ROMANCE MEMORIES   作:誤字る小説家鈴木

2 / 4
鈴木です!田中じゃないです!2話です!3話までは書き貯めがあるので、イッキに投稿します!


オーヌ兄妹

 宿屋の夜は遅く、朝は早い。そこを活動基盤にしている冒険者たちの中には夜まで酒を飲み騒ぐ者から、日が出始める頃から起きて武器の素振りをする者まで様々だ。

 そんな冒険者の宿の1つ『幸運の紫陽亭』も、例に漏れず多忙を極める。

 

「ふぅ……、こんな物かな?」

 

 宿の実質上のマスターを勤める青髪の女性、フヨウ・ハーチスは大きく伸びをした。豊かな双丘がエプロンを押し上げ、黄金比と言えるボディラインがくっきり浮かび上がるが、客も妹分もここにはいないので気にする事はない。

 少し汚れていた机やカウンターを水拭きし、昨日残っていたスープを火にかける。早朝から起きてくる冒険者はいるとは言っても稀である。ならば後はパンをいくつか切ってしまえばいい。

 とはいえ冒険者を相手にする宿屋の仕事は、彼らの生活空間の維持だけでは済まない。

 

「よーし、もうひと頑張りしますか……!」

 

 フヨウはエプロンのポケットから、長方形の匣を取り出した。それを開くと古ぼけた眼鏡が出てくる。眼鏡を装着した彼女は、分厚い紙の束を相当な速さでめくり進めていく。

 

「うーん、こっちの依頼はあの人たちに。これはどうしようかなあ……?」

 

 常人には絶対に不可能なスピードで依頼書を捌いているのは、何も彼女が特別だからではない。その秘密は一見何の変哲もない古い眼鏡にある。

 魔導文明。文献も残っていない遥か昔、今のよりもずっと高度な魔法を使った技術が栄えていたと言う。技術や産み出された品々は多くが現代では失われているが、それでも僅かに残っている物はある。

 大きく分類すると2つだ。1つは魔導技術。詳しい仕組みは現代の高名な研究者ですら解明できていないが、魔水晶という特殊な宝石に魔力を込めて、かつての文明の叡智を再現する。その技術を持つ者を魔導技師(ルーンジニア)と言い、彼らが生み出す物品を魔導具と呼ぶ。

 前者が先人の知識に挑む事であり、もう1つは先人が遺した物をそのまま使う事だ。魔導文明時代の建造物が残っている事がある。魔物の住処になっていたり危険なトラップが生きていたりはするが、利用できる物が残っている事がある。役に立つかはマチマチではあるが、現代の魔法学では理解できないそれを大金を出しても買い取ろうとする者は多い。人々はそんな夢とロマン溢れる建物を遺跡と呼び、そこに眠る金銀より価値のあるお宝を遺産と呼んでいる。

 フヨウの持つメガネも遺産の1つだ。かけているだけであらゆる言語で書かれた文字を理解できて、斜め読みでも全ての情報が頭に入る。この遺産を見つけたのはフヨウの父親なのだが、眼鏡に付けた名前は『学者殺し』。尚、手に入れた当人は「こんな者があっても、学びの楽しさが殺されるだけじゃないか」と、全く価値が理解できずに最終的に娘の手に渡ったのである。

 

「はぁ、今日も疲れた。リラのベッドに潜り込んで癒されようかしら」

 

 早朝からとんでもねえ事を口走るフヨウだが、その目論見は失敗に終わる。宿の木扉が遠慮がちに開けられる音。

 

「あの……、ここが『幸運の紫陽亭』ですか?」

「…………」

 

 扉の先に立つのは、年若い男女。そっと店内を覗いて声をかけるのは、深緑の髪をショートボブ程度に伸ばした痩せ型の青年。その隣でキャスケットを目深に被る少女がいる。2人の格好は浮浪者とまでは言わないが、綺麗とは言い難い。若い男女がボロボロになって冒険者の宿に駆け込むというこの状況。どうやらフヨウはいつにも増して大忙しになりそうだ。

 

「姉ちゃん、おはよ〜。その人たち、どーしたの?」

 

