ROMANCE MEMORIES   作:誤字る小説家鈴木

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ババーン(AA略)


宴に現るは、謎の眼鏡メイド

「うわああぁ〜!でっかい!もふもふ〜っ!」

「ふわふわ!やわらけーっ!!」

 

 サンブリテニアが重圧を放ったその瞬間から、冒険者たちは動けなくなっていた。その中で最も早く立ち直ったライラックが、フランクリーと共に全身でウルフの女帝にじゃれついていた。普通ウルフは警戒心が高く、他の動物が引っ付く事など許す筈もないが、彼女は気にした様子もなく小さな二人を受け入れている。大きくてかっこいい物に惹かれるのは、子供としての性なのだろうか。彼らは無邪気に、毛皮に埋もれている。

 

「ねえ、リラ。……危なくないの?」

「大丈夫だよっ!ねー?」

「なー?」

「わふん」

 

 好奇心を抑えきれない様子で、ライラックに尋ねたのはネモだ。テンションが上がっているからか、いつもより語彙力を失った二人が答える。それに同調するように、女帝が小さく鳴いた。勝手にしろ、とでも言いたげである。彼女らの気の抜けた声によって決心したネモは、恐る恐る白銀の毛に触れた。

 

「うわあ……、すっごい。厚手のタオルみたいだけど、あったかい……!」

 

 初めはそっと、噛み付かれない事が分かると大胆に感触を確かめる。その毛並みば柔らかで、よく手櫛が通る。ずっと触れていたいが、彼女の温かさを堪能しすぎると、少年少女のようにダメになってしまうだろうと思い直す。ウルフの背に身体を預ける二人は蕩けている。

 

「そんなにいいの?なら僕も触ってみようかな?」

 

 仲間たちが感動しているのを見て、興味を持ったフグリが女帝の元へと一歩進む。

 

「ガオンッ!!」

「えぇっ!?なに!?なんで!?」

 

 そして全力で吠えられた。サンブリテニアと喧嘩していた時の物とは違う、ガチモンの敵意である。

 

「『臭いから寄るな!』だとよ」

「嘘でしょ!?ちゃんと洗ったのに!」

「あのなあ、ウルフの嗅覚を舐めるなよ?川で洗った程度で誤魔化せるか」

 

 女帝の言葉を訳した領主がフグリに伝える。ウルフは脳が大きく、それ故知能が高い動物だ。その中でも取り分け巨大な彼女は、匂いの嗅ぎ分けも優れている。

 

「うう……、ごめんね?そんなに臭いのかな……?」

「わん」

「『臭い』だとよ」

「今のは訳さなくても分かったよ!チクショウっ!!」

「『ウンコ臭いぞ、クソ野郎め』だとよ」

「それはアンタの思いだろ!だって彼女は喋っていないもの!!」

 

 青年の渾身のツッコミは無視され、領主は優雅にワインを嚥下する。ゆっくり味わってからほっと息を吐くと、女帝の何かを期待するような眼差しと視線が合った。女王と女帝は長い付き合いだ。一瞬のアイコンタクトのみで、彼女たちは通じ合った。

 

「悪いなあ。だって、数分前までウンコまみれだった男と、食卓を共にはしたくないだろう?」

「わふわふ、わおん」

「『本当よねー、匂いって最低限のエチケットじゃないかしら』だとよ」

「何でいきなり女口調なんだよ!もう嘘丸出しじゃないか!ウルフさんは、そんな事思ってないやいっ!!」

 

 藁にもすがる思いで、フグリは女帝を見詰める。送られる視線に彼女は真っ直ぐに答えた。嘘を着いていない輝く眼差しが、彼を射る。なんかドSだけど。真っ黒に輝いてるけど。それでも彼女の意思は、真剣その物だった。

 

「屋敷にシャワールームがあるから、使って来い。着替えも、メイド服ならサイズには困らないだろう」

「うわあああん!お前らなんか嫌いだああぁぁぁっ!」

 

