夜になりゴブリン達で構成された斥候部隊が帰還した、軽傷を負ってはいたが、身体能力で遥かに勝る牙狼を相手取り、この程度の損害で帰還できるとは、中々優秀な部隊だ。
報告によれば、牙狼達は今夜にでも、村を襲撃する様な動きらしい。
ゴブリン達に、篝火を絶やさず照明を確保し、持ち得るだけの武器を持ち来たる襲撃に備えさせた。村を囲む防護柵はリムルが『粘糸』で補強し、『鋼糸』のトラップも既に仕掛け終わっている。
俺は偵察部隊に居たゴブリン達を直接の部下として、村の背後を少数精鋭で警戒することにした。
万能物質を散布しているおかげで、村とその周辺の動きは全て分かる。
万が一にも不覚を取ることはあり得ないだろう。
「警戒しろ!、牙狼らしき姿が見えれば直ぐに警鐘を鳴らせ!」
「はい、エリゾ様!」
弓を使えるゴブリンは村の正面にのみ配置している為、少しでも奇襲後に出遅れないために、万能物質で作成した鐘を部隊に配備した。
こちらの部隊はまだ若年だったり雌ゴブリンだったりと非力な者が多く、もし牙狼族に完全な奇襲を仕掛けられると通常なら、応戦は厳しいかもしれない。ただ、弱者を蹴散らしに来たつもりの牙狼族がそこまで策を練るとは思えないし、この場には俺が居るのだ。負ける事は多分ないだろう
そうこうしている内に、村の周囲に張り巡らせた万能物質の索敵網に十数体の反応が掛かった。やがて村の入口付近が騒がしくなり、戦いが始まったことを知る。案の定正面から攻めてきた様だ、あそこは一番守りが固い。あまり心配はいらないだろう。
周りのゴブリン達は不安そうに棍棒を握り、正面側から聞こえてくる騒ぎを気にしている。
そんな時だった。『万能物質』に引っ掛かった牙狼が、村の裏に迂回してきたのだ。
全体主義であるはずの牙狼族の群れを離れた二匹が、回り込んできている。トラップや弓に正面突破を阻まれて苛立ちが募り、統率が乱れたのだろう。
「敵が来るぞ、戦闘配置に就け!柵まで来たら俺が片付ける」
「はい.....!」
二匹の牙狼は、村の後方にも防護策が張り巡らされていることに気付き、警戒しながら近付いてくる。
慎重になれば潜り抜けるのはそう難しいことじゃない。ただし慎重になった分、その動きは鈍くなる。
俺は動きの鈍い牙狼に目掛けて、『万能物質』で作った陽電子ビームをぶっ放した。一体に直撃、地面ごと消し飛んだ。
ギャンと鳴いたもう一体の狼が飛び退き、俺を睨んで唸る。
ついに、狼が意を決したように駆け出した。トラップに多少身体を傷付けられようが、機敏に近付いてくる。
しかしこの場はすでに万能物質で埋め尽くされ、俺の独壇場と化している。万能物質に質量を持たせ、牙狼を押し潰す。
牙狼は状況を理解できないまま、即死した。亡骸を俺の足元まで浮かせて運び、情報を抽出する。
「や、やった.....!」
「まだ戦いは終わっていないぞ、警戒を怠るなよ!」
戦勝ムードが漂っていたゴブリン達を引き締めさせる。まだ戦いは終わっていないのだ。
まあ正面は圧倒的優勢であることが感知で分かっているため、そこまで気負う必要はないのだが。
数刻の後、村の正面から歓喜の声が聞こえてきた。その後しばらくして、リムルが直接話に来た。
「戦いは終わったぞ、俺たちの勝ちだ!」
勝利に湧くゴブリン達にを尻目に、俺とリムルは話し合う。
「敵は来なかったのか?」
「いや、敵は来たよ。もう消し飛んだけど」
俺は陽電子ビームで消滅した地面の方を指差し、そう伝えた。
リムルは頭を抱えていたが、しばらくすると立ち直った様だ。
「色々言いたい事はあるが、みんな無事ならとりあえず良いか...」
さあ、ここから忙しくなるぞ。リムルの名前付けタイムだ。
リムル視点
まったく、エリゾは......加減って物を知らんのか。
『大賢者』のお陰で、戦いの途中で狼二匹がそっちへ行ったことは知っていた。
だが牙狼のボスの相手をしなきゃならない俺はあの場を離れられず、結局のところは残党の対処をエリゾに任せることになった。
洞窟で鍛錬を続けてきたエリゾの方がゴブリン達よりも格段に強いし、実際にエリゾは難なく牙狼族を倒している訳で。
とりあえず、死人が出なかっただけ良しとするか。
翌朝、村の広場に全員を集めた。
ゴブリン達と、俺に従うと言い出した牙狼達に、二人一組のペアを組ませる。
こいつらに名前がないことを不便に思った俺は、村の再建に取り掛かる前に、全員に名前を付けることにした。何故だか大喜びする連中はゴブリンだけで百名ほど、狼も入れると更に増える。
まあ、エリゾと半分ずつ手分けをすれば直ぐに終わるだろ
「俺はやらないよ」
「え!?」
エリゾに拒否られた。
昨日素直に褒めてやらなかったから拗ねてるのか? エリゾは頑張ってくれた事は確かな事実だ。
少しくらい褒めてやれば良かったかな? いやでも、また調子に乗って地形を変えられたら敵わない...
