「北、何食う?」
「んー、豆腐ハンバーグがええな。」
「北のおばあちゃんの得意料理はここにはないねん。普通のハンバーグならあるけど。」
「ほな、それにするわ。」
北さんはスマホに目を落としたまま、静かに答えた。
俺らが奢るという事実は分かっていても、どうしてもスマホの中の「何か」が気になって、心ここにあらずといった様子だ。
俺の隣に座った侑は、好奇心に満ちた目で北さんのスマホを凝視していた。
北さんがトイレに立った時、5人の目が一斉に北さんがテーブルに置いていったスマホに集まる。
「なぁ…北さん、最近スマホばっかり触っとるけど、一体何をそんなに見とるんやろか…。」
「美味そうな飯の写真か?」
「治、おにぎりの写真で喜ぶのはお前だけだよ。」
「あ!」
急にアラン君が何かを思い出したように声を上げた。
「なんやアラン君。心当たりあるんか?」
「いや、そうやなくて……。そういや俺、1回だけたまたま北のスマホにLINEの通知が来とるん見たわ。」
顔を強張らせたアラン君を、俺ら後輩組は固唾を飲んで見守る。
「その相手な…多分、女の子やねん。」
…は⁉
俺と銀と治が思わず口を半開きにした傍ら、侑が「えー!北さんに彼女でもできたんか!うわぁ、うらやましいけど、なんか悔しいわ!!」を頭を抱えて大声を天井に放つ。
その言葉を合図に、俺の脳裏にふと思い浮かんだ。
暇さえあればスマホを手に取り、無表情で、しかし確実に嫉妬を孕んだ目でその画面を凝視する北さんの姿が。
そして俺の中の北さんが…「〇〇、他の男と喋っとったんか?笑いかけてへんよね?…そいつらと同じ空気、吸っとたら許さんで?」って、メンヘラ彼氏LINEを血眼になって送り付けていた。
俺は寒気を覚えてゾクッと震え上がった。
ふと周りを見ると、双子は病人のような目をしたままフリーズし、銀はドリンクバーへホットドリンクを慌てて注ぎに行った。
あ、きっと俺と同じこと妄想してるんだろな。
俺ら後輩組は、メンヘラ彼氏・北信介という未知の生き物を受け入れられず、ただただ各自現実逃避を図るしかなかった。
「なんやお前ら。そんな固まって、どないしたん。」
何も知らない北さんが戻ってきた。
席に座ると同時にまたスマホに手が伸びる。
その慣れたような仕草に、ついにアラン君が痺れを切らして北さんを制した。
「おい北!最近なんでそんなすぐにスマホ触ろうとするんや!せっかく一緒に飯来とるんやぞ!それに最近のお前、なんやねん!いっつも上の空で何事も興味なさげで、挙句の果て大事なことすーぐやり忘れる!ええ加減しっかりせえや!!」
「それは...すまん。」
アラン君の叫び声に一瞬驚いたような表情を見せた北さんが、慌ててスマホから手を引き席に着いた。
「北さん……すみません、ネタバラしします。実は今日のこの飯は……北さんの悩み相談会なんです。北さんが最近明らかにボーッとしてはるから、俺ら気になって……。」
銀がついにネタバラしをした。
「北…お前は最近、スマホで何をそんなに熱心に見とんねん…。」
アラン君が銀に続いて畳み掛ける。
北さんがついに口を割った。
「…ただの、内カメラやで。」
...は?
ついに北さん以外の5人が完全に思考停止に追いやられた。
ただただ開いた口がふさがらなず、泡を吹いている。
北さんはここ数日、暇さえあればずっとスマホの内カメラで自分の顔を飽きもせずに見つめたってことだ。
北さんはメンヘラ彼氏×ナルシストという、とんでもないモンスターになってしまったようだ。
「…なんで、また、そんなことを…」っと、治がなんとか固まってしまった口を無理やり動かした。
それを蹴散らすかのように、北さんから弾丸の如くあり得ない言葉がとんできた。
「...彼女が、俺の顔とか声とか、体つきばっか褒めてくんねん。」
...え。
治がポテトを口の手前でピタッと止めた。
そして全員が、北さんの手下のように彼の真っすぐな目を凝視した。