僕が死ぬしかないじゃない!〜世界滅亡エンドを阻止するために全力自己犠牲ムーブしてたらヒロインたちが過保護で激重なヤンデレになってた〜 作:朧 泡沫
数分後。
「いいですか? さっきも言いましたけど、フォリア先生のお身体は通常の『幻獣人』よりも格段に脆くて弱いんです。車と衝突しただけで骨は折れるし、紙の端で肌は切れるし、50キロ程度の物も持ち上げられない。根本的に生物として弱いのに、誰かのために遅くまで仕事はするし、体力の限界を超えてまで人助けをするし、自分の身は犠牲にするし……まあ、そんなところが先生の魅力ではあるんですけど、それでも少しは心配する私たちの身にもなってほしいところで──」
本当に僕を支えて……否、ほとんど抱えてリビングまで運んだメルルは朝食を取りながら、とても長い小言を僕に言っていた。
正直なことを言えば、耳が痛い。
それから長い。かれこれ10分以上続いているので、既に集中力は切れており、内容の半分以上は右から入って左から抜けてしまっている。理解できているのは、とにかくメルルは僕を心配してくれている、ということだけだ。
ありがたいことではあるんだけどね。
こんなに大切に想ってくれていることに、僕はもっと感謝しなくては。
「って、聞いているんですか? フォリア先生!」
「聞いてるよ。僕は大事にされてるって、改めて思うよ」
「っ! そ、そうです! 私は先生のことを大事に思っているんですから、これからはもっと自分のことを大切にしてください!!」
「フフ、頑張るね」
「約束をしてくださいよ! 約束を! ……まぁ、破ったら私にも考えがありますけど」
「怖いから灯してよ。瞳に光を」
フッと火の消えた蝋燭のように暗い表情を作ったメルルに若干の恐怖を抱いた。
なんか、やっぱりと言うべきか。
今回のメルルはこれまでよりと僕に向ける感情が重い気がする……今まではこれほどじゃなかったんだけど。
疑問に思いつつ、僕は朝食のオムレツを彼女に『あ~ん』とした。
俗に言う、ご機嫌取りである。
「……全く、もう」
僕が差し出したオムレツをジッと見つめたメルルは諦めに近い溜め息を吐いた後、長い髪を耳に掛け、口を開けて顔を此方へ近づけた。
だが、その直前。
「──隙あり~」
「あ゛ッ!!」
一切の気配もなく横から現れた亜麻色の髪をした可愛らしい少女が文字通り、オムレツを横取りして頬張った。
あらら、これは……また喧嘩が起きる。
僕がそう予感した瞬間、思考と行動を停止していたメルルが目を吊り上げ、亜麻色髪の少女の胸倉を掴んで揺らした。
「ちょっと、ムムナッ! それは私のオムレツなんですけど!」
「フフフのフ。この世界は弱肉強食なのだよ、メルル。差し出された瞬間に飛びつかなかった君が悪い。全部君が悪い」
「なんで二回も言ったんですか!」
「大事なことだから」
満足そうなドヤ顔で言った少女──ムムナは身体を揺らされながらも、僕に向かってピースサイン。
「大変美味であった」
「お、お粗末様?」
「そのオムレツは私が作ったんです! あと、ムムナはさっき食べたでしょ!」
「さっきのやつよりも美味しかった。何か隠し味でも入れた?」
「入れたのは愛情だけですから!」
「ハッキリ言うんだね」
思わず僕は笑ってしまった。
相変わらず本音を隠せない子だな。
微笑ましく思い、僕は再び自分のオムレツをスプーンで切り分けて掬い、メルルに差し向けた。
「はい。今度こそ」
「このこのこのこの──え?」
「あーん」
「……あーん」
メルルは今度こそ邪魔されないようにムムナを片手で押さえこみながら、オムレツを頬張った。
「どう? 美味しい?」
「……はい。流石は私、って感じです」
「ちなみに私と間接キスだけどもにゃふぁ」
メルルは余計なことを言ったムムナの両頬を摘まみ、ぐにぐにと変形させる。
これもスキンシップと捉えているのだろう。ムムナは特に抵抗することもなく、されるがままになっていた。
本当、この二人は仲がいい。
何度繰り返しても、これは変わらないことだ。
「ねぇ、フォリア」
微笑ましいのやり取りを眺めていると、ふと、ムムナが僕に言った。
「今日は出掛けるのを止めて、三人で日向ぼっこをして過ごそうよ」
「ん? どうしたの? 急にそんなことを言って」
「いや~、ほら。今日はとっても良い天気だし、のんびり過ごすのも悪くないんじゃないかな~って」
「……名案ですね、ムムナ。私もそれが良いと思います。フォリア先生は少々働き過ぎですし」
「確かに、魅力的な提案だね」
期待とは別に、切実な懇願を孕んだ視線を向けてくる二人。
素晴らしい提案だと思う。それはきっと気持ちが良く、心地が良いことだろう。労働や責任から解放され、気が済むまで惰眠を貪る。その誘惑はとても強い。
だけど、その提案には乗ることができない。
心苦しいけれど、今日の僕には、為すべきことがあるから。
「ごめんね、二人とも。今日は大切な仕事があるから」
「それは今日じゃなきゃダメなの?」
「うん。今日じゃなきゃダメなんだ」
「どうしても?」
「どうしても」
何度言われても、提案には乗れない。
今日なのだ。今日が大切な日なのだ。今日動かなければ──あの子を救うことができない。
勿論、発生する出来事に多少の違いはあるだろうけれど……日付が変わったことは、一度としてない。
だから、ムムナの誘いは受けられない。
「そっか……(本格的に監禁も視野に入れなきゃ駄目かな)」
「む、ムムナ?」
「ううん、何でもないよ♪」
小声で何やら恐ろしいことを口にしたムムナ。
今、監禁って言ったよね?
僕が戦慄しつつ名前を呼ぶと、彼女はにへら〜と笑って手を振り、誤魔化し、代わりに告げた。
「じゃあ、私たちもフォリアの仕事についていくよ」
「え? それは構わないけど……退屈じゃない?」
「退屈じゃないよ。だって、フォリアの『治療』は凄く綺麗で、カッコよくて、見ていて飽きないし」
「そうですね。先生の力は……本当に美しいですから」
メルルはムムナに同意を示す。
少し照れる。しかし、悪い気はしない。いや寧ろ嬉しい。
幻獣人にとって、種族特性──即ち力を称賛されるのは、自分の容姿を褒められることよりも嬉しいことなのだ。
嗚呼、良かった。
この子たちが、僕の力を肯定的に受け止めてくれていて。
安堵し、僕は残っていた朝食を平らげた。