護りたいもの〜IF〜 作:影風
20xx年
_ある男子中学生がISを動かした
そのニュースは瞬く間に世界中を駆け巡り、各国に衝撃を与えた。
IS_正式名称はインフィニット・ストラトス。既存の兵器をはるかに上回る性能を持つこの兵器の登場とともに、世界は一変してしまった。なぜなら、この兵器にはなぜか女性にしか扱えないという致命的な欠点があったからだ。
この事実は、不完全ながらも男女平等の実現に向けて努力していた社会を、完全なる女尊男卑の社会へと変えてしまったのだ。
それこそ、歴史の中で女性が受けていた差別に対する意趣返しのように…
しかし、急激に社会が変化したといっても、各国の首脳や軍の中枢のような地位は、未だに男性が握っていることも事実である。
この男子生徒の登場は、男性の復権を目指す彼らにとっては僥倖であり、またその争いに巻き込まれ利用されていくことも想像に難くなかった。
_____
このニュースを受けた日本政府も慌ただしく動いていた。
男性でもISを動かせる存在が現れたことで、これまで前提とされてきた「ISは女性しか動かせない」という常識が揺らいだ。各国が男性操縦者の可能性を探り始める中、日本としては、今ある手札を一つでも多く確保しておきたかった。
その一つが、目の前の少女だった。
「六角雪菜さん。改めてになりますが、我々といたしましては、貴女にIS学園へ進学いただきたいと考えております」
六角家の応接室。重厚な木のテーブルを挟み、数人の政府関係者が向かい合って座っていた。
その正面に座る少女は、静かに背筋を伸ばしている。
六角雪菜。
雪のように白い肌に、腰まで伸びた黒髪。整った顔立ちと落ち着いた所作は、年齢よりもずっと大人びて見える。
彼女は差し出された資料に一通り目を通すと、ゆっくりと顔を上げた。
「お話は分かりました」
鈴を転がすような声だった。ただ、そこに迷いの色はない。
「ですが、以前からお伝えさせていただいている通り、私は別の高校に進学いたします」
「しかし六角さん、貴女のIS適性は極めて高い。現在確認されている範囲では、世界でも例を見ない水準です」
政府関係者の一人が、やや身を乗り出す。
「率直に申し上げれば、貴女ほどの適性を持つ人材を一般の高校に入学させるのは、国家としても大きな損失です」
「国家の損失、ですか」
雪菜は小さく繰り返す。怒った様子はない。むしろ、穏やかな微笑みすら浮かべている。
けれど、その穏やかな表情を前になぜか、政府関係者はなぜか次の言葉が続けにくくなった。
「もちろん、貴女個人の進路を軽んじるつもりはありません。しかし今、世界は大きく変わろうとしています。男性操縦者の件もあり、ISを巡る各国の動きはこれまで以上に活発になるでしょう。その中で、適性Sの人間が日本にいるという事実は_」
「それは私を、国のために使いたいということでしょうか?」
遮るように発せられた声はあくまで柔らかかった。そこに責めるような響きはない。だが、言葉だけは真っ直ぐだった。
政府関係者は一瞬言葉に詰まったが、すぐに表情を整える。
「使う、という表現は適切ではありません。我々は、貴女の才能を正しく伸ばせる環境を用意したいと考えているのです」
「IS学園なら、それが出来ると?」
「はい。世界最高峰の教育機関です。各国の代表候補生も集まり、貴女にとっても得られるものは大きいはずです」
「そうですね」
雪菜は素直に頷いた。
「私も、ISそのものには興味があります」
政府関係者の表情がわずかに明るくなる。だが、雪菜の言葉はそこでは終わらなかった。
「ですが、今の私にはそれ以上に大切なことがあります」
「それ以上に、ですか…?」
「はい」
雪菜は微笑む。その笑みは穏やかで、どこか少女らしくもあった。
「私は、自分で決めた学校に行きたいのです」
政府関係者たちが互いに視線を交わす。
彼らにとっては、あまりに勿体のない選択に思えたからだ。