 滝の涙を跡に引きながら、青年は屋敷へ疾駆する。青年の背中を、二人のドSはにんまり笑って見送った。

 

「なあー、流石にアレは可哀想だよー」

「そーだよ、二人ともやりすぎだぜー」

 

 少年と少女は、未だふかふかの毛皮でダメになっている。ぐでーっと垂れきった状態で、彼女らを非難した。

 

「いやあ、つい楽しくなってな?」

「わおーん、がふがふ?」

「うっわぁ、息ぴったり……」

 

 悪びれもせず形だけ謝る二人へ、ネモが呆れた声を上げた。

 酒と料理が用意され、ムラーノ村で豪勢な宴が催される。フランクリーがライラックの手を引き、美味しい食べ物を紹介して回る。ネモが村の若い男たちに言い寄られ、照れ臭そうにしながら彼らを遇う。さらっと男たちに混じって口説いていた農夫は、伴侶に耳を引っ張られ連れ去られた。ウルフたちも、フランクリーが狩った猪のソテーに舌鼓を打つ。

 そんな光景を満足気に見ていたサンブリテニアとウルフの女帝が、屋敷から慌ただしく走って来た者がいる事に気付いた。

 

「ねえ!ホントにメイド服しかなかったんだけど!?」

「わっはっは!存外似合うじゃないか!宴会のいい余興だな!」

「ばうばう!わふっふ!」

 

 足音の主を確認しようと彼女たちが振り返ったところ、その人物が声を荒らげた。フリフリのメイド服は、主の要望によりスカート丈が短くなっている。そこから覗く生足が眩しく、少しでもそれを隠そうと裾を引っ張る姿がいじらしい。顔を羞恥に染めて目に涙を浮かべ、笑い転げる彼女たちを睨むのは、村を救った英雄の一人だ。

 

「大丈夫だ。その手の店でも金が取れるくらい、似合ってるぞ」

「わあい!?服装を褒められて、こんなにもムカつくのは初めてだあ!!」

「わふう!わおーんわおん!!がうがう!?」

「……、なんて言ってるの?」

「『ロングコース!貴女なら何回でもイけるわ!!逆アナはできる!?』だとよ」

「いい加減にしろよ、アンタら!?」

 

 半ギレ半泣きで、酔いどれ共へ喚くフグリ。そんな姿が、彼女たちの嗜虐心と庇護欲を掻き立てるのだと彼は気付かない。子供が酒と料理に夢中で聞こえないのをいい事に、えげつない下ネタで彼を弄り倒す。だが突然に「飽きた」とだけ告げられ、彼は放り出された。

 

「何なんだよ……。全く、今日は厄日だ」

 

 ズレた眼鏡を直して、気持ちを切り替えようとしたその時、彼は最も会いたくない者たちに出会ってしまった。顔を引き攣らせながら、彼らを見やる。目の前には三人の少年少女。

 

「ほわあぁぁ……。とっても綺麗なメイドさん!」

「むぅ……!」

「ねえ、貴女もしかして……?いやいや、それはないか」

 

 目をキラキラさせて彼を見上げるのはライラック。そんな彼女をつまらなそうな視線で睨むのは、領主の弟フランクリーだ。

 少年には声を大にして教えてあげたい。君の気になる人を盗る気はないから、安心して欲しいと。だが、フグリにそれは不可能だ。声を出そう物なら、正体がバレてしまうかも知れない。なんと言っても、実の妹が気付きかけている。それだけは、彼にとって避けなくてはならない死活問題だ。彼は自身の名誉を守るため、180度方向転換して歩き出した。

 

「ねえ!あたいライラック・シリンガーって言うの!一緒にデートしよ?」

 

 そんな彼の手を取って、少女が声をかける。名乗らなくても知ってるよ!とフグリは叫びたくなった。喉まで出かかった声を必死に飲み込む。今までツッコまずにいた少女の女好きを放置していた事を、彼は今更になって激しく後悔した。

