ROMANCE MEMORIES   作:誤字る小説家鈴木

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金かわ!(挨拶)


メイド長の瀟洒な決闘

「ついに、行き止まりまで着いちゃったな……」

「わあぁ!あたい、マザーマシンって初めて見たっ!!」

 

 ライラックとフランクリーは、大穴から下全ての部屋を見尽くした。今彼らがいるのは、遺跡一階にある大部屋。そこには機械に繋がれてたガラス製の水槽があり、その中を半透明な緑色の液体が満たしている。

 マザーマシンとは、魔導文明時代の遺産の一つだ。稼働している物は多くないが、遺跡にはよく見られる。全ての魔導生物(マギナイツ)はこの機械から産まれる。彼らは本能的に誰かに仕える事を好むので、冒険者が持ち帰ったマザーマシンを買い取った有力者が、産まれたマギナイツを雇うケースがあり、従者や店員として働く彼らを街でもよく見かける。

 つまり目の前の遺産はどこにでもある物であり、少年少女の目的は未だ果たしていない事になる。少女のほうはそれを覚えているのかいないのか、物珍しそうに水槽をペタペタ触る。そんな彼女を見た少年は来た道を戻ろうとして、少女に襟首を掴まれる。

 

「げほおっ!?おいコラ、何しやがる!!」

「ねえフラン、何か風の感じが変だよ」

「はあ?こんな密室で、風も何もないだろ」

 

 むくれ顔をしつつ、少年も彼女に倣って目を閉じた。感覚を鋭くさせて辺りを伺うが、彼には何も感じない。少年に唯一分かる物があるとすれば、真横で目を閉じた少女の唸り声が奇妙な事くらいだ。

 少女は気が済むまで梃子でも動かないだろうと思い、仕方なく彼女に視線をやる。普段の活動的な姿と違い、目を閉じて考え込む少女は、まるで祈りを捧げる聖女に思えた。閉じられた瞼からは長いまつ毛が見え、愛らしい小鹿を彷彿とさせる。細くて柔らかな白い指先は、滑らかなプリンのような唇に当てられている。目を瞑っている事と相まって、それは少年が何かするのを待っているように見えて。

 

「どう?何か分かった?」

「びゃああああッ!!!」

 

 そして翡翠色の目が合い、少女の顔を覗き込んでいた彼は絶叫した。熟れた林檎のような真っ赤な顔で、慌てて目を逸らし飛び退く少年。豹変した友人の様子に、少女は血相を変えて近寄った。

 

「フラン!?一体どうしたの!」

「うわあ!何でもないって!?そうだ、あっちが怪しいと思ったんだよ!!!」

 

 ふわりと果実のような甘い香りが、少年の鼻腔を擽る。互いの体温を感じる程の近距離まで顔を近付けられた少年は、あたふたしながら適当な方向を指差した。怪しいのは、この場の何よりも少年自身だろう。

 指先まで真っ赤になった彼が指し示すそこは、ただの石壁。ただし靴の跡が、後ろ半分だけを残して近くの床に付いている。少し冷静さを取り戻した少年は、それに気付いて訝しげに近寄る。

 

「何だこれ……?」

「フランったら、どうしちゃったの?なんにもない所、見ちゃって」

「いや、気付かないならいい。ちょっと待ってな」

 

 きょとんとして疑問符を浮かべた少女を大人しくさせて、彼は地面や壁にそっと触れる。ややあってから、押した感触がヤケに軽い壁がある事に気付いた。それをグッと押し込むと、壁が動く。

 

「うぉっ!?隠し通路か!」

「わあっ!よく分かったね!めーたんてーさんだっ!!」

 

 彼らが壁だと思っていた物の正体は隠し扉。回転する石製のパネルの先には、さらに地下へと続く階段が見える。

 まさに謎解きといった光景を見て、少女が喜色満面に少年へ抱き着いた。

 

「待……っ!おまっ!?……むきゅー」

「えぇっ!フラーンッ!?大丈夫!?」

 

 謎を解くために意識の片隅へやっていた、先程までの少女の姿。さらに体温や匂いまで強制的にフラッシュバックさせられた少年の意識は、ぷっつり途切れてしまった。調査を大きく前進させた彼らだが、物理的に進むのはもう少し待たなければならないようだ。

 

「あー、お掃除が進まない!お嬢様に怒られるじゃない!!」

 

 次々に蛮族を倒しながら、戦場を駆けるシャクヤクがぼやいた。浮遊するナイフも彼女の気持ちを表すように、最初の勢いが途切れている。突けども斬れども、一向に衰えを見せぬ蛮族の兵団。小さく溜息をついた彼女を、星型の魔弾が襲った。

 

「挨拶もなしとは。随分と焦っているようね」

「焦ってんのはそっちだろ?私らは数で押し切れるからな!」

「焦りもするわ。お嬢様のおゆはんの準備が遅れるもの」

 

