いつの間にか、通算UAが3桁になってました。皆様、いつも読んでくれてありがとうございます!これからも面白くなるように、脳ミソと欲望を搾り出してペン先に浸しますので、宜しくお願いします!!鈴木汁の一番搾りをお楽しみにっ!!!
ムラーノ村にほど近い、小高い山。そこで静かに佇む遺跡は、街から日帰りの距離という事もあり、既に冒険者によって探索され尽くしていると考えられていた。
「わああああ!見て見てっ!壁から棘が生えて来たよ!?」
「このアホウ!?ちょっとは、警戒して歩けーっ!!」
しかし、未だ誰も足を踏み入れた事がないエリアが存在していた。そんな前人未踏の世界へ、足を踏み入れるのは少年少女。
ライラックが自由気ままに進む所為で、道中のあらゆるトラップが作動する。射出される棘、落下する吊天井。罠の見本市のような地下遺跡で、遊園地のアトラクションを楽しむかのようにはしゃぎ回る。
彼女自身は持ち前の俊敏さで、罠を見てから回避できるので全くの無傷。しかし彼女の後ろを歩いて罠の被害を被る者にとっては、そうはいかない。
「お前なあっ!ちょっとは考えてから行動しろよ!?」
「なによ!フランだって平気そうじゃんか!?」
「ダメージはなくても、疲れるんだよっ!バカリラ!!」
フランクリーは、突然作動した罠を回避できる素早さなど持ち合わせていない。行く手を遮る棘が飛び出したら、叩き割った。天井が落下して来れば、パーティを守るために受け止めた。並外れた耐久性と腕力を持つ少年がいるからこそ、彼らは罠を物ともせずに進む事ができたのだ。
「あたいとフランがいたら、どんな罠でもへっちゃらだよ!」
「だとしても、慎重に進んだ方がいいだろーが!」
「なんで!?急がないと、みんながずっと戦い続けるんだよ!?」
「あっ……。確かにそうだけどさ!それでリラが怪我しちゃったら、どうするんだよ!!」
「だーかーらーーっ!フランがいるから大丈夫って言ってるじゃん!!」
「意味分かんねえよっ!!バカッ!!!」
「なんでだよ!!分かれよっ!バカッ!!!」
「「バカバカバカバカーーーっ!!!」」
早く目的へ辿り着きたい少女と、安全を優先させたい少年。二人の意見は平行線となり、交わる事はない。不毛な言い争いは、べそをかきながらの怒鳴り合いへ変わり、彼らの足は完全に止まってしまう。
「少し落ち着きなさい!」
ムゥダンが、そんな少年少女を一喝した。ヒートアップしていた身体が停止して、騒がしかった通路が無音になる。僅かな間の後、彼らは女性を見詰めて、肩を震わせしゃくりあげた。
「だって、だって……!フランがバカって言うんだもん!!」
「リラにやめってって言っても、やめてくれないんだよぉっ!!」
泣きじゃくる彼らは、まるで助けを求める迷子のようだ。苦笑した女性はその場にしゃがみ込んで彼らに目線を合わせ、優しい声で質問していく。
「まず、リラさん。貴女はどうして、早く先に進みたいんですか?」
「だって、蛮族のみんなは、お宝を探しに来たんでしょ?だったら、あたいたちが手に入れたら、戦いも終わるかなって思ったの……」
「そうですね。私たちは、この遺跡にあるかも知れない、とある物を求めて調査に来ました。それさえ見つかれば、戦う理由はありませんね。ですが貴女一人が先走っても、早く進むどころか、こうして立ち止まってしまいますよ?」
嗚咽混じりにたどたどしく説明する少女の言葉を、彼女は丁寧に汲み取って答える。
「では、フランさん。彼女はこう言っていますが、貴方はどうしたいですか?」
