前回はシリアスたっぷりだったので、ギャグを書かせてください!!…なんですか?クソまみれのフグリ君?知らない子ですねえ…。
「おわあっ!?それ、重くないの!?」
「わはは!これくらい、羽根程にも感じんよ!」
サンブリテニアが屋敷から担いで来たのは、大量の椅子と机。彼女の背丈の十倍を優に超える荷物を見て、ライラックが心配そうに駆け寄った。それを笑い飛ばしながら、領主は常と変わらぬ口調で発する。
「シャクヤク」
「畏まりましたわ」
「わぁあ〜っ!」
指示を受けたメイドが答えると、瞬きの間すらなく荷物は綺麗に並べられた。見事に宴会の舞台を作り上げた主従へ、少女は目をキラキラさせて尊敬の眼差しを送る。
「二人ともすっごい!かっこいい!!」
「おう。そうだろう?なんせ私と、自慢のメイドだからなっ!」
「ふひひ。そう引っ付かれては困りますわ、ライラック様」
「様なんてやめてよ。もうっ!二人ともあだ名で呼んでくれないよね!」
気をよくする主と、気味の悪い鳴き声を出す従者。従者の対応や主の今までの態度を思い返して、少女はプクッと頬を膨らませる。
「ああ、お客様がお怒りに。お嬢様、ここはご要望を受け入れるべきかと」
「ん。分かったよ、リラ。これでいいか?」
「うん!仲良くなった人には、そう呼ばれたいの!サニィは嫌だった?」
「別に嫌ではないが、領主としての立場がなあ……。あ?サニィだと?」
「サンブリ……?じゃ長いもん!だからサニィ!」
「全く。貴様らが来た宿と言い、懐かしい事を思い出す日だ」
無邪気に抱きついて来た少女を受け止めて、領主が優しく腕を回して渾名で呼んだ。少女は満足気に頷くと、領主の胸に顔を擦り付ける。擽ったそうに身を捩る領主だが嫌な顔はせず、懐かしそうに微笑んで少女を撫でた。
「アッヒャッ!!!」
「シャクヤク〜!?」
メイドが鼻血を吹く。その勢いたるや間欠泉の如く。彼女は奇声を上げながら、ジャーマンスープレックスを食らったかのような動きで、地面に頭部を強かに打ち付けた。
「な……。なあ、このメイドさん大丈夫なの?」
「うーむ。シャクヤクは他の
「そっかー。それは心配だね」
「ああ、可愛い娘のような物だからな」
能天気な事を言う二人の幼女に介抱されるメイド。無防備な柔肌が彼女に触れる度に、鼻血がドバドバ吹き出る。
「そうでしたわ、お客様」
「へっ?あたい?寝てなくていいの?」
「そんな事よりも、やるべき事が残っています」
むくりと起き上がった彼女は、少女の元へ歩み寄る。そして、ぎゅっと抱き締めた。
「他人行儀で悪かったわね、リラちゃん。これで許してくれないかしら?」
「えへへー。いいよ!許してあげる!」
「おぉう……。幼女特有のミルクのかほりィ……!」
少女の胸に顔をうずめたシャクヤクは、鼻息荒く深呼吸する。彼女は大変な変態でしかないのだが、少女は病弱なメイドさんが無理をして気を使ってくれたとしか思っていない。
「ありがとう!シャクヤクさん、だーい好き!」
「おっほぉぉお!やっべえ!みなぎってきたああ!!」
慈しむようにサラサラの銀髪を撫で梳く。シャクヤクの神経が少女の柔らかな指の感触を覚える度に、世にも悍ましい嬌声が漏れた。そんなSAN値を削る光景を見ているのは、サンブリテニアしかいない。そして彼女の家族愛フィルターにかかれば、ライラックと同じような感想しか出て来ず、思わず涙ぐむ始末だ。憲兵さん、早く来て下さい。
「さて。これより始まるは、武を競った者たちを讃える宴会だ。関係者は、全員参加してもらいたいのだがな?」
彼女たちから視線を外したサンブリテニアが、何気ない口調で呟いた。途端に彼女を起点に膨大な圧力が発散される。それに敵意などない。殺意など毛ほども込められていない。村人やウルフはそれを軽く受け流しているが、余所者であるライラックたちは全身が総毛立つ程に驚愕する。村よりほんの数m離れた茂みが揺れ、中で村の様子を窺っていた存在がビクリと身体を震わせる。だが、彼女の目はそれらを見ていない。