適性S_これが意味することの重さを、目の前の少女は本当に理解しているのか。
そう言いたげな空気が、部屋の中に漂う。
それを静かに見ていた風月が、そこで初めて口を開いた。
「娘の意思は変わらないようですね」
穏やかな声だった。だが、そこには場の空気を変える力があった。
「六角様、しかし_」
「あなた方のお話は理解しています。雪菜の適性が、国にとって大きな意味を持つことも」
風月は柔らかく目を細める。
「ですが、娘の人生は国のものではありません」
丁寧で、穏やかな声であった。しかし、そこにはそれ以上踏み込むことは許さない重さがあった。
その言葉に、政府関係者は沈黙する。
「雪菜がIS学園に行きたいというなら止めません。ですが、行かないというのであれば、それもまた尊重するつもりです」
「…それが、六角家としてのご判断ですか」
「はい」
風月は迷わずに頷く。
「六角家としてではなく、父親としての判断でもあります」
その言葉に、政府関係者たちはそれ以上強く出ることはできなかった。
六角家は表向きは旧家の一つに過ぎない。だが彼らの背後にあるものを、政府側も知らないわけではなかった。
しばらくの沈黙の後、代表者らしき男が小さく息を吐く。
「…分かりました。本日のところは、こちらも引き下がります」
「ご理解いただきありがとうございます」
雪菜は丁寧に頭を下げる。
「ただし、状況が変わった場合には、改めてお話をさせていただくことになるかもしれません」
「その時は、その時に考えます」
そう答える雪菜の声は、最後まで穏やかだった。
会談はそれで終わった。
政府関係者たちが退出した後、応接室には雪菜と風月だけが残された。
風月は娘の横顔を見つめ、静かに声をかける。
「本当にいいのかい?」
「はい」
雪菜はすぐに答えた。
「IS学園に興味がないわけではないんだろう?」
「ない、といえば嘘になります」
雪菜は少しだけ困ったように笑う。
「でも、もう決めましたから」
「そうか」
風月はそれ以上聞かなかった。ただ娘の表情を見て、何を優先したのか察したように微笑む。
「ダイチと同じ学校だったね」
その名前が出た瞬間、雪菜の頬が少し赤くなる。
「…お父様」
「いや、すまない。からかうつもりはなかったんだ」
「十分、からかってます…」
「そうかな」
風月は穏やかに笑う。
雪菜は小さく息を吐き、それから窓の外へ視線を向ける。
「ISは確かに好きです」
その声は、先ほどまで政府関係者に向けていたものよりも少しだけ柔らかかった。
「でも、それ以上に私はダイチと一緒にいたいのです」
風月は何も言わずに、ただ頷く。
ただ、と雪菜はイタズラな笑みを浮かべて続ける。
「もしダイチがISを動かせるのなら、話は別ですけど」
その言葉に風月は目を丸くした後、柔らかく笑った。
「それは、なかなか難しい話だね」
「わかっています。冗談です」
雪菜も微笑んで返す。その時の彼女はただ叶うはずのない冗談を口にしただけ。
そのはずだった。
_____
政府の人たちを見送ったあと、私は部屋を出た。
玄関に向かって廊下を歩いていると、台所から声をかけられた。
「雪菜」
振り返ると、お母様が小さな包みを手に立っていた。
「ダイチ君のところへ行くんでしょう?」
「…どうして分かったのですか?」
「あなた、あの子に会いに行く時は少し表情が違うもの」
そう言われて、思わず少し顔が熱くなる。
「違いません」
「そう?」
お母様は楽しそうに笑い、手にしていた包みを手渡してくる。
「これ、持っていってあげて。ダイチ君、甘いものが好きでしょう?」
「…ありがとうございます」
「それと、IS学園のこと」
お母様は私をまっすぐに見つめる。
「本当にそれでいいのね?」
「はい。私はもう決めました」
「そう」
お母様はそれ以上何も言わなかった。ただ、柔らかく微笑んで私の頭をそっと撫でる。
