僕が死ぬしかないじゃない!〜世界滅亡エンドを阻止するために全力自己犠牲ムーブしてたらヒロインたちが過保護で激重なヤンデレになってた〜 作:朧 泡沫
数十分後。
僕たちが到着したのは『レーゼナル孤児院』という名の古びた孤児院だ。
お世辞にも綺麗な建物とは言えない。本来は白いはずの外壁は長年の汚れが蓄積しているためか灰色で、屋根には長い蔦が這っている。
設置された花壇には花の代わりに雑草が生い茂っており、手入れされた形跡は見受けられない。
孤児院というよりも、捨てられた修道院と言ったほうが適当な外観。
街の子供たちの間では、幽霊が住み着いているという噂が流れているそうだが、そんな噂が流れてしまうのも頷ける。特に夜になれば、雰囲気は正に幽霊屋敷だろう。
まともな管理が行き届いていないのは明白。
だが、責任者を責めることはできない。
孤児院は基本的に寄付で成り立っている施設であり、金銭的な余裕は皆無。また人手も不足しており、孤児院で暮らす子供たちの世話をするので精一杯であり、建物のことにまで気が回らないのである。
特に、最近は寄付も減っていると聞く。
大変なのは想像に難くない。
「今日はここでお仕事が?」
「えっと……大丈夫? 何か、フォリアに対価を払えそうに思えないところだけど」
「大丈夫。知り合いの施設だし、何も報酬はお金だけじゃないんだから」
不安そうに建物を見上げる二人に言い、僕は扉をノックした。
だが──。
「……変だな」
いつまで経っても応答はなし。
誰かが出てくる気配はなく、それどころか、声が返ってくることもない。
妙だ。いつもなら扉をノックすれば数秒足らずで管理者の女性が姿を見せるのに。
変に思いつつ、僕は再びノックをする。
先ほどよりも強く、同時に声もかけて。
しかし、結果は変わらなかった。
「おかしい。返答がない」
「留守にしている、ということではないでしょうか?」
「いや、それはないと思うよ。ちゃんと今日のこの時間に窺うと伝えてあるし」
「寝過ごしているとか?」
「管理者の人は凄くしっかりしている人だから、それは流石にないと思う」
となると、何か出られない事情があるのか。
出直そうかと考えたけれど、何だかこのままここを離れてはいけない気がする。それをしてしまうと、取り返しのつかないことになってしまう気がする。
自分の直感に従うことにした僕は無礼を承知で扉の取っ手を掴み、ギギギ、と動きの悪い扉を開けて中に入った。
直後、誰も出てこなかった理由を理解した。
「──ッ! アルマさん!」
部屋の壁際に倒れていた若い女性──孤児院のシスターであるアルマさんを呼び、僕は慌てて彼女に駆け寄った。
容体は酷い。リズムが乱れた荒い呼吸を何度も繰り返し、細身の身体には一切の力が入っていない。意識も朦朧としているのだろう。辛うじて此方に向いた視線はどこにも焦点が合っていない。表現は良くないが、今にも事切れてしまいそうだった。
「ふぉ、りあ、君……」
「無理に話さなくていいです。落ち着いて、ゆっくりと呼吸を──」
倒れたアルマさんの身体を抱き上げ、今いる部屋の隣にある寝室へ彼女を運ぼうとし──気が付いた。
露わになった彼女の白い腕。
その表面に、不気味な青い斑点模様が浮かんでいることに。
なるほど、これが彼女を蝕んでいる病魔の正体。
そして恐らく、彼女だけではなく孤児院全体に──。
「メルル。ムムナ。僕が許可するまで、孤児院の中にいる人たちとは接触しては駄目だよ。君たちも病気になるかもしれない」
「病気、ですか?」
「青鱗病だ」
病魔の名称を告げ、僕はアルマさんを寝室に運ぶのを止めた。
寝かせても容体は良くならない。この場で治療をしてしまったほうが早い。
判断し、僕は彼女の身体を抱き締める。
「感染すると肌に青く細かい斑点が浮かび、高熱が続くんだ。適切な処置をしないと、10日程度で死に至る」
「「──ッ」」
「通常は皮膚接触で感染する。触らなければ問題はない」
「って、フォリア思いっきり触ってるじゃん!」
「僕は大丈夫だよ。だって──」
焦りと心配の声を上げる二人に微笑んだ僕は、抱きしめたアルマさんの頬に片手を触れさせ──次の瞬間、全身に炎を纏った。
自然界には存在しない、紫色の炎。
この炎には他者を害する力はない。燃焼力は皆無。心地良い程度の温度しか持たず、触れたところで火傷も負わない。
その代わり他の炎にはない、優しい力がある。
この炎の名称は──。
「
不死鳥。
13種の『帝王種』の内の一体。
癒しの炎を操り、死しての尚、灰となって蘇る奇跡の鳥。
かつて世界各地で崇められた、神とも呼ばれる獣の血が、僕の身体に流れている。
「僕の炎は病魔を焼き尽くし、傷を癒す。だから大丈夫。僕にこの病は感染しないし、彼女もすぐに良くなるよ」
今、紫の炎はアルマさんを蝕む病の原因を焼き尽くし、蹂躙している。どんな薬よりも効く特効薬なのだ。この炎の前で生きていられる病魔は存在しない。
その言葉通り、アルマさんの身体からは反転模様がみるみる消えていく。
呼吸も安定し、表情も穏やかなものになった。
「……っ、フォリア、くん?」
「容体はどうですか? アルマさん」
ゆっくりと瞼を開けたアルマさんに問いかけると、彼女は静かに微笑んだ。
「自分でもびっくりしてる。さっきまでの辛さが、もう全くないの」
「それは良かった。ですが、まだ少し眠っていてください。安静にしないと──」
「お願い、フォリア君」
ギュッ。
僕の服を強く握り締めたアルマさんは目元に涙を浮かべ、必死に、決死に、懇願した。
「子供たちが……病に、かかっているの。お願い、あの子達を……」
「えぇ、勿論。全員助けますよ」
誰一人死なせはしない。
約束すると、アルマさんは安心したのだろう。瞼を下ろし、すぐに眠ってしまった。
「お疲れ様です。頑張りましたね」
病魔との戦いを終えたアルマさんに労いの言葉をかけた僕は今度こそ彼女の軽い身体を抱き上げ、隣の寝室に彼女を運んだ。
簡素なベッドに横たえ、毛布を掛けた後、僕は再び先ほどの部屋に戻り……待っていたメルルとムムナにお願いした。
「申し訳ないんだけど、ちょっと頼みたいことがあるんだ」
「頼みたいことですか?」
「看病とか?」
「いや、食事を作って欲しい」
僕は調理場のあるほうへと視線を向ける。
「多分アルマさんも子供たちも、ここ数日まともに食事が取れていないと思うんだ。だから、起きた後に食べられる、消化に良い食事を作って欲しい。食器とか調理器具は全部炎で消毒しておくから、安心して」
「なるほど。わかりました」
「了解。で、フォリアは?」
決まっている。
僕のやることは、一つしかない。
「勿論──ちょっと救ってくるよ」
簡潔にいい、僕は紫の炎を片手に纏わせながら、今も病魔に苦しむ子供たちの元へと向かった。