僕が死ぬしかないじゃない!〜世界滅亡エンドを阻止するために全力自己犠牲ムーブしてたらヒロインたちが過保護で激重なヤンデレになってた〜   作:朧 泡沫

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第1話 今度こそ救うために

 たった今、世界は滅びた。

 大規模な火山噴火、地表の全てを薙ぎ倒す巨大地震、天より落ちた隕石。

 多くの人が思い浮かべた滅亡のシナリオは現実には起きず、空想のものとなった。

 

 世界は唐突に滅びた。

 青い空は唐突に灰に染まり、緑の大地は唐突に荒野と化し、あらゆる生命は唐突に死滅した。

 

 世界滅亡にしては、あまりにも静かで、あまりにも呆気ない結末。

 最後に残ったのはたった二つの生命。その片割れである僕は枯れた大地に膝をついたまま、周囲に倒れ伏す11人の少女に視線を向ける。

 

 大切な少女たちだ。

 僕が救い、共に生き、家族同然に思っていた、かけがえのない少女たち。

 昨日まで笑っていた彼女たちは、息絶えている。

 誰一人として息はない。瞳には生気が宿っておらず、脱力した身体はピクリとも動かず、完全に、完璧に事切れてしまっていた。

 

 変わり果てた……何度も見てきた彼女たちの姿に僕は下唇を出血するほど強く噛みしめ、視線を正面に向ける。

 眼前、世界の終わりを到来させる遠因となった少女に。

 

「……ごめん」

 

 一筋の涙を流し、僕は彼女に、謝罪の言葉を伝えた。

 

「ごめん……本当に、ごめん。ごめんなさい。僕のせいだ。僕がまた、失敗してしまったから……」

 

 心の底からの謝罪の言葉に対する返事はない。

 眼前の少女──深い闇色の長髪を持つ美しい少女は虚ろな表情でその場にしゃがみこんでいる。

 背中に携えた、悪魔の翼で身を覆って。

 

 彼女には何も届いていないだろう。

 声も、思いも、彼女の心には響いていない。

 それはわかっている。だが、それでも、僕は言い続けた。

 

「世界を滅ぼす力を持つ12人の少女……その最後の一人である君を救うことができれば、世界は平和なままで……君たちも、明るい未来を歩むことができていたのに……本当に、ごめん」

 

 今回もまた及ばなかった自分の力。

 後悔と無念に圧し潰されそうになりながら、僕はジッと少女を見つめ続けた。

 

『──大丈夫』

 

 不意に耳元で、鈴の音のような乙女の声が囁かれた。

 

『今回は上手くいかなかっただけ。次はきっと上手くいく。またやり直せばいい。今度はきっと──上手くいくから』

「……うん、そうだね」

 

 囁きに返答した僕は立ち上がり、いつの間にか両手に握っていた二丁のリボルバー式拳銃。

 それらを眼前の少女と自分の頭に向け、銃口を頭部に押し当てる。

 

 涙は止まらない。全身は震え、気を抜けば今にも膝を折ってしまいそうだった。

 けれど、気力だけで持ちこたえる。

 万が一にも外さないよう、銃を強く押し当てる。

 

 声の主は何も言わない。

 否、既に気配はなくなっている。そこには誰もいない。顔は知らない、声だけ知っている誰かは、また以前と同じように姿を消してしまった。

 この場にいるのは、僕と少女だけだ。

 

 それを不思議には思わない。

 毎度のことだ。気にしたところで答えはないのだから、気にしない。

 

「今度こそ──救って見せるから」

 

 決意と覚悟を宿した声で言い、僕はゆっくりと呼吸を整える。

 そして──引き金を引いた。

 

◇ ◇

 

 闇の底から浮上した意識。

 ゆっくり瞼を持ち上げると、視界に映ったのは見知った光景だった。

 

 窓から差し込む眩い朝陽に照らされたシャンデリア。山のように積まれた書類と、様々な実験器具が置かれた執務机。カーテンは吹き込む風で揺れており、運ばれて来た朝の空気が肺を満たす。

 

