名も無き部員が勇気を出して、捉えた真実。
やはり、あいつらは「芸術家の皮を被った悪魔」だ。
「お前も怖かったよな、先輩があんなことしていたのは。だが、その恐怖さえ乗り越えて決定的瞬間を収めた」
「俺は、お前の勇気に改めて敬意を表するぜ」
俺はその部員を心から称賛した。
間違いなくこいつは今の俺達にとっての光そのものだった。
「さぁ、出山の下へ向かうぜ!」
俺は部員を連れて、出山のいる教室へ向かった。
「おい、出山」
「……何だ、俺はもう言い訳なぞ聞きたくない。機嫌を損ねる前に早く俺のもとから立ち去れ」
「……なら、一つ頼みがある。俺は嘘をつくのが嫌いだし、つかれるのも嫌いだ。俺の顔を見て、嘘をついていると思ったら、お前は迷わずに俺を殴れ」
俺は自分の顔を指差し、嘘をついていると思ったら殴れと言い放つ。
「……!!」
「えっ……!」
「海賀くん……! いきなり何を言って……!?」
当然、出山と部員をはじめ、その場にいた全員が驚く。
「何を手間取っている、来い……!」
「……!」
出山は拳を握るが、その場で固まった。
暫くして……
「殴れるわけがないだろ……! お前の目は少なくとも嘘をついているようには見えねぇ。この言葉は嘘なんかじゃねぇ……」
体が震えだした。目には涙が溢れていた。
「……」
「良かった。お前の言っていることは嘘じゃない。これなら、あのことも話せるな」
俺は出山の言葉を聞いて安心した。
そして、遂に真実を話すときがやってきた。
「あのこと……?」
「協力者を連れてきた。出番だ」
「う……、うん!」
「実は……」
部員が出山にスマホの画面を見せる。
「こ……これは!」
絆を引き裂くための巧妙で悪辣な手口を見せられた出山は動揺していた。
「……海賀。すまねぇ……俺はお前の言葉じゃなく、あいつの嘘を信じちまった……!」
「お前は悪くない、出山。悪いのは全部、あの嘘つき野郎共だ。……姉貴の結婚式まであと少ししかねぇ。俺の絵を汚し、藤尾先輩と姫乃先輩の仲を引き裂き、お前との友情を弄んだ『ペテン師』に……然るべき報いを与えてやる!」
「あぁ…!」
俺は無意識に出山に手を差し伸べた。
出山も俺の手を強く握った。
そんな中、誰かが駆け足で俺達に向かってくる。
「榎本くん、出山くん!」
「姫乃先輩!?」
俺達の下へ駆け寄ってきたのは姫乃先輩だった。
「どうしたんですか? 何かあいつに……!」
「違うの……。お願い、私にも手伝わせて!」
「!!」
「藤尾くんの音声が嘘だって、その子から聞いたの。主戸先輩に逆らうのは本当に怖い……でも、あのまま操り人形みたいに生きるのはもっと嫌! 藤尾くんを……私たちの関係を取り戻したいの!!」
「姫乃先輩……。分かりました、この榎本海賀と……」
「出山修が一肌脱いで見せます!」
「ありがとう……!」
姫乃先輩の目には感謝の涙が溢れていた。
そして、燃え盛る正義の心を胸に反撃を決意した。
(部員の正義……、姫乃先輩の想い、出山の熱意、俺の心はそれで満たされている。だが……あと一押し、最終手段を使うか……)
俺は心の中である作戦を思いつく。
__翌日の昼休み。
俺達はある作戦を実行するために放送室に集まっていた。
「いよいよだな」
「あぁ、天誅を下すこの瞬間をどれだけ待ちわびていたか」
放送室のボタンを押し、作戦の実行を開始した。
昼休みの教室は賑わっていた。
突如として、スピーカーにノイズが走り俺の声が響き渡る。
彼からは見えなかったが、古志と主戸はギクッと驚いていた。
「__彩ヶ原高校の皆さん、お昼休みに失礼。美術部の榎本海賀です。本日は特別番組として、我が美術部が誇る偉大なクリエイター達の裏の顔を暴露しちゃいたいと思いまーす!」
「な、何やってんだ!? あの泥棒猫ォ!」
「今回は特別番組というわけでスペシャルゲスト2名様にお越しいただいています。俺の自慢の姉貴、榎本斗亜さんです!」
俺は姉貴を電話で呼び出した。
当然、その場にはいないが、マイクを通じてその声を響かせた。
「初めまして、彩ヶ原高校の皆さん。榎本海賀の姉です。……古志銀蔵くん、聞こえているかしら?」
「え……俺?」
「あなた、私の弟の絵をAIに盗作させた挙句、それを自身の絵だって言い張ってるそうね?__身の程を知りなさい。自分の実力で勝負せず、盗作だなんて人間性以前の問題よ。……妄想は程々になさい。みっともないわよ」
「あ……ぁぁぁ……! うわぁぁぁ……!!」
斗亜の正論に古志は発狂して、教室を出た。
「ありがとな、姉貴」
