そうです!鈴木です!鈴木は永遠に不滅なのですっ!!
「シヌヌワンっ!!」
この場にいる人族の中で、ウルフの言語を話せるのはサンブリテニアだけだ。だが、誰もが空高く跳ぶボスの言葉の意味を理解した。お前を殺す、そんな絶対的な殺意だ。
誰もが時間の流れを遅く感じた。ボスはネモの首筋へと狙いを定める。彼女はボスを呆然と見上げる事しかできない。フグリが割って入ろうと判断したその時には、残るウルフの仲間が彼に飛びかかる為に脚に力を込めた。瞬足に自信がある者たちも、初速は四ツ足のウルフよりもずっと遅い上に距離が離れすぎている。
満月を背負い、ボスの身体が地面へ吸い寄せられる。全員の脳裏に、数瞬後に引き起こされる惨劇が過ぎる。そんな中でもサンブリテニアの顔色は変わらず、唇は紅い三日月のように緩く弧を描く。
「【RUNE BULLET】!」
ライラックがダガーを捨て、腰のベルトに引っ掛けている麻袋に手を突っ込む。麻袋から、マナの淡い光が漏れた。その一瞬後、逆の手をボスへと伸ばす。俊敏な彼女でもこれ程離れていては、走ろうが何かを投擲しようが仲間を守る事など出来はしない。
それでも仲間を守り、困っている人がいれば助けるのが冒険者だと彼女は思う。その願いを込めて放たれるのは蒼い流星。迸った星は、ボスの胴体へ衝突する。その軌跡は、少女の腕から伸びている。彼女の武器は安っぽい2本のダガーと、それを素早く操る俊敏さ。あとは、向こう見ずな勇気。だが、それだけではない。
「言っただろ?仲間は守るってさ!」
「
「うん!これが、あたいの魔法だよっ!」
魔法とは詠唱をして魔法名を口にする事で、始めて完成する物だ。その為、詠唱しながらの移動などの高等技術はあるが、強力な反面どうやっても隙ができる。だがしかし、——ここに例外が存在する。それが魔導技術だ。
それは魔導文明時代には広く用いられていたとされ、魔法の一種ではあるが現代の物とは体系を大きく外れている。魔水晶と呼ばれる特殊な岩石にマナを込め、それを様々な形に変形させられる。その行使に詠唱は必要なく、マナと魔法名があればそれでいい。
その技能を持つ者を
「どうだー!これがあたいのとっておき!隠し玉ならぬ、隠し弾だーっ!」
「はは……、私生きてるのよね?寿命が縮まったわ」
クリスマスにもらったプレゼントを自慢する子供のように、手に持った小ぶりな拳銃を見せびらかすライラック。彼女の気の抜けた声を聞いて、やっとネモが放心から立ち直った。そして、獣の低い唸り声を聞く。
「こいつ!まだ動けるの!?」
「ネモ、僕の後ろに。ライラックさん、あいつの事は頼んだよ!」
「分かったよ!」
緩慢にだが、ボスが立ち上がろうとする。それを見た仲間のウルフも活力が戻った。再びフグリを襲う二頭の獣。攻撃を受けながら、フグリはいつでもネモを庇えるように冷静に戦況を見極める。ライラックがダガーを拾い、駆け出した。四ツ足で地面を踏みしめたボスは、力強く一歩踏み出す。
「シヌヌワ……ボチ……」
そして、ぐったり寝転んだ。麻痺毒に身体を封じられ、意識外から横っ腹を魔弾で射られたボスの最後の力だったのだろう。
全ての力を出し切り動けなくなった彼の姿に、仲間もしゅんと尾を下げて攻撃をやめた。
「やった!あたいらの勝ちっ!」
「はあ……疲れたー」
「あはは、二人ともお疲れ様」
武器をしまって、両手にピースをして飛び回る少女。糸が切れた人形のように、地面へ仰向けに倒れ込んで大の字になる青年。そんな彼らへネモは労いの言葉をかける。
黒い長髪に月光を受けて微笑む彼女は、絵画のように美しい。緩く細められた垂れ気味の目尻は、人が良さそうにも抜け目が無さそうにも見える。その色が特徴的で、本来ならどんな種族でも白い筈の強膜は漆黒。瞳は黄金で、空の月よりも明るく輝く。そして頭に沿うように山羊のような湾曲する肌角が2本、左右のこめかみから伸びる。
「ネモッ!帽子!!」
「えっ?あら……」
それを目にしたフグリが、血相を変えて起き上がった。呼びかけられたネモが頭を触ると、帽子がない事に気づく。ウルフのボスに襲われた時に、どこかに飛んで行ったのだろう。
焦燥を浮かべ周囲を見回すネモへ、フグリは直ぐに駆け寄った。だが彼を追い抜き疾走する者がいる。
「ふぁぁぁ……とてもとても綺麗〜。今からお姉様って呼んでいいですかぁ〜?」
「えっ……」
頬を赤く染め、心ここに在らずな戯言を抜かすライラック。目はうっとり潤んで、口元はだらしない笑みを浮かべている。フグリはずっこけ、顔面からヘッドスライディング。全身を肥料箱に突っ込ませた。ネモは引いた、ドン引きである。
「いや……。あのねリラ、私はオーガスなのよ?見て分からない?」
