ひげを剃る。そして記憶喪失の女子高生を拾う……。―Dark Side Traveler Story― 作:ぴこたんすたー
「──
「ごめんなさい。ちょっとコンビニに」
今日は後輩との飲みの都合で遅くなると、LINAを送っても、既読すらもなかった。
こんな時のために、俺名義で携帯を持たせたのだが、こうも無関心だと、逆に不安になってしまう。
沙優は俺から見ても、可愛い女の子だ。
もし知らない所で、事件に巻き込まれたらと思うと、気が気でない。
そう思って一直線で帰ってきたら、鍵も開けっぱなしで留守だったのだ……。
「まあ、無事で何よりだ。じゃあ、俺はシャワー浴びてくるから。お前は適当に惣菜を選んで食ってろ」
「うん」
──冷えきった体に対し、熱めのシャワーにかかりながら、今までの言葉を整理する。
こんな時間に外に出た紗優が無事に見つかったことで、心から安心していた。
俺も保護者のフリなど続けず、いい加減、沙優と向き合わないとな……。
「沙優、お前も風呂に入れよ」
「なあ、俺の話を聞いて……」
──電気もつけず、薄暗い部屋で白い下着姿の少女、沙優と目が合う。
「いや、お前……いくら暖房が効いてるからって、服くらい着ろよ」
俺は突然のやり口に冷や汗を垂らして、その場でしゃがみ、フローリングに脱ぎ捨ててあった沙優のジャージを掴む。
「
「ああ。いいから服を着てから喋ろって……」
「お願い、私の話を聞いて」
いつにもない真面目な表情で、俺を見てくる沙優。
俺はすっと立ち上がり、風呂場のドアの前で彼女と対面する。
「吉田さんさあ、こう見えて私も一応、女の子なんだよ」
「いや、そんなん小学生でも分かるぞ」
「違うよ、ベタな冗談はやめて」
「何だよ……」
俺は沙優を避けようと、彼女の視界から離れ、横切る体勢をとる。
「俺も色々と忙し……」
しかし、俺の行く道を通せんぼして、そのまま壁際に追い詰める沙優。
「……だから、さっきから何の真似だよ」
壁と背になった俺に壁ドンし、大きく目を見開いて、じっと見つめてくる。
「ねえ、私って、胸は結構ある方だと思うけど」
「まあな」
「そんなピチピチの若い女子高生が、下着だけで誘惑してるんだけど」
「いいから服着ろよ」
「ねえ、今からでも私とエッチする?」
沙優が俺の体に、弾力のある胸を押し当てて密着してくる。
今日のコイツは、どことなく変だ。
「吉田さんは、私としたくないの?」
「そんな
細いカモシカのような足を、俺の足に当てながら、沙優の尋問は続く。
「だから、やめろって……」
「嫌だ」
きっぱりとした口調で断る沙優。
彼女の強気な姿勢に、どうも調子が狂ってしまう。
「私、記憶はおぼろげだけど、今まで男の人全員と、性行為を重ねてきたのは確かなの」
「記憶がなくても、体が覚えちゃってるから……」
沙優が俺が着ているトレーナーを下へと擦り、紐パンの下腹部に触れる。
「うわぁ!?」
予想外の場所を触られ、俺は驚いて腰を抜かし、バランスを崩して、固い床に尻餅をつく。
「どう? 見損なった? これが本当の私なの」
「だから、やめろって!」
「答えてくれないと駄目。私を……」
「……私のことを一人の女の子として、一人の女として、性対象として見てくれないの?」
沙優がしゃがみこみ、俺のズボンを脱がそうと細い指をかける。
それに反して、大きく直立する俺の欲望。
「あっ……」
沙優の顔が真っ赤になって、動きを止める。
俺はその隙に、後ろに腰を引いた。
「……言われずとも、嫌でも反応するよ。こんなに責められて、興奮しない男が世の中にいるかよ」
「あ、あの。ごめんなさい……」
「何で、そっちから誘ったクセに照れてんだ。いい加減、悪ふざけが過ぎるぞ。さっさと離れろよ」
