副産物の定義   作:ゆずみかん#HQ

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副産物の定義④(完)

「お、翠音。偶然やな、どないしたん。」

 

「今友だちと来とんねん。そしたらたまたま信介の悩みを耳にしてな……言わずにはいられんかったんやけど……私、確かに信介の顔も声も体つきも好きや。でもね、惹かれたきっかけは信介の『ちゃんとやんねん』なんよ!飽き性ですぐ色々辞めちゃう私にとって、信介は憧れの存在なんよ!ただイケメンってだけで告白したい、なんて思うわけないやん?せやから自信持って!」

 

「翠音...ちゃんと見てくれとったんか。ありがとうな。やっぱその、翠音の真っ直ぐ伝えてくれるとこ、俺は好きやで。」

 

 

翠音さんの言葉に北さんの表情が一瞬で柔らかくなる。

俺ら...何見させられてんの?

気が付けば侑も治も銀もアラン君も、死んだ魚の目でポテトをむさぼり始めた。

 

「あ、ちなみに彼女は俺の誕生日祝い、せっかくならってことで今度のオフの日にやってくれるみたいやで。」

 

と、北さんは不意に俺らの方を振り返り、さっきのアラン君の質問に答えた。

しかし当然、誰もが聞いていないフリをしている。

 

人からの質問には全部ちゃんと答える、という姿勢はやはり北さんだ。

でも今のは、北さんだからといって許されるタイミングではない。

ほら見ろ、聞いていないフリをしていたはずの双子が「北さんが…惚気た…あぁ…」と小声の呪文を唱えながらショートしてテーブルにそのまま溶けていきそうだよ。

 

「ところで信介!これな、次のキツネっ子のコピーバンドする時の服装とかメイク、試しにやってみた写真なんよ!どう?素直な感想ちょうだい!」

 

翠音さんがスマホに自分の写真を映し出し、北さんに見せた。

おーおー、キツネを想像させる黄色のミニスカート。

上は派手なピンクのリボンで稲荷崎の制服のYシャツを飾り、スカートにイン。

髪型は上の方で、なんていうんだろ、お団子のちっちゃいのを2個作っている。

まさにアイドルだった。

あの北さんが「…かわえぇなぁ、好きやわ。」とかいうのかなと思うと、なんだか決定的瞬間に出会えるような気がして少しニヤつく。

 

しかしそこから出た言葉は...まさにいつもの「北信介」だった。

 

「…翠音。なんでこの衣裳にしたんか、教えてもろてええか。」

 

「え?……ああ、キツネっ子をモチーフにした黄色のミニスカートは絶対取り入れたくて、髪型もキツネっぽさを出したくて、こんな感じでキツネの耳みたいにしたんよ!でも、完全なパクリにはしたくなくてうちららしさを出したいから、あえて上は稲荷崎のYシャツのままにしたんよ!このピンクのリボンとYシャツで、稲荷崎オンリーでかつ、今の女子高生っていう時代を大切に、思い出に残そう!っていう意図で、これに決まったんよ!」

 

「……なるほどな。ちゃんと時間かけて、自分たちの納得いく形をちゃんと創り上げたんやな。伝わったで。翠音、そんな風にちゃんとやったのなら、自然と見る人に翠音の情熱が伝わって、最高のライブになるわ。練習も頑張ってな。応援しとるで。」

 

にこやかにそう答える北さんとは対象に、翠音さんの顔からはみるみる不貞腐れたオーラが出始めた。

 

「...信介のバカ。」

 

翠音さんはそれだけ言って友だちの元へ戻っていってしまった。

翠音さんはただ「自分の彼氏が自分の姿をどう思うか」が知りたかっただけ。

それなのに北さんに謎に選んだ過程の方を褒められて、知りたかったことは知ることができずに拗ねたってことは俺でもわかる。

あー...北さんの弱点、もうひとつ見つけた。

 

「北...あのな、女の子を褒める時に過程の話を持ち出すのはあかん。いや出してもええけど!結果をもっと見んかい結果を!」

 

「なんでや。結果はただの副産物に過ぎんのやから一番褒めるべきは頑張った過程やろ。」

 

「その副産物を褒めてもらいたくて女の子は努力すんねん!なんで分からんねん!お前もユニフォームもらえたときは嬉しかったんちゃうんか!?」

 

「あれは『俺にユニフォームを渡す』というコーチの決断そのものが、俺の行動を褒める言葉を介さないシグナルやねん。今回の翠音の場合、ただ『ええな』って結果の良し悪しだけ伝えるのは、それまでの過程を見なくてもできてまう行動や。俺はそんな安直なことはせん。」

 

アラン君が北さんの言葉で完全に口を封じられてしまった。

突っ込みに手を焼いているのが伝わってきて、加勢できないことに申し訳なさを感じる。

侑が「あぁ~っあかん!!」と机に突っ伏し、銀はただただ聞かなかったことにするようにひたすらお冷を飲み続けた。

治も「北さん…何でもええけど、次からは余計なことは言わずにただ『かわええ』の一言だけ言うてください。」と冷静にアドバイスをし始めた。

 

北さんは何もわかってなさそうな涼しい顔で「...とにかく、あとでちゃんと謝らなあかんな。ちゃんとやんねん。」と呪文のように唱え、やってきたハンバーグに手をつけ始めた。

 

北さんは...うん、さらっと自慢ができるくらいには、しっかりイケメンだ。

でもそのイケメンにも、「恋愛という非日常でも自分を貫き空回りする」という新種の弱点があるという。

 

今日の俺の学び。

「北さんは、完璧に見える。でも、大前提。完璧な人間などいない。」

 

今日のこの話は、SNSにアップ…は何となくやってはいけない気がする。

だから代わりに後で、日記にでもまとめて語り継ぐべき稲荷崎の歴史にしよう。(完)

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