「うん!分かるよっ!けどあんまり可愛いから、女神様かと思っちゃった!!」
オーガスという種族がいる。いや、厳密に言うと種族ではない。
冒険者の街にある宿屋で育ったライラックにとって、彼らは見慣れた隣人である。それを踏まえても、彼女のトリップしたままの言動は奇妙でしかないが。
「ネモ!僕の後ろに!」
「わわっ!?なんだよー!」
フグリが二人の間に割って入り、ネモを庇う。懸命に大切な妹を守ろうとする彼に、彼女らが答えた。
「うわっ!フグリ、くっさいよ!?」
「うるさいな!?そんな事言ってる状況じゃないんだよ!」
「お兄ちゃん、傍に寄らないで。……臭い」
「そんなあ!?」
フグリは盛大に泣いた。しかし、そんな水量ではこびり付いた肥料は洗い落とせない。彼はくっせーままなのである。
「くくっ……、あはは!これが村を救った英雄の姿か!?」
サンブリテニアが、堰を切ったように高笑いした。領主の笑う姿に安堵したのか、村人も緊張を忘れて陽気に笑う。笑いの中心にいる臭い青年は、いっそ自分も畑に埋まって肥料になってしまおうかと投げやりな気分になっていた。
「あー、フグリだったか?そんな怪我したままウンコ塗れになってたら、病気になるぜ?川で洗って来いよ」
誰も彼もが指をさして笑う中、大きめの桶を持ってトテトテ歩いて来たフランクリーの優しさが身に染みる。だけどよく見ると、少年は片手で鼻を摘んでいた。フグリはやっぱり泣いた。川に向かった彼が着替えて戻って来ると、サンブリテニアが冒険者たちへ歩み寄る。
「先ずは礼を言おう。よく誰も死なずに、家族を救ってくれた。可憐な半妖魔の技術者、美しき鬼人の神官。そして……。くくっ、かぐわしいヒューマンっ!やっぱり無理!シャクヤク〜っ!」
「はい」
スカートを摘んで優雅なカテーシーをしてから厳かに告げた領主だったが、途中から腹を抱えて笑いだした。メイドが歩み寄り、主の笑いすぎて目に浮かんだ涙を甲斐甲斐しくハンカチで拭う。そしてハンカチをガン見してから、大切に仕舞った。鼻からタラーっと血が流れる。一体ナニに使うつもりなんでしょう?
「はあ……は〜ぁっ。シャクヤク、助かったぞ……。さて、貴様らはこのまま報酬を受け取り、帰る事ができる。欲を言わせてもらえば、家族が傷付け合う事がない様、原因の究明を依頼したい。だが、この先には多くの未知と困難が待ち受けている事だろう。なので私も、無理にとは言うまい。……さぁ、どうする?敵が明確な今までの依頼とは違い、命の保証はできんぞ」
領主がサディスティックな笑みを浮かべて問う。尊大に振舞ってこそいるが、これは依頼した彼女だからこそやらなければならない確認だ。館でのやり取りを経て、断られない事は分かっている。
だがそれでも、聞かずになあなあで済ませる訳には行かない。自分が発注した依頼により、誰かが命を落とす事だって有り得るのだから。本来、冒険者依頼にそのような責任を持つ必要など皆無なのだが、それでも彼女は領主の矜持として彼らに問うた。
「もちろんやる!あたいに任せてよ!」
「リラだけじゃないでしょ。私たちに、よ」
「うん。このまま何も分からないんじゃ、つまらないしね」
当然とばかりに彼らは即答した。一人の少女は、未知という単語に目を輝かせて。また一人は、優しい顔で頷いて。最後に臭くはない青年は、領主の目を見て答えた。
フランクリーは、そんな冒険者たちを見詰める。視線に羨望が混じっているように見えるのは、姉の思い違いだろうか?
「くくっ、よく分かった。皆の者!宴の準備を!英雄共を癒す、酒と料理を振舞おう!!」
彼女は高らかに、村中どころか山の方にまで聞こえるような大きな声で宣言する。豪快かつ気品漂う彼女に同調するように、村人たちが答える。
「あっはっは!やっぱり、いい村だなあ!」
「うん、本当にね」
「ふふっ、改めて頑張らないとね」
慌ただしく動き始める村人と領主たちを見て、冒険者が笑った。
お疲れ様です、鈴木です!不滅じゃないです!鈴木です!!!
⑨話ですよ!?⑨話っ!!気付けばあと一息で、2桁の大台に乗ります。これはもう、くっだらねえギャグなんてかましてる場合じゃないです!次回は真面目に書くしかないですっ!ライトファンタジーな拙作ですが、(命が)ライトなファンタジーになるかもしれません!!シリアスさーん!鈴木のここ、空いてますよー!!
…いや、マジですって。あんまりボケませんってば。多分。きっと。メイビー。
くっ!?2回もギャグを挟まなかったせいで、体に反動が!!これがシリアス小説のリスクだと言うのかっ!
やっぱり、次回はボケます。その次で本気出します。11話こそ、ギャグは一切なし!鈴木の本気のシリアスをお楽しみにっ!!!