「一応断っておくが反抗期とかじゃないからね」
「違うのか? なら手伝ってくれても」
「あのな、こうゆうのは集団のトップが名付けするのが理想なんだよ。(小声で)特に最初の名付けは大事なんだ、今後にとっても」
最後に何か言っていた気がするが、意味を紐解くと集団の中で派閥が分かれて対立することに繋がると言う事なのか?
対立するつもりなど毛頭ないが、集団ではそうもいかなくなるのかもしれない。まあ面倒は起こしたくないし、ここはひとつ、俺が代表ということで名付けを任されてやるか。
列を作らせ、順番に名を与えていく。
村長は"リグルド"。その息子は"リグル"。
"ゴブタ"、"ゴブチ"、"ゴブツ"と少々適当なネーミングセンスだが皆喜んでいるようだ。
エリゾは俺の横でじっと名付けを見守っていたが、名付けに関わらないという意志は固いようで、俺を手伝う事はなかった。
ゴブリン全員に名を付け終わり、次は牙狼族。
新たなリーダーとなった狼、尻尾をぶんぶん振りまくるでかいワンコに"ランガ"と名付けた瞬間、身体から一気に力が抜けるような感覚があり、意識が遠のく。
な、何だこれ...身体が動かな.....い?
《告。体内の魔素残量が一定値を割り込みました。低位活動状態スリープモードへと移行します。尚、完全回復の予想時刻は、三日後です》
なんと、名付けとは魔素を消費するものだったらしい。
一度に大量の名付けをしすぎて、俺は魔素切れを起こしてしまったようだ。
いや、『大賢者』さん? エリゾ? 君達は、もしかしなくても知ってたんだな?
俺がこうなる前に教えておいてくれても良かったんじゃないかな? 『大賢者』は俺が聞かなかったから言わなかったのだろうし不問にするとして、目が覚めたらエリゾには一言文句を言ってやる
そう思っていたのだが……
三日後、俺は村のボロい建物の中にいて、ゴブリンの膝の上で目覚めた。
目覚めた数刻後に、エリゾが入室してくる。
「やっと起きたか?リムル」
「ああ、やっと回復したよ」
「そりゃよかった。寝てる間に色々変化があったよ」
変化?何があったんだ?、少し不安を抱きつつ、部屋の外へと足を運ぶ。
広がる光景に、俺は驚きを隠せなかった........
ステータス
名前:エリゾ (工藤 匠)
種族:人魔族
称号:なし
魔法:地属性魔法 陽光魔法 太陽行使(格撃魔法)
加護:暴風の紋章
ユニークスキル:『万能物質』『抽出』『指導者シメスモノ』
エクストラスキル:『魔力感知』
コモンスキル:『念話』『粘糸、鋼糸』『麻痺吐息』『超音波』『身体装甲』『熱源感知』『植物操作』『超嗅覚』『思念伝達』『威圧』
耐性:物理攻撃耐性、痛覚無効、捕食無効