楽しんでいただければ幸いです!
夜久さん視点です。
<夜久衞輔視点>
梅雨真っ只中の6月。
相変わらず大雨の第3日曜日。
今日は梟谷との練習試合!のはずだったが……梟谷一行が体育館に入った途端、場の熱気は一気にこの大雨に洗い流された。
「なぁなぁ赤葦ぃ〜ヘイヘイヘーイ!!なぁなぁ赤葦!赤葦ぃ!」
「……木兎さん、要件ないなら黙ってください。」
「要件?あるだろうがぁ!赤葦の名前を呼ぶ!」
「……呼ばなくて結構です。」
その中心にいたのは、相変わらずウザ絡みをする木兎と、いつもの無表情に加え、背後にどす黒いオーラを纏った梟谷セッター・赤葦。
いつもなら木兎を上手いこと捌く赤葦が、今日はとことん木兎を視界に入れないよう、「絡んでくんな」という拒絶オーラを醸し出している。
察しのいい研磨が、わかりやすく震え上がった。
「うわぁ…機嫌悪い時のお父さんに、そっくり…。」
そう呟いた瞬間、背後に殺気を感じた。
研磨がビクッとなって、即座に黒尾の背後に隠れる。
視線の正体は、無表情のまま鬼の形相と化した赤葦だった。
木兎に絡まれている時以上の鋭い眼光が、研磨をロックオンしている。
この時の俺たちは、まだ知る由もなかった。
今日の赤葦の聴覚と脳の回転速度が、通常比2倍まで急成長していることを。
そして……音駒の「脳」が、試合開始前から機能停止に追い込まれようとしていることを。
体育館に設置された巨大なサーキュレーターが、何も見ていないかのように無機質な音を立てて空気を攪拌していた。
「俺達は血液だ。滞り無く流れろ。酸素を回。 “脳”が、正常に働くために。」
黒尾のいつもの掛け声が、今日はなんだか別の意味に聞こえてくる。
ー試合開始。
赤葦のセットアップ。
いつもなら「ふわり」と綺麗な弧を描くトスが、今日は「ビシィッ!!」と音を立てて木兎の手に突き刺ささる。
音駒の誰もが「今のトス、絶対怒ってる…」と察する鋭さだった。
そしてその直後、研磨のすぐ上を狙うような、威圧感溢れる速攻が展開された。
「ねぇ…赤葦が俺のことをずっと目で追ってくるし、今のも...わざとだよね…。」
研磨が助けを求めるように訴える。
気のせいだと言い聞かせたいが、赤葦の視線は間違いなく研磨をロックオンしていた。
「赤葦ぃ!今の見たか!?1発目からスゲェの打てたぞ!」
ハイタッチを求める木兎に、「見てませんでした」と冷たく返す赤葦。
「ナ、ナイス木兎!やっぱお前すげぇわ!さすが名のしれたスパイカーだな!」と木葉がフォローし、
「だろぉ!?今の父ちゃんに見せたかったなー!」と木兎が生き返ったその瞬間。
ドンッ
一瞬だけ和らいだ空気が、突如響き渡った爆音に一瞬で木端微塵にされた。
サーブ位置の木兎に、赤葦が床へボールを強く叩きつけて渡した。
「ああ、すみません。」
謝罪の言葉に一切の感情が籠もっていない。
ベンチにいた梟谷の控えメンバーまでが一斉に「ヒィッ…!」と息を呑んでガタガタと震え出した。
それからの試合は、もはやバレーではなかった。
赤葦はそれから1度も木兎と木葉にトスを上げず、名指しで他のスパイカーに上げ続けた。
2人は「サーブとブロックだけ許されたリベロ」と化した。
たかがレシーブ一本に「ヘイヘイヘイ」、たかがブロック一本に「ヘイヘイヘイ」。
ボールに触ろうと必死にしゃしゃり出てくる姿が、余計に周囲を追い詰める。
そして…赤葦の視線が完全に研磨に固定された。
研磨が右に動けば赤葦の目も右へ動く。
研磨の喉元を掠めるような執拗な狙い撃ちが繰り返され、研磨の足が止まる。
「ヒィ…」
研磨が短く悲鳴を上げて放ったツーが、目の前で構えていた赤葦にあっさりとブロックされる。
あんなバレバレのツー、いつもの研磨ならあり得ない。
ネット越しに赤葦が研磨を見下ろした。
あの福永ですら悲鳴を上げるほどの殺気。
音駒の脳が、文字通り止まった。
赤葦の視線が突き刺さる度に研磨のトスがどんどん短くなり、スパイクの威力が落ちる。
赤葦のトスは執拗に研磨の方に上がり、スパイクが研磨の周辺に突き刺さる。
研磨はそれを次々コート外に弾き飛ばした。
これ以上研磨を危険に晒せば、音駒のバレーが崩壊する。
俺たちは全員で顔を見合わせた。
…答えは一つだ。
俺たちも全員で「サーブとブロックだけ許されたリベロ」になり、研磨からトスを上げる重圧を取り除いてやる。
梟谷の「地雷」から、チームメイトを守るための決死の護衛作戦。
今日、音駒高校排球部は、バレーをすることを諦めた。