ROMANCE MEMORIES   作:誤字る小説家鈴木

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こんにちは、鈴木です!

文章で迫力のある戦闘を表現するのが難しすぎると痛感する鈴木です。


ROUND ONE!

「【INSECT SITE】!」

 

 ライラックの右耳に付けたピアスから魔水晶が分離し、右目を覆う照準器に変化する。相手から少し離れた位置で踏み止まり、その横を一迅の風が吹き抜ける。

 

「オラァッ!!」

 

 助走の勢いを乗せたテレフォンパンチ。技もへったくれもないソレだが、フランクリーの剛腕を以て放たれれば、さしものムゥダンですらいなす事は難しい。

 

「ッ!前もって力を見ていなければ、受けようとする所でしたよ!!」

 

 彼女は反撃を思考から切り捨て、軽くバックステップして回避する。それでも紅髪を揺らす豪風を受け、彼の力強さに驚く。

 その思考の隙を縫うかのように、蒼の流星が首を狙う。少女が照準器を作っていたのは、弾丸を秘密裏に作製するブラフであり、それを正確に命中させる為の布石だ。

 

「いざ戦いとなれば、遠慮なく急所を狙うとは!侮れないなあっ!!」

 

 楽しそうに笑いながら、大きく仰け反って銃弾を躱す。眼前を跳ぶ銃弾が、髪先を焼き焦がす。

 先程まで仲間として遺跡を進んでいた彼女たちは、今は敵として向かい合っている。しかし、誰も悲壮な表情など浮かべていない。誰もが純粋に、この力比べを楽しんでいる。

 ムゥダンは豊かな胸越しに、戦況を分析しようとした。そこで、魔弾の軌跡の先に少女がいない事に気付く。

 

「しま……ッ!?」

「やあああぁぁああああっ!!」

 

 気合一閃ならぬ、気合二閃。驚異的な素早さで、魔弾を発射した瞬間に走り出したライラックは、それを追い越して相手の背後に回り込んでいた。

 ムゥダンの背に潜り込んだ少女が、二刀のダガーを閃かせる。一撃目が放たれると同時に咄嗟に身を捻るが、白い首筋から血が零れる。次いで二撃目が若緑の衣服に包まれた大きな背中に襲いかかり、ガキンと金属質な高音が大広間に響いた。

 

「翼っ!ムゥダンさんったら、竜蛮人(ドレイク)だったんだね!」

「ええ。あまり見ないで下さいな。翼は小さくて、恥ずかしいんですよ」

「そんな事ないよ。綺麗でかっこよくって大きくて、それに翼もあるんだもん!あたい、ムゥダンさんの背中に乗れてよかったなあ」

 

 二刀目のダガーが、ムゥダンを傷付ける事はなかった。彼女の肩甲骨辺りから突き出た小さな翼が、少女の刃を受け止めた。

 翼を顕にした事により、彼女の衣服はバックリ裂け、シミ一つない鍛えこまれた美しい背中を晒して扇情的になっている。少女は締りのない笑みを見せ、目の前の光景に見惚れている。

 それに対してツッコミを入れたい感情に襲われるが、ムゥダンにそんな余裕はない。

 

「高速詠唱ですか。そんな炎では、餅も焼けませんよ?」

「うるせえよ!ほれ、リラ。落し物だ!」

「ありがとね、フランっ!」

 

 再び殴りかかって来た少年の剛腕を回避する。彼の全身は燃え滾っていた。嫉妬による錯覚ではない。支援魔法による物だ。吹き上がる炎の強さから、中級相当の魔法を高速発動させたと看破し、少年を挑発する。

 彼女の挑発に動じず、少年は抜け目なく拾っていた拳銃を少女に投げ渡した。

 

