僕が死ぬしかないじゃない!〜世界滅亡エンドを阻止するために全力自己犠牲ムーブしてたらヒロインたちが過保護で激重なヤンデレになってた〜   作:朧 泡沫

7 / 7
第7話 過保護どころじゃない二人

 孤児院を後にし、昼間とは様子が変わった夕暮れ時の街中を歩いている時。

 

「少し……疲れたな」

 

 全身に感じる疲労感と倦怠感に、僕は無意識の内に言葉を零した。

 とにかく怠い。疲労困憊で、歩くことすら億劫に感じる。硬い床であっても身体を横たえれば、すぐにでも眠ることができるほどだった。

 

「疲れるのは当然ですよ、フォリア先生」

 

 僕の呟きに、メルルが言った。

 

「一時的とはいえ、フォリア先生は命を脅かす凶悪な病魔に身体を蝕まれました。それに加えて体力を消耗する『獣化』と、それに伴う炎の酷使……そんな状態になるのは当たり前です」

 

「自分の身を犠牲にした代償ってやつだね。頑張りすぎ。今日は夜更かしは絶対に許さないからね?」

 

「わかってる。今日はすぐに眠らせてもらうよ」

 

 勿論、嘘だ。

 今夜は予定が入っている。三人目の少女に構ってあげないといけないのだ。

 それに、相談したいこともある。疲れてはいるものの、おちおち眠ってなどいられない。

 

「「……」」

 

「……な、なに? 二人とも」

 

 僕の正面に回り込み、行く手を塞ぎ、ジッと僕の顔を覗き込んでくるメルルとムムナ。

 僕が尋ねると、二人は数秒もの間そのまま、僕を見つめ──やがて、顔を見合わせた。

 

「今夜はフォリア先生と一緒に寝ましょう。コソっと仕事をしないように」

 

「名案だね。見張りは必要だし。三時間ごとに交代で寝ようか」

 

「僕は囚人か何かか?」

 

「悪いのはフォリア先生です」

 

 ムスッと頬を膨らませ、メルルは僕の胸をツンツンと突いた。

 

「私たちが何度言っても無理をするんですから。連夜の徹夜は当たり前。危険な場所にも平気で飛び込んでいくし……危険な相手に対しても立ち向かって、ボロボロに怪我をしながらも、救ってしまうし」

 

「その悪癖で助けられた私たちが言うのはあれだけど、フォリアには怪我も病気もなく、健康的に過ごしてほしいんだ。だから、今夜は監視する」

 

「拒否権は?」

 

「「……あると?」」

 

「少しでもあると思った僕が馬鹿だったみたいだ」

 

 ガックリと、僕は肩を落とした。

 僕の嘘は見抜かれていたらしい。顔に出したつもりはないのだけど……女の勘というやつか。はたまた、つい先ほど嘘をついたばかりなので、信用されていないのか。

 どちらにせよ、眠っている間も僕に自由はないらしい。

 ……仕方ない。ならば僕にも考えがある。最終手段を使うまでだ。

 

「ムムナ。フォリア先生は何かを企んでいます」

 

「大丈夫。絶対に逃げられないように手枷足枷を装着して、ついでに首輪と鎖と鉄球もつけよう」

 

「寝かせる気ある?」

 

 その状態で安眠できる者はほとんどいないと思う。

 できるとしたら日頃からそんな特殊な状況に身を置いており、慣れている者だ。残念ながら僕はそんな状況に慣れていない。安眠どころか、一晩中眠ることができないだろう。

 

 流石に冗談だよね?

 僕は縋るように二人を見るけれど、僕の期待とは裏腹に、彼女たちの瞳は本気を物語っている。何が何でもベッドに縛り付け、強制的な睡眠を取らせる気満々だ。

 待て待て待て、待って、本当に。

 そんなことをするなら逃げるぞ僕は。縛られると逃げたくなるタイプなんだ。

 ガチガチに拘束されるくらいなら、森の中で眠ったほうがマシな気がする。

 

 強制寝かしつけガチガチ拘束計画を立てる二人の隣で、僕は完全自由気ままに逃亡計画を立てるのだった──と、その時。

 

「何処に行きやがった、あの小娘ッ!!」

 

 少し離れた通りの端。

 そこに集った黒いスーツの集団から、怒号が聞こえた。

 

「まだ見つからないのか!」

 

「ど、何処にもいないです」

 

「クソがッ! 明後日のオークションの目玉商品だぞッ! 何としてでも見つけろッ! でないと俺たちは全員化け物の胃袋に直行だ!!」

 

 恐怖と焦りを孕んだ怒号で指示を出し、黒いスーツの男たちは八方に散っていった。

 周囲の人々は一体何事かと関心を寄せているが、彼らの風貌から関わってはならない立場の者たちであると判断し、極力視線を向けないようにしている。反感を買えば、大変なことになると。

 

「凄く叫んでいましたね。どうしたんでしょう」

 

「見た目も話の内容も、関わったらダメな人たちだよ」

 

「そうだね。小娘とか、オークションとか……人身売買に加担しているように思える」

 

