ROMANCE MEMORIES   作:誤字る小説家鈴木

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こんにちは、スズキーです!

シリアスさんには、勝てなかったよ…。


蛮族の影

「さて、いい宴会だったぞ。貴様らも充分に楽しんだことだろう」

 

 縁もたけなわ。サンブリテニアが閉めの音頭を取り、皆が彼女に同調する。村人の朗々とした大声、冒険者たちの歓声、ウルフの遠吠えが木霊する。

 

「ははっ、ソウッスネー」

 

 約一名(フグリ)のみ、そうでもないようだが。彼の目は座っているが、酒に酔ったせいでないのは確かだろう。

 

「ほう、まだ飲み足りんか。貧相な小僧っ子かと思えば、見どころがあるじゃないか」

「違わいっ!ヤケ酒なら、いくらでも出来そうだけどね!?」

「わふーん?」

「……、何て言ってるんだよ」

「『今は娘っ子でしょ?』だとよ。すまない、こいつの言う通りだ」

「うわああああん!?チクショーウッ!!」

 

 散々に弄り倒される彼は、ヤケクソ気味にジョッキを引っ掴み、一気に飲み干す。ガツンと鼻を抜けるアルコールにふらつきながらも、しっかり2本の足で立って、ジョッキをテーブルに叩き付けた。余りのいい飲みっぷりに、領主すら呆気に取られた。

 

「オルアアアッ!領主が!ウルフがあ!!なんぼのもんじゃーいっ!!!」

「ふははは!あははっ!!吠えたな、小僧!いや、小娘か!?もう面倒くさいから、男の娘でいいや!!」

「わう、バフッ!アオーッンっ!!」

「かかって来いやああああっ!!!」

 

 領主が童女のように高笑う。女帝が一際大きな遠吠えを上げる。それが決戦の火蓋となり、メイドの反逆が今始まる。皆が彼をやんややんやと持て囃し、宴はまだまだ続く。まあ、続いたのではあるが……。

 

「うへぇ〜、目が〜ま〜わ〜る〜〜」

「ふっ、口程にもなかったな」

「わふん」

 

 酒でドワーフに勝とう等と、無謀にも程がある。胃の容量で比べるなら、女帝は二人の何倍もある。そんな彼女たちのペースに引っ張られたフグリが潰れるのは自明の理。

 

「おかしい兄を亡くした」

「生きてる……。生きてるよ?」

 

 手を組んで祈りを捧げるネモへ、ツッコむフグリ。その姿たるやゾンビの如く。今なら妹の神聖魔法が、ダメージに変わるかも知れない。

 

「よし、いい加減に本題に入ろう。貴様も、そのつもりで来たのだろう?」

「……わおん」

 

 女帝の説明を、領主が訳して伝える。それは一月前ほどの事。獣でも人でもない者たちが、山に前触れもなく押し寄せた。巧みに音と痕跡を消して侵入した彼らは、個体ずつの力こそ弱いが、武器を使い統率が取れていた。ウルフは外的を排除するため、激しく戦った。多くの敵を屠ったウルフだが、最後に勝敗を分けたのは数の差だ。昼夜を問わずに襲われ、彼らに住処を追われたウルフたちは、食料を求め山を下りて来たのだった。

 

「ほおう……。不躾にも私の領地を踏み荒らし、あまつさえ家族にまで手を出したと……!」

 

 常に楽しげに唇を曲げる彼女は、今も変わらない。しかし、それは獲物を甚振る猛獣のようなソレへと変化する。全身から不快感を顕にし、無意識に強く握り締める両手は震えている。

 

「おのれ……ッ!蛮族共め!!」

 

 蛮族は、語られぬ程の太古から人族と争い続けて来た。個人の間ならともかく、種族単位の和解など有り得ぬ不倶戴天の敵同士。今日も世界中で、彼らの国境線の押し合いが起きている。そんな者たちが、組織立って村へ侵入した。

 

「シャクヤぁクッ!!」

「はい」

 

 鬼の様な形相で怒鳴り付ける主にも動じず、彼女の手元へ羊皮紙と羽根ペンを出現させた。それを視界に入れるや否や、ペンを握り乱暴に書き殴る。

 

 依頼名:Shall We Dance?