 軽い足取りで魔弾を躱し、撃たれた方向を見上げる。すると、箒に跨り空に浮かぶ少女が見えた。陽光を受けた金髪を眩しそうにメイドが見ていると、少女は指を突きつけ威勢よく叫ぶ。

 

「やいやい!散々お仲間をやりやがって!一体何人倒したんだ?」

「知らないわよ。貴女は今まで食べてきたパンの枚数を覚えているの?」

「13枚。私は和食派ですわ」

 

 軽口を叩き合いながら、ナイフと星弾が互いへ殺到する。少女が3次元的な飛行で、危なげなくナイフを躱すとメイドを見失う。そして急制動でその場に踏み止まると、目の前をナイフが飛んでいく。

 

「出たり消えたり、忙しいヤツだな」

「魔女コス猫耳ロリ……。アリね」

「何か変な事言ったか?」

「いいえ、何も」

 

 ナイフにつばを弾かれ飛んだ三角帽を大切そうに受け止める少女は、ぴょこんと髪と同じ色の猫のような耳を生やしている。真下から少女を見上げるメイドは、服に焦げ跡を作りながらも尚も健在。鼻からはツウと血が流れているが、これは怪我なのだろうか?少女の真下から一体何を覗いていると言うのだろうか?

 

「やっぱりな。あんたのそれ、瞬間移動って訳じゃないらしい」

「あら、妙な視線を感じると思ったら。まさか見惚れてたの?」

「抜かせ。あんたみたいなのを倒したら、報酬もたんまり貰えるし出世だってするだろ?」

「二階級特進だったかしら、軍属は」

 

 投げた素振りすら見せずに飛来したナイフを、少女は魔弾を以て撃ち落とす。再びメイドを囲うように、星たちが回転を始める。

 

「超スピードだか時止めだか知らないが、こうすればあんたの能力を封じられる」

「そう思うなら、抜けられる隙間なんて用意する必要があるの?全力で攻撃した後に、カウンターを貰うのが怖いのかしら」

「……。あんたが実はワープもできました、って可能性もあるからな。挑発には乗らないぜ。このままジワジワ削ってやる」

「そう考え込まなくてもいいじゃない。貴女が手数を増やそうとしまいと、その後に備えようとそうではなかろうと、全ては意味のない事だわ。【あなたの時間も私のもの】なんだから」

 

 少女は油断なくメイドの姿を注視する。彼女は敵を見失ったままに、眼前に見える敵を注意深く観察する。メイドは既に輝く星の渦を飛び越えていると言うのに、彼女の幻影を食い入るように見詰める。

 

「夜猫航空部隊、隊長。まあ、私しかいない部隊だが。とにかく私は、ペンタス・スタークラスターだ!【お前を這い蹲らせる】女の名だぜ!」

「そうなの。貴女らしく、元気があって可愛らしい名前ね」

 

 観察する為に低空飛行をしていた箒には、片足が使い物にならなくなったメイドが相乗りしている。それでも名乗りを上げるペンタスは、箒の重みにも、ふさふさの耳元に話しかけられている事にも気付かない。身に迫る危機など知覚しないままに、少女は幻影へ指を突き付ける。

 

「【シュヴェーア・クラフト】!!へへっ、驚いて声も出ないようだなっ!魔弾越しだと、マナが光ってるのに気付かなかっただろ!!」

「貴女が聞こえてないだけよ。それと詠唱を会話に混ぜるなら、魔法名は分からないに小声で言う事ね」

 

 獣人が最も得意とされる、土属性かつ操作の系統魔法の威力を遺憾無く発揮し、幻影の両足が地面に吸い寄せられるように深く沈み込む。少女の重力を操る魔法は即席で効果は薄いが、魔弾に囲まれたこの状況ではメイドの幻影は絶対絶命と言えるだろう。尤も、本当に危険なのは少女のほうなのだが。

 

「一つ種明かしをしましょうか。私の【プライベートスクウェア】も重力を操る金属性の攻撃魔法ですわ。かけられるのは、この時計を見た事がある相手だけで、重くも軽くもできませんが」

 

 メイドは右手に持っていた懐中時計を、少女に見せつけるように揺らす。だが少女は、それに反応する事なく高笑いを続ける。

 

 「効力下にいる者は、身にかかる重力を乱され、時間の感覚が滅茶苦茶になる。まるで別世界に飛ばされたようにね。貴女が見ているのは、魔法を使わなかった私の可能性よ」

 

 問題なく魔法にかかっている事を確認すると、メイドは魔法で出来た時計を仕舞う。

 

「お前は籠の中の鳥!いいや、もっと酷い状況かもな!?」

「例えるなら、まな板の上の鯉かしら?」

「お前はもう、まな板の上の鯉も同然なんだよ!!」

「あらあら。私たちって、相思相愛ね」

 

