口先だけで強敵を翻弄するキャラって、凄くかっこいいですよね!!今回は、そんな頭脳プレーが光る戦闘を書きました!!!
「ちくしょう、お前はバカだ!こんなになって!!女の子なのに!」
「バカじゃないよ!ちゃんとフランが来てるって分かってたから、スピード落としてたんだよ!?」
「そういう意味じゃねえんだよ!そんな大怪我して、この先どうすんだ!?」
「先なんて知らない!今はこうして戦えてるっ!!」
命を救った少年はわんわん泣いて、救われた少女は軽快に笑い飛ばす。互いの方は見ず、ひたすらに眼前の敵へと挑みかかる。
少女は一本のダガーを器用に持ち替え、擬似的な二刀流で素早く的確に外套へ浅い傷を作る。しかし、それは身体の一部などではない。肉を切らなければ、得意の毒武器もその効果を発揮する事はない。
少年が剛腕を振るう。その衝撃たるや、拳圧だけで地面が捲り上げられ大木が抉れる程だ。それが直撃すれば、一発で行動不能になると相手に直感させる。しかし俊敏性に欠ける彼では、敵との距離を詰められない。
どちらの力量も経験も、足し合わせたところで外套の物のは程遠い。しかし彼らの実力に見合わない異常な俊敏性と筋力は、どちらも警戒に値する物だった。
「つーか毒液があるなら、それ被っとけよ!そしたらちょっとはマシになったかもだろ!?」
「はあ?フランはバカだなあ。石で火が防げる訳ないじゃん」
身を案じる少年へ顔を向けて、悪態をつく。しかし強敵への油断ばせず、胴体は相対したまま半身になる。何かを呟いた後、そのままダガーを持つ手を麻袋へ突っ込んだ少女。マナの淡い輝きが尾を引き、取り出された刃からは常の透明な液体が滴っている。
「ほじゅーかんりょーっ!こっからがホントのケンカだよっ!!」
「魔水晶の粉……。なるほど、魔力不全ね」
相当着込んで居るのだろう。外套の中から、くぐもった声が聞こえる。聞いた事がない言葉に、フランクリーが首を傾げた。それもその筈だ。それなりに経験がある冒険者でも、魔法の研究家だとしても知っている者は少ないだろう。
それは、医療業界なら耳にする事がある。何らかの理由により身体の中に他人のマナが混入した場合、強い倦怠感と共にマナの操作が難しくなる。
ライラックが使う麻痺毒の正体は、魔水晶の削り粉へ、マナを流して魔法名を告げなかった物。形と意味を持てなかった魔導具。つまりは、弾丸のなり損ないだ。
「へえ、お姉さんだったんだ。せっかくなら声だけじゃなくて、可愛いお顔を見せてほしいなっ!」
「声だけなら聞かせてやるよ。あんたを動けなくしてから、治癒魔法を掛けてやらなくちゃいけないからね」
少女は軽口を叩いて、肉薄する。外套の女もそれに答え、再び彼女たちの接近戦が始まる。少年もまた同じく、少女の後方から女性の隙を探る。
女性は歴戦の
少女にとって全ての攻撃が躱されるなど、初めての経験だった。ゴブリンも、彼らよりも段違いに素早いウルフにも、傷の深さを考慮しなければ6〜7割の斬撃が当たっていた。一刀になった事による手数の減少など関係ない。それを補って有り余る程に、ダガーの精密性は高まっている。
「【INSECT SITE】!」