「何だ、来ないのか。ああ、老いた貴様に酒宴は酷だったか?」
肩を竦める領主。彼女が見詰める先は、何も無い虚空。強いて言うならば、遠くに山が見えるだけだ。その頂上から、小さな影が飛び立つ。いや、それは断じて小さくなどない。そもそも遠い山にいる存在が、僅かにでもシルエットを見せる事がおかしい。ソレは瞬く間に月を喰らい、村に黒い影を落とす。影が消え月の光が再び村を照らすと、巨大な獣が領主の目の前に音もなく降り立っていた。
「十年少し会わない内に、またバカデカくなった物だな。貴様を見ていると首が痛いぞ」
「ばふ」
それは、美しい毛並みの雌のウルフだ。2m程ある視点の高さで、周りを見下ろす。戦いを終えて寛いでいたウルフたちは、彼女が現れた事で、弾かれたように立ち上がった。誰もが息を飲み声を出せぬ中、揶揄うような口調で話しかけたのはサンブリテニアだ。彼女に声をかけられた老狼は、目線を合わせるように地に伏した。
「くく、貴様も食って行け。人族の料理は久しぶりだろう?」
「わおん」
「ん。暫く待つがいい。だが、後で話は聞かせろよ?」
それだけ言い残すと、老狼に背を向けて歩き出して軽く手を振った。そんなキザな振る舞いでカリスマを演出する領主に食ってかかったのは、彼女の弟だ。
「お姉様!何なんだよ、あのデカい化け物は!?」
「あん?何だフラン、お前知らなかったのか?あんなにウルフの匂いを付けて帰って来るもんだから、てっきり奴らに遊んで貰っている物だと」
「知らねえよ!?そもそも、ウルフなんて今まで遠目に見たことしかねえっての!」
弟の血相を変えた言い分に、姉は人差し指の側面を顎に当てて考え込んだ。
山に足を踏み入れた者を警戒するにしても、それなりの頻度で足を運ぶ少年を、いつも監視するのはおかしい。それに狩りに慣れた者が、ウルフのテリトリーに無遠慮に近付く愚行を犯すとは思えない。そこまで思案して、ようやく領主は思い至った。
「ハッ、貴様の世話焼きは変わらんなあ」
「わふっ」
ニヤケ面を向けて鼻で笑う領主。フランクリーは監視されていたのではない。ウルフたちに見守られていたのだ。凶暴な生物は牙を以て排除して、少年が崩れそうな地面に向かおうした時にはマーキングで危険を知らせて。
礼を素直に言う間柄ではないようで、揶揄うような目線を送り付ける。それを受け取った老狼は、鬱陶しそうに一鳴きして顔を逸らした。
「おいおい、照れるなよ。可愛い弟を守ってくれてありがとうな?」
「グルルル……!」
調子に乗った領主がズカズカ歩み寄って、威嚇する獣の頬を撫でようと手を伸ばす。そして老狼は、その腕に噛み付き、天高く投げ飛ばした。
「う〜!?」
「お姉様ぁーッ!?」
「おじょーさまー」
満月を背景に絶叫する領主。その従者と弟も声を上げる。ただし、シャクヤクは棒読みだ。彼女のスピードと早業があれば、落下する主を受け止める事など容易いが、そうはしない。だって、その方が面白いと思ったからだ。それに、主はワンピースのようなドレスを着ている。上手く地面に突き刺されば、衣服の下に纏うドロワが丸見えになるだろうと、完全で瀟洒な従者を自称する彼女は企んだ。
煩悩に塗れたメイドとは違い、フランクリーは姉を助けるべく動こうとした。しかし、のっそり起き上がった老狼に行く手を阻まれる。
「な、何だよ……?わわっ!?」
身構えた少年の腕をすり抜けて、老狼が彼の顔を一舐めした。本人、と言うか本狼的には子供たちに行う毛繕いと同じく、軽い挨拶のような積もりだが、小さな身体の少年は顔中を唾液濡れにして地面にへたり込んだ。
「貴様ぁ!人を玩具のように扱いおって……!おい!弟を誑かすなあ!?」
「わう……?」
上半身を泥まみれにした領主がキーキー、或いはうーうー癇癪を起こして怒鳴り立てる。ふかふかな地面の畑へ投げ飛ばしたのは、せめてもの老狼の思いやりだろうか。そんな領主へ彼女が送る視線は、馬鹿を見るような目だ。領主を見守って、満足気に鼻血を垂らす従者にも向けているような気がする。