 少女は星を操作して、渦の中心へ殺到させる。悔しげに顔を顰める幻影は、まず脚を穿たれた。細い脚から肉が抉られ、骨が砕かれる。漂うナイフの幻影を集めて即席の盾を作るが、いくつかの魔弾を相殺するだけに終わる。いい台詞を言えてドヤ顔を決めるペンタスの服の内へ、シャクヤクの白い手が侵入する。

 

「もう打つ手はないだろ!降参するなら、今の内だぜ!?」

「降参を勧めるなんて、優しいのね。私なら降参も抵抗も許さずに、こうしているわ」

 

 シャクヤクの魔法【プライベートスクウェア】は、一度発動してしまえば効力が切れるまで、彼女に何をされようと認識できない。空の雲はちぎれ飛んだ事に気付かず、消えた炎は消えた瞬間を炎自身さえ認識しない。小ぶりなおっぱいの弾力を堪能されても、少女の感覚へは一切の影響を及ぼさない。

 

「おい!何とか言えよ!?言っておくが私は本気、うひゃっ!?」

 

 ボロ雑巾のような見るも無惨な姿になった幻影は、ひしゃげた腕の中に隠し持っていたナイフの幻影を投げ付けた。それすら失った彼女に最後に出来るのは、敵を睨みつける事だけだった。

 

「ッッ!もういい!今、楽にしてやるッ!【絶対の劫火!全てを掻き消す、終焉にして起源の炎っ!!この輝きは、夢想と共に並び立つ】ッ!!!」

 

 少女は死にかけている敵を視界に入れぬよう、急上昇する。彼女の軌跡に沿って、マナの粒子が撒かれる。彼女の後に続いて舞う陽の光を反射する物は、マナだけではない。敵の真上まで飛ぶと、少女は目元を乱暴に袖で拭い、狙いを定めた。

 

「【マスター……、スパーーーーック】!!!」

 

 それは金属性でありながら、火の属性を併せ持つ特殊な魔砲。架電されたマナの粒子が一方向に収束し、極光となって撃ち出される。目が痛くなる程に虹色に輝く炎の束が、眼下にいる敵を焼き尽くす。光が到達するのは一瞬。その熱量により、呼吸など出来る筈もない。だと言うのに少女は。

 

「お供出来ず、申し訳ありません。お嬢様」

 

 声を聞いた気がした。ハッとして下を見ると、高温によりガラスのように変化した地面しかない。草の根すら消え去り、メイドが生きていた証など残る筈もなかった。当然の事なのに、そんな事は分かっていたのに。少女はクリスマスの朝、枕元に何もなかった子供のような、期待を裏切られた気持ちになった。

 

「馬鹿野郎ーーーッ!!!」

 

 天を仰ぎ見て怒鳴りつける。遂に抑えていた涙腺は決壊し大粒の涙となって、行き場のない怒りを声と共に放出した。

 

「なんで諦めなかったんだよ!こんな戦いに、意味なんてあるのか!?」

 

 砕けそうな程に奥歯を噛み締め、爪が手の平を突き破っても構わず拳を固く握る。眼下では今なお敵味方が戦い続けていて、その終わりは見えそうもない。

 

「ちくしょう!!メリアの野郎は、指示も出さずに何をしてやがる!」

「さあ、ナニをしてるんでしょうね?」

「はあ……?」

 

 混沌とした戦場へ怒りをぶつけていると、少女の耳元を舐めるように、と言うか物理的に舐められながら声をかけられた。その存在は、少女が今さっき焼き消した筈のメイド。その筈の彼女は平然と、少女へナニしていた。

 魔法は解け、現実がやって来る。別世界のシャクヤクをその手にかけ、無力感に苛まれていたペンタスは、その間に行われたメイドの暴挙を一手に引き受ける事になる。

 

「ジャスト一分。悪夢(ユメ)は見れましたか?」

「え?……ッ!ひゃああああああんっっ!?」

 

 目の前の光景が理解できないでいる少女へ、メイドは指先をペロリと一舐めしながら笑いかけた。

 少女へまずやって来たのは、身体を弄ばれる不快感。それとほぼ同時に襲い掛かるのは、感じた事もない天にも昇りそうな快楽の嵐だ。全身を押さえ付けられている彼女は、瞳だけをガクガク震わせ、メイドの胸の中で絶叫する事しか出来ない。流した物は、再び出た涙や声だけでは済まなかった。メイドの体温とは違う、太ももを伝う生温かい物を不快に感じる。

 命を奪ったと思っていた相手が生きていた喜び。その相手に身体を拘束されている絶望。敵に身体を暴かれたかもしれない羞恥。薄れ行く意識の中で、ペンタスの気持ちは滅茶苦茶になっていた。




お疲れ様です!鈴木です!

ハーメルンさんに消される…!違うんです!気付いたらこんな展開になってたんです!鈴木は悪くないんですう!!!
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