「それでもオレは、リラに無茶して欲しくねえよ。こいつ、ここに来る前だって、大ケガしてるんだぜ……」
「それは心配になりますね。確かにさっきまでも、危うい場面がいくつかありました。ところで、フランさん。心配とは、心を配ると書きます。たくさんの思いやりを配る事が出来る貴方は、とても優しい人ですね。ならば、配り方への心遣いもできる筈ですよ?」
潤んだ紅玉の瞳を見詰めて、微笑む女性。その後に、気恥ずかしくなったのはどちらもだ。絡んだ視線が離れると、彼女は咳払いして頬を掻く。
「歳をとると、説教臭くなっていけませんねえ。後は若いお二人で、話し合って下さいな」
落ち着きを取り戻した少年少女を残して、女性は一歩下がった。
「あのね、フラン。あたい、心配かけてたんだね。ごめんね。フランの気持ち、全然考えてなかった……」
「オレの方こそ、ごめんな。リラの考えも聞かずに、頭ごなしに否定しちまってた……」
「フランが謝る事ないよっ!あたいが無茶するから、心配してくれたんでしょ!?」
「その心配の仕方が、悪かったって言ってるんだよ!あんなにバカバカ言ったんだから、謝らせろよっ!!」
「あたいが謝ってるでしょ!フランは、いいよって言えばいいの!!」
「酷い事いっぱい言ったんだから、謝るのはオレだろーが!!」
「フランは悪くないーっ!!!」
「悪いんだよ!ドアホウ!!!」
「ああもう!!何で謝りながら、喧嘩してるんですかあっ!?」
和解しようとしていた筈の少年少女は、いつの間にか険悪に。下げようとする互いの頭を掴んで、取っ組み合いの大喧嘩へ変貌する。慌てて女性が割って入り、再びお説教モードに移行した。彼らが遺跡の奥へと進むには、もう少し時間がかかりそうだ。
「いいですかっ!?帰りの道中を考えて、発見した罠は全て作動させます!ただし、無策で挑まない事!」
「「はーいっ!」」
ムゥダンの号令の元、少年少女が元気よく返事をする。当初こそ傍観者として後ろを着いていた彼女だったが、二人に先頭を任せていては進みが悪すぎたので、仕方なくリーダーを務める事にしたのだ。少年が見つけた罠の前で、彼女は二人に呼びかける。
「では、リラさん。すぐに逃げられるよう、気をつけて罠に触れてください。フランさんは、私と共に彼女のフォローに回れるよう警戒を」
的確に指示を出し、年少組へ気を配る彼女は、まるで引率の先生のように見えてしまう。実際は、領地へ侵入する蛮族の長、それを討伐すべくやって来た冒険者、領主の親族という関係性だ。まるでそうは見えない程、互いの距離が近いのだが。
「行くよ。フラン、ムゥダンさん」
「ああ、いつでも大丈夫だぜ」
「ふふ。仲良きことは美しき哉、ですね」
少女が仲間へ目配せした後、他の床材から浮き出たタイルを踏む。瞬間、彼女の周囲の地面はドロドロに溶けて、脚に纏わり付いた。
「何これっ!?グニョグニョで変なのーっ!」
「拘束系のトラップか……?」
「いえ。どうやら、それだけではないようですよ」
目付きを鋭くさせて、蠢く石壁を睨む女性。それは壁から切り離され、唸り声を上げる。
「
「見て見てっ!あったかくて、ネバネバしてて、気持ちいいよー!!」
「何でおのれは、腕まで突っ込んどんだ!このバカタレーっ!?」
白いトリモチのように変化したタイルを、全身に塗りたくってはしゃぐ少女。ツッコミを入れる少年は、顔を真っ赤にして叫んでいる。彼の内心にあるのは、焦りや怒りだけだろうか?