「なら、ちゃんと楽しんできなさい」
「…お母様、私はもう子供ではありません」
「そうね」
抗議のつもりで睨んだつもりだったが、お母様は少しも堪えた様子がない。むしろ、ますます楽しそうに笑っている。
「行ってらっしゃい、雪菜。ダイチ君にもよろしくね」
「はい、行ってきます」
受け取った包みをそっと胸に抱え、私は廊下を歩き出した。
_____
夕方。いつものように俺の部屋にやって来た雪菜様は、出されたお茶を一口飲むと満足そうに息を吐いた。
「やっぱり、ダイチのお茶は落ち着きますね」
「ありがとうございます」
そう言いながら、俺もテーブルの向かい側に腰を下ろす。
六角家の正面にある、六畳一間のアパート。決して広い部屋ではないし、むしろ雪菜様のような方が足を運ぶには不釣り合いな場所だ。
けれど、彼女はどういうわけかこの部屋を気に入っているらしく、こうしてよくお茶を飲みに来ていた。
テレビからは、ここ数日何度も聞いた世界初の男性IS操縦者のニュースが流れて来ていた。
「すごい話ですね。男性がISを動かすなんて」
俺がそう言うと、雪菜様は湯呑みに視線を落としたまま小さく頷いた。
「そうですね。これまでの常識が変わるかもしれません」
「雪菜様はISがお好きですから、やはり気になりますか?」
「もちろんです」
雪菜様は少し目を輝かせる。その表情は、普段の落ち着いた雰囲気よりも年相応に見えた。
「ISは面白いですから。技術としても、兵器としても、そして世界を変えてしまった存在としても」
「…そう聞くと、俺には少し難しそうです」
「ダイチはISに興味がありませんものね」
「すみません。男が学ぶものではない、と言った空気もありましたし」
「謝ることではありません」
雪菜様はそう言って、俺の顔を見る。
「ただ、少し勿体無いとは思います。ダイチは知ればきっと色々なことに気づける人ですから」
「俺がですか?」
「はい」
迷いのない返事だった。こういう時、雪菜様はいつも俺よりも俺のことを信じているような顔をする。それがありがたくもあり、そして少しだけ落ち着かなかった。
「そういえば」
俺はふと思い出し、口を開いた。
「雪菜様、本当にIS学園に行かなくてよかったんですか?」
雪菜様の手が、ほんの少しだけ止まった。
「どうしてですか?」
「いえ、雪菜様はISがお好きですし…それに最近も何度かお話が来ているようですから」
詳しい話を聞いたわけではない。
だが、六角家に政府の人間らしき来客があったことは知っている。その目的も、雪菜様の様子を見れば何となく察することができた。
雪菜様は少し考えた後、柔らかく微笑んだ。
「いいんです」
「ですが_」
「私は、ダイチと同じ学校に行きたかったんです」
あまりに自然に言われて、俺は一瞬言葉を失った。
「…雪菜様」
「何ですか、その顔は」
「いえ、その…」
どう返せばいいか分からず、視線を逸らす。そんな俺を見て、雪菜様は楽しそうに笑った。
「それに、もしダイチがISを動かせるなら話は別ですけど」
「俺がですか?それは無理だと思いますけど…」
「分かっています。冗談です」
雪菜様はそう言って、お茶をもう一口飲む。
「でも、もしそんなことがあれば一緒にIS学園に行けますね」
「…本当にそんなことになったら大騒ぎですよ」
「ええ。きっと大騒ぎです」
そう言って雪菜様は、どこか楽しそうに微笑んだ。
「そうだダイチ。今度の日曜日、国際IS展に行きませんか?」
「国際IS展ですか?」
「はい。各国の最新機のレプリカや資料、そして量産機ですが本物のISも展示されるそうです。あと簡易的な適性測定も出来るとか」
「俺が行っても分からないことばかりだと思いますが」
「そこは私が説明してあげます」
「それはありがたいですが、俺がちゃんと理解出来るかどうか…」
「ダイチ」
雪菜様は少し頬を膨らませる。
「最初から諦めるのは良くありません」
「すみません」