「弟のピンチには手を貸す、姉として当然よ」
「あともう少し、頑張って」
「あぁ!」
姉貴に感謝した後、電話を切る。
片割れは倒した。
いよいよ、最終決戦だ。
「さぁ、2人目のスペシャルゲストです! この方は俺と同じ美術部に所属しています。そんな彼のメッセージを是非とも最後までお聞きください!」
俺のテンションは今までないほどに最高潮に達していた。
「はい……。皆さん、こんにちは。今日は皆さんに伝えたいことがあって、この場をお借りさせていただきました。」
「こちらをお聞きください」
「『榎本海賀の絵は邪魔だ。こんなもの芸術にもなり得ない。藤尾のやつもだ。姫乃亜紀は僕についていけばいいものを……』」
「なッ……!?」
「『これで榎本も出山も一発退場だな。藤尾の音声データも完璧だ』」
主戸のもとに周囲のクラスメイトから冷ややかな視線が一斉に集まった。
「ちょ……ちょっと待ってくれよ……なにを根拠に、そんな……。僕がそんな浅ましいことをするはずがないだろッ……!! おい! 僕を見るな、僕の言うことを信じろッ!!」
呼吸が荒くなり、余裕に満ち溢れた表情が完全に崩壊した。言葉も乱れ始めた。
「おい……! 今すぐその放送を消せ!! 捏造にも程があるぞ!!」
「これは嘘ではありません。主戸先輩は藤尾先輩に対し、圧力をかけていました。姫乃先輩を奪い取るためにいつも……。僕はただそれを見つめることしか出来ませんでした」
「ですが、それはもう昔の話……。榎本海賀くんからは主戸先輩を許さないという気持ちが溢れていました。僕はそんな彼のために、先輩の一連の行動を動画に収めました。」
「おい、どういうことだ? 主戸!」
「サイテー!」
「まっ……待ってくれ! これは誤解だ!!」
「主戸先輩、この場を借りて言わせていただきます。あなたに支配される生活なんてうんざりだ!! 他人の気持ちを愚弄して、作品まで侮辱する……そんな人がリーダーなんて僕は認めません! まっぴら御免です!」
「よく言った!」
部員の熱弁に教室中は称賛の言葉に満ちた。
「ぐっ……!」
立場がなくなった主戸と古志は逃げ出した。
「あっ……! 逃げた!」
「くっそぉ……あいつら、ただでは済まさ__」
主戸の言葉が途切れた。
彼の眼の前にはパイを持った海賀と出山が立ち塞がっていた。
「く、榎本……! 出山……! どけ、僕を誰だと思っている!」
「誰だって? 嘘で人を操ることしか出来ない、ただの哀れな嘘つき野郎だよ!」
出山が啖呵を切り、俺は早速ある準備をする。
「そういや、主戸、古志。お前らは『現代アート』だの『真の芸術』だのぼやいてたよな?」
「ま……待て! それで何を!?」
「決まってんだろ? これが俺達の示す『芸術』だッ!!」
そう言って俺はパイを2人めがけて勢いよく投げた。
「ぶふぉっ……!?」
生々しいクリームの付着音が却って、爽快感をもたらした。
「ハーハッハッハッハ! 見ろよ出山、傑作だな! これぞ感情の爆発、『現代アート』の最先端だろ!」
「あぁ、間違いないな! これこそが俺達の『真の芸術』だ、ざまぁ見やがれ!」
俺達は無意識に悪魔のような笑い声を響かせていた。
主戸と古志は生まれたての子鹿のように震えていた。
__そして、時は過ぎ去り。
(事件の後、主戸と古志は退部こそしなかったものの、完全に権威を失い、部室の片隅でしずかに過ごすようになった。一方、姫乃先輩は藤尾先輩と再び幸せな関係を築き始めた。2人は廊下ではにかみながら手を繋いでいた。)
(俺は出山とともに長い時間をかけて、遂に__)
「本当に退部届出しちまうんだな。俺もだが」
「あぁ。嘘だらけの魔境だったが……お前っていう本物の相棒に出会えたし、結婚式用の絵もお前のおかげで最高のが仕上がった。もう、ここに未練はねぇよ」
「……だな。ありがとな、海賀」
「姉御さん、きっと喜ぶぞ。元気でな」
「あぁ……」
俺は出山と拳をぶつけた後、別れた。
だが、離れていても出山は俺にとって最高の相棒であることには変わりなかった。
__そして、6月の結婚式当日。
清々しい青空。式場の控え室の前。俺の手には、布に包まれた大きなウェディングボードがあった。
(__俺を信じてくれたたった一人の姉貴へ。
嘘偽りのない、俺の全力の感謝を込めて)
ドアノブに手をかけ、力強く一歩歩みだした。
__イメージCAST__
榎本海賀-夏目響平
榎本斗亜-長谷川育美
出山修-畠中祐
姫乃亜紀-上田麗奈
主戸武生-平川大輔
古志銀蔵-奈良徹