 徐々に鮮明になっていく視界と思考。

 完全な覚醒に近づく中、僕は今もなお思い浮かぶ光景を振り返る。

 

 長い夢を見ていた。

 いや、夢と言うよりも──記憶だ。

 遠い過去の、否、未来とも言える。

 脳裏に鮮明に焼き付いている幾つもの記憶の内の一つ。思いだすだけで胸に疼痛が響き、苦しくなる事実。

 

 何故ならあれは──失敗の記憶だからだ。

 あと少し。あとほんの少しで、僕の悲願は達成されるはずだった。世界は救えるはずだった。あの子たちが……明るい未来を歩めるはずだった。成功させなければならなかった。失敗してはならなかった。

 後悔は強く、思わず下唇を噛みしめたくなる。

 頭を抱え、蹲りたくなる。

 

 けれど、いつまでも後悔してはいられない。

 後悔するならば同時に反省をし、同じ失敗を繰り返さないことが大切だ。

 次だ。次こそは絶対に──。

 

「もう、フォリア先生! またベッドではなくソファで眠ったんですね!?」

 

 突如として室内に響き渡った乙女の声。

 其方へ視線を向けると、扉を開けて入室したと同時に僕へ小言を告げたのは──美しい白銀の長髪を持つ少女だった。

 

 エプロンを身に着けた彼女は宝石のような紫水晶の目を半分に細め、頬を可愛らしく膨らませている。腰に当てた両手にはお玉と菜箸が持たれており、料理をしていたことは容易に窺えた。

 

 しまったな。

 見つかったら怒られることはわかっていたから、彼女が来る前に寝室へ移動するつとりだったのに……思ったよりも長く眠ってしまったようだ。

 

 これは僕の失態だ。

 甘んじて怒られるとしよう。

 

「おはよう、メルル。今日も朝から綺麗だね」

 

「き、綺麗って……か、勘違いしないでください! 私はフォリア先生に綺麗とか可愛いって言ってもらいたくてオシャレやお化粧をしているだけなんですからね!」

 

「うんうん。相変わらず本音が隠せてないよ。全部曝け出してる」

 

「え? あ……ま、また私を騙しましたね!?」

 

「騙してないよ。メルルが勝手に言ったんだ」

 

「う、うぅ〜……と、とにかく! 話を逸らそうとしても無駄です! ソファで寝ていたことは見逃しませんからね!」

 

 残念。話をそらせると思ったのに。

 僕は両手をあげて降参を示した。

 

「それについては、本当にごめん。でも、昨晩は遅くまで作業をしていたから、寝室まで行くのが面倒でね」

 

「またですか? フォリア先生、最近は夜更かしをすることが増えてますけど……お仕事、忙しいんですか?」

 

「ちょっとね。大切な仕事があるから」

 

「……仕事よりも自分を大事にして欲しいです」

 

 僕の身を案じる言葉と心配の表情。

 メルルは両手の調理器具をエプロンのポケットに入れて此方に歩み寄り、僕の両手を包み込んだ。

 

「フォリア先生は私たちよりも身体が弱いんです。ちょっとしたことでも大怪我になるし、力も本当に弱い。本音を言えば24時間、付きっきりでお世話したいくらいなんです」

 

「流石にそれは過保護が過ぎる……」

 

「それくらい心配なんです」

 

 ぎゅっと、メルルは僕の手を握る力を強めた。

 彼女が抱えている不安や心配が伝わってきたような気がした。

 

「お願いです、フォリア先生。無理をしないでください。倒れるような真似はしないでください。先生がいなくなるのは嫌なんです。命の恩人を、家族を失うのは、もう……」

 

「……ありがとう、メルル」

 

 ここまで僕のことを大切に想ってくれていることに感謝を伝え、しかし、僕は首を左右に振った。

 

「だけど、本当にごめん。こればかりはやめられない。僕が頑張らないと死んでしまうかもしれない人が大勢いるんだ。だから、僕は何と言われようとも……頑張るつもりだよ」

 

「考えを変える気は、ないのですか?」

 

「ないかな」

 

