信じられないほどの魔力量が炸裂して、広場が爆炎に包まれた。その衝撃は凄まじく、俺たちはみな吹き飛ばされてしまう。
「なんだっ!?」
「ぐわあっ……!」
痛々しいほどに熱い風が吹きすさび、思わず防御魔法を張ってしまう。父さんの前にも展開できればよかったが、とても間に合わなかった。爆発が収まったのを確認してから、俺は父さんのもとに駆け寄っていく。
「父さん! 父さんっ! 生きてるかっ!」
「あ、ああ……」
幸いにして、まだ父さんは意識を保っていた。しかし体を強く地面に打ち付けたようで、動くことは出来ていない。肌もひどく火傷していて、焼けただれている部分すらあった。
「なんでっ、こんな……! 俺のためにっ……!」
「や……やっぱり……
「に、兄さん……?」
地面に横たわったままの身体を抱きかかえると、父さんは微かに口を動かした。そもそも父さんはどうして魔法を使えたんだ? 文字すら読めないはずなのに、どうして――
「納屋の魔導書……あれは……レナード兄さんのものだったんだ……」
「レナード伯父さん……!? 嘘だろ、なんで……」
伯父さん、というのは俺が幼い頃に死んだ父さんの兄だ。俺と一緒に住んではいたけれど、農作業をしていたわけでもないし、ただ寡黙に毎日を過ごしていた人という印象しかない。
「さっき連中が話していた……田舎者の受験生ってのは……兄さんのことなんだ……」
「お、伯父さんが……?」
「兄さんは……若い頃から遠くの街に農作物を売りに行って……そのお金で魔導書を集めてたんだ……」
「じゃあもしかして、伯父さんも魔導師試験を――」
父さんは何も言わずに、静かに頷いた。――すべてが繋がっていく気がした。伯父さんはかつて魔導師試験を受け、歴史に残る点数をとった。それで御下賜金も貰った。だが……何者かに受験票を切られてしまい、諦めざるを得なかったと。
――合格者を妬んで受験票を切り刻もうとする奴がいるの。
――昔、下賜金をいただいておきながら途中で試験を棄権した人間がいたらしいの。
エレナの言葉が鮮烈に思い出された。受験票を切り刻まれたのも、下賜金を持って田舎に帰ったのも――すべてレナード伯父さんのことだったんだ。
「兄さんは……ひどく失望して帰ってきて……それから病気がちになったんだ……」
「だからあんなに早く……」
「それでも……御下賜金を元手に商売をして……なんとか金を稼いでな……」
伯父さんは失意のまま帰郷したに違いない。きっとウルムという土地を軽蔑しただろう。それでも、必死に生きようともがいて……なんて人なんだ。
「父さんな……お前に嘘をついたんだ……」
「えっ?」
「畑なんか売ってないんだ……。お前を今まで育てて……こられたのは……兄さんの金があったから……」
「父さん……」
俺が十八歳になるまで自由に生きてこられたのは、伯父さんが稼いでくれた遺産があったから。……そういうことか。だったらなぜそう言ってくれなかったんだ……!
「……なんで隠してたんだ。伯父さんが魔導師を目指してたって」
「父さんと違って、お前は兄さんの血を継いでると思っていたんだ……。頭も良いし、魔法も使えそうだし……」
「でも、さっき父さんだって火力魔法を……!」
「あの魔法だけ、兄さんが昔に教えてくれたんだ……あれだけ爆発するなんて、父さんにも少しは才能があったのかな……」
「父さんっ……!」
あんな至近距離であの魔力量を炸裂させるなんて、魔導師なら絶対にしないことだ。それを理解していて、父さんは……。
「親はな、子どもに生き方を押し付けちゃいけないんだ……。だから兄さんのことを話せば、きっとお前は重圧に思うだろうと思って……」
「そんなっ……」
「でも、嬉しかったよ……。お前が……兄さんと同じ道を……歩んでくれることが……」
父さんは、赤く焼けただれた頬を緩ませた。その笑顔は昔と変わらない。それが何より嬉しくて――何より悲しかった。
「おいっ、兄ちゃん大丈夫か!!」
「お客さん! お客さん!」
その時、広場の外から店主とアマリアが走ってくるのが見えた。さっきの爆発音を聞いて、駆け付けてくれたのだろうか。
「店主さん! とっ、父さんが……!」
「嫌な予感がしたんだ! アマリア、担架を借りてこい!」
「はっ、はいっ!」
アマリアは再び広場の外に走っていく。店主は父さんに駆け寄り……額に皺を寄せる。
「……こんな時にすまねえ。あんた、魔導師試験を受けたことがないか?」
「いや……私の兄が……」
「名前は!」
「レナード・バウアー……」
店主はハッとしたように顔を上げた。そして俺のことをじっと見て、重々しく口を開く。
「
「えっ?」
「似ていると思ったんだ。……お前の親父さんが」
もしかして……店主はレナード伯父さんと会ったことがあるのか? この人も魔導師試験を目指していたという話もあったし、同じ受験生として相まみえていた可能性は十分にある。けど、今はそんな場合じゃない。
「担架ー! ありましたー!」
「よし、でかしたぞアマリア!」
アマリアは担架を脇に抱えて、こちらに走ってきた。とにかく安全な場所に移動させて、父さんの手当てをしなければ。大丈夫だ、まだ息は――
「てんめえ、ふざけんじゃねえぞっ!!」
「!!」
吹き飛ばされていた連中の一人が目を覚まし、俺たちのもとに走り寄ってきた。咄嗟のことで反応出来ず、身を挺して父さんを守ろうとしたのだが――店主が風魔法を繰り出し、男を吹き飛ばした。
「うわっ!!」
「うちの大事な客に何しやがる! とっとと失せろクソ野郎ども!」
「店主さん……!」
「兄ちゃん、早く移動するぞ! ここは危ねえ!」
「はっ、はいっ!」
「アマリア、親父さんの足を持て! 俺は身体を持つ!」
「はいっ!」
二人は父さんを抱えて、担架に乗せようとしていた。俺は右手に素早く幻杖を出し、新たな敵に備える。
「よーし、載せた! 店に戻って手当するからな!」
「お客さん、お父さんは任せてください!」
「ありがとうございます、二人とも――」
などと礼を言おうとした瞬間、暗闇から別の男が飛び掛かってくるのが見えた。反射的に杖を構えて、火力魔法を繰り出す。
「はあっ!」
「ぐわっ……!」
爆炎が広がり、一瞬だけ広場中が照らされた。男が吹き飛ばされたので、それを目で追っていると――
「えっ……」
修道服を着た思わぬ人物が、冷たい顔をして立っていた。爆炎が収まると、その
「リーザ……!?」
ゾフィーに縋りつくように泣いていた、あの心優しき受験生だったからだ。