「熱ちちっ!?フランったら、魔法が使えるなら言ってよね!」

「へへっ、切り札は最後まで取っとくモンだろ?」

「えー?切り札は切らなきゃ、切り札って言わないよー」

「揚げ足取るんじゃねーよ。行くぜ、リラ。さっきと同じだ」

「おっけー!あたいに任せて!【RUNE BULLET】っ!!」

 

 燃える小さな背に隠れて、未だ熱を持つ銃へ弾丸を込める少女。それを確認し、少年は走り出す。

 

「同じ手は通用しない!」

 

 多少のダメージはやむ無しと、ムゥダンは覚悟を決めて少年へ力強い正拳突きを見舞う。強烈な踏み込み。引き絞った腕から、目にも止まらぬ早さで拳が発射されるその瞬間。

 

「同じならなァッ!!」

「【戦いを精算し、血を洗い流せ】【インテンソ・アグア】」

 

 腕を振り上げる駆ける少年からではない。それはムゥダンの後方から。いる筈のない誰かが唄う、厳かな詠唱が聞こえた気がした。そして、背後から押し寄せる鉄砲水。予想もしない事態に対処できず、彼女は脚を取られてバランスを崩す。突如として出現した水魔法は燃える少年の身体に触れると、もうもうとした蒸気へ変わり視界が遮られる。

 

「食らえやあああっ!!!」

「か……っ!ハッ……ァアアッ!?」

 

 その中で彼女は腕を交差させ顔を守り、腹筋に力を入れた。何も見えずに困惑する中、最良の選択をしたと言える。

 少年の拳が、勢いよく腹部に突き刺さる。彼女の鍛え抜かれた腹筋は、鋼鉄の如き硬さを持つ。しかしドワーフの剛力は、鉄など容易く粉砕する。そんな事は、小さな子でも知っている常識である。

 ムゥダンの身体が、投げつけられたスーパーボールのように激しくバウンドする。血と共に肺の空気全てを吐かされ明滅する視界の中で、蒼い流星を捉えた。

 

「くぅ……っ!」

 

 素早くそれを掴むと、貫通こそしなかったが、手の平に激痛が走る。そして予想通り、弾道の先に少女の姿はない。それを理解すると同時に、何かが飛来する気配を感じる。

 

「そこだっ!!」

 

 裏拳がナニカを破壊する感触。およそ人体の物ではない軽さと温度。放った拳の遠心力により、空中で180度回転した彼女はそれを見る事ができた。それは、バレルがひしゃげて使い物にならなくなった、少女の拳銃だ。

 

「行って来いっ!」

 

 ムゥダンの眼下では、バレーのトスのような体制の少年の腕に、力強く頷いた少女が両足を乗せていた。そして、跳ね上げられる少年の腕。跳び上がる少女の身体。一瞬の視線の交差の後、少女はムゥダンの背後を取る。片手に持っているダガーが投げつけられる。

 

「甘い」

 

 首を捻ってそれを見ていたムゥダンは、冷静に襲い掛かる凶器を蹴り飛ばす。後は互いに落下した後、少女の意識を奪えばいい。剛力を持つドワーフの少年ならともかく、非力なハーフエルフの少女ならば、不意を突かれない限り、何をしようと彼女の身体に傷を負わせる事など出来ない。

 何しろ少女は武器を投げ尽くして、無手になっている。武器すら失くしたフェンサーなど、接近戦においては恐るるに足らない。

 落下しながらそこまで思考を回したムゥダンは、違和感に気付いた。彼女の武器は1つの拳銃と、二刀のダガーだ。ならば、もう1本のダガーはどこに行った?彼女ならば、素早くそれを抜く事も出来た筈だ。その答えは、すぐに理解させられた。

 

「甘いのはお前だっ!!」

 

 ドスッと、身体がバラバラになってしまいそうな衝撃。蹴り抜いた左脚に、ダガーが深々と突き刺さる。非力な少女では、こうは行かない。そもそもダガーは、ムゥダンの視界の外、真下から飛んで来た。