「……わかりました」

 

 ん? やけに物分かりがいいな。

 てっきり、もっと抵抗されると思ったんだけど──。

 

「では、フォリア先生が夜更かしをする時は私も一緒にいますね」

 

「え゛……」

 

「我ながら名案ですね。先生が無理しないように監視もできるし、先生が言うことを聞かなかったら無理やり寝かしつけることもできるし……それでも駄目なら私も起き続けます」

 

「だ、駄目だよ! 夜更かしは乙女の天敵なんだから──」

 

「では、私が夜更かししないように、先生も早く休んでくださいね♪ でないと、私は倒れてしまうかもしれませんから♪」

 

「ひ、人質作戦か……」

 

 まさかの作戦に僕は頬を引き攣らせた。

 なんて狡猾。なんてズル賢い。共倒れ戦法なんて一体どこで学んだのか。

 

「フフ、でもちょっと素敵ですね。フォリア先生が無理をすると、私も無理をすることになる……人生を共にしている感じがして」

 

 ……怖っ。

 

「何か言いましたか?」

 

「いや、何も言ってないよ。メルルは今日も世界一可愛いなって」

 

「またそうやってはぐらかして! そんなに嬉しいことを言っても駄目なんですからね!」

 

 ぷんぷん。

 と、頬を膨らませてジト目を僕に向けたメルルは僕の両手を解放した。

 

「ここで話していたら朝食が冷めてしまいます。話の続きは後にして、まずは顔を洗ってきてください」

 

「う、うん。でも、この話はこれで終わりにしていいんじゃ──」

 

「駄目です。私の要求を全部飲むまで続きます」

 

「そんなぁ……」

 

 今日は大切な──世界の命運に直結する大切な仕事があるというのに、話が長くなりそうだな。僕にも譲れないところがあるので、数時間はかかりそうだ……。

 

 僕はソファで長々と寝過ごしたことを若干後悔しながら、言われた通りに顔を洗うために洗面所へ向かおうと立ち上がった。

 

「──っと」

 

 突然の立ち眩みに、僕は足元をふらつかせた。

 いきなり立ち上がったのが駄目だったらしい。咄嗟に両手を地面に向けて伸ばそうとするが、恐らくは間に合わない。

 

 まぁ、大丈夫。

 少し頭をぶつけるだけだ。確かに僕の身体は弱く、脆いけれど、治りは早い。そういう種族特性なのだ。

 

 楽観的に考え、僕は数瞬後に襲い来る痛みに備えて瞼を閉じた。

 だが、痛みは襲ってこなかった。

 代わりに──身体が受け止められた。

 

「本当に、先生は私がいないとダメなんですから……」

 

 目を開けると、至近距離にはやれやれ、と呆れ笑いを浮かべているメルルの綺麗な顔があった。とても近い。あと少しで鼻先が触れてしまいそうなほどの距離だった。

 

「ハ、ハハ……面目ない」

 

「いえ、もう慣れたことです。それに、こういう場面でもフォリア先生の役に立てていること自体は嬉しいですから」

 

「ありがとう。そう言ってくれて。もう大丈夫だよ、身体を──」

 

「駄目です。このまま洗面所まで同行します」

 

 僕を支えるためではなく、僕を拘束するものへ。

 腕の用途を変更したメルルは瞳から光を消し、少し怖い声で言った。

 

「言いましたよね? フォリア先生の身体は脆くて弱いんだって。このまま一人で先生を行かせて、また転んで、怪我でもしたら大変です。私が責任を持ってリビングまで送り届けます」

 

「いや、流石にそこまで──」

 

「先生には拒否権なんてありません。大人しく従ってください」

 

「いや、でも──」

 

「返事は?」

 

「は、はい」

 

 有無を言わさないメルルの気迫。

 古来より、男は女に敵わないものである。逆らわず、従え。さすれば汝に幸あらん。

 

 誰かが言った格言を脳裏に思い浮かべながら、僕は抵抗を諦め、彼女に支えられながら洗面所へ向かった。

 尚、洗面まで手伝われたのはご愛嬌である。

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