「
力強い震脚からの、鋭い貫手。ムゥダンの拳は、全身が岩石で出来た石魔像を茶菓子かの如く粉砕する。見事に突き刺さった腕を引き抜くと、本物の獣のように動いていた石像が崩れていく。
「やはり、魔導技術によって動いていましたか」
「ムゥダンさんっ!それ、ちょーだい!」
石像から抜き取られた魔水晶が、ライラックに投げ渡される。トリモチで受け止めた少女は、それごと水晶へマナを注ぎ込む。
「本日はせーてんなり。だけど、にわか
トリモチが水晶に取り込まれた事で空いた右手で、向かって来る石魔像たちの頭上へ未だ完成していないソレを投げつける。淡く輝きながら空中で、少女の意図通りの形へと変わる。
光が収まり、石魔像たちを影が覆う。見上げると、ブワッと広がった投網が、突如として出現した。いきなりの事に彼らは対応出来ず、絡め取られる他にない。ならば食い破ってやろうと藻掻くが、粘ついた液体が邪魔して身動きを封じられる。
「なーんてねっ!フラン!!」
「応よ!任せなあっ!!」
フランクリーが力強く答え、網を引っ張る。中にいる石像たちの重量など物ともせずに、彼は軽々とそれを振り回す。
「おおりゃあああああっ!!!」
少年の咆哮は、網の中で上げられる悲鳴を掻き消す。剛腕を以て生まれる遠心力も合わせて、壁から産まれようとしている石像の集団へ叩き付けた。
「正に、一網打尽ですねえ。フラン君、私と交代しましょうか」
「了解だぜっ!」
「えー、あたいはフランがいいなあ」
「我儘言わないで下さい。あの武器では、守るより攻める方が適任です」
超重量のブラックジャックを手に入れ、石魔像を蹴散らす少年の代わりに、ムゥダンが未だ身動きが取れないライラックの護衛に付く。ぶーたれる少女をあやす様に、彼女は話を振った。
「リラさん。平気そうにしていますが、かなりのマナが減ってしまったのでしょう?」
「まだ動けるから、大丈夫だよ?」
「それは大丈夫とは言いません。いつ何が起こるか分からない探索なんですから、常に余裕を持ちましょう。特に、成長期の子供は、電池切れまでフル稼働ですしね」
彼女は、少女の消耗を見抜いていた。石像を動かす魔導技術を中断し、命令を上書きした。トリモチへも、性質こそ元の物を流用しているが、同じ事をしているのだ。どちらも多量のマナと、それを複雑に操作する必要があった。
「発動中の魔導具への命令変更。うちの技師隊に、同じ事が出来る人が何人いるやら。
「あたいったら、天才ね!」
「ふふ、そうですね。直属の部下に欲しいくらいですよ」
「えー。軍人さんより、冒険者のほうが楽しいよ!ムゥダンさんも、一緒に冒険しようっ!」
まさか逆に勧誘されるとは思わなかったムゥダンは、困ったように笑うしかない。少年が石像を破壊する音をBGMに、彼女たちは談笑を続ける。
「フラン君は観察が上手いですね。トラップの発見も見事ですし、今も石魔像の弱点を見抜いている」
「でしょでしょ?なんてったって、あたいの友達だもん!」
「リラさんも、見習わなくてはいけませんよ?貴女の咄嗟の判断や大胆な発想は素晴らしいですが、普段からもう少し警戒しないと」
「むう。それはフランやムゥダンさんがやってくれるから、いいのっ!」
「あれ……、私もですか?」
またもや少女の発言に混乱させられる彼女。蒼い目をパチクリさせて、困惑たっぷりに少女を見詰めた。
「トーゼンじゃない!あたいたちったら、サイキョーのパーティだもん!」
「あはは……、これはやりにくい……」
「ええっ!?サイキョーなのに!?」
「だからこそですよ」
「んー?どういう事?」
きょとんと疑問符を浮かべる少女に答える代わりに、頭を優しく撫でる。嬉しそうに目を細める様子を見て、ムゥダンは溜息をつく。
少女は心の底から、自分を仲間として信頼しているようだ。あまり警戒されても進み辛くなるだけだが、これならば少年のように睨みを効かせてくれる方が遥かにマシだ。この先で彼らへ拳を向けなければいけないだろうに、これでは鈍ってしまわないだろうか。
微笑む裏で自問する彼女だったが、その笑みはビシリと固まる事になる。
「ああっ!取れなくなっちゃいました!!どうしましょう!?」
「痛たたっ!?ムゥダンさん、動かさないでえ!?」
「うわっ……、アホウが増えた」
未来への気の重さ、可哀想な物を見る少年の視線。それらを感じた彼女は、もう泣きたい気分だった。