 残る1本は少年に渡されていた。彼の剛腕によって投擲された刃が、彼女の鋼の肉体を突き破ったのだ。

 

「くぅ……っ!あああぁぁああああッ!!!」

 

 ムゥダンは、少女が持つ麻痺毒の即効性をよく知っている。よって判断は早かった。太ももを握り潰し、ダガーが突き刺さる肉ごと千切って捨てた。

 激痛。そんな言葉では済まされない、不快で激しい苦しさ。抉られた傷口が落下する風圧に晒されると、剥き出しの神経に焼けた鉄を押し当てたような鋭い疼痛が脳髄を掻き乱す。

 それでも彼女は、不敵な笑みを絶やさない。さあ、貴方たちの策は全て耐え抜いた。この身体が地に落ちれば、まずは一人、眠らせてやろう。最早狂気的とも言えるほどに、鋭い犬歯を剥き出しにした笑顔。それを見る少女も、不敵な笑顔で返した。

 

「【CREATE (くひふぇいと)WEAPON(ふふぇふぉん)】っ!」

 

 少女の手首に巻かれたアンクレットに付いた水晶が、激しく輝き変形する。形を成したのは、変哲もない拳銃。それは、弾を込めなければ役にも立たない鉄の塊。笑って閉じられていた歯が開けられ、チロッと出した幼い舌の上には、一つの弾丸が乗っている。

 

「ああ、そうか。気付かったなあ」

 

 自嘲気味に笑うムゥダンは、彼らの策を全て悟った。態々叫ばなくても発動する【ルーンバレット】の魔法名を声高に告げていたのは、この切り札を隠すため。それにより漏れるマナの光も、少年の炎によって気付かれない。そして激しい空中戦を繰り広げた彼女は、この切り札を防ぐ術がない。

 少女の口から吐き出された弾丸が、唾液の糸を残して銃に込められる。照準器越しに、少女と女性の視線が交錯した。

 

「ムゥダンさん!勝負だっ!!」

「はい!来なさい、リラさんっ!!」

 

 彼女たちの叫びと同時か、一瞬後か。乾いた銃声が鳴り響く。そして、女性の右目に焼けるような激痛が走る。薄れる意識、口から零れる血。彼女は舌を噛み、痛みで気絶を逃れたのだ。その後、左目すらも見えなくなる。

 

「くっ……!あの時のトリモチ!?」

「名付けて、【CAPTURE BULLET】!あたいったら、天才ね!!」

 

 ムゥダンはその感触から、目を覆う物の正体に行き着いた。同時に、目測していた地面が近付いている事を思い出す。完璧に受け身を取った彼女は、勢いそのままにバク転して相手から距離を取る。

 落下のダメージを全て無くしたとしても、それまでに大きく消耗させられた。傷付いた内蔵によって、口から血が溢れる。左脚は既に使い物にならない。視界は暗黒のまま、トリモチがなくなったところで、激痛を訴える右目が戻って来るかも怪しい。

 

「くくっ、ゴホッ!ぐふっ……、アッーハハッハ!!」

 

 それでも血を吐き出しながら、大きく笑った。彼らは、自分が思う以上の強敵だ。それが嬉しくて仕方ない。正直、相手を侮っていた。その結果がこれである。ならばせめて今からでも、自分も本気を出さなければ相手に失礼と言う物。

 

「まずは謝罪を。私はお二人を、どこかで子供扱いしていたようだ。今まで全力ではありましたが、全霊ではなかった。必死ではあったが、決死ではなかった」

 

 視界は封じられ、全身がズタボロで、呼吸も真面に出来ていない。然して、悠然と片足で体重を支える彼女は、今までの手傷など堪えた様子を見せない。

 

「さあ、第2ラウンドです。心ゆくまで、楽しみましょうかっ!!」

 

 小振りな翼をはためかせた彼女は、光り輝く闘気を身体から噴出させて、高らかに告げた。

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