 常よりやや早起きで階段を降りて来たリラを見て、フヨウは内心で男女へ舌打ちする。彼らが来なければ、いつものように妹を起こし(へ悪戯し)しに行くことが出来ただろうからだ。

 

「おはよ、リラ。まずは顔を洗って来なさいな」

「ふぁ〜〜い」

 

 欠伸まじりで歩いて行くライラックは、目の端に目ヤニをつけ、口元からはヨダレが垂れ、髪は寝癖ではね回っている。折角の可愛らしいハーフエルフの顔立ちも台無しだ。そんな無防備すぎる妹を見送ったフヨウは、それはもう締りのない笑顔をしていた。

 

「羨ましいでしょう?あげないわよ」

「いや、何が?」

 

 笑顔を戻し男女へ振り返ったフヨウの第一声がこれだった。青年はもちろん困惑しているし、女性も帽子で表情が分からないが似たような物だろう。

 

「ふーん、冒険者になりたいねえ」

「はい!僕と妹、2人で(・・・)何か依頼をさせてくれませんか?」

 

 日が登り多くの人が活動を始めるこの時間に、いつまでも客を立たせておいては評判に関わると判断したフヨウは、心の中でだけため息をついて面倒事の匂いがする男女を招き入れる。年季が入ったカウンターに備え付けられた椅子へ彼らを並んで座らせ話を聞きだそうとすると、青年から先程のような発言が飛び出した。彼の隣で少女もコクコク頷いている。

 その前に自己紹介をしているのだが、青年の名前はフグリ・オーヌ。少女はネモ・オーヌ。どうやら2人は兄妹らしい。

 

「この街には、毎日のように冒険者を目指して人がやって来る。だから貴方たちの事情は聞かないわ」

「やった!なら……!」

「ただし、依頼を任せるかどうかは別の話よ」

 

喜色を浮かべて身を乗り出すフグリだが、彼を嗜めるように冷たい声色を意識してフヨウは続けた。

 

「ここに来る前にボロボロになっていると言う事は、実力はそこまででもないんでしょう?せめて初心者でも、もう1人か2人仲間がいれば、簡単な依頼くらいならお願いできるけれど……」

「うぅ……。それは……」

 

 フヨウの見透かすような視線を受けて、フグリは苦虫を噛み潰したような顔をした。そして、反射的に妹の手を握る。

 

「図星か。妙に2人の部分を強調すると思ったら、やっぱりね。貴方たち、他の人とパーティを組む気はないの?」

「はい、どうしてもできません……。頑張りますから、何とかなりませんか?」

「あの……、お願い……します……」

 

恐る恐る、しかしはっきりと否定したフグリにネモが続いた。彼女はこの宿屋に来て初めて声を出したのだが、鈴を転がしたような綺麗な声色にフヨウは僅かに驚く。だが、言うべき事は言わないといけないので気を引き締める。

 

「断ったら私が悪者みたいになるじゃないの。あのね、言葉だけじゃ実感が湧かないかもしれないけど、冒険者稼業っていうのは危険が付き纏うものなのよ?ソロでも依頼をこなす人はいるにはいるけれど、私はそれをいい事だとは思えない」

「それは……。はい、危険なのは承知してます」

 

フヨウは諭すように兄妹へ言い聞かせる。しかし兄の悲痛な表情は変わらず、妹は俯いたままだ。

 

「お兄ちゃん、やっぱり私はいない方が良かったよね……」

「そんな事ない!離れ離れになったら、ネモを守れなくなっちゃうだろ!」

「はいはい、そこまで!お話が進まないわ」

 

悲しげな声を絞り出す妹を強く否定する兄。そんなやり取りを見て、頭を掻きむしるフヨウ。さらに強く手を叩く事で、話の流れを断ち切った。

 

「リラ、聞いてるんでしょ?出てきなさい」

「あれ?バレちゃったか」

 

兄妹がフヨウが見た方へ振り向くと、ライラックが部屋の外から顔を覗かせていた。その姿は少し前に見た寝ぼけた物ではなく、軽装だがいかにも冒険者らしい衣装だ。

 