 分類:血の宴

 これより、愚かにも私の大切な者たちを土足で踏み荒らした蛮族共へ打って出る。貴様らも、腹ごなしの運動がてら一緒にどうだ?ただし、奴らの死体で自然のバランスを崩す事は許さん。ボッコボコのギッタンギッタンにして、自分の足でお帰り願うのだ!!

 依頼主:サンブリテニア・スカーレット

 報酬:好きに言え

 

「ナニコレ……」

「見て分からんか?パーティーへのお誘いだ」

 

 ネモが思わず片言になるのも、無理はない。あんまりにもな依頼書。手を動かす間に冷静さを取り戻したのか、領主は落ち着いた口調で答えた。

 

「ええと、報酬の所はどういう事なの?」

「そのままの意味さ。私個人にできる事であれば、何だってくれてやる」

「また、随分と大きく出たね……」

「何を望むんだ?貴様なら見込みがあるし、嫁いでやるのもやぶさかではないが」

「いっ、いらないよ!?」

「いらないとは酷い事を言う。この戦いが終われば、レディの扱いを叩き込んでやろう」

 

 急変した事態で酔いが覚めたフグリへ、領主は揶揄うように説明した。蠱惑的に見詰める彼女の提案を、勢いよく首を振って否定する。そんな彼へ冷めた視線を向けて舌打ちした。

 

「はいはーいっ!ねえねえ!あたいも、サニィをお嫁さんにしていいの!?」

「ああ?何だ、リラは私が欲しいのか?」

「うん!サニィったら、とっても綺麗でかっこいいから、だーい好きっ!!」

「そうかそうか。くく……、アレにそっくりな貴様を手篭めにするも一興か……!」

 

 飛び跳ねて抱き着くライラックを受け止めて、領主はフグリへ可愛らしいドヤ顔を向ける。「分かるか?リラのようなのが、レディへの対応という物だ」とでも言いたげだ。彼は視線だけで「知らないよ」と返した。彼以外にも、実の弟に嫉妬を込めたジト目で睨まれるが、彼女はそれすら楽しんでいる。

 

「フラン、そういきり立つな。どうしてもと言うなら、混ぜてやるが?」

「混ぜっ!?なっ、なっ……!バッカじゃねえのっ!?」

 

 顔色を焚べた鉄のような真紅に変え、しどろもどろになるフランクリー。愉快な反応をする弟を見て、姉は愉悦をたっぷり込めた声色で続けた。

 

「なあリラ。貴様、私を手に入れたら何をしたい?」

「うーん……、そうだなあ。街を案内したげる!フランも一緒に、美味しい物食べようねっ!」

「だ、そうだが。お前、私とリラの一体ナニを想像した?……このムッツリめ」

 

 姉のニヤケ面とライラックの能天気な笑いが、とてもうざったい。少年は小さく唸る事しかできなかった。

 

「準備はいいか!?目標は山の遺跡!蛮族共へカチコミだ!!」

 

 地平線へ隠れつつある月をバックに、サンブリテニアが呼びかけた。武器を振り上げ、思い思いの怒号で答える村人、冒険者、ウルフ。

 山に入ろうと、彼らの歩みは誰にも止められない。野生の獣やそれに近いゴブリンなどは、身の丈の十倍はあろうかという巨大で無骨な突撃槍を抱えた領主が率いる進軍を見て、逃げ去って行く。だがそんな生物たちとは逆に、領主たちに近付く影があった。

 

「誰だ!!」

 

 影に気付いたライラックが、ダガーを投げつけた。影は完璧に気配を消し、彼らを尾行していた。ハーフと言えど、五感に優れたエルフの特徴を持つ彼女だからこそ、接近に気付けたのだ。

 サッと後ろ飛びをし、軽く投擲を避けて見せた影。登り始めた朝日に照らされ、その姿が顕になる。

 

「あーっ!お前は!?」

「あれは、村の近くにいた人!」

 

 ライラックとネモが声を上げる。冒険者たちは、その特徴的な姿に覚えがあった。純黒のフード付ローブに身を包んだ姿からは、その中身は伺い知れない。だがフグリは、状況から一つの可能性に思い当たった。

