戦闘回と言う事で、ギャグは一切ありません。本当だって!ふざけた鳴き声とか入れてませんからあっ!?
満月の下で、一人と五頭の戦闘が繰り広げられる。その光景は、月明かりに照らされた妖精と獣の舞踊のよう。
「おっと、ほっ、てやっ!」
避けて躱し、斬りつける。攻撃を多く仕掛けているのはウルフだが、ライラックはそれらの全てを回避して獣たちへ少しずつ傷を作る。彼女の武器は、麻痺毒が塗られたダガーだ。小さな傷が、ゆっくりとだが着実に相手の行動を阻害し始める。
「ガルル……、アォーン!」
身体の痺れへの忌々しそうな唸り声を上げた一頭のウルフは、雄叫びによって敵へ群がる仲間を引き戻した。
「おっ、何かする気だな?」
不穏な雰囲気を感じ、楽しそうに笑うライラック。自然体で脱力して、どんな動きでもできるようにする。
僅かな間が空いて、二頭のウルフが疾走した。
「ふふん!まだまだ遅いよ!」
爪と牙のコンビネーション。それらを余裕を持って全ていなす少女は、駆け出しの中ではそれなりに腕がいい冒険者と言える。だが、そんな彼女でも反撃する事は許されなかった。
「うわぁっ!?」
直ぐさまから、新たに二頭が追撃を仕掛ける。全体重を掛けた突進が少女を襲う。この戦闘で初めて、彼女は驚愕の声を上げた。咄嗟に大きく横飛びして、相手の攻撃圏から逃れる。移り変わる視界。目の前に見えるのは光。月光を反射した、最後の一頭の牙だ。
ライラックは典型的な
この噛みつきは、今までのダメージを優先して行動を奪う物とは違う。食料に対して喰らいつき、命を奪う捕食である。転けたフェンサーなど、彼らにとっては抵抗する手段を奪われた獲物に等しい。大きく開けられた顎が、勢いよく閉じられる。戦いを見ている事しか出来なかった農夫は、それがギロチンの刃のように思えた。
「ッッ……!!!」
断頭台は未だ血に濡れず。少女は両手を突き出して、刃で牙を食い止めた。しかし、彼女は非力なハーフエルフ。刹那の間もなく、細腕は震えジリジリと眼前に牙の群れが押し寄せる。必死で命を繋ぎ止めるその中、彼女は仲間の存在を感じた。
「なるほどね、はじょーこーげきだ。やるなあ、まいったまいった!」
彼女の敵は一頭だけではない。これだけの時間があれば、最初に飛び出した二頭が体制を立て直す。
今ライラックを追い詰めているのは、ウルフたちの若きボス。彼は雄叫びによって、群れへ指示を出した。第一の矢は俊敏な敵の動きを制限する為。第二は体制を崩す為。そして第三によって追い詰める。万が一、幸運にも敵が生き延びたとしても、戻って来た一の矢がトドメを刺す。
元来ウルフは知能が高く、群れで狩りをする動物だ。見事なまでの連携プレーを、少女は素直に褒め讃えた。彼女の隠し弾は不意打ちには便利だが、流石に両手が塞がり間もなく攻撃されるこの状況ではどうする事もできない。
「仲間がいるのは、あんただけじゃないけどねっ!」
「【ポルターガイスト】!」
夜になり活発になった無数の浮遊霊が、ウルフたちにまとわりつく。四頭のウルフの身体が浮き上がり、少女とボスの頭上を飛んで行く。僅かに力が抜けたボスの鼻先を蹴りつけて、少女は転がりつつ立ち上がる。ボスは攻撃する事もできたが、それよりも新たに現れた増援を警戒して距離を取った。
ライラックは仲間が走って来る足音を感じていた。態とウルフへ話しかける事で彼らの気を逸らして、さらにフグリの詠唱を誤魔化し、不意打ちのチャンスを作ったのだ。
「さあ!反撃開始だ!!」
「じゃないよ!このおバカっ!!ちょっとでも遅れてたら、死んじゃってたんだよ!?」
「お兄ちゃん、お説教は後よ。あいつら、まだまだ元気みたい」
浮かばされていたウルフたちが、軽やかに着地する。ほんの僅かに送り込まれた麻痺毒。射程ギリギリから放たれた呪術。それらだけでは、彼らを倒すには程遠い。
合流を果たした冒険者たちは、白銀の狩人と睨み合う。そしてチームの頭脳である彼らが動き出す。
「【勇猛な魂よ——】」
「ガウッ、バルル、ワォンッ!!」
フグリが詠唱を開始したのと、ボスが群れに指示を出したのは同時。しかし集中が必要な詠唱と、話すだけで伝わる指示とは、効果が現れるまでに大きな差が生まれる。ボスの指示は、「緑髪の男をやれ」という端的な一文である。なんと先程の不意打ちだけで、
「仲間はあたいが守るっ!!」
指示を遂行しようとした部下たちへ、
ボスと一頭の腹心でライラックを受け持ち、残る三頭がフグリへ襲い掛かる。
「【——今共に戦地を駆けん】」
呪術の完成にはもう少しかかる。それよりもずっと、彼の身体を牙が食い破るほうが早い。
「【光よ穿て】【フォース】!」
神聖な光の爆発により、ウルフが後退した。冒険の神、ホー=ロウに仕える
「お兄ちゃん!?」
「ガルルワァァァアアアッ!!」
