ヴィットマンの説明が終わると、二つの班はそれぞれ指定された場所にて集結していた。森の全てが試験場の範囲というわけではなく、楕円形の領域が設定されており、それぞれの焦点が各班に割り当てられているというわけだ。
俺たち一班に集められたのは、1番、5番、9番、13番、19番、24番、31番、38番、43番、56番の十名。俺以外はみんな予備学校の学生だから、顔馴染みではあるらしい。
まだ試験開始までには時間がある。ヴィットマンは特に何も言っていなかったが、この時間内で作戦を立てろという意図であることは間違いないだろう。俺たちは車座になり、話し合いを始めた。
「まずなんだけど。
開口一番、ヘルマンがそんな提案をしてきた。集団で行動するには指揮官が必須だし、異論はない。だが、問題は
「じゃあ、俺がやるよ」
「いやいや、お前じゃ無理だって。俺がやるよ」
他の受験者たちが、我先にと手を挙げている。こうなるのも当然だろう。集団の長になれば、それだけでも加点される可能性があるし。
「まあ、みんな待てって。俺からひとつ提案があるんだけど……」
ヘルマンは皆を落ち着かせていた。誰が司令塔を務めるか、なんてことだけで揉めても仕方ないからな。旗を一番に獲ったものが合格、とは言われたものの……ここはあくまで班で協力する姿勢を見せなければならない。
「バウアー君。君が司令塔を務めてくれないか」
「えっ、俺?」
「君の実力は皆が認めるところだし。それに、予備学校に属していない君の方が……かえって冷静に指揮を執れると思うんだ」
冗談かと思ったが、ヘルマンはいたって真剣だった。たしかに、言う通りではあるな。例えばヘルマンが司令塔になったとして、日頃からよく知っている仲間たちに対して公平に指示を出すのは難しいだろう。もちろん、ここの皆がどんな魔法を使うのか分からないという面もあるが……魔石で魔力量は統一されているしな。
「分かった。俺がやるよ」
そう答えると、皆は黙って頷いていた。どうやら納得してくれたようで、ホッとする。とはいえ……こんな魔導師の集団を率いた経験はないしな。
「バウアー君、あとは君に任せるよ」
「ありがとう」
九名は一斉にこちらを向いた。どうすればこの班を勝利に導くことが出来るのか。何はともあれ、現状の確認をしたい。
「まずだけど、あくまで目標は班のだれかが旗を探し当てること。この広い領域の中をくまなく探しつつ、二班との交戦も想定しないといけない」
右手で目の前の空間を払うと、楕円形の地図が浮かび上がる。この森の地形をそっくりそのまま写したものだ。ヘルマン以外の受験生たちには見慣れないものだったのか、おおっとどよめいていた。
「ここが今俺たちのいる地点で、こっちが二班のいる地点。この楕円のどこかに旗があるわけだ」
「バウアー君、それで?」
「この森はそれなりに広い。旗を探すにしても、ある程度自分たちで区域ごとに分けて捜索する必要がある」
だが問題はここからだ。俺はともかく、皆がちゃんとした地図を把握出来るわけじゃない。手分けして探すにしても、ちゃんと考えなければ効率よく動くことは出来ないだろう。
「だから提案するんだけど。俺はここに残って指揮を執るから、皆にはばらばらに旗を探しに行ってほしいんだ」
「えっ!?」
「いいのかよ?」
「探索魔法で皆の現在位置は確認出来る。通信魔法で指示を出すから、皆はそれに従って動いてくれたらいい」
それに、一人ずつ動けば不公平になることもない。みんな自分の合格のために一生懸命に旗を探すだろうけど、それが班のためにもなるんだ。「旗を見つければ合格」というのに惑わされて、仲間割れをする――というのが一番あってはいけないことだからな。
「でもバウアー君、それじゃ君が旗を探せないじゃないか」
「俺はみんなと違って、近接戦闘が得意なわけじゃない。旗を探しに行けば、二班の誰かと会敵する可能性が高いからね」
「でも……」
「いいんだ。どうかな、何か意見はあるかな?」
冷静に考えて、旗を獲得出来るのは一名しかいないんだ。班のために貢献する姿勢を見せて、残りの九つの合格枠に滑り込んだ方が確度は高いだろう。自分の向き不向きを分析すれば、俺が前線に出たところで足手まといになることは間違いないしな。
「……バウアー君。ひとつだけ心配があるんだけど」
「なに?」
「これでは十人全員がばらばらに動くことになる。旗を探す分にはいいだろうけど……さっきヴィットマン試験官が言っていた『協調性』を示す機会がなくなるんじゃないかな?」
「ああ、なるほど……」
ヘルマンの意見はもっともだった。言い換えれば、この作戦は「一人が指揮を執り、九人が自分勝手に探す」ものだからな。協調性があるかと言えばそうではないだろう。だが、「ばらばらに動く」意義を示すことが出来れば――問題ないはずだ。
「大丈夫。むしろ、みんなにはどんどん分かれて行動してほしいんだ」
「どういうこと?」
「子どもの頃、これで遊ばなかった?」
右手を皆の前に出し、圧縮魔法を使って
「えっ……それがなに?」
「綿毛? なんでそんなものを……」
他の皆も首をかしげていた。俺は次々に綿毛の生えたたんぽぽを出して、皆に手渡していく。
「皆には、この綿毛を使って『種』を撒いてほしいんだ」
そう言って、俺は他の班員に指示を出す。
運命の第四次試験は、間もなく始まろうとしていた――