「それに」
彼女はそこで少し照れたように視線を落とした。
「最近、ダイチと二人でお出かけする機会もありませんでしたから」
少ししおらしい様子で切り出す雪菜様。そんな風に言われると、断れるはずがなかった。
「分かりました。お供します」
「はい。楽しみにしていますね」
嬉しそうに笑う雪菜様を見て、俺も自然と頬が緩む。
この時の俺は、ただ雪菜様と出かける予定ができたことを嬉しく思っていた。
まさかこの外出が、俺たちの進む道を大きく変えることになるなんて。
この時の俺は、まだ知る由もなかった。
_____
そして迎えた日曜日。俺はいつもより少し早く目を覚ました。
雪菜様と二人で出かけるのは久しぶりだった。もちろん俺は六角家に仕える身なので、彼女に付き添うことは珍しくない。だが、今日は護衛というよりは、雪菜様が自分から誘ってくれた外出だった。
そう思うと、少しだけ落ち着かなかった。
支度を整えアパートの前で待っていると、正面にある六角家の門が開く。
「おはようございます、ダイチ」
「雪菜様、おはようございます」
姿を見た瞬間、少しだけ言葉が詰まりそうになった。普段から綺麗な人だとは思っている。だが、今日の雪菜様はいつもより楽しそうで、普段よりも華やいで見えた。
「どうかしましたか?」
「いえ。その…よくお似合いです」
俺の言葉に、雪菜様は少しだけ目を輝かせた後、柔らかく微笑んだ。
「ありがとうございます」
その笑顔を見ていると、それだけで今日の外出が少しだけ特別なものに思えた。
それから電車を乗り継ぎ、俺たちはIS展の会場に向かった。
会場に着くと、雪菜様の表情がパッと明るくなる。
各国のISのレプリカの展示。大型のモニターに映し出される模擬戦の映像。武装や開発の歴史。各国の代表操縦者に関する紹介。
俺にとって詳しいことは分からなかったが、雪菜様にとっては違うらしい。
「ダイチ、見てください‼︎あれがイギリスの第三世代型IS、ブルー・ティアーズです‼︎遠隔操作兵装を中心に構成された機体で、特にビット兵器が_」
雪菜様は目を輝かせながら、普段よりも少し早口で説明してくださる。
その様子は本当に楽しそうで、見ているこっちまで嬉しくなってくる。
ただ、一つ問題がある。俺にはISの知識がほとんどないことだ。
「…すみません、雪菜様。半分ほどしか分かりませんでした」
「半分も分かっているなら上出来です」
「それは褒められているのでしょうか?」
「褒めています」
雪菜様にそう言われては、素直に受け取るしかない。
そうして俺たちは展示を順番に回っていく。その中で日本の量産機である打鉄の前で、雪菜様は少し足を止めた。
「打鉄は突出した性能こそありませんが、安定性や操縦性にも優れた良い機体です」
「雪菜様、こういった機体もお好きなんですね」
「もちろんです。派手な機体だけがいい機体とは限りませんから」
そう言った雪菜様の視線が、パネルの説明へと移っていく。
俺もつられてそこに視線を移すと、打鉄が採用された際の経緯などが説明されていた。
「…白銀」
その中でコンペに登場した機体の名を雪菜様がポツリと呟く。
「雪菜様?」
「いえ、綺麗な名前だと思いまして」
雪菜様はそれだけ言って、すぐに視線を戻した。
その後もいくつか展示を見て回っていると、会場の一角に人だかりができているのが見えた。
「何でしょうか?」
「どうやら簡易測定コーナーのようですね」
案内板には、来場者向けのIS適性測定体験と書かれている。正式な検査ではなく、あくまでイベント用の簡易的なものらしい。
列に並んでいる女性たちは、どこか楽しそうだった。
「面白そうですね」
雪菜様が呟く。
「雪菜様なら、きっといい結果が出るのでしょうね」
「どうでしょうか」
雪菜様は少しだけ楽しそうに笑った。
だが、次に向けられた言葉は予想外のものであった。
「ダイチもやってみましょう」
「…俺がですか?」