 法整備が急速に整った現在、人身売買は禁止されていることだ。

 如何なる理由があれ、人を商品のように売買することは禁止であり、発覚すれば重罰に処される。

 

 だが、現実としては裏社会の者たちが現在も人身売買を行っており、非合法オークションなどで活発に取引されている。大抵は表社会の権力者も関わっているため、安易に逮捕することもできないのだ。

 

 競売に掛けられ、また誰かに買われた者の人生は碌なものにならない。

 何とか助けてあげたい気持ちはあるけれど……現時点で、僕たちにできることは何もない。無事を祈ることしかできないのだ。

 

 いつまでもこの町にいると、面倒ごとに巻き込まれてしまう。

 嫌な予感がした僕は二人に『早く帰ろう』と言い、歩く速度を速めた──が。

 

「──ッ!!」

 

 視界の端に映った路地裏。そこに積まれた幾つもの木箱の陰。

 少女だ。海のように蒼い髪をした小さな女の子が、何かから逃げ、隠れるように潜んでいた。

 

 一目見た瞬間に確信した。

 間違いない。絶対そうだ。

 あの子こそ、彼女こそ、今日僕が待ち望んだ少女だ。

 

「ちょ──」

 

「フォリア先生!?」

 

 心よりも先に身体が動いた。

 共に歩いていた二人には何も言わず、僕は進行方向を変えて路地裏へ一直線に走った。疲労感も倦怠感も忘れて、なりふり構わず直進した。

 

 呼び止められるが、僕は止まらない。返事もしない。

 悪いけれど、それどころではないのだ。恐らく、あの黒いスーツの男たちが探していたのは彼女だ。なら、奪われるわけにはいかない。奪われる前に、僕が奪わないと。

 

「──ヴィレアッ!」

 

 路地裏に飛び込んだ僕は叫び、勢いそのままに、少女を抱き締めた。

 力強く。離れてしまわないように。消えてしまわないように。

 

「……誰?」

 

 突然僕に抱きしめられた少女──ヴィレアは特に驚いた様子もなく、興味なさそうに、呆然と小首を傾げて僕に尋ねた。表情には、瞳には、欠片の気力が見られない。希望が全く感じられない。深い悲しみ、絶望。それを嫌というほど味わった。そんな風に見受けられた。

 

「大丈夫……もう、大丈夫だから」

 

 僕は彼女の質問には答えず、ただそれだけを告げた。

 この世界の彼女がどんな人生を歩んだのかはわからない。どれほどの悲劇を抱えているのかも、どれだけ心が壊れているのかも。

 

 だが、この言葉を言わずにはいられなかった。誓わずにはいられなかった。

 僕が傍にいる限り、君に辛い思いはさせない。

 絶望させない。苦しませない。悲しませない。

 今いる暗闇の底から、救い出して見せる。

 

「──見つけたぜ、クソガキッ」

 

 背後から聞こえた声は、先ほどの怒号と同じもの。

 振り返ると、黒いスーツの怖面の男が此方に銃を構えていた。いや、正確には──僕にだ。

 

「邪魔だ、小僧。死ね」

 

 殺意すら籠っていない、淡々とした声。

 それだけを告げ、男は何の躊躇いもなく引き金を引いた。

 

 響き渡る銃声。

 だが、射出された弾丸が僕に命中することはなかった。

 何故なら──僕と男の間に現れた白い何かがそれを受け止め、弾いたから。

 

『──誰に銃を向けているので?』

 

 頭上から響き渡った、乙女の声。

 それは聞き慣れたメルルのものだったのだが、今の彼女は、先ほどの彼女とは全く違う。

 

 蛇だ。

 純白の鱗に全身を覆った、巨大な白蛇。今のメルルは太古の時代、誰もが恐れた蛇の帝王──バジリスクの姿をしていた。

 硬質な鱗は鉄をも容易く超える高度。

 弾丸など、通しはしない。

 

「ば、バジリ、スク……ッ!?」

 

「化け物だッ! 化け物ッ!」

 

 遅れて到着した黒いスーツの男たちはメルルの姿を見て恐れ慄き、口々に酷い言葉を叫ぶ。

 感性の悪い者たちだ。この姿は、とても美しいのに。

 安堵に胸を撫で下ろし、僕はそんなことを思いながら、メルルの身体に背を預ける。と、彼女は僕の身体を支えながら、怒りに満ちた声で告げた。

 

『私の大切な人を害そうとした罰です。甘んじて──石になりなさい』

 

 反論も反抗も抵抗も許さない、絶対的な裁定。

 『帝王種』の一体、バジリスクを蛇の帝王たらしめる力。それは解毒不可能な猛毒だけではない。

 代名詞とも呼べる力。

 それは──石化の魔眼だ。

 

 気が付いた時には既に遅い。

 逃げ出すこともできないまま、黒いスーツの男たちは一人残らず、物言わぬ石像と化してしまった。




申し訳ないですわ
一話あたりの文字数が長すぎましたので、分割させていただきましたわ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。