 

「みんな、きっと蛮族の斥候だ!」

「なんだと!?敵に知られたら、不意打ちの意味がなくなっちゃうぜ!」

 

 狩人であるフランクリーは、敵の虚を衝く大切さをよく知っている。奇襲に成功すれば、無防備な相手に手痛いダメージを与えられる。しかし敵に知られてしまっては、逆に罠にかけられて、一転してピンチになる可能性を孕んでいるのだ。

 その重要性を知ってか知らずか、ローブ姿の者は踵を返して走り出す。見失う物かとライラックが追いかける。だがそれより早く、ローブから僅かに覗く足を止めさせる者がいた。ウルフの若きボスだ。自身が育ったこの場所ならば、ボスは誰よりも速く自在に駆ける事ができる。

 少女と獣に挟み撃ちにされた相手は、口の中で小さく言葉を転がす。それは、この状況への悪態ではない。それは言霊。身体に内包するマナを編み上げ、自然には起こりえない現象を発生させる為の詠唱だ。外套の隙間から紅いマナが溢れ出し、同色の大きな魔法陣が2つ地面に描かれた。そこから、突如として大きな炎の壁が現れる。ボスは急停止を余儀なくされ、忌々しそうに壁を睨んだ。

 

「高速詠唱!?こいつ、かなりのやり手だべ!」

 

 その魔法の規模と詠唱にかかる時間から、敵の力量を見抜いた農夫。鍬を握る手に力が篭もる。激しく燃え盛る炎は、怪しげな人物を覆い隠した。その一部始終を観察していたサンブリテニアとシャクヤク以外は、誰もが敵を取り逃したと諦める。

 

「「やあああああっ!!!」」

「ッ!?」

 

 炎の中から澄んだ声が2つする。

 時を玉響の間巻き戻す。ライラックは猛るマナの光を見て尚、止まるどころか逆に地を蹴り飛び込んだ。遅れて彼女の後ろを追走していたフランクリーは、全てを焼き溶かさんばかりの炎へ突進した。

 地面からゴウと炎が迫り出す。摂氏二千を超える上級魔法が、宙を飛ぶ妖精の柔肌を舐めるように触れる。少女は戦う為の目と手足、そして武器だけは守ろうと、目を閉じ身体を折り畳んで丸まった。フードの中で目を見開いた魔術師が、行使を中断しようとしたその時には最早手遅れ。可憐な妖精は骨をも塵にする紅蓮に包まれ、見えなくなった。

 ローブの下から高価そうだが実用的なデザインの杖が、乾いた音を立て落ちて転がる。暗色のローブの袖が伸ばされ、宙を泳ぐ。

 

「あ……ああ……っ」

 

 目の前で起きた事が信じられない。ただ愕然とし、厚手の外套からでも分かる程に体を震わせることしかできない。

 思考が空白に染まったまま棒立ちになるその人物の目の前に、炎を突っ切り一つの影が飛び出す。一つだったソレは二つに分離し、襲いかかる。

 

「「やあああああっ!!!」」

「ッ!?」

 

 顔と背中に重度の火傷こそあるが、愛らしかった面影を残して、鋭く光るダガーを握るのは冒険者ライラック・シリンガー。怪我など全く負っていないと言うのに、悲痛に顔を歪めて、それでも果敢に敵へ挑みかかるのは、領主の弟フランクリー・スカーレット。

 斯くして少年少女は、遥か格上の敵へと勝負を仕掛けた。




お疲れ様です、鈴木です!

いよいよ本格的に、ストーリーが動き出しました!ここまで長かったなあ…。
蛮族とは何かと言いますと、人族並の知性を持ち、同じ言葉を話す者たちの事です。この世界では、離れた国でも全員が同じ言語で話します。じゃないと、設定が面倒くさいですもん。言葉が通じるのに、決して相容れない者たち。それが蛮族です。
次回からは、そんな蛮族との戦いが始まります!なんかローブの人、蛮族っぽくない気がしますけど始まるんです!シリアスさんが長い休暇から、帰って来ます!多分!!
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