「はい」
「俺がやっても何も出ませんよ?」
「それを確認するのも記念です」
「…記念ですか」
「はい、記念です」
雪菜様の目が、少しだけイタズラっぽく細められる。
おそらく、本気で何かが出るとは思っていないのだろう。ただ、俺を少し困らせて楽しんでいる。そういうところは昔からあった。
「…分かりました。雪菜様がそう仰るなら」
「はい」
雪菜様は満足そうに微笑む。
俺は小さく息を吐いて、彼女と一緒に適性測定の列に並んだ。
列に並んでしばらくすると、周囲からちらちらと視線を向けられた。
無理もない。IS適性測定の列に、男である俺が並んでいるのだ。奇妙に見えるのは当然だろう。
「ダイチ、そんな固くならなくても大丈夫ですよ」
「…少し視線が気になりまして」
「気にしたら負けです」
「そういうものですか」
「そういうものです」
雪菜様はいつも通り落ち着いている。その様子を見ていると、こちらも少しだけ肩の力が抜けた。
やがて、俺たちの番がやってきた。
係員の女性は、雪菜様を見てから俺を見た。
「あの、体験されるのは…?」
「彼です」
雪菜様は自然に答える。その言葉に係員の女性は、困ったような笑みを浮かべる。
「ええと、こちらは女性向けのIS適性測定体験となっておりますが…」
「承知しています。記念にダメでしょうか?」
「正式な検査ではありませんし、エラーになる可能性が高いですが、それでもよろしければ」
「はい。ありがとうございます」
なぜ雪菜様がお礼を言っているのだろう。そう思いながらも、俺は案内された椅子に座る。
手首に簡易センサーが取り付けられ、目の前のモニターが起動する。
「では、始めますね。すぐに終わりますので、力を抜いていてください」
「はい」
力を抜けと言われると、逆に意識してしまう。
とはいえ、何も起こるはずがないのは分かっていた。男がISを動かせるなど、例外が一人現れたばかりだ。そう都合よく二人目が現れるはずがない。
測定してエラーが出る。その結果を見て雪菜様が笑って、俺が少し困って、それで終わる。その程度のちょっとした寄り道のはずだった。
数秒後、目の前のモニターにはエラーではない文字が表示された。
_適性ランクC
「……え?」
最初に声を漏らしたのは、係員の女性であった。俺も画面を見たまま固まる。
適性ランクC。男である俺にそんな表示がされている。意味が分からなかった。
「す、すみません。機器の不具合かもしれないので、もう一度測定しますね」
係員が慌てて端末を操作する。
しかし数秒後、再び同じ文字がモニターに現れる。
_適性ランクC
改めて表示された画面を見た人々がざわつき始める。
「今、Cって出てたよね?」
「あれ…男の人?」
「この前のニュースの人以外にも…?」
言葉が耳に入ってくるが、うまく意味を理解出来ない。
「……雪菜様」
思わず隣を見る。
雪菜様も、モニターを見つめていた。驚いていないわけではないのだろう。ほんの一瞬、普段の落ち着いた表情が揺れた。
けれど、それは本当に一瞬だけだった。
次の瞬間、雪菜様の目がパッと輝く。
「ダイチ、これで一緒にIS学園に行けますね‼︎」
「…はい?」
あまりに嬉しそうに言われて、俺は思わず間の抜けた声を返してしまった。
周囲はまだざわついている。係員も、どう対応すべきか分からない様子で固まっている。
だが、雪菜様だけは違った。
まるで、ずっと探していた道を見つけたみたいに、嬉しそうに笑っている。
「ダイチがISを動かせるなら、話は別です」
「…話、ですか?」
「はい‼︎」
雪菜様は当然のように頷いた。
「私もIS学園に行きます‼︎」
_____
六角家へ向かう車中、担当官は手元の資料をもう一度開いた。
六角雪菜__国内はおろか、世界でもほとんど例を見ない適性Sを持ちながら、IS学園への入学を辞退している少女。
