「うぐっ!!?」
「とっ、父さんっ!?」
悲鳴が聞こえ、俺はすぐに父さんのもとへと駆け寄ろうとした。しかし、俺も背後から羽交い締めにされてしまい、身動きがとれなくなる。
「があっ!?」
「おっと、命までは獲らねえよ。だが言うことは聞いてもらうぜ」
「くうっ、ぐっ……!」
屈強な男に首を絞められ、思うように動けない。父さんも同じように捕まっているみたいで、必死に抵抗しているようだったけど、逃れることは出来ていなかった。
「おいお前ら、親父の方はどうだ!?」
「がっちり抑え込んでます!」
「よっしゃ、そのまま逃がすなよ!」
こいつらの目的は何だ? これも試験の一環かと思ったが、だとすれば無関係の父親を巻き込むのは筋違いだ。もしかして……金か?
「かっ、金が欲しいのか……? だったら、いくらでも――ぐえっ!?」
「俺たちをしみったれた連中と一緒にするんじゃねえよ……!」
「ぐっ、ぐうっ……!」
怒らせてしまったのか、男が首を絞める力がさらに強くなった。下手なことを言って刺激してしまうのはまずい。俺はともかく、父さんに何かあれば……!
「兄貴っ、そんなに絞めたら死んじまいますよ!」
「ちっ、仕方ねえなあ」
「げほっ、げほっ……」
腕の力が緩んだおかげで、俺はなんとか息をすることが出来た。会話から察するに、複数人の集団で襲ってきたようだな。俺を拘束している男が主犯格と見て間違いないだろう。
「でも兄貴、コイツは杖を持ってないっすよ!」
「そうだな。魔法を使われたら厄介だった」
「……」
俺は黙って男たちの会話に耳を傾ける。幻杖について知らないということは、第三次試験の関係者ではないということか。もっとも、幻杖を使わずとも魔法でコイツらを撃退するなど造作もないのだが……下手な真似をすれば父さんが痛めつけられる可能性もある。迂闊には動けない。
「……お前ら、何が目的なんだ。父さんは関係ないはずだ」
「
「くっ……」
思った通りだ。目的はあくまで俺だが、ことを簡単に進めるために父さんまでこんな目に遭わせるというわけか。……卑劣な連中だな。
「キーガン・バウアーとか言ったな。これを見ろ」
「……なんの真似だ」
男が目の前に見せてきたのは短剣だった。こんな夜でも、微かな光を反射して刃が輝いている。相当な研ぎ具合だな……。
「簡単な話だ。今からお前の左手を切り落とす」
「……は?」
「意味は分かるだろう? その『1』番って数字が気に食わねえんだ」
「何を言って」
「嫌だって言うなら親父の命はねえ。自分の左手か、親の命か……どっちが大事か、分からねえはずはねえよなあ!? なあ、首席様!?」
「ぐっ……!」
短剣が左手首の上に当てられた瞬間、僅かに皮膚が切れて血が流れ始めた。こんなもので一刀両断にされたら……間違いなく骨ごと切り落とされるだろうな。
「何が目的なんだ。なぜ俺を襲う」
「お前みてえな田舎者はふさわしくねえんだよ。宮廷魔導師になるのはウルムの奴だけで十分だ」
「……」
落ちた受験生の八つ当たり、という可能性も考えたが……この連中からはまったく魔力を感じられない。魔法に疎い感じもするし、単純な逆恨みというわけでもなさそうだ。
「なあお前、なんで左手首に番号が書かれるようになったか……知ってるか?」
「紙の受験票を切り刻まれないため、と聞いたが」
「そうだ。ずうっと昔に可哀想な奴がいたのよ」
「それが何だ?」
「せっかく田舎から出てきたのによ、受験票を切られちまったんだ。そいつ、筆記で歴代最高点だったらしいぜ」
「……何が言いたい?」
「今のお前と同じってことよ。ただ違うのは――」
「ぐうっ!?」
「お前は腕ごと切り落とされるってことだ! いてえか、なあ!? いてえか!?」
わざと痛めつけるようにして、男は短剣を前後に動かす。痛い。皮膚が裂け、今にも肉に刃が届きそうな気がする。だが抵抗は出来ない。もし自分が動けば、父さんが殺されてしまう。父さんは大黒柱なんだ。俺の左腕のために、母さんとマリーを路頭に迷わせるわけにはいかない……!
「兄貴っ、腕を縛っておかないと血が噴き出ますぜ!」
「ちっ……面倒だな。おい誰かっ、コイツの腕を縛れ」
「じゃあ、俺がやっときます」
すると、父さんを抑え込んでいた連中の一人がその場を離れた。布か何かを片手に、こちらへと歩み寄ってくる。
「き……キーガン、無事か?」
「おいっ、喋るんじゃねえ!」
そのおかげでいくらか身が自由になったのか、父さんがか細い声をあげた。少なくとも生きてはいるみたいで、ほっと安心する。だが……状況が芳しくないことには変わりない。
「お……お前の左手、まだあるか……?」
「俺のことなんか気にすんな! 父さんは、こんなところで死んだらダメなんだっ……!」
「いいんだ、キーガン……。息子の腕を犠牲にしたら、もう父親なんて名乗れないんだよ……」
暗闇の中で、父さんがもがきながら……右腕を掲げるのが見えた。嫌な予感がして、無我夢中で叫んだが――
「やめろっ、父さん……!」
次の瞬間、父さんは至近距離で火力魔法を炸裂させたのだった。