「ふふふ……、そうかそうか!腹を空かす為にも、少し運動しよう!表出ろやこらあっ!!」
「がる……!ばおんっ!!」
喉を鳴らして不気味に笑う領主は、拳を逆の手で握り込み関節から音を立て歩み寄る。ニヤリと笑った老狼も、領主に同調するように足を進めた。雄叫びを上げて、ドレスの袖を捲り上げた領主。殴りかかろうとすると言う事は、ここが表である事は分かっているのだろう。
「お止めください。配置した食卓が吹き飛びますわ」
「バウバウ!バウッツェル!?」
剣呑な雰囲気を撒き散らす彼女たちへ割って入るのは、従者と若きボスだ。だが彼らを気にも止めず、領主と老狼は前進する。
「あぁんっ!お嬢様ったら激しいですわあ!」
「パピモッチぃ!?」
領主が軽く腕を振り、老狼が少し身動ぎする。それだけで、場を治めようとした二人は吹き飛ぶ。まさに、鎧袖一触の力の差。
世界の中央には、誰も立ち入る事の出来ない瘴気の島がある。そこには、雲よりも高く頂点が見えない、シボレー・コルベ塔が聳え立つと言う。
彼女たちのプライドは、ともすればそれよりも高いのかもしれない。普段は大らかで大抵の物を受け入れる彼女たちだからこそ、一度火が付けば治まる事を知らない。この戦いは、最早誰にも止められないのか。
「もういいだろ!アンタらが本気でやり合ったら、シャレにならないって!!」
しかし希望はまだ潰えない。勇敢なドワーフの少年が、グラウンド・ゼロもかくやな二人だけの世界に飛び込んだ。
「いいや、先に仕掛けて来たのは向こうだ。私には一発ぶん殴る権利がある」
「アホか!そんなん、どっちだっていいわ!!お姉様のアホっ!」
「ぐふぅっ……!?」
「アンタもアンタだよ!いきなりやって来て喧嘩するなんてさ!バッカじゃねえの!?」
「わふぅっ……!?」
紅玉のような目を潤ませて、両者へ捲し立てる少年。彼自身も頭に血が上って何を言っているか分かっていないようだが、その台詞の全てが彼女たちの精神へクリティカルヒットした。
「ちっ……、今日だけは弟に免じて引き下がってやる」
「ぐるる……、ばうん」
互いに忌々しそうに見つめ合った彼女たちは、それぞれ距離を取ろうとした。
「あくしゅ!!」
「……あん?」
「仲直りしたら、握手だろーがっ!」
「わぉ……」
ついに涙腺を決壊させてしまった少年が、離れようとした彼女たちを叱咤した。
どんな強敵が相手でも正面から苛烈に戦うドワーフの女王は実に嫌そうに、風よりも速く走り抜けるウルフの女帝は亀よりも鈍間な動作で、互いに歩み寄る。
「ほ〜ら、フラン。私たち仲良しダヨー?」
「わおお〜ん?」
「む〜……。仲良しならもっと笑えるだろ」
女帝が前脚を上げ、女王がそれを手袋をしたままに握る。高位の冒険者が使用するナイフよりも鋭い爪が女王の肉に食い込み、彼女は女帝の脚を握り潰さんと力を込める。そんな無音の攻防ならぬ攻攻を、二人共に全く表情には出さず、ただの苦笑いで少年の顔色を伺う。
彼女たちの浅い考えなど、少年はお見通しだ。ジトっと視線を向けられると、二人は眼前の敵の事など思考から放り投げて、表情筋のコントロールに全力を捧げるしかない。
勇猛なドワーフも泣く子には敵わないが、誇り高きウルフも同じである。結局の所、彼女たちは似た者同士であり、頭の中では「覚えてろよ」と互いに罵倒し合うのだった。
お疲れ様です、鈴木です。シャクヤクさんはいくらでも暴走させていい気がする、今日この頃です。
はい。宣言通りのギャグ回です。ついでに、新キャラを出しました。これで村側の戦力は、あらかた出尽くしましたかね?やっぱり、もう1人くらい出したいなぁ…。つまり、登場回にギャグを挟むって事でして…。ダメ?そんなあ。
分かりましたよ!次回は予告通り、シリアスを書こうじゃないですか!!鈴木の本気を見せますともっ!!!
11話はシリアス回です!覚悟の準備をしておいて下さい!いいですね!!
鈴木でした。11話は本当にシリアスだよ!もしシリアスじゃなかったら、木の下に埋めても構わないよ!