「うん、ごめん……」
「──あのね、その……」
「……私ね、今まで生きることに必死だった。どうやって家出してから、過ごしていくかって」
下着姿でモジモジしながら、女の子座りで少しずつ語り出す沙優。
俺は受け身の形となり、そんな彼女の答えを黙って待ち続ける。
「女子高生なんて拾って、家に置いてることが警察にバレたら、普通に逮捕じゃん」
「拾われても良い要素がないと、住ませてもらえないし」
「だから自分の体を、無償で提供する形にしたのか」
「……うん」
俺の異論が、まるで正論のように頷く相手。
「その方が分かりやすく物事を判断できてさ。ああ可愛いな、ヤッてて気持ち良いな、とか口に出して、私に住む場所をくれて、必要な存在にしてくれる」
「そしてヤバくなったら、気持ちをコロっと変えられて、住む場所を失う。それが当たり前の繰り返しだったの」
体育座りで床に視線を下ろして、自分の想いを告げる沙優。
「だからどうして、吉田さんは、こんな私を住まわせてくれるんだろうって……」
暗い部屋で沙優が真剣に話をするのを、黙って聞き続ける。
保護者側として悔しいが、俺は沙優の過去の現場に立ち入ってない。
この方法でしか、彼女を救えないと感じたからだ。
「家事なんて、私がいなくても誰でもできるでしょ。この際、吉田さんが選んだ好きな人と一緒でもさ、いいじゃん……」
「でも吉田さんは、こんな私に対しても、優し過ぎてさ……」
何言ってんだ。
まだお前は、子供と大人の境界線の高校生だろ。
大人が子供に接するように、優しいだけじゃ駄目なのかよ。
「私はどう考えたら、吉田さんに愛想尽かされないんだろう……吉田さんは何の得があって、私を家に置いてるんだろうと……そう考えたら、頭の中がごちゃごちゃでさ……」
「……沙優、お前……」
苦笑い、いや……いつもの作り笑いをしながら、正座したひざの上にのせた拳を握る沙優。
「私、自分のことも分かってない、お馬鹿な子供でさ、これからどうやって生きていこうかとか、エッチな行為を求めてこないと、理解すらもできないしさ……」
どこかしら、泣き声になってるのが分かる。
その小さな背中に、どんだけ悲しみを背負ってるんだよ。
「だからね。吉田さんが、私のこと嫌いじゃないなら抱いて安心させてよ。吉田さんならいいから」
「私、吉田さんが……」
俺は耐えきれず、涙ぐんだ沙優の細い体を正面から抱きしめる。
「よ……吉田さん、ちょっと……腕の力、強いって……」
そして深く息を吐いて、思ってることを相手の耳元に囁いた。
「答えはNOだ。俺はお前を抱くことはない」
その言葉に覚悟したのか、ピクリと身を震わす。
「……だけど、お前は俺から見ても可愛いタイプだ」
「えっ?」
スタイルも肉付きも顔も良く、家事も積極的にしてくれて、最高の女の子だ。
それのどこに不満があるんだ……。
「でも俺は、お前に恋愛感情は抱いてない」
そんな一人の女の子が無理をしてでも、嫌な自分の姿を見せたんだ。
自分の本心を包み隠さず、こちらからも正直に打ち明ける。
俺は沙優から体を離し、彼女の華奢な両肩に優しく手を置く。
「俺は好きでもない女は抱かない」
「女子高生だからとか、大人とかは別個だ。俺は沙優の裸で欲情したり、セッ○スしたいとも全然思ってない」
涙目の沙優が、こちらから目をそらさずに、俺の説得を聞く。
「他の男がどうとか今は関係ない。俺はそんな考えを持った男だ」
「分かったら、さっさと服を着ろ。風邪でもひいたら大変だ」
「……うん」
沙優が後ろめたい様子でジャージを着ながら、今までで一番の笑顔を見せた。
そう、変に気を遣って俺の顔色を伺うより、何も気にせず、自然体で笑っていた方が可愛いんだよ──。