 

「むぅぅぅ〜……ッ!!!」

 

 何で男が女装姿を、男に嫉妬されているんだろうか?フグリの疑問に答えを出せる者など、誰もいないだろう。そんな意味の無い事を考えて現実逃避していた彼は、忍び寄る足音に気付かなかった。

 

「随分可愛らしくなってるじゃない。お 兄 ちゃ ん?」

 

 そっとネモが耳打ちする。彼の肩がビクリと跳ね上がり、今にも泣き出しそうな顔で油の切れたブリキ人形のように妹へ振り返った。

 

「えっ……!?ホントにお兄ちゃんなの?えぇ……」

 

 どうやらカマを掛けられただけのようだ。だが墓場まで持って行こうとした事実は、白日のもとに晒されてしまった。フグリは膝から崩れ落ちて、光を消した目でさめざめと泣きべそをかく。

 

「お姉さん、だいじょうぶ!?どっか痛いの!?」

「おい!どうしたんだよ!?しっかりしろ!」

 

 今はただ、幼い二人の優しさが痛くて仕方ない。嫉妬に狂っていた少年ですら生来の人の良さを発揮して、フグリの背を摩って優しく励ます。

 

「あはは……、もうどうでもいいや。どうせ僕は、クソまみれの変態女装野郎だよ……」

「ああ……、うん。誰にも言わないでおいてあげるから、元気出しなさい」

 

 そんな彼らにネモまで加わり、フグリを立ち直らせるのだった。

 

「お姉さん、こっちも美味しいよ!はいっ、あーんっ」

「あはは。ありがとね、リラちゃん」

「……、おい、リラ!こっちも食ってみろよ!」

「うん!はむはむ。ホントだ!おーいしーっ!」

「バッカ!それ、お前……!?オレのフォーク!?」

 

 両手にロリショタ、対面に実妹。まるで英雄譚の主人公みたいでしょ?と、フグリは心の中で独り言ちる。そして彼は続けた。どこの本に、女装してヒロインといい関係になる主人公がいるんだよ!?と。大きなお友達、そしてどこかの領主や女帝が聞けば「結構あるぞ」と答えるのだろうが、彼らはここにいないし、そもそもフグリは口に出していないので答え様がない。

 

「あらあら、楽しそうねー。メイドさーん?」

「うぐっ……」

 

 頬を膨らませたネモの言葉に、彼は答えを詰まらせた。楽しくないと言えば、ライラックを傷付ける。楽しいと言ってしまえば、ネモが脛を蹴る力が強くなるだろう。一体、彼にどうしろと言うのか。

 

「むぅぅぅううううっ!!!」

「えへへー。楽しいねっ、素敵なお姉さん!」

「ああ、うん。そうだね——あ痛ぁっ!?」

「ふんっ!」

 

 楽しげな宴会だと言うのに、彼らが囲む卓だけ混沌に包まれている。遠くで酒を嗜む女王と女帝が、愉悦に表情を歪ませた。

 フグリは脛の痛みを感じながら、神へ祈った。いるのならば、この状況を何とかしてくれと。だが彼は呪術師であって、神官ではない。彼の懇願が届く事はないだろう。




お疲れ様です、木下です!間違えました!鈴木ですっ!

まずは、言い訳をさせて下さい。このお話は、確かに殆どの人からすればギャグ回でしかありません。ですがフグリ君にとっては、理不尽と混乱に満ちたシリアスなのではないでしょうか?
つまり予告通り、11話はシリアスだったんですよっ!!鈴木は皆様との約束通り、シリアスを書けたんです!!!いやあ、シリアス書くのは疲れるなあ!これはもう、次回はギャグにするしかないなあッ!?フグリのプライドやられてんのに、日和ってる奴いる?いねえよなあ!!?死理亞主潰すゾ!!!
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