――キーガン、魔法は好きか?
幼い頃、レナード伯父さんに言われた言葉だ。農作業から隠れるように納屋にこもり、魔導書を読みふけっていたのを見つかったときの話だ。
当時、俺は伯父さんのことが怖かった。いつも無口でいて、父さんや母さんとも会話を交わす姿を見たことがなかったからだ。この時も、俺は怒られるのだとばかり思っていたから――伯父さんの言葉は意外だった。
――うん、好きだよ。
そう答えると、伯父さんは何も言わずに去っていった。この後間もなく、伯父さんは病気で亡くなってしまったから……俺が覚えている会話と言えばこれくらいしかない。
あの時、伯父さんは何を思っていたのだろうか。俺が魔法を学んでいることが嬉しかったのだろうか。それとも、自分と同じ運命を辿るであろうことを恐れたのだろうか。
今となっては、その答えは知りようがない。けれども、あの日の記憶は今でも胸に刻まれている。そう、この森と同じような――土の匂いとともに。
「――諸君、ホーバードの森へようこそ」
二十名の前に立つヴィットマンの声が、俺の目を開いた。ここはウルムの外にある、鬱蒼とした森の中。少し開けた場所に集められた俺たちは、ヴィットマンの説明を待っている。ついに第四次試験の日がやってきたのだ。
「引き続き試験官を担当するエデル・ヴィットマンだ。よろしく」
予備学校のガウンを着た十九名と、そうではない一名が一斉に姿勢を正した。恐らくこの人が第四次試験の責任者を務めるのだろうから、少なくとも採点に関して教会の妨害を食らうことはなさそうだ。
「第四次試験では十名を選抜し、最終試験へと送り出す。君たちの実力が発揮されることを願っている」
最終的に宮廷魔導師の地位を得ることが出来るのは
「試験内容を説明する前に、君たちを二つの班に分ける。私に番号を呼ばれた者が一班、そうでないものが二班だ」
二つに分ける? 別々の会場で試験を行うということだろうか。
「まず、1番。次に5番、9番、13番……」
指示されるまま、俺たちは二つの列に分かれていく。俺とヘルマンが同じ一班に、エレナは二班になった。何か班分けの法則性がないかと探ってみたが、どうやら名簿の上から交互に分けているだけみたいだった。
「よし、分かれたな。続いて配布物があるから、列の先頭から受け取るように」
ヴィットマンは足元に置いてあった箱から、石のような物を取り出した。俺は列の前に出て、それを受け取る。拳くらいの大きさだが、水滴のように整った形をしているな。おや……魔力を感じる。なんだこの石は?
石の正体が分からないでいるうちに、列が一周してしまった。皆の手にそれが行き渡ったところで、ヴィットマンは再び説明を始める。
「魔導師が模擬戦闘で用いる魔石だ。今日は君たち自身の魔力を用いることは禁止とする」
少しだけ、受験生がどよめいた。魔石を使う、ということは……今日の試験内容にも魔法が関わっているということか。
「どの魔石にも同じ量の魔力が充填されている。察しの通り、今日は魔法を使う試験ではあるが……魔法の技術のみが問われているわけではない」
魔力量の多寡は魔導師によってかなり異なってくるが、今日はその条件を統一したうえで試験を行うと言いたいわけだな。つまり、各個人の資質のみが評価される試験ではないと。
ところで、この魔石は模擬戦闘で使われると言っていたよな。しかも俺たちを二つに分けたということは……もしや、俺たちにも同じことを――
「では、本日の試験内容を伝える。君たちには二班に分かれてもらったが……簡単に言えば、
「……?」
予想の斜め上をいく言葉が出てきて、戸惑ってしまった。てっきり二班に分かれて本気で戦闘をするのかと身構えていたが……どういうことだろう。
「見たまえ。この旗だ」
ヴィットマンが足元の箱から取り出したのは、小さな旗だった。木製の竿に赤い三角の旗がつけられており、特に魔力を感じるようなこともない。何の変哲もない、おもちゃのような旗だ。
「この旗と同じ物が森のどこかに隠されている。何も難しいことはない、先に見つけた班の勝利だ」
「ヴィットマン試験官、質問をよろしいでしょうか」
「許可する」
俺の右隣で手を挙げていたのは、二班の先頭にいるエレナだった。
「まず一つ目の質問です。魔石を貸していただいたということは、魔法で敵の班を妨害しても構わないということでしょうか?」
「無論だ。ただし、行動不能になるか魔力を使い果たした受験者は退場しなければならない」
「さっきも言ったが、君たちに渡したのは訓練用の魔石だ。たとえ火力魔法を受けたところで特に傷を負うことはないが……実戦と同様、防御魔法を怠らないように」
訓練と思って魔法を
……いや、待てよ。採点基準はまだ明かされていない。さっき言われたのは「勝利条件」であって、決して「合格基準」ではないからな。
「二つ目の質問です。第四次試験の合格はどのように判定されるのですか」
その時、全員の視線が一斉にエレナのもとへと集まった。恐らく他の皆も気になっていたのだろう。何をすれば勝利するのか、ではなく……何をすれば合格なのか、ということが。
「試験運営上、細かな基準を言うことは出来ない。が、要点はふたつある」
「具体的にはどのような?」
「まずはひとつ。先に言っておくが……勝利した班が全員合格、というような単純な基準ではない」
「と、仰いますと」
「班に対する献身性、そして仲間との協調性……そういった観点で君たちをそれぞれ評価する。己の活躍ではなく、班の勝利が目的であることを忘れないように」
つまり、班内での役割を果たしたかどうかが採点基準というわけか。たとえ負けた方に属していたとしても、しっかり班に貢献していれば合格する可能性はあると。そう言いたいわけだな。
「ありがとうございます。それで、もうひとつの要点とは」
「いま言った通り、自己中心的な動きは評価されない。あくまで自分の属する班のために身を捧ぐことを期待している」
「はい」
「だが、
「例外?」
エレナが疑問を浮かべると、ヴィットマンは持っていた旗を前に突き出した。……旗? いやでも、これは本当にただの旗のはず。いったい何が……?
「――実際にこの旗を探し当てた者
その瞬間、受験生たちが一斉にざわつき始めた。班の勝利を考えるだけなら、仲間の誰かが旗を取ればいい。だが、自分の合格を優先するなら――我先にと旗を探しに行かなければならないということか。
班の勝利か、自分の合格か。ホーバードの森に立つ二十名の受験生たちは、大きな選択を迫られようとしていた――
今まで受験番号にかぎかっこをつけていましたが、読みにくいのでやめました。