左耳に付けたピアスの水晶が光に包まれ、宙に浮いたかと思うと、少女の片目を半球状に覆う。【インセクトサイト】は、魔水晶を無数のレンズへ変え、360度全てを視界に収める照準器を手に入れる魔導技術だ。これは本来なら銃撃の命中精度を高める魔導具だが、ライラックの動体視力と併せれば、人間サイズの昆虫と言える機動力を手に入れる。
さらに斬撃は鋭く苛烈に。フットワークは瞬間移動をしているのかと見紛う程。しかし、それでも一撃足りとも当たらない。速さで翻弄等できる筈がない。敵は経験則により、攻撃を放たれる前にその軌道上から外れている。低い攻撃力を底なしのスタミナと、魔力不全を引き起こす裏技によって補う少女の戦術は、最早根底から崩れている。
「甘いッ!」
漆黒の外套から伸びた掌底が、素早く少女の手首を打ち据えた。少女は油断など毛程もしていない。ただ、速さも技も駆け引きも通じない相手へ、尊敬の念を抱いただけだ。たったそれだけの気の緩み。砂粒程度の僅かな隙。しかしそれは、この戦いの勝敗を決定付けるのに充分すぎる物になった。ダガーが女性の頭上高くを舞う。瞬間、少女は大きく屈んだ。
「当たれえええええッ!!!」
女性の目から少女が消える。変わりに目に飛び込んで来た光景は、銃を構えた少年が引き金を引き絞る姿。放たれた弾丸は、少女の髪を掠めるように飛び、女性の腹部へ突き刺さった。
「かっ……!は……っ!?」
ドワーフは高い精神力を持つ反面、マナの操作を苦手とする。よって少年から攻撃や操作の魔法が飛んで来る事はない。あって予備動作が大きい造形か、直接的な火力はない支援の類だと考えて、拳による直接攻撃を警戒した女性は、魔法の専門家としてはこれ以上ないくらいに正しい。
だが、現代の魔法に精通した彼女だからこそ見落としがあった。魔導技術によって作られた道具は、一定時間そのまま残り続ける。麻痺毒を作っていたマナの光は、本命である【ルーンバレット】の輝きを隠し、密かに作った弾丸を装填した銃が少年に投げ渡されていた。
最初の接敵で接近戦ですら敵わないと悟ったライラックは、罠を張った。これ見よがしに見せつけた麻痺毒も、スタミナの配分を投げ捨てたスピードも全てがブラフ。しかしそれらは、女性にとって無視できない物。罠に引っ掛かりやすくし、その効果を高めるには位置取りに気を付ける必要があったが、俊敏性だけなら少女の方が上だ。やって出来ない事はない。そして罠にかかった獲物の隙を、狩人が逃がす訳などないのだった。
「行けっ、リラ!!」
「ぜったい、勝ああああっつッ!!!」
少年は少女が何を企んでいるか等、知るよしはない。ただ、必勝の予感を感じて放った一撃は、女性に驚きこそ与えたが、大したダメージにはなってない事を悟った。ほんの少しの猶予があれば、彼女は持ち直す。走って殴りかかるには、離れすぎている。後はもう、武器を失った少女に賭けるしかない。
少女は折り曲げた膝の反動を使い、高く跳ぶ。その勢いを乗せて腕を振り上げ、外套のフードを捲った。燻んだ銀の髪がふわりと広がり、健康的な褐色の肌が露になる。美しいその素顔を見て、少女はにんまり笑う。
「解除っ!」
少女の左目を覆っていた半透明の照準器が、小さな魔水晶へ戻る。陽光に照らされた薄紅色の髪がキラキラ輝き、女性は眩しそうに目を細めた。魔水晶を挟んで、目と目が合う。そして少女の企みを悟る。おい、まさか。やめろ、冗談じゃない!