「これで3人。問題なく依頼を出せるわ。リラ、念願のパーティが組めたわね」

「姉ちゃん!ほんとにいいの!?」

「いいも何もここで断っちゃったら、貴女この人たちにこっそり着いて行く気だったでしょ」

「あははー、それはどうかなー?」

 

 フヨウのじとっとした視線を受けて、ライラックは頬をかいて笑って誤魔化した。嘘が下手すぎる妹分の態度に、フヨウはこれまでの鬱憤やこれこらの不安を全て込めた盛大なため息を吐く。

 

「あの……。僕たち、やっぱり他の人とパーティを組むのは……」

「お黙りなさい。これが同じ妹を持つ者としての最大の譲歩よ。嫌なら、他の宿屋に行くなり何なりしなさいな」

「お兄ちゃん、あの子と一緒に行こうよ。このまま何もしないでいるより、その方がずっといいわ」

 

 尚も渋る様子のフグリの言葉を、フヨウは有無を言わせない口調で黙らせる。押し黙ってしまった彼へさらに語りかけるのは、妹のネモだ。

 彼女はフヨウと比べ、頭1つ分程身長が低い。帽子によって遮られて、フヨウからはネモの表情は窺い知れない。だが、フグリはそれをはっきり視認できた。陰の中で金色に輝く人間離れした2つの瞳と、それに込められた強い決意を。

 

「いい妹を持ってるじゃない。私のリラ程ではないけれどね」

 

 先程までの威圧感を霧散させたフヨウは、少し雰囲気が変わった兄妹へ笑いかけて1枚の依頼書をカウンターに置いた。次に「ああ、それと」と思い出したかのように、ネモへと向き直った。

 

「その帽子だけど、大きすぎて似合ってないわ。いつか外せる時が来るといいわね」

「ッ!君は、まさか!?」

 

 フヨウがいい終わると、兄妹が警戒心を顕にしようとする。その一瞬前に2人の手がぎゅっと握られた。

 

「ねえー、まだー?早く行こうっ!」

「うわっ!?ちょっと待ってくれぇ!」

「この人たちなら大丈夫よ。行きましょう、お兄ちゃん!」

「ふふ、行ってらっしゃい」

 

 非力ながらもぐいぐい引っ張るライラック、困惑と共に足をもつれさせて転びそうになるフグリ、軽やかな足取りでライラックを追い越して走り出すネモ。そんな珍妙な新米パーティをフヨウは手を振って見送る。

 彼らの楽しげな笑い声は、街の喧騒に飲み込まれる。まだ頼りない3人の背中は小さくなっていく。それをフヨウはじっと見つめる。

 

「冒険の神、ホー=ロウ様。どうか彼らに祝福を」

 

 それはいつも宿から冒険者たちが旅立つ際に行う、フヨウにとっての大切な儀式だ。彼女は特別な訓練を詰んだ神官(プリースト)ではない。祈ったところで、神へ声は届かないだろう。それでも彼女は祈らずにはいられない。また無事にここへ戻って来て欲しいから。素敵な土産話を聞かせて欲しいから。だからどれだけ忙しくても、これを欠かした事がない。

 

「忘れないで、世界はとても優しくできているわ」

 

 もう見えなくなってしまった兄妹へ語りかける。

 

「だからあの子たちのためにも頑張ってね、リラ」

 

 自分の元を巣立って行く大切な妹へエールを送る。

 

「あら、おはよう!朝食と依頼書なら出来てるわ!」

 

 そんな素敵な宿屋の店主は、朝の冷たい空気を胸いっぱいに吸い込んで、やっと起きてきた冒険者たちの方へと戻って行った。




鈴木です?

今回登場した遺跡やら何やらは、関わっている設定がもうちょいあるので、もう少し後でまとめて書こうと思います。まだ作ってない訳ではないです。マジです。先に知りたい方は、某SW2.0のルルブをご確認ください。2.5でもいいです。1.0は鈴木は持ってませぬ故、私の知ってるのと一緒か分からないです。そもそもパクリ元ってだけで、大分改悪しておりました。ルルブ読んでも分からないと思います。申し訳ございません。

それもこれも田中が悪いのです。鈴木は悪くありません。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。