当てて密着してくる。

 今日のコイツは、どことなく変だ。

 

「吉田さんは、私としたくないの?」

 

「そんな(よこしま)なこと、私相手じゃ、何とも思わないの?」

 

 細いカモシカのような足を、俺の足に当てながら、沙優の尋問は続く。

 

「だから、やめろって……」

 

「嫌だ」

 

 きっぱりとした口調で断る沙優。

 彼女の強気な姿勢に、どうも調子が狂ってしまう。

 

「私、記憶はおぼろげだけど、今まで男の人全員と、性行為を重ねてきたのは確かなの」

 

「記憶がなくても、体が覚えちゃってるから……」

 

 沙優が俺が着ているトレーナーを下へと擦り、紐パンの下腹部に触れる。

 

「うわぁ!?」

 

 予想外の場所を触られ、俺は驚いて腰を抜かし、バランスを崩して、固い床に尻餅をつく。

 

「どう? 見損なった? これが本当の私なの」

 

「だから、やめろって!」

 

「答えてくれないと駄目。私を……」

 

「……私のことを一人の女の子として、一人の女として、性対象として見てくれないの?」

 

 沙優がしゃがみこみ、俺のズボンを脱がそうと細い指をかける。

 それに反して、大きく直立する俺の欲望。

 

「あっ……」

 

 沙優の顔が真っ赤になって、動きを止める。  

 俺はその隙に、後ろに腰を引いた。

 

「……言われずとも、嫌でも反応するよ。こんなに責められて、興奮しない男が世の中にいるかよ」

 

「あ、あの。ごめんなさい……」

 

「何で、そっちから誘ったクセに照れてんだ。いい加減、悪ふざけが過ぎるぞ。さっさと離れろよ」

 

「うん、ごめん……」

 

 (たが)いに初めての交渉のように、おずおずと距離を置く二人。

 

「──あのね、その……」

 

「……私ね、今まで生きることに必死だった。どうやって家出してから、過ごしていくかって」

 

 下着姿でモジモジしながら、女の子座りで少しずつ語り出す沙優。

 俺は受け身の形となり、そんな彼女の答えを黙って待ち続ける。

 

「女子高生なんて拾って、家に置いてることが警察にバレたら、普通に逮捕じゃん」

 

「拾われても良い要素がないと、住ませてもらえないし」

 

「だから自分の体を、無償で提供する形にしたのか」

 

「……うん」

 

 俺の異論が、まるで正論のように頷く相手。

 

「その方が分かりやすく物事を判断できてさ。ああ可愛いな、ヤッてて気持ち良いな、とか口に出して、私に住む場所をくれて、必要な存在にしてくれる」

 

「そしてヤバくなったら、気持ちをコロっと変えられて、住む場所を失う。それが当たり前の繰り返しだったの」

 

 体育座りで床に視線を下ろして、自分の想いを告げる沙優。

 

「だからどうして、吉田さんは、こんな私を住まわせてくれるんだろうって……」

 

 暗い部屋で沙優が真剣に話をするのを、黙って聞き続ける。

 保護者側として悔しいが、俺は沙優の過去の現場に立ち入ってない。  

 この方法でしか、彼女を救えないと感じたからだ。

 

「家事なんて、私がいなくても誰でもできるでしょ。この際、吉田さんが選んだ好きな人と一緒でもさ、いいじゃん……」

 

「でも吉田さんは、こんな私に対しても、優し過ぎてさ……」

 

 何言ってんだ。

 まだお前は、子供と大人の境界線の高校生だろ。

 大人が子供に接するように、優しいだけじゃ駄目なのかよ。

 

「私はどう考えたら、吉田さんに愛想尽かされないんだろう……吉田さんは何の得があって、私を家に置いてるんだろうと……そう考えたら、頭の中がごちゃごちゃでさ……」

 

「……沙優、お前……」

 

 苦笑い、いや……いつもの作り笑いをしながら、正座したひざの上にのせた拳を握る沙優。

 

「私、自分のことも分かってない、お馬鹿な子供でさ、これからどうやって生きていこうかとか、エッチな行為を求めてこないと、理解すらもできないしさ……」

 

 どこかしら、泣き声になってるのが分かる。 

 その小さな背中に、どんだけ悲しみを背負ってるんだよ。

 

「だからね。吉田さんが、私のこと嫌いじゃないなら抱いて安心させてよ。吉田さんならいいから」

 

「私、吉田さんが……」

 

 俺は耐えきれず、涙ぐんだ沙優の細い体を正面から抱きしめる。

 

「よ……吉田さん、ちょっと……腕の力、強いって……」

 

 そして深く息を吐いて、思ってることを相手の耳元に囁いた。

 

「答えはNOだ。俺はお前を抱くことはない」

 

 その言葉に覚悟したのか、ピクリと身を震わす。

 

「……だけど、お前は俺から見ても可愛いタイプだ」

 

「えっ?」

 

 スタイルも肉付きも顔も良く、家事も積極的にしてくれて、最高の女の子だ。

 それのどこに不満があるんだ……。

 

「でも俺は、お前に恋愛感情は抱いてない」

 

 そんな一人の女の子が無理をしてでも、嫌な自分の姿を見せたんだ。  

 自分の本心を包み隠さず、こちらからも正直に打ち明ける。

 俺は沙優から体を離し、彼女の華奢な両肩に優しく手を置く。

 

「俺は好きでもない女は抱かない」

 

「女子高生だからとか、大人とかは別個だ。俺は沙優の裸で欲情したり、セッ○スしたいとも全然思ってない」

 

 涙目の沙優が、こちらから目をそらさずに、俺の説得を聞く。

 

「他の男がどうとか今は関係ない。俺はそんな考えを持った男だ」

 

「分かったら、さっさと服を着ろ。風邪でもひいたら大変だ」

 

「……うん」

 

 沙優が後ろめたい様子でジャージを着ながら、今までで一番の笑顔を見せた。

 そう、変に気を遣って俺の顔色を伺うより、何も気にせず、自然体で笑っていた方が可愛いんだよ──。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。