「んむッ!?」
しかし彼女は驚きも拒絶も、声に出して伝える事はできなかった。発声する為の口は、少女の唇によって動きを封じられているからだ。小振りな魔水晶が液体へと変じていくのを、密着した唇の弾力と共に感じた。
「んぅ……!んんっっッ!!」
振りほどこうと身を捩るが、少女は全身で抱き着いて抵抗する。身体を支える背筋が耐えられなくなり、二人して地面を転がる。それでも女性を解放する事なく、唇もまた密着して一滴足りとも毒液を零す様子はない。
ただの削り粉でも相当な効果があるだろうに、成形された魔水晶を飲み込むなど、魔術師にとっては一撃必殺にも等しい。吸い上げられる唇に甘い痺れを感じつつ、女性は歯を食い縛り酸欠必至のチキンレースを少女に挑んだ。そして、彼女はすぐに思い違いを悟った。
(ヤロウ……、息継ぎしてやがる……)
口が塞がっているのならば、鼻から息を吸えばいい。女性は至極当然な判断へ、思い至る事ができなかった。彼女にとって口とは詠唱を紡ぐ為の物であり、弁を立てる物であった。キスなどもう何年もしていない程に日照っていた。
ならば自分もと、遅れて息継ぎをする彼女。その瞬間を狙い澄ましたかのように、歯と歯茎の境目をすっと幼い舌が擽った。
「ふぅんっ!?」
女性のくぐもった悲鳴が、少女の口腔内で響き渡る。雷に打たれたような衝撃。背筋が粟立つような望まぬ快楽。少女の唾液と混ざった麻痺毒が、むせる女性の喉奥へ雪崩込む。瞬く間に全身が弛緩して、魔法の炎が霧散した。
「壁が消えるべ!」
「リラっ、フラン!!」
「待って、先ずは僕が行く」
ネモが燻る地面を踏みしめて、少年少女の無事を確かめるべく駆け寄る。フグリは敵が動ける可能性を警戒しつつ、妹を守れるように先頭を走る。
「うわあ!?ついにやりやがったよ、この百合幼女!!」
そして飛び込んで来た光景に、堪らず声を上げる。知らない女性へ馬乗りになって彼女の唾液を貪るのは、彼もよく知るハーフエルフだ。どう考えても、婦女暴行の一部始終である。蛮族などこの場にはおらず、彼がそう結論付けたのも無理はない。何と言うか、偶々新聞を見たら悪友の名前が報道されていたような、驚きと納得が綯い交ぜになった心境だった。
「お兄ちゃん。この女の人の服、さっきの敵の物じゃない?」
「えっ……?あっ、ホントだ」
扇情的に身体をくねらせる女性は、漆黒の外套を身に纏っている。そんな彼女から慌てて視線を外した彼は、ネモと見つめ合った。
「とりあえず事情を聞きたいんだけど……。ネモ、頼めるかい?」
「嫌。巻き込まれたら、どうしてくれるのよ」
「あ……っ。ひゃう!?、あふんっ!」
出来るだけ意識しないようにしていると言うのに、淫らな水音と女性のよがる嬌声が、フグリの心を掻き乱す。
ライラックが女性の上顎を擽り、奥歯をなぞる。その度に女性は意識と関係なく身体が反応し、打ち上げられた魚の如く身を震わせる。少女が招くようにそっと舌を引くと、それを追いかけ女性も舌を伸ばす。自身の口内へ受け入れると、来訪客を撫で回す。その間にも唇で唇を噛み、指は別の生き物のように動き回り、女性の耳の中を優しく引っ掻く。女性は蕩けた目で楽しげな少女を見詰め、舞踏会でリードされる初心者のようにたどたどしく舌を動かす。
「だってほら!男があそこに割って入るのは、無理だって!?」
「女のほうが、身の危険を感じるでしょうが!いいから行きなさいよ!ヘタレ!!」
フグリは、目からハイライトを失って現実を受け入れる事を拒否したフランクリーのようにはなりたくない。ネモとて、あの女性のように少女に蹂躙されるのは嫌なのだ。
「お客様ァ!お客様の中に、【RUNE CAMERA】をお持ちの魔導技師はいませんかァッ!?」
「シャクヤク、鼻血っ!そんなに血を流したら、死んでしまうわ!?」
繰り広げられるカオスを止められる者など、誰もいない。領主たちの朝駆けは頓挫し、暫くの休憩を取るしかなかった。
お疲れ様です、鈴木です。
ほらね。口先だけで、相手を倒しちゃったでしょう?
さすがライラックさん!おれたちにできないことを、平然とやってのけるッ!そこにシビれる!あこがれるゥ!