咄嗟に上げたネモの声に重なるように、ウルフが唸り獲物へ飛び掛る。そして、真っ赤な鮮血が月夜に散った。
「キャインっ!?」
「へっ、やらせないっての!」
ウルフは甲高い悲鳴を上げ、派手に転倒する。彼の脇腹には、深々とダガーが突き刺さっていた。乱戦の中、ライラックが投げつけたのだ。二人の少女の助力により、遂に呪術が完成する。
「【ライノウスキン】! どうしたの、牙が上手く刺さらないようだけど。ちゃんと歯は磨いてる?少し獣臭いよ」
「口を動かすなら、魔法のためにしてよ」
「はいはい。その前に手も動かさなきゃね」
ウルフを振りほどくと、軽口と一緒にメイスを叩き付ける。麻痺毒により足元をふらつかせた獣は直撃を許し、そのまま気絶した。
「すっげえ……!」
遅れて辿り着いたフランクリーの口から、感嘆が漏れた。少女と兄妹、そしてウルフ。どれもが1対1で戦うなら彼の敵ではない。しかし、少年が獣の群れと戦って勝てるだろうか?もちろん、山を遊び場にして手慰みに狩りをしてきた彼は、そんな愚行は犯さない。狩りで狙うのは、群れから離れた個体だ。そうして生きて来た彼は、自分より強い相手と戦う術など知らない。しかし、それを実践する者たちが目の前にいる。種族も得意分野も違う彼らが助け合い、己より強大な敵を倒す光景に心が踊った。
「ライラックさん、大丈夫そう?」
「へーきだよ!そっちは?」
「むしろ一頭減って楽になったくらいかな」
武器を1つ失ったライラックはウルフの攻撃を躱し、さらに反撃まで加える余裕を見せる。斬撃は二刀の時よりもより精密になり、ボスの傷は少し増えた程度だが、彼を庇う腹心はかなり弱って来た。
ドワーフに迫る防御力を手に入れたフグリは、二頭のウルフが噛み付いても掠り傷程度しか負わない。さらに【ベアマッスル】の詠唱を始めて、戦局を詰ませにかかる。
兄に守られたネモが神聖魔法を唱える。少女のスタミナと兄の傷が癒され、深くダガーが刺さって行動不能に陥ったウルフも命の危険を脱した。
「ガルルゥ……!」
傍目から見れば、冒険者に予断は許されないこの状況。まだ一頭のウルフが倒れただけ。軽戦士のダガーは決定的な一撃に欠け、呪術師のメイスは素早い獣には当たらない。回復を担当する神官のマナにも限界がある。
しかし、ボスは盤面が詰みかけている事を察知した。すばしっこい子供が持つ刃物の毒が回り、動きに精彩を欠く腹心。殺しきるには、何十回と牙を突き立てなければならぬ男。その男が、また怪しげな呪術を行使しようとしている。何か手を打たねばならない。
「ガルルワン!!」
「……ルガルガン!」
「うわっ!?やるなっ!このっ!」
ボスの発破により、腹心が力を取り戻した。否、気合いだけで身体を冒す麻痺などないかの如く暴れだしたのだ。こんな無茶をすれば毒は早く回り、多くの反撃を受ける。だから、これはボスの最後の賭けだ。
目にも止まらぬダガーが描く銀の軌跡。それを追いかけるように、腹心の身体に赤いラインが刻まれる。遅れて同じ色をした液体が宙を舞う。まだ未熟な時分に、そして最近になって嗅ぐ事が多くなった彼の血の匂いだ。
風のように駆けるボスの耳が、腹心の身体が崩れ落ちる音を拾った。同じ母から産まれ、一心同体と言える程の長い付き合いである友はもう戦えない。しかし、子供をその場に釘付けにした。それは僅かな時間だが、それさえあればウルフの中でも優れた脚力を持つボスにとって、目的に辿り着くのは容易な事だ。
「【荒れるケダモノ——】」
「クワンヌッ!」
霊へ呼びかける呪術師が、ボスを油断なく睨む。二頭の仲間が付けた手傷は、彼の命へ届かせるにはまだ浅い。仲間がボスの為に道を空ける。彼はさらにグンと速度を上げ、そこへと飛び込んだ。視線を絡ませるボスとフグリ。彼我の距離は僅か1m。
ウルフの群れを率いるボスの策は、盤面を詰ませる呪術師への決死の特攻。ではない。
「【の剛腕】なにっ!?」
ボスの一撃を耐える為に力を入れ、その後呪術を完成させようとしたフグリは驚愕の声を上げた。彼の視界いっぱいに広がったのは、銀の毛皮に覆われた柔らかそうな腹だ。プライドが高いウルフは、家族にも滅多に腹を見せる事はない。矜持を捨てる事になっても、それでもボスは目標へ辿り着いたのだ。
目標は声を上げる事もできず、ボスを見上げて仰け反ったまま固まる。そう。彼の目標とは、軽戦士や呪術師ではない。二人を不沈たらしめている神官だったのだ。
お疲れ様です、鈴木です!
戦闘描写ってめちゃくちゃに難しいですね…。難産でした。出来れば、有利不利が二転三転する戦況を書きたいと思っているのですが、これが中々上手く行きません。他の作品を読んでいると派手な戦いにワクワクするのですが、自分の作品に落とし込もうと思うと…。
そんなグダグダ戦闘な拙作ですが、どうか楽しんで頂けるように頑張ろうと思います。
鈴木でした。