前回の交渉記録には礼儀正しく穏やかだが、その意思は極めて固いと記されていた。父親である六角風月も、娘の意思を尊重するという姿勢を崩さなかったという。
今回も、説得は容易ではないだろう。
しかし、日本政府としても簡単に諦めるわけにはいかなかった。
世界初の男性操縦者が確認された衝撃も冷めやらぬ中、先日の国際IS展では、別の男子中学生からもISへの適性反応が確認された。まだ正式な操縦試験を終えてはいないものの、二人目の男性操縦者が誕生する可能性に、政府内は再び慌ただしく動き始めている。
各国がISを巡る動きを活発化させる中、日本にいる優秀な人材を一人でも多く確保しておきたい。そのためにも、適性Sの六角雪菜を一般の高校へ進学させるべきではないという声は、以前にも増して強くなっていた。
担当官は資料を閉じると、これから始まる交渉に備えて小さく息を吐いた。
六角家に到着し応接室へ通されると、六角風月と雪菜はすでに席についていた。
一通りの挨拶を済ませ、担当官は慎重に本題を切り出す。
「本日は、先日お話しさせていただいた件につきまして、改めてお願いに参りました」
「IS学園への入学の件ですね」
雪菜は少しも迷うことなく答えた。
「…はい。その通りです」
「ちょうど、こちらからご連絡を差し上げようと思っていたところでした」
予想していなかった言葉に、担当官は一瞬返事を失った。
「ご連絡、ですか?」
「はい」
雪菜は涼しい顔で頷く。
「状況が変わりましたので、IS学園への入学の件、お受けいたします」
用意してきた説得の言葉が、頭の中で行き場を失った。
適性Sが国家にとって持つ意味。世界情勢の変化。IS学園で教育を受けることの利点。それらをどのような順番で説明すれば彼女の心を動かせるのか、道中も繰り返し考えてきたというのに、目の前の少女は最初から答えを出していた。
「…それは、大変ありがたいお話です」
担当官は驚きを押し隠しながら、静かに頭を下げた。
状況が変わった__その言葉が何を意味するのか、気にならないわけではない。
だが、不用意に理由を尋ねたことで再び態度を変えられては困る。今はまず、彼女が入学の意思を示したという事実を受け入れるべきだろう。
「それでは、入学に必要な手続きを早急に進めさせていただきます」
「よろしくお願いします」
雪菜が穏やかに微笑む。
その隣で、風月も静かに頷いた。
「雪菜本人が望んでいるのであれば、私から反対する理由はありません」
「ありがとうございます」
難航を覚悟していた交渉が、驚くほどあっさりとまとまった。
担当官の胸に、ようやく安堵が広がり始める。
だが、その直後だった。
「それと」
雪菜が、ふと思い出したように口を開いた。
「入学にあたって、いくつかお願いがあります」
「…お願い、ですか?」
先ほどまで担当官の胸に広がっていた安堵が、静かに消えていった。
考えてみればあれほど頑なに入学を拒んでいた少女が、何の理由もなく翻意するはずがない。事情が変わったという言葉の裏には、入学を受け入れる代わりとなる何らかの条件があるのではないか。
学園での特別な待遇か。専用機の用意か。それとも、六角家に対する何らかの譲歩か。
相手は、世界でもほとんど例を見ない適性Sの少女である。要求の内容によっては、担当官一人の判断で答えられるものではない。
いったい、何を求められるのか。
担当官は無意識に背筋を伸ばした。
その向かいで、雪菜は先ほどまでと変わらない穏やかな微笑みを浮かべている。その表情から、彼女の真意を読み取ることはできなかった。
「…承知しました。まずは、お聞かせください」
担当官は努めて平静に答えながら、雪菜が次に告げる言葉を待った。
オリキャラとオリヒロインの物語に需要があるのかは正直分からないので、需要がありそうなら続けます
ヒロインレースはありませんが、それでもよければお読みいただけたら嬉しいです。感想や評価